‘80s国産名車「ヤマハ TZR250(3MA)」完調メンテナンス【エンジン関連部品の供給が厳しい】

ヤマハ TZR250

今も絶大な人気を誇る’80年代の名車たち。個性の塊であるその走りを末長く楽しむには、何に注意しどんな整備を行えばよいのだろうか? その1台を知り尽くす専門家から奥義を授かる本連載、今回は「ヤマハ TZR250(3MA)」について、メンテナンス上のポイントを明らかにする。

【取材協力:モトプラン】取材に協力してくれたモトプランは、’78年の創業以来、ヤマハ専門店として活動してきた老舗ショップで、’80年代中盤からの十数年間はYSPの看板を掲げていた。TZRを含めた旧車の整備で多忙を極める一方で、最近の同店はお客さんに提案する遊びの一環として、2スト50cc車を用いたレンタルサーキット走行会を企画中。 ■東京都小金井市前原町5-7-30 ■電話番号:042-385-6511


●文:ヤングマシン編集部(中村友彦) ●写真:富樫秀明 ●取材協力:モトプラン

調子を崩す原因はメンテナンス性の悪さ?【ヤマハ TZR250(3MA)】

オーナーが読んでいたら気を悪くするかもしれないが、3MAは調子を崩しやすいバイク…と、世間の一部では言われている。この微妙な説を、川原さんはどう考えているのだろうか。

「確かに、そういうところはあるかもしれません(笑)。他のTZRやRZなどと比較すると、3MAは始動がちょっとシビアで、プラグがカブリやすい傾向ですし、プラグ交換やキャブレターの脱着には相当な手間がかかるので、調子が悪い状態で乗られているケースが少なくないですから。まあでも、きちんとレストアして本来の調子を取り戻した個体で、オーナーが2ストの特性を理解していれば、そんなに簡単に調子が崩れるバイクではないですよ」

現役時代ではなく、近年になって同店に修理で入庫して来る3MAは、どんな問題を抱えているのだろうか。

「一番多いのはキャブレターの作動不良です。腐ったガソリンの沈殿やジェットの詰まりは、旧車ではよくある話ですが、3MAの場合は長期放置すると、アイシング防止用のクーラントの通路が確実に詰まります。それ以外だと、ガソリンタンク内の錆び、ホースやシールといったゴム類の劣化、充電不良などが、定番トラブルでしょう」

なお1KT/2XTのクランクセンターシールが、ラビリンス構造の金属製だったのとは異なり、3MAはゴム製を採用。ただし、各気筒用のシールが独立しているため、3XVやNSRでよく話題になる“抜け”は、このモデルではほとんど発生しないようだ。

ヤマハ TZR250(3MA):メンテナンスポイント

キャブレター:シリーズ初の電子制御を導入

車体の左側、キャブレターのやや上に備わるのは、電子制御式エアジェットに指令を送るソレノイドバルブ。このパーツの故障で、吹け上がりに異変が生じることがある。

ミクニTMキャブの口径は、’89年型:φ32mm/’90年型:φ30mm/SP:φ34mmで、セッティングは各車各様。いずれのモデルもスロットルポジションセンサーを装備。

キャブレター本体の脱着はなかなか面倒で、サイドカウルとエアダクトに加えて、ラジエターを取り外す必要がある。ジェット類やガスケットは現在でもほとんどが入手可能。

リードバルブ:吸気系を制御する羽は8葉と6葉が存在

’89年型のリードバルブは前任に当たる2XTと同じ8葉だが(写真)、’90年型は6葉に刷新。基本的に互換性はないものの、マニホールドとのセットなら転用可能。ただし吸気系純正パーツの多くは、すでにメーカー欠品となっている。

ガスケット:大半が入手可能

エンジンの分解整備に欠かせないガスケット&シール類は、まだ大半が入手できるものの、一部は欠品になっている。モトプランではワンオフ製作や他機種の流用、汎用品で対処。

エアフィルター:エアボックスの使用はマスト?

