
イレギュラーな要素が多いオフロードライディングだけに、転倒することは珍しくない。もちろん倒れたマシンを起こし、再スタートするわけだが、レース派でも林道ツーリング派でも、なるべく楽にリカバーできるに越したことはない。世界的ライダー・渡辺学選手によるオフロードライディング指南企画『渡辺学のスキルアップラボ』から、本記事では「マシンを起こす方法」について豊富な経験により導き出した術を解説する。レース派はもちろんだが、林道ツーリング派にもガッツリ参考にできる内容になっているゾ!!
●まとめ:ゴーライド編集部(山田晃生) ●写真:長谷川徹 ●取材協力:成田モトクロスパーク
【ツイスターレーシング 渡辺学】全日本モトクロス選手権にIBライダー4名を率いて監督として参戦。その合間にはクロスカントリーレースのJNCCにライダーとして参戦中の当ラボ院長。ウィークデーは2まわりもの年齢差があるチーム員とともに、ライディング&フィジカルトレーニングにも励む。もちろん本業のマナブ餃子も随時オーダー受付中(twisterracing.com@gmail.com)! マナブ先生は今日もオフロードを走り、ギョーザを焼く。
“オフロードマシンならでは”の起こし方を知っておくと楽!!
好きで転ぶような人はいないと思うが、オフロードライディングで転倒は避けがたい。だから、倒れたマシンを起こすアクションは必要不可欠になる。教習所では、身体をマシンに密着させ、ハンドルグリップとアシストグリップなど、2カ所を握って引き起こすよう指導されたかと思う。これはグリップのよい平坦なアスファルト路面であれば間違いないが、足場が悪く、時に急斜面で起こさなければいけない場合など、不安定なシチュエーションが多いオフロードでは必ずしも適切ではない。
そこで今回は、車体が比較的軽量な、オフロードマシンならではの起こし方を解説しよう。
マナブ先生「雨の爺ケ岳なんて、思った方向にマシンが進んでくれませんから、1レースで10回以上転んだこともありました。下見で滑りやすいようなセクションを注意していても、実戦になると転ぶことはあるんです。
それとは逆に、意図的にマシンを転ばせることもあります。例えば路面がスリッピーでコントロールがメチャクチャ難しい場合、とりあえず直進できるところまで進ませて転び、また起こして直進させて転ばせ…を繰り返す走り方をしたこともありました」
いずれにせよ、マシンを起こさねば走り続けられないわけだが、その方法にもマナブ式がある。
マナブ先生「同じ条件でも、体格や身体のクセもあるので、マシンの起こし方は人それぞれだと思います。ボクの起こし方は、片方のハンドルを両手で握り、腰と腕を使って、すっと起こします。おそらくこれが、オフロードマシンを少ない力で素早く起こせる方法だと思います」
よく、転倒すると体力を消耗すると言いますが、ボクの場合は、転倒でロスした時間を取り戻すためにペースアップして走るから、体力を消費するという感じです。レース中に独走している場合、後続とのタイム差を把握し、追いつかれない程度でペースコントロールもしています。今回は起こす方法を解説していますが、転ばないに越したことはありませんから」
イチオシの起こし方:少ない力ですっと起こせるマナブ式のベーシック
マナブ式マシンの起こしかたは、片方のハンドルを握って腕と腰の力で起こす方法。接地したステップを支点に、テコの力を使って少ない力で起こすことができるのだ。もちろん転倒した周囲の状況によっては必ずしもベストな方法とはいえないが、林間セクションのように木とマシンが干渉して起こしにくい状況であれば、マシンを引きずって木から遠ざけ、起こしやすい環境を作ることも大事だ。
ゼッケンが空を向いているのもポイント。マシンが左に倒れていたなら、右にハンドルを切り、両手で左のグリップを握る。
おもに腰と腕を使ってマシンを起こしていく。かなり少ない力で起こせるので試してみてほしい。
マシンを直立させ、安定した状態で跨り、再スタート。
ありがちな起こしかた[1]:ハンドル両握り起こし
両手でハンドルを握ったまま、そのまま力をかけて起こすこの方法は、どちらかといえば一般的なのかもしれない。しかし、引き起こし時はほぼ腕の力のみで起こすため、力の弱いライダーや重量のあるマシンを起こす際には不向きといえるだろう。担当編集者もこの起こしかただった。
ありがちな起こしかた[2]:ハンドルとリヤフェンダーを持つ
これは左手でハンドル、右手はリヤフェンダーを握って起こす方法。
左にバイクを倒した場合、フロントブレーキが握れないのがデメリットであり、坂道であればマシンが進んでしまう恐れもある。
またリヤフェンダーなどのボディに触れてしまうと、マディコンディションであればグローブに泥がつき、その後の操作性に悪影響も出てくる。ちなみにコレ、教習所で教えてもらう方法に近い。
ラッキーな起こしかた:下り斜面ならリカバリーは速い
転倒でタイムロスが少ないのが、坂道で左にマシンを倒した場合。この場合は両手でハンドルを握ったまま、マシンを起こしてスムーズに再スタートできる。
ただし坂道であるため、前ブレーキをかけておくのは必須。ハンドルを下り坂に向けず、ちょっと切っておけばマシンが勝手に下る心配が少なくなる。
マシンを起こせたら跨って再スタートするだけ。左足を山側に接地できる状況であれば、キックスタート車でも楽にエンジンをかけられるだろう。
アンラッキーな起こしかた:タイムロスが大きいシチュエーション
斜面の谷側にハンドル、つまりマシンの上部が低い谷側にとなり、リカバリーに時間がかかるケースだ。
まず、マシンを直立させるだけでも、90度以上車体を起こさねばならず、それだけでも力が必要。
マナブ式で起こしても、乗車するためにマシンの山側に移動せねばならず、それだけでもタイムロス。足場が悪いなど条件が過酷な時は、このまま山側にマシンを倒し、もういちど車体を起こす方法もあり。いずれにせよ大幅なロスは避けられない。ちなみにここでハンドルを左に切っているのもポイントで、マシンが勝手に進みにくい。
究極の奥義:なるべくそっとマシンを転がす
ハードエンデューロのコースのように、通常の方法ではマシンを起こす有効な手段がないことだってある。これはかなり究極的な方法だが、マシンを転がせば天地が逆になり、起こしやすい状態になる。
ゼッケンプレートを地面に向けた状態(ここではハンドルを右に切った状態)にし、左手でエンジン下のアンダーガード、右手で後輪を持つ。
ゆっくりと持ち上げる。
そっと離すとマシンが転がっていく。
転がした先が安全な場所であることが大前提。岩が多いシチュエーションだと、勢いよく転がすとマシンを壊すので注意したい。
山側に足を着けるので、マシンを起こしやすい。
マシンを起こしやすいので、再スタートもしやすい。
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