
ホンダが「過給機付き内燃機関」および「多気筒内燃機関」なる2つの特許を出願し、登録に至ったことが判明した。出願はいずれも2019年で、その内容は過給機の発熱対策とレスポンス改善にかかわるものだという。同系エンジンのNT1100やレブル1100系にも搭載可能に思えるが、いかに?
●文:ヤングマシン編集部(ヨ)
より操作に忠実な過給機付きエンジンを実現する!
ホンダがアフリカツインに過給機を搭載?! そんなニュースが現実味を帯びてきたかもしれない。2020年の特許公開時には海外メディアを中心に話題となったが、それにまつわる複数の特許が2023年1月と3月に相次いで登録へと至ったことが判明したのだ。
特許図と現行型CRF1100Lアフリカツインの写真を重ね合わせてみた。シートレールなどの細かい違いはさておき、大まかにいえば過給機が追加されただけ。マフラーの大きさについては、CRF1000Lの純正マフラーに準じているようだ。
これらの特許図版に用いられていた車両は、ホンダ「アフリカツイン」。フレームなどの造りは前作・CRF1000Lアフリカツインのものと思われるが、基本的な車体構成やエンジンのベースなどは現行型もだいたい同じ。これにワクワクするなというのが無理というものである。
特許についてざっくり解説すると、ひとつめは「過給機付き内燃機関」にかかわる特許で、2023年1月5日に登録、同16日に発行されたもの。過給機で空気を圧縮することにともない、羽根車で発生する熱によって羽根車自体およびケーシングが熱膨張するが、これを連結具の一部を変形させることによって吸収するという。
また、この特許の説明の文中には「駆動羽根車にはクラッチアウターからの駆動力が伝達される」という言い回しがあり、この過給機がエンジンの動力を利用して空気を圧縮するスーパーチャージャーだということもわかった。図版を見ても排気系の取り回しからターボではないことがわかるが、最小限の動力伝達機構でコンパクトな構成にしているのがわかる。
そして2つめの「多気筒内燃機関」に関する特許は、2023年3月22日に登録され、同30日に発行されたもの。こちらは、過給機の羽根車によって圧縮された空気が通る流路をいったん上方に向けることでエンジン自体の熱の影響を受けにくくするとともに、下方向への折り返し付近から各気筒へ向かって分岐する構造にすることで空気溜まりの空間=サージタンクを省略し、過給機の圧力を良好なレスポンスで個々の燃焼室に伝達できるという主旨だ。
一般に過給機付きエンジンは、空気の圧縮工程や長い吸気通路を必要とすることで、アクセル操作に対する反応遅れが生じがちで、この部分の制御が荒いと、わずかな遅れののちに大きな駆動トルクが発生することでライダーに扱いづらさを感じさせてしまう。これを解消してレスポンスを向上するということは、よりアクセル操作に忠実なエンジンに仕立てることにほかならない。
軽量コンパクトなエンジンのまま大排気量車と同じ出力を得る!
81がエアクリーナーボックスで、82の吸気ダクトを経て過給機へ。84が過給機から吸気ポートへ繋がる通路だ。85は余剰圧力を逃がすバイパス通路。
アフリカツインの仮想ライバルといえば、BMW・R1250GSやドゥカティ・ムルティストラーダV4など。大排気量化やハイパワー化が進むライバル勢に対し、軽量コンパクトなエンジンのまま出力を向上するスーパーチャージャーは、アフリカツインに独自の魅力を与えることになる。さらに、同系統の並列2気筒エンジンを搭載するNT1100やレブル1100シリーズに展開することでラインナップの強化も図れるはずだ。
気になるのは実際に市販車へ投入されるかだろう。これについては、来たる次期排出ガス規制への対応や電動バイクへの転換などさまざまな要素があり、現状ではなんとも言えないのが正直なところ。とはいえ、ホンダがさまざまな状況を想定した研究をたゆまず続けていることは、今後のバイク文化に思いを馳せるうえでも安心材料になる。
といいつつ、過給機付きのアフリカツイン、単純に乗ってみたいです! ホンダさん、ぜひ!