スポンジタイプのエアフィルターは、現在でも純正の新品が入手できる。なお“直キャブ”が多かった1KT/2XTとは異なり、3MAでエアボックスを撤去するライダーは少数派のようだ。

インテークマニフォールド:トラブルを呼ぶ前期型の連結ホース

’89年型の吸気マニホールド(写真左)に備わる長大なサクションパイプ(インテークチャンバーとして機能)は、トラブルの原因になりやすい。モトプランでは左右の吸気マニホールドを最短距離でつなぐ、’90年型用(写真右)に交換するのが定番になっている。

シリンダー&ピストン:焼きつきはほとんど起こらない

メッキシリンダーはかなり丈夫で、写真左のような焼き付きはめったに発生しない。同店の定番ピストンは耐久性を高めるWPC処理を施した純正の新品で、もちろんOH時にはピストンリング/ピストンピン/ベアリングも新品に交換。

クランクシャフト:シリーズ唯一となるセンタープライマリー

組み立て式クランクは、中央に1次減速ギアが備わる珍しい構成で(既存のヤマハ2ストパラツインは右側)、その左右にオイルシールが備わる。同店はベアリングやシール類の新品を独自に準備しているので、現時点ならフルOHが可能。

トランスミッション:ミッションオイルの乳化に要注意

6速ミッションはシリーズ初となるカセット式で、耐久性は十二分。ただしRZや1KTなどでも定番トラブルと言われていた、ウォーターポンプシールの抜けを原因とする、ミッション室へのクーラント侵入は、3MAでも発生する。

エキゾーストシステム:扱いやすさなら純正チャンバーが一番

現役時代は社外品への交換がマストと言われていたものの、昨今のモトプランでは扱いやすさを重視して、チャンバーは純正を選択する人が多い。サイレンサー手前に備わるオイル排出パイプ+ホースは、純正ならではの機構だ。

CDIユニット:点火系の構成は年式と仕様で異なる

’89年型がCDI点火だったのに対して、’90年型はさらに進化したマップ制御のデジタル式CDI点火を採用。その変更と歩調を合わせる形で、’90年型はメインユニットからコントロール機能を分離し、メーター下に別ユニットを設置。

レギュレーター/レクチファイア:充電不良の主な原因は制圧/整流器のパンク

47Xという数字が記されたレギュレターレクチファイアは、現役時代からトラブルが多かった模様。同時代の他のヤマハ車も採用したこのパーツは、マニアの間では悪い意味で有名で、対策品ではなく、他機種用に変更する人も存在する。

フロントフォーク:正立式も倒立式も補修部品の心配はナシ

’89年型ではφ41mm正立式だったフロントフォークは、’90年型でφ39mm倒立式に変更。SPはダンパー調整機構を装備。いずれの仕様もオイル/ダストシールやスライドメタルといった消耗パーツは、現在でも補修部品が入手できる。

フロントブレーキ:ディスクの代替品はサンスターが定番

ブレンボに変更するという選択肢もあるけれど、モトプランの場合、ブレーキキャリパーは純正をOHするのが一般的。フロントディスクは、’89年型:φ298mm/’90年型:φ282mmで、サンスター製が定番としての人気を獲得。

タイヤ:ダンロップα-14なら17/18インチに適合

3MAのタイヤサイズは、当時の250〜400ccクラスで採用車が多かったフロント=110/70R17/リヤ=140/60R18(SPのリヤは150/60R18)。ハイグリップスポーツ系では、ダンロップがこのサイズに適合するHレンジのα-14を販売している。

オイル/ラジエーターリザーバータンク:紫外線で劣化が進む2つの樹脂製タンク

液量の確認は容易だが、紫外線を浴びやすい位置に設置されているため、フレームの左右に備わる2つの樹脂製タンクは、ボルト穴付近にクラックが入ることが多い。いずれも新品は入手できないので、同店ではワンオフ製作を検討中。

フューエルコック:オンオフ式と負圧式の2系統

メンテナンス性を考慮したのか、3MAのガソリンコックは、フレーム左側に設置された負圧式と、タンク下部に備わるオンオフ式の2系統。いずれも内部のゴム部品が劣化すると、燃料がキャブレターにスムーズに流れなくなる。

ナックルガード:耐久性を高めたオリジナルを準備

アッパーカウルの左右に備わるビス留めのナックルガードは、破損している個体が非常に多い。モトプランが開発した復刻品は耐久性の向上を意識した形状で、素材はFRP。左右セット/純正色にペイント済みで、価格は2万5300円。

インテークダクト:破損が多いエアダクト

サイドカウルに備わるエアダクトは、中古車では破損していることが多いため、モトプランではFRP製の復刻版を準備。左右セット/純正色にペイント済みで、価格は2万5300円。

シートカバー:純正オプションの姿を再現

純正オプションのシングルシートカバーをFRPで再現。純正色に塗装済みで、5万7200円。モトプランの3MA用パーツは、取材時は在庫切れだったが、近日中に生産が再開する予定。


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