
2023年8月7日に「令和5年度高校生の自動二輪車等の交通安全講習」が秩父中央自動車学校で開催され、秩父農工科学高校や小鹿野高校など9校から66人の生徒が集まって、交通安全講習を受講した。本記事では、バイクに乗ってこなかった(こられなかった)生徒3名に対して行われた座学の模様を紹介する。
●文:ヤングマシン編集部(田中淳磨)
交通事故に遭わないためには、運転技能の体験や向上も大切だが、公道上の危険を前もって頭にインプットしておける座学も非常に重要だ。埼玉県教育委員会では、バイクに乗ってこなかった生徒に対しての座学を「静的実技」と呼称しているが、まさに読んで字のごとし、その内容はとても実践的なものだった。
今年度からの静的実技は、日本自動車工業会が制作した動画「梅本まどかと宮城光のセーフティライディング!」を教材にして行われている。2輪車事故の防止/被害減少の観点から次の5つの項目がピックアップされ、講師が生徒に質問しながら、事故の要因や発生メカニズムを明らかにしていくという形で進められた。
- 出会い頭事故と右直事故防止
- 左折時の巻き込み事故防止
- 単独事故の防止
- ヘルメットと胸部プロテクター
- ドライバー視点での事故防止
たとえば、2輪車死傷事故の30%を占める右直事故に関しては、4輪ドライバーから見ると「小さなバイクは遠くに/遅く見える」という人間の目の錯覚がひとつの要因であり、だからこそ「右折のクルマが『大丈夫だろう』と動き出すかもしれない」と予測してスロットルを戻し、軽くブレーキをかけ始めておくといったことが伝えられた。また、「バイクはそれほどクルマから認識されていない」「すり抜けをしても到着時間はたいして変わらないよ」など、ベテランライダーでもある講師の率直な言葉は生徒の心に響いたように見えた。
若年ライダーに多い単独事故については、速度の出し過ぎ/カーブの大きさの読み間違い/目線/体の硬直といった要因を挙げ、その対策として、しっかり減速する/路面の変化を見る/カーブの先に目線を向ける/上半身に力を入れない、といった具体的な方法が教えられた。そしてカーブの出口が見えないブラインドカーブの場合には、最悪の状態を想定して走ること、そのために「心にゆとりを持つ」ことが一番大事とのことだった。
このように、動画の項目に沿ったディスカッションを繰り返しつつ、実践的なノウハウ/テクニックが盛り込まれていくという内容だった。受講した生徒らは、2輪車事故の要因だけでも頭に入れてくれれば、危険予測をしながら公道を走ることができるだろう。ちなみに、静的実技を受講した3人がバイクに乗ってこなかった理由は、ケガ(骨折)/今はバイクを持っていない(また乗りたい)/本庄市に住んでいるので遠い(秩父市街から約30km)、というものだった。
講師から出された質問への回答や事故要因分析への反応を見ていても、静的実技という座学が生徒を能動的に導いていることが実感できた。本来は、小中学校からこうした授業が行われているのが理想なのだろう。ぜひ多くの教育関係者に知ってほしい内容だった。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※掲載されている製品等について、当サイトがその品質等を十全に保証するものではありません。よって、その購入/利用にあたっては自己責任にてお願いします。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
最新の関連記事([連載] 2輪車利用環境改善部会)
1. 山梨県の三ない運動と坂本先生の革新的な安全教育 山梨県は公共交通が不便だったこともあり全県的な三ない運動は実施されず、多くの高校でバイク通学が行われ、各校ごとに“乗せて教える”教育が施[…]
原付一種の新区分「新基準原付」とは? ガソリン原付一種は、排ガス浄化装置である触媒性能の問題により国内第4次排出ガス規制(ユーロ5相当)をクリアできないため、2025年10月末日に生産終了となり、以降[…]
[1] 7年目の高校生講習も秩父地域からスタート 埼玉県内を6地域に分けて全8回で開催される「令和7年度 高校生の自動二輪車等の安全運転講習」が2025年も始まった。 第1回目の講習会は、6月15日に[…]
講習内容を検討する“指導検討委員会” が開催 2025年1月29日、埼玉県知事公館において「令和6年度 高校生の自動二輪車等の交通安全講習に係る指導検討委員会」(以降、指導検討委員会)が開催された。本[…]
地域活性化ツーリングを開催、移動課題改善への提言も 2024年9月29日に開催された地域活性化・ライダー誘致イベント“伊豆ライダー誘致ツーリング”。 主催は若年層を中心に構成。バイクやクルマ、特定原付[…]
人気記事ランキング(全体)
既存の常識を打ち破る驚異的な動力性能 昨今ではあまり話題にならないものの、’70年代以降の2輪業界で、もっとも長く”世界最速”の称号を保持していた…と言うより、もっとも世界最速に”こだわっていた”メー[…]
古いゴムは硬化するのが自然の節理、だが・・・ ゴム部品は古くなると硬くなります。これは熱・酸素・紫外線などによる化学変化(酸化劣化)で、柔軟性の元である分子の網目構造が変化したり、柔らかくする成分(可[…]
初の電動スクーターが「C evolution」 2017年、BMWモトラッドは初の電動スクーター「C evolution(Cエボリューション)」を発売。それまでのガソリンエンジンを搭載したC650に通[…]
低く長いデザインが個性マシマシ! レトロモダンなボバークルーザー 中国から新たな刺客がやってきた! ベンダは2016年設立の新興メーカーで、独自設計のエンジンを搭載したクルーザーを中心に、ネイキッドな[…]
多くのカラーパターンを採用するCB350C、特別な2色のスペシャルエディション ホンダはインドでCB350C(日本名:GB350C)を発表した。これは前年に登場したCB350を名称変更したもので、従来[…]
最新の投稿記事(全体)
多岐にわたる仕様変更が行われた9年間 9年に及んだ生産期間中の仕様変更は多岐に及んでいる。ただしそのおもな目的は、最高出力や最高速の向上ではなく、扱いやすさや安全性に磨きをかけることだった。 1969[…]
高機能ジャケットから防寒パンツまで多彩なラインナップ 朝晩の冷え込みに、本格的なツーリングシーズンの到来を感じるこの頃。バイクウェアの老舗ブランド「クシタニ」より、2025-26年秋冬モデルの新作テキ[…]
ゼロハンが一番熱かった夏 多くの若者がバイクを愛し、GPライダーが同世代共通のヒーローとなった1970年代後半。 それでもフルサイズの“バイク”は、経済的理由や悪名高い“三ナイ運動”の影響からなかなか[…]
新型CBは直4サウンドを響かせ復活へ! ティーザー画像から判明したTFTメーターとEクラッチ搭載の可能性 ホンダは中国がSNS『微博』にて、新たなネオクラシックネイキッドのティーザー画像を公開したのは[…]
芦ノ湖スカイラインとは? バイク乗りに人気の理由 富士山の麓に点在する富士五湖のひとつ、芦ノ湖は箱根の人気観光地ですが、湖の西側の尾根に沿って通じているのが芦ノ湖スカイラインです。 全長約10.7km[…]