1993年、デビューイヤーにいきなり世界GP250チャンピオンを獲得した原田哲也さん。虎視眈々とチャンスを狙い、ここぞという時に勝負を仕掛ける鋭い走りから「クールデビル」と呼ばれ、たびたび上位争いを繰り広げた。’02年に現役を引退し、今はツーリングやオフロードラン、ホビーレースなど幅広くバイクを楽しんでいる。そんな原田さんのWEBヤングマシン連載は、バイクやレースに関するあれこれを大いに語るWEBコラム。第96回は、モータースポーツと内燃エンジンの魅力について。
TEXT: Go TAKAHASHI PHOTO: HONDA, Tetsuya HARADA
モナコではEVへの乗り換えも検討中ですが……
遅ればせながら、明けましておめでとうございます。皆さんはどんなお正月を過ごされましたか? こちらモナコはクリスマスがメインイベントという感じで、お正月は割と淡々と……。娘たちも3日から学校が始まっており、早くも通常運行という状態です。
年が明けてからモナコはずっと雨続きで、なかなかバイクにも乗れません。ドゥカティ・スクランブラーを所有してますが、ほとんど眠っています……。かわいそうだしもったいないし、電動スクーターへの乗り換えも検討し始めています。モナコはすでにEVが一般的になっていて、自動車からスクーターまで電動がすごく多く、充電ステーションもあちこちに設けられているんです。しかも1、2年前までは充電もタダ。国を挙げてEVを推進している感じですね。
二輪で言えば、電動自転車は完全に普及していますね。レンタルも充実しているし、駐輪場もたくさんあって、モナコ国内なら好きな駐輪場に乗り捨てができるんです。18歳以下はヘルメットの着用が義務付けられていますが、気軽にEVの世界に足を踏み入れることができますよね。
バイクなら、電動スクーターはすっかり一般的になりましたし、若者たちの間では電動オフロードバイクが流行しています。また、最近すごく目立っているのは、ルノー・トゥイージーに代表されるミニカー! こちらでは最高速が45km/hに制限されたバージョンがあり、なんと原付免許で14歳から運転可能です。定員は2名で、運転者の後ろに同乗者が乗るスタイルですが、ちゃんと屋根があって風雨もしのげて、車感覚なんです。
仲良くしているロリス(カピロッシ)も、「テツヤ、EVはいいぞ。何しろガソリンスタンドに給油に行く面倒がなくなるし、オイル交換も不要。モナコ内で乗るならEVだ」と言っています。僕も狭いモナコ国内なら電動スクーターなどのEVが便利かな、と思っています。バイクもしょっちゅう遠乗りするならガソリンエンジンの方がいいけど、たまに乗るならメンテナンスのラクさも含めてEVがいいかな……と。
ただ、ヨーロッパでもEVでの遠出は厳しいかな。モナコの隣国であるフランスやイタリアでもまだ充電ステーションが不足していますし、何しろチャージに時間がかかるのは現実的ではありません。そもそも「EVの方が環境にいい」という話も、どこまで信じていいのか判断が難しいですよね。生産工程やリサイクル、それに発電所の問題などを考えると、実はガソリンエンジンよりEVの方が環境負荷が高いという見方もあるようですし……。
本当に難しい話ですが、僕はトヨタのように、あらゆる可能性を考慮してモビリティを開発していくのがいいのかな、と思っています。世界にはインフラが整っていない国も多く、現実的な移動手段としてはまだまだガソリンエンジンが有利という面もあるのかな、と。
電動モーターのレースでは立ち上がりにテクニックの差が出にくい?
