鉄フレーム+ハヤブサエンジンでテイストオブツクバの頂点を狙う

誰も見たことないハヤブサ、完成間近!! チーム加賀山オリジナルマシン“鐵隼(テツブサ)” の全貌とは

以前の記事でレポートし、大反響を呼んだチーム加賀山の“鐵隼”プロジェクト。同チームを率いる加賀山就臣さんが仕掛け人となり、鉄フレーム化したスズキ・ハヤブサでテイストオブツクバ(T.O.T)の最速クラス・ハーキュリーズで勝利を狙うという企画だ。今回、シェイクダウンを前にほぼ形となったマシン車両を前に、ライダーを務める加賀山さんと、同チームのチーフメカニックで、鐵隼の設計者である斉藤雅彦さんに話を聞く機会を得た。


●文:ヤングマシン編集部 ●写真:佐藤寿宏 ●外部リンク:Team KAGAYAMA

ポイントさえ抑えたら、後はオレが何とかする!

鐵隼(テツブサ)はテイストオブツクバの最速クラスであり、鉄フレーム車しか出場できない「ハーキュリーズ」クラスを制覇するためにチーム加賀山が製作中の、ハヤブサエンジンを鉄パイプフレームに搭載するオリジナルマシンだ。チーム加賀山では以前、カタナフレームを大改造してGSX-R1000エンジンを搭載した「カタナ1000R」でハーキュリーズを制しており、鐵隼はこれに次ぐ2番目のT.O.Tチャレンジとなる。

5月15日の決勝に向けて急ピッチで製作が進む鐵隼だが、元々がツアラーであり、装備重量が260kgを超すハヤブサは決してサーキット向きの車両ではない。フレームを作り直すといっても出来ないことは存在する。ならばどうするのか? 筑波サーキットでタイムを出す上でのキモは確実に抑えたうえで、あとはライダーの能力やスキルに委ねる。チームが長年のレース活動で培ったノウハウと、経験豊富な名ライダーのスキルをかけ合わせて引き出された方法論は、シンプルながら説得力のあるものだ。

鉄フレームでなければ出場できないテイストオブツクバ、その最高峰クラスで勝つために製作された鐵隼。大排気量エンジンに沿うように取りまわされたスチール製トレリスフレームの存在感に目を奪われる。

「筑波でタイムを出す上で、最も優先順位が高いのは“止まること”と“加速すること”です。鈴鹿だと総合的なフレーム剛性が必要なので話は変わってくるのですが、筑波なら、剛性のプライオリティを下げてでも加速と減速を重視したい。それがしっかり出来ていれば、後は僕のライディングでタイムは出せます。なのでメカに伝えたのは、ブレーキ回りとエンジン出力のデリバリーをしっかり作り込んでくれ、ということです。(加賀山さん)」

「変な話ですけど、ベースがハヤブサって時点である程度は諦めざるを得ない。どうしたってGSX-Rにはならないんだから、もう、しょうがないじゃん、って(笑)。それは加賀山にも伝えます。ただ彼からは“前が長い”というフィードバックがあり、その解決は必要と感じたので、ヘッドパイプをライダー側に40mmくらい引いてフレームを設計しました。そういった譲れない部分だけを押さえておけば、後は加賀山が何とかしてくれますから。(斉藤さん)」

信頼するメカニックに鐵隼のデザインやカラーリングも任せてある

レースに勝つため、ライバルよりも優れたバイクを作り上げることを最も重視し、それを様々なマシンで学んできた加賀山さんは、サーキットや車両の性格に応じた“タイムを出せるバイクの作り方”を熟知している。それが鐵隼の方向性を決定付けているわけだが、長らく苦楽を共にしてきた斉藤さんとの間に存在する、信頼関係の上に成り立つ明確な役割分担も鐵隼におけるひとつのポイントと言えそうだ。

“僕の担当は最初のアイデアと、最後の乗るところだけ”と語る加賀山さんに、そこが最も重要なのでは?と水を向けると「いや、やっぱり大事なのはメカニックですよ」と答えが帰ってきた。「設計を担当する斉藤はもちろんですが、それを実際に形にしてくれる製作担当の野口裕一メカも重要な役割を務めています(取材日は不在)。この野口はいいセンスを持っているので、鐵隼のデザインやカラーリングも任せているんです。どうなるかはT.O.T本番を楽しみにしていて下さい」

チーム加賀山のオリジナル鉄フレームにハヤブサエンジンを搭載する「鐵隼」。白い外装類はまだ載せただけの状態で、5/15のテイストオブツクバ本戦までにはカラーリングも施される予定。

鉄フレーム以外にも「エンジンを見せること」というハーキュリーズのレギュレーションに沿ってハーフカウル仕様とされる。前輪がエンジン側に近づき、延長されたスイングアーム(GSX−R用を転用)などでグッと戦闘的なスタンスに。