左はエンジンの左側面。過給機から84の通路が立ち上がり、燃焼室に向かって折り返すように下っていくあたりで各気筒へ向けて分岐する。図版のエンジンはFIはポート噴射を想定しているようだ。右の図は、エンジンを正面から見た図で各種ギヤの配置などがわかる。
左の図はエアクリーナーボックスとその周辺のダクト類を上から見たもの。84の圧縮空気が通る流路などがコンパクトなスペースに収まっているのがわかる。右の図はエアクリーナーボックスを省略した形で車体後方から見たもの。82のダクトで過給機に空気が送られ、過給機以降は84の吸気ポートへ。
※本記事の文責は当該執筆者(もしくはメディア)に属します。※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
あなたにおすすめの関連記事
動力伝達を切断することなく変速できるシームトランスレスミッション コンマ1秒のラップタイムを競うレースの世界では、昔から無駄のないシフトワークがライダーに必要なスキルとされてきた。できるだけ素早くシフ[…]
車体姿勢の制御に不可欠な“忠実なレスポンス”を具現化する “ユーロ5”や“令和2年排出ガス規制”といった文言を見かける機会がずいぶん増えてきた。今後ますます厳しくなっている一方の環境規制と大型バイクら[…]
オートクラッチ操作とマニュアル操作を自在に切替可能? 2021年6月にお伝えした『クラッチもバイワイヤ! ホンダの新たな特許、指1本で軽々操作できる……だけじゃない?!』という記事を覚えている方はいら[…]
2022年8月には新世代GSX-R1000と思われるエンジンの特許情報が公開され…… スズキは国内の公式HPで、リッタースーパースポーツ「GSX-R1000R」および軽二輪スクーター「バーグマン200[…]
YZF-R9やXSR GPに続くのはRZ250/RZ350か ヤマハが「RZ250」「RZ350」の商標登録を出願していたことが明らかになった! RZ250/350といえば、2ストロークエンジンの未来[…]
最新の関連記事(CRF1100Lアフリカツイン/AS ES)
全カラーバリエーションに変更アリ ホンダは欧州で、フラッグシップアドベンチャーモデル「CRF1100Lアフリカツイン」および「CRF1100Lアフリカツイン アドベンチャースポーツ」の2025年モデル[…]
野田さんは学生時代に二輪免許を取得してから今までホンダのバイクばかり乗り継いできました。そんな野田さんが最近購入したのがCRF1100L Africa Twin。どんな経緯でこのバイクを選んだのでしょ[…]
アドベンチャースポーツESは前輪19インチでオンロードに軸足 ホンダは、2024年版で進化した「CRF1100Lアフリカツイン」および「CRF1100Lアフリカツイン アドベンチャースポーツES」を発[…]
アドベンチャースポーツは前輪19インチでオンロードに軸足を移す ホンダは欧州で、2024年モデルで進化した「CRF1100Lアフリカツイン」および「CRF1100Lアフリカツイン アドベンチャースポー[…]
新色はマットグレー! 標準モデルにはトリコロールも追加 ホンダは欧州で、「CRF1100Lアフリカツイン」と「CRF1100Lアフリカツイン アドベンチャースポーツ」に新色を追加し、2023年モデルと[…]
最新の関連記事(ホンダ [HONDA])
専用ロゴがファン心をくすぐる 1975年に初代GL1000が誕生してから50年が経つホンダのプレミアムツアラー、ゴールドウイング。2018年のフルモデルチェンジでは、フロントにダブルウィッシュボーンサ[…]
ホンダCBR600RR(2020) 試乗レビュー 排気量も気筒数も関係ない、コイツがいい! 仕事柄、しばしば「スーパースポーツが欲しいんですけど、リッタークラスとミドルクラスのどっちがいいと思います?[…]
”デカ猿”の衝撃:ホンダ「モンキー125」【初代2018年モデル】 発売は2018年7月12日。開発コンセプトは、楽しさをスケールアップし、遊び心で自分らしさを演出する“アソビの達人”だった。原付二種[…]
レンタルクーポンの利用者、先着500名に購入サポート 今回のキャンペーンは、Hondaのバイク関連サービス「HondaGO」の会員を対象としており、現在会員でない方も、新たに登録することで参加可能。キ[…]
CB1000 SUPER FOUR BIG-1の400cc版でスタート、1999年のHYPER VTEC搭載で独り舞台に! 2019年モデル発表後、期間限定で2022年まで販売され惜しまれつつホンダの[…]
人気記事ランキング(全体)
情熱は昔も今も変わらず 「土日ともなると、ヘルメットとその周辺パーツだけで1日の売り上げが200万円、それに加えて革ツナギやグローブ、ブーツなどの用品関係だけで1日に500万円とか600万円とかの売り[…]
正式発表が待たれる400ccオフロード/スーパーモト スズキは、昨秋のEICMA(ミラノショー)にて、新型400ccデュアルパーパスモデル「DR-Z4S」およびスーパーモトモデル「DR-Z4SM」を発[…]
660ccの3気筒エンジンを搭載するトライアンフ「デイトナ660」 イギリスのバイクメーカー・トライアンフから新型車「デイトナ660」が発表された際、クルマ好きの中でも話題となったことをご存知でしょう[…]
カワサキUSAが予告動画を公開!!! カワサキUSAがXで『We Heard You. #2Stroke #GoodTimes #Kawasaki』なるポストを短い動画とともに投稿した。動画は「カワサ[…]
止められても切符処理されないことも。そこにはどんな弁明があったのか? 交通取り締まりをしている警察官に停止を求められて「違反ですよ」と告げられ、アレコレと説明をしたところ…、「まぁ今回は切符を切らない[…]
最新の投稿記事(全体)
朝6時台には伊豆に到着? バイクならではの伊豆巡りを 週末の伊豆半島といえば“渋滞”。そんなイメージだろう。実際、東名高速下り線は朝の6時台には渋滞が始まり、伊豆に入っても沼津市街/東伊豆/下田といっ[…]
専用ロゴがファン心をくすぐる 1975年に初代GL1000が誕生してから50年が経つホンダのプレミアムツアラー、ゴールドウイング。2018年のフルモデルチェンジでは、フロントにダブルウィッシュボーンサ[…]
電子の力で瞬時に冷却する「ペルチェ素子」を採用 このベスト最大の売りは、その冷却システムに「ペルチェ素子」を採用していること。これは、半導体の一種で、電気を流すと素子の片面が熱を吸収(冷却)、もう片面[…]
凛としたトラディショナルをカジュアルクラシックで訴求! ヤマハが1992年にリリースしたSRV250は、1988年のXV250Viragoで開発した空冷250Vツインを搭載、感度の高いトラディショナル[…]
着脱の快感を生む「ピタッ」&「カチッ」を実現する独創的なデュアルロック 今や街乗りでもツーリングでも、すべてのバイクの必須アクセサリーといっても過言ではないスマートフォンホルダー。バイク用ナビやスマー[…]
- 1
- 2