普通二輪免許で乗れる400㏄までの中型クラスは、ご存じのようにこれまで国産車の独壇場でした。しかし、ハーレーダビッドソン(以下H-D)が10月20日に発表したX350と、トライアンフジャパン(以下トライアンフ)が同月の23日に発表したSPEED400とスクランブラー400Xによってその国産車の牙城が脅かされるかもしれません。正式発表以降、大きな話題を巻き起こしているH-Dとトライアンフのニューモデルの受注状況を見ながら、来シーズン以降の中型クラスの動向を占ってみることにします。
●文:Nom(埜邑博道)
「黒船」が来た! 中型クラスに異状あり!
400㏄クラスという排気量カテゴリーは、免許制度の関係で生まれた日本独特の排気量帯で、ヨーロッパでは日本で販売するモデルの500㏄版を販売するなどしてきましたが主戦場はやはり日本国内。
最近のバイクでいえば、教習車としてもおなじみのベストセラーバイクであるホンダ・CB400スーパーフォアも日本以外のマーケットではほとんど存在していませんでした。
しかし、ここにきてその排気量帯に変化が訪れてきています。
理由のひとつは、アセアンやインドといった巨大マーケットで主流の125~150㏄クラスから、より排気量の大きいクラスのモデルにステップアップする層が生まれてきたこと。それらの層に対して、地場メーカーが上級モデルとして中型車をリリースし始めています。
そういうアジア・インドマーケットの勢いで生まれたモデルが、日本にも上陸するという流れが生まれつつあるのです。
そのいい例が、ホンダ・GB350/Sで、もともとホンダがインドマーケットでのライバルであるロイヤル・エンフィールドの対抗馬としてハイネス350というニューモデルをリリース。それを日本のレギュレーションに合致するように調整して国内モデルとして販売を開始しました。
このように日本一国では相応の販売台数が見込めず、ニューモデル開発という投資を回収できない日本独自モデルに対して、まだまだ成長を続けるアジア・インドがターゲットのモデル(もちろん販売台数も非常に多い)を日本向けにアレンジして国内に投入するという、これまでは125~150㏄クラスでしかなかった手法が中型クラスにも用いられるようになったのです。
そしてついに、H-D、トライアンフといった強いブランド力を持つメーカーがアジア・インドマーケットのパワーを背景に、国産車の牙城に挑戦を始めたのです。
わずか1カ月で900台を受注したX350
まず、H-Dに乗るために大型二輪免許を取得するライダーが引きも切らないほど、多くのライダーにとって憧れのブランドであるH-D。大型免許というハードルがあるにもかかわらず、昨年は1万台を超す販売台数を記録するほどの人気ブランドであることは誰もが知るところです。
そのH-Dが普通二輪免許で乗れるモデルをリリースするというのですから、話題にならないはずはなく、正式発表前から大きな話題になりました。
そして登場したX350は、往年の名車であるXR750を彷彿させるトラッカースタイルに加え、69万8000円という価格が強烈なインパクトを与えました。それを証明するように、H-Dの営業関係者によると正式発表からわずか1カ月で想定の500台を超える900台という予約が殺到しているそうです。
ここまで書いたところで、H-Dジャパンから「X350とX500、発売1カ月で受注1000台突破」というニュースリリースが届きました。1000台のうち、約9割がX350ですから、やはり「中免で乗れるH-D」は予想を超える人気ぶりです。
H-Dジャパンによると、この受注状況を受けて当初は350と500の2車を合わせて500台の日本導入を予定していたところ、それを大幅に上回る注文が殺到したことで日本への導入数を大幅に拡充しているそうで、注文したユーザーは「新たにH-Dデビューを志す若者層」と従来からのH-Dオーナーによる「セカンドバイクニーズ」も旺盛とのこと。中免ライダーたちの手に届きやすい選択肢を提供できたことを嬉しく感じていて、日本メーカーと刺激しあいながら国内のモーターサイクルシーンを盛り上げていきたい、とのこと。
販売の現場であるディーラーにも聞いてみました。