エンジンの搭載角度や位置は変更も検討したが、専用マフラーで前輪とのクリアランス確保に目処が立ったことで、まずはノーマルに準じた角度で搭載。溶接による焼け色が迫力の鉄フレームは「らしさ」をPRすべく、このままクリア塗装も検討中とのこと。青いチヂミ塗装仕上げとされたヘッドカバーがよく見えるのもパイプフレームならでは。

エンジンに合わせて外装類は初代ハヤブサと同形状に。ラムエアは未搭載なのでカウルの穴は不要だが「ハヤブサらしさ」にこだわる野口メカニックが維持を頑なに主張したという。

メーターはハヤブサのノーマル。FI関係もノーマルを使用するが、現行ハヤブサが採用する電制スロットル化の構想も。オーリンズのフォークを保持するステムはイメージカラーであるブルーに染められる。

スイングアームはハヤブサノーマルよりロングなGSX-R1000用に。リヤショックはフレームとの接続点が少なく、工数を減らせるユニットプロリンク式を採用する。白と青のプレートを組み合わせた、RKの特注チェーンもユニークだ。

現状のマフラーはヨシムラの市販品だが、文中にあるとおり、エンジンとエキパイを近づけた鐵隼の専用品をヨシムラで製作中。サイレンサーは同じくR-11sqタイプとなる予定だ。

メカニックを育て、鍛える希少な場として

今回の取材はシェイクダウンを数日後に控え、あとは外装の固定などで走行可能という状態で行った。ピストン交換でハイコンプ化された以外ほぼノーマルというエンジンは初代ハヤブサ用で、シャシーダイナモで後輪160ps程度を発生。これは以前のT.O.T参戦マシン「カタナ1000R」と同等だが、排気量が大きい分トルクで勝り、加速はカタナより良いはずとは斉藤さんの弁だ。

車重は車両完成前ということで未計測だが、160kg台半ばとJSBマシン同等だったカタナよりは重くなるはずで、ノーマルハヤブサの装備重量が260kg台ということを踏まえれば、レース用外装や軽量な排気系への変更などを踏まえても、レーサーとしてはかなりの重量級となるはず。ちなみにオリジナルの鉄フレームは「測ってないけど、ノーマルのアルミと似たようなもの(斉藤さん)」とのこと。

フレームのヘッドパイプが40mm引かれたことは先述したが、その際に問題となるのはフロントタイヤがエンジンに近づき、ラジエターやエキパイと接触しやすくなること。これはヨシムラの協力を得て、エキパイをエンジンに近づけた専用マフラーを製作することでクリア。ラジエターもエンジンに近づけている。外装は前後カウルを初代ハヤブサと同形状とし、タンクにはチーム加賀山が母体のショップ・ライドウィンで開発中の現行ハヤブサ用アルミ製(容量が19→24Lに増量)を使う。

こうした外装類へのこだわりはT.O.Tならではだが、フレームの製作においては形状変更の自由度を阻害するため、足かせとなることも。しかし“見た目はいちばん大事。カッコよくないと人の心なんて掴めません”と加賀山さんも語るし、ハヤブサのノーマルスタイルを維持することには野口メカニックが大いにこだわっているのだという。

「それも含めてこのプロジェクトの醍醐味ですが、どうなるか全然わかりませんよ? ひょっとしたら真っ直ぐ走らないかも(笑)。ただ、メカとしてはすごく面白くてやり甲斐があるし、大きく成長できるチャンスでもあります。現に野口はカタナ1000Rとこの鐵隼で溶接、手曲げ、キャブセッティングと様々な事を学んだはずです。実際、鐵隼はほとんど彼が製作していますから。(斉藤さん)。」

加賀山さんも「T.O.Tはバイクの祭典。みんなバイクを見に来るから、車両を作るメカニックもプライドを持てますよね。“よし、カッコいいの作るぞ”って」と語るが、その一方で仕掛け人としての顔も持つだけに、各メーカーのレジェンドを呼び、ライダーも含めてT.O.Tを盛り上げていく構想もある様子。現に昨秋の大会では柳川明選手がニンジャH2Rで参戦したが、他のレジェンドも含め、今後もより一層注目度が高まっていくことは間違いないだろう。

チーム代表でありライダーを務める加賀山就臣さん(右)と、チーフメカニックの斉藤雅彦さん。この2名にメカニックの野口裕一さんを加えた3名が鐵隼プロジェクトの中心人物だ。

チーム加賀山でタッグを組んできた加賀山さんと斉藤さん。「斉藤はオレのコメントをよく理解してくれていますから」「ある程度作れば、あとは加賀山が何とかしてくれますよ」そんな言葉に信頼関係がにじむ。

なお、チーム加賀山は「”鐵隼(テツブサ)”チャレンジ」についてクラウドファンディングで応援プロジェクトを立ち上げ、ファンとともにストーリーを作り上げようとしている。5月15日のテイストオブツクバ、そしてその先へ……。ご興味のある方は、ぜひ下記よりプロジェクトの全容をチェックしてみていただきたい。


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