モータースポーツ的な観点からすると、「やっぱりエンジンが奏でる迫力あるサウンドは大事な要素だろう」という見方が強いようです。これには僕も同意します。MotoEもハイレベルなレースが展開していますが、音があまりしないのはやっぱり寂しい。だから直近ではバイオ燃料を使って、環境負荷軽減とモータースポーツらしい迫力のバランスを取ろうとしているのでしょう。
’18年にMotoEのベースマシンに試乗した時は、電気モーターの特性上、スロットルを開ける方向のテクニックはさほど求められないのかな、という感覚もありました。車重が重いことと、制御されていないこともあって、ブレーキングはやはりテクニック勝負という面が大きい。でもスロットルを開けることに関しては、あまりにもフラットなモーターの特性上、「ただ開けるだけ」という感覚は否めません。最新のMotoEマシンがどう進化しているのかは分かりませんが、僕が乗ったエネルジカの「Ego」は、ガソリンエンジンほどスロットルワークに気を使う必要がなく、「ここではテクニックの差は出ないだろうな」と思ったんです。
分かりやすい例で言えば、GPマシンのエンジンが2ストロークから4ストロークになった時に、一気に扱いやすくなったのと同じような感じです。かつての2ストはとんでもなくピーキーで低回転域のトルクがなく、パワーバンドに乗せるのが大変でした。しかもパワーバンドに入ると猛烈な勢いでパワーを出してくるので、スロットルワークには本当に気を遣わされたものです。その分、気難しいエンジンを乗りこなせた時には達成感がありました。
4ストには、2ストほどヒリヒリした緊張感はありません。僕は4ストになったMotoGPマシンでのレース経験はありませんが、ハイパワー化の一途を辿る量産スーパースポーツモデルに乗る限りでは、とりあえず誰でもスロットルを開けられる。2ストよりはるかに速くなっていますが、全体的な完成度と扱いやすさが高まっている分、エキサイティングな刺激は減ったように思います。4ストからEVになると、その傾向がさらに強まるでしょう。
最初の街乗りバイクはFZ400、その後MC18の青テラに乗り換えた
これは社会の要請だし、時代の流れなので逆らうことはできません。でもバイクの魅力のひとつに、エンジンの刺激があったことは間違いない事実だと思います。僕自身の思い出話になってしまいますが、僕の最初の街乗りバイクはFZ400でした。友人の松戸直樹くんのお父さんの知り合いから買った中古で、16歳の僕としては満足していました。
ところが、価値観がガラッと変わる出来事と遭遇します。雑誌の企画で、SP忠男のチャンバーを装着したNSR250を走らせる機会があったんです。確かヤングマシンだったんじゃないかな(笑)(※編註:写真が見つかりませんでした)。このNSRがとんでもなく刺激的で、フロントがバンバン浮くんですよ!「なんだこの楽しさは!」と、すぐにNSR250Rに乗り換えました(笑)。’88年型の青いテラカラー、「青テラ」です。
街乗りNSRでSP忠男のミーティングに行ったりして(真冬はめちゃくちゃ寒かった覚えが……)、とにかく楽しくて仕方がありませんでした。当時はすでにRS125で全日本ジュニアに参戦していましたが、「RS125より全然速ぇじゃん!」と、かなり燃えてましたね(笑)。峠に行くようなことはありませんでしたが、2ストエンジンの魅力に取り憑かれていたんです。
その後、ヤマハのファクトリーライダーになってからは街乗りは車になりましたが、バイクを好きにさせてくれた大きなきっかけが2ストエンジンだったことは確か。車体はひたすら軽く、エンジン特性はとにかく刺激的で、ちょっとスリリングで、本当に面白かったんです。
当時はとんでもなく速いと思っていましたが、今のスーパースポーツモデルとはまったく比較になりません。速いように感じさせるフィーリングだっただけで、実際の速度は大したことがありませんでした(笑)。逆に言えば、今のスーパースポーツモデルは速さを感じさせないまま、とんでもない速度域にライダーを連れて行ってしまう。僕はそのことの方が怖いんじゃないかと思っています。