H-D亀戸によると、現時点での注文は10台を超えていて、そのほとんどは新規ユーザー。これまで亀戸とはまったく縁のなかったライダーとのことです。まだ試乗車はもちろん現車さえ店頭にない状況なのに、全員がX350の指名買いといいます。
「亀戸を始めて25年になりますが、こんな受注状況は初めてです。H-Dの営業担当者は、何とか年内に納車したいと言っていますがどうなるか分かりません」
老舗のH-Dディーラーも戸惑うほどの反響のようです。
それはトライアンフも同じで、広報担当者によると店頭に並ぶのは年明けの1月頃になるにもかかわらず、具体的な数は公表を控えるが現時点で数百台の受注を受けていると言います(営業関係者の話では、現時点で二百数十台、スピード400が6割でスクランブラー400Xが4割とのこと)。
ディーラーも新規ユーザーやエントリー層を取り込むには絶対に必要な排気量カテゴリーだと喜んでいるそうです。
トライアンフ東京WESTやカワサキプラザ府中、ドゥカティやBMWなど数多くのディーラーを経営するアライモータースの統括部長にも聞いてみました。
「スピード400とスクランブラー400Xは、お客さんもディーラーも、みんな待っていたモデルですね。現時点で6人から注文があり、全員普通二輪免許のお客さんで、5人はまったくの新規ユーザーです。まだ入荷時期もはっきりしていませんが、東京モーターサイクルショー前あたりに販売戦略を仕掛けていこうと思っています」
現時点ですでに、H-Dもトライアンフも予想以上の受注状況のようですが、ヨーロッパブランドでいち早くこのクラスのモデルを導入していたKTMジャパン(以下KTM)の広報担当にもお話を聞きました。
KTMがラインナップする普通二輪免許で乗れる250~400クラスのモデルは、アドベンチャー系を除くと250/390デューク、RC390の3モデルで、導入以来の販売状況は大きな変化はないがこの3モデルでコンスタントに年間1000台超を販売しているそうです。
やはり普通二輪免許で乗れるモデルはユーザー層が厚く、輸入車の中でも価格的に手ごろ感があり、多くの人に支持されることの証明です。
「KTMユーザーを増やすという意味でも、このクラスのモデルはとても重要です。輸入車はまだまだラインナップ数が少ないですが、H-Dさん、トライアンフさんなどが加わることで輸入車の中型クラスにも注目が集まって、マーケットも活性化すると思います。KTMも390デュークをフルチェンジしましたから楽しみです」
今後、実際にH-Dとトライアンフの現車が入荷して店頭に並び、試乗車が用意されるなどと販売体制が整うと、この「輸入中型車」のマーケットはますます過熱することは間違いなさそうです。
マーケット活性化のためにはいい刺激
さて、この輸入車のニューカマーを待ち受ける国産勢はどう思っているか。
現時点では、H-D、トライアンフともに、まだ現車もなく登録も始まっていないために、国産モデルの売上には影響が出ていないようです。
前述のアライモータースによると、エリミネーター/SE、ニンジャ/Z400などを販売するカワサキプラザ府中では、お店にくるお客さんはとくにH-Dやトライアンフのモデルを気にしていないようで、輸入車よりも国産のカワサキを購入したい人のようだと感じているとのこと。
一方、7月に排ガス規制に対応したGB350/Sを投入し、その月に小型二輪の販売台数ランキングのトップに立った(1323台/二輪車新聞調べ)ホンダモーターサイクルジャパン(以下HMJ)の広報担当者は以下のように話してくれました。
「危機感は持っていて、『黒船』が来たって感じはあります。H-Dやトライアンフはブランド的には恐い存在ですから、影響はあると思います。ただ、400㏄クラスの活性化につながっていいことではとも思います。国産メーカーがなかなかこのクラスの新型を出せていない中、輸入車がお客さまを刺激して、それによって国産メーカーも刺激を受けるのはいいことだと思います」
発表からわずか1カ月、好調な滑り出しを見せているH-Dとトライアンフのニューモデルは国産勢を脅かす「黒船」となるのか、2024年の400㏄クラスの販売状況は要注目です。
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