’80s国産名車・カワサキZ1000J/R完調メンテナンス【識者インタビュー:空冷Zの楽しみ方は千差万別です】

カワサキZ1000J/R完調メンテナンス|識者インタビュー

今も絶大な人気を誇る’80年代の名車たち。個性の塊であるその走りを末永く楽しんでいくには何に注意し、どんな整備を行えばよいのだろうか? その1台を知り尽くす専門家から奥義を授かる。本記事では、第2世代の空冷Z「カワサキZ1000J/R」について、ブルーサンダース・岩野慶之氏のインタビューをお届けする。


●文:中村友彦 ●写真:富樫秀明 YM-ARCHIVES ●取材協力:ブルーサンダース

【ブルーサンダース 岩野慶之氏】’75年生まれの岩野氏は、10代後半から内燃機加工店のTISや2輪/4輪ショップで修行を積み、25歳でブルーサンダースを創業した。初めての空冷Zは19歳のときに入手したZ1000Mk.II。このシリーズとの付き合いは四半世紀以上に及ぶが、昔から他機種にも興味津々で、一時は数台のヤマハ2ストパラツインを愛用していたとのこと。

設計年度が新しくてもアドバンテージはない?

’00年にブルーサンダースを創設して以来、岩野氏が面倒を見て来た空冷Zは数百台以上に及ぶ。現在の同店は車両販売を行なっていないものの、たとえば新規のお客さんから、第1世代と第2世代のどちらを買うかで悩んでいる、という相談を持ちかけられた場合、岩野氏はどう答えるのだろうか。

「『スタイルの好みで選んでいいと思いますよ』でしょうか。と言うのも、今の視点で考えると、どちらの世代にも大きなアドバンテージはないんです。もっとも、ノーマルかノーマルに近い状態で乗るなら、高速安定性やリヤサスペンションの作動性という点では、キャスター角が寝ていて、リヤショックがレイダウンされている第2世代のほうが優位でしょう。Z1000やZ1‐R、Mk.IIなどを比較対象とするなら、車重の軽さや振動の少なさも第2世代の魅力ですし、カムチェーン周辺部品の耐久性を考えると、エンジンのライフも第2世代のほうが長い傾向にあります。ただし、現代の技術を用いて徹底的な整備と改良を行えば、第1世代も第2世代と同等の性能が実現できますし、リプロパーツの数は第1世代のほうが圧倒的に豊富です」

実際に空冷Zを購入するとなったら、どんなことに注意するべきだろう。

「僕が注意するのは、フレームナンバーです。職権打刻が行われているとリセールバリューが下がるので、その点を気にする人は数字がハッキリした個体を選んだほうがいい。それに加えて、売り手が現状を把握していることも重要です。過去のメンテナンス&カスタムの履歴/使用状況/現状で不安を感じている部分などを、売り手が事前に説明してくれれば、以後の対策が立てやすくなりますから。また、誰がどんな目的で改造したかがわからないカスタム車は、整備にとにかく手間がかかるので、避けたほうがいいでしょうね」

ブルーサンダースのお客さんで第2世代の空冷Zを所有している人は、どんな楽しみ方をしているのだろう。「それはもう千差万別で、フルノーマルで街乗りやツーリングをエンジョイしている人もいれば、エンジンチューンや足まわりを全面刷新してレースに参戦する人もいます。ちなみにウチが空冷Zのカスタムを行う場合は、まずはライディングポジション関連部品とリヤショック、次にフロントブレーキや吸排気系、という順序が定番になっています」

世の中には空冷Zに対して、いじってナンボと言う人がいるものの、岩野さんにそういう意識はないようだ。

「僕自身もカスタムは大好きですが、長年に渡っていろいろな空冷Zをいじっていると、ノーマルの資質に感心する機会が少なくありません。だからウチでカスタムを行うときは、パワーやタイムを重視したレーサーであっても、ノーマルに近い感覚で付き合えることと、頻繁な整備を必要としないことを念頭に置いています。いずれにしてもこれから空冷Zを購入するなら、できれば最初はノーマルか、ノーマルに近い状態を味わってほしいですね。逆にカスタムに着手するのは、ノーマルにある程度乗り込んで、何らかの不満を感じてからでいいと思いますよ」

メンテナンスコスト(ブルーサンダースの場合)

  • エンジン腰上オーバーホール:~60万円(税抜・以下同)
  • エンジンフルオーバーホール:~90万円
  • キャブレターオーバーホール:6~10万円
  • フロントフォークオーバーホール:~3万5000円
  • リヤショックオーバーホール:~8万円

部品代込みの上記の価格はあくまでも目安で、エンジンを再塗装する場合は別途料金が必要。車検の基本料金は6万円(税抜)。なお多くのライダーにサーキットを楽しんでほしいと考えているブルーサンダースでは、レース初心者を主な対象としたメカニック派遣/コーチングサポートサービスも行なっている。

おすすめモデル:生い立ちが異なる2種の1100cc

第2世代の空冷Zには、2種の1100ccが存在する。ただし、Z1000Jの排気量拡大&豪華仕様として開発されたZ1100GPと、エンジン内部に市販レーサーZ1000Sの技術を導入したZ1100R/GPz1100とでは、岩野氏の評価は大きく異なるようだ。

「生産台数が少ないので入手は難しいですが、パワーが出しやすく、シャーシがしっかりしているZ1100Rは、究極の空冷Zだと思います。一般的な体格の日本人は車格がやや大柄に感じるかもしれませんが、スタイルが好みに合うなら、同じエンジンを搭載するGPz1100も大いにアリでしょう。逆にZ1100GPは、B1もB2も専用設計パーツが多く、調子を出すのが難しいので、個人的にはオススメしていません」

【’83 KAWASAKI GPz1100】既存のモデルとはスタイルがまったく異なるものの、GPz1100は伝統の空冷Zシリーズの最終形態。気化器は電子制御式インジェクションで、最高出力は120ps。軸間距離はZ1100R+25mmの1565mm。

【’84 KAWASAKI Z1100R】GPz1100のエンジンを転用する形で生まれた、最後のツインショック空冷Z。気化器は負圧式キャブレターで、排気系は左右出し。足まわりパーツの多くは専用設計。最高出力は114ps。

カスタムで広がるZ1000J/Rの可能性

取材に立ち会ってくれたNさんの愛車はZ1000R2。前後18インチホイールはダイマグで、ブレーキはPMCのキットで強化。エンジン内部には数多くのZ1100R用パーツを投入。キャブレターはTMR38で、マフラーとステムはエクステンション。スイングアームはウイリー。

岩野氏が創業当初に手がけたZ1000Jカスタムは、スカチューンを意識して製作。エンジンはZ1100R用に換装し、キャブはCR33、排気系はBLファクトリーを選択する。前後ホイールはマービック、φ41mmフォークはGPZ900R用だ。タイヤはダンロップα-14。


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