2ストエンジンのバイクは、スピードがそれほど出ていなくても「とんでもない乗り物」というオーラがあって、その分、乗る側は十分に注意をしていたと思います。エンジン特性はピーキーで気難しいから、乗りこなすにはかなりのテクニックも必要でした。乗り手を選ぶ乗り物だったんですね。今の4ストスーパースポーツモデルは、基本的なエンジン特性から電子制御まで本当によくできていて、誰でもとんでもないスピードが出せてしまいます。
でも僕のように50代ともなれば、若い頃に比べると反射神経も視力も体力もすっかり衰えており(笑)、とてもではありませんがそのスピードには対処できません。そこで何が必要かって、テクニックも大事ですが、何より重要なのは「諦め」だと思っています。いつまでも若いつもりで飛ばそうとすると、バイクの性能がよくなっている分、自分では対処できない速度域に達してしまう。だから「スピードはスッパリと諦める」という自制心を持つことが、すごく大切なんじゃないか、と。
だいぶ話が逸れてしまいましたが、ご理解いただきたいのは2スト、4スト、そしてEVとバイクが乗りやすくなるからといって、決して油断はできないということです。最近は年配ライダーの事故報道が多く、心を痛めています。バイクはせっかく楽しい乗り物なので、できるだけ多くの人に長く安全に楽しんでもらいたい。このコラムでは何度も書かせてもらっていることですが、自制心を1番大事にしながら、バイクと付き合ってほしいと思っています。
今年も僕はバイクを楽しむ気マンマンです(笑)。改めて初心に返ってバイクに乗ろうと思っているんです。今年やりたいのは、トライアルでしょう? 北海道ツーリングでしょう? 気の合う仲間たちとのツーリングも再開したいな……。コロナの状況を見守りながら、少しずつ元通りのバイク遊びができれば、と思っています。
※本記事は“ヤングマシン”が提供したものであり、文責は提供元に属します。※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※掲載されている製品等について、当サイトがその品質等を十全に保証するものではありません。よって、その購入/利用にあたっては自己責任にてお願いします。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
あなたにおすすめの関連記事
1993年、デビューイヤーにいきなり世界GP250チャンピオンを獲得した原田哲也氏。虎視眈々とチャンスを狙い、ここぞという時に勝負を仕掛ける鋭い走りから「クールデビル」と呼ばれ、たびたび上位争いを繰り[…]
老いてからも乗り続けられる1台を:ホンダ スーパーカブ 僕の場合、「最後に所有していたいバイク」と、「最後まで乗っていたいバイク」がある。 所有していたいのは、僕が世界グランプリ250ccクラスでチャ[…]
こんにちは。まつだと申します。本業はヤングマシンの編集部員なのですが、NSR250R好きが高じて、「プロスペック」という専門誌を副業(?)で作っていたりするNSRマニアです。このプロスペック誌、作り手[…]
’88 NSR250R/SP〈世界初・電子制御キャブレター+マグホイール〉飛躍的に性能アップ、「最強」の座が不動に 大ヒットした本格レプリカ・ヤマハTZR250の対抗馬として’86年10月、ホンダがN[…]
その①NSRの「形式」を判別する方法<後編> 前編で解説した3代目に続く、4代目となるNSRは‘90年登場のMC21型。ハチハチ最強のイメージが強いNSRですが、趣味や嗜好を除けばMC21=歴代最良の[…]
最新の記事
- 価値ある中古車がわかる! リセール・プライスランキング50回記念イベントがバイク王世田谷本店で開催
- ZX-4RRターボ/グロム250etc…夢のマシン乗り心地は? 2024年度上半期試乗記事ランキングTOP5【Webヤングマシン】
- カワサキ新型「KLX230」「KLX230 S」登場! スタイリング一新で2年ぶりの復活
- カワサキが新型「KLX230 シェルパ」を発表!! KLX230シリーズに加わった“トレッキング”仕様
- 名車がスケールモデルで蘇る! ホンダCB400FOURが1/12完成品バイクとして登場
- 1
- 2