惜しまれながらも、EX/RSファイナルエディションをもって終了となってしまうCB1100シリーズ。その誕生からずっと見守り続けてきた男の目には何が映るのだろうか。自らも往年のCB900F でライダーとして育ち、今では「空冷CBの伝道師」を自負するほど思い入れある丸山浩氏。あらためてこのCB1100 がもたらしてくれた、その世界観や思いの丈を語ってもらった。
●まとめ:ヤングマシン編集部(宮田健一) ●写真:長谷川徹 ●外部リンク:Honda
それはCB1100という名の、唯一無二の”乗り物”
このバイクが’10年に誕生したときは本当に感激した。それまでホンダに持っていた僕らの一般的なイメージとしては、常に最新技術による最高性能を追い求め過去には帰らない、どこよりも未来に向かって先頭を走っていく、といった感じのもの。
その最たるものがRC213VやCBR1000RR-Rたちだろうか。もちろんそれもホンダの大きな魅力なのだが、その最高性能の表現の仕方は「速さやパワーといった絶対スペックだけではないんだよ」ということを存分に教えてくれたのが、このCB1100シリーズだった。
言うなれば、ホンダがそれまでと異なる価値観で作った”もうひとつの最高性能”をカタチにしたものだ。
たとえばCBRなどの最新スポーツ系水冷直4では、軽い吹け上がりや鋭いレスポンス、そしていかに高回転まで回るかが決め手。車体についても驚くほど軽い。
その一方で、今と比べたらまだ直4が空冷で成長過渡期にあった’70〜’80年代の、あのCBの感触も忘れられない。ゴロっと回るクランクマスの重さ感であるとか、スロットルを開けてからのちょっとタメてからついてくる吹け上がり感とかだ。
車体こそ重かったけれど、大排気量による豊かなトルクが、その”鉄の馬”を前に進めていくことで逆に頼もしくも感じられたもの。青春を送ったあの頃に身体に染み込んだ、バイクというもののフィーリングが、今になっても一番しっくりくる。
CB1100はそうした思いを余すことなく見事に再現してくれていた。ライダーが送ってきた人生を大事にするような価値観。だからこそ、今こうしてファイナルエディションが大きな注目を集めているのだろう。
人により異なる”懐かしさ”を2つのキャラで完全再現
CB1100に対し、さらに僕が深く感じ入ったのは、EXとRSという2つのキャラクターの作り分けだ。実は同じ「懐かしい」とは言っても、’70年代のCB750フォアの時代に育ったか’80年代のCB750/900Fの時代に育ったかで、ライダーの身についたその”懐かしさ”は違っている。
まだタイヤのグリップ力が高くなかった’70年代はフロントに荷重をかけて乗ることができず、リヤに重心を乗せてコーナーを走るのが一番ふさわしかった。そのためハンドルはグッと手前に引き寄せられ前傾姿勢は皆無。クッションに深みあるシートに座って足を下ろせば、その真下にステップがある。鷹揚としたライポジとともに定常円旋回を描くようなキレイな走りが特徴的だった。
これと同じ走り方をさせてくれるのが、ワイヤースポークホイールにフォークブーツも履いて、スタイルもオーセンティックとなっているEXだ。最近の主流よりちょっと大径の18インチタイヤが、優雅にそしてゆとりを持ってコーナーを駆け抜けていく。まさに上質な世界観を味わわせてくれる。
一方、CB-Fの’80年代から育ったライダーには、今のスポーツライディングにもつながる、フロントに荷重をかける乗り方がしっくり来るはず。そちらに応えているのがRSだ。
2ピースボトムのガッチリしたフロントフォークに、これまたラジアルマウントの強力なブレーキ。リヤサスも別体リザーバータンク式で、タイヤも現在の主流と同じワイドな前後17インチを履いている。ライポジもちょっとハンドルを下げて前傾姿勢が与えられ、シートにもコシが増えている。
EXとRS。同じフレームとエンジンでありながら、’70年代と’80年代の異なる世代に合った乗り方まで見事に用意してくれているのだ。
このエンジンこそ、ホンダ空冷直4の到達点
こうした”本物の味”というものは、やはりその当時をリアルで送った空冷でしか出せない。ご存知のように空冷エンジンは排ガス規制の逆風に最も晒される存在。それなのにホンダは21世紀に入ってから既に10年が経とうとしていた時期に、わざわざ新設計でそのエンジンを開発してみせた。
単に昔のものを引っ張り出してきたり、カタチの上だけで再現するのではなく、最新技術を駆使して新開発。今の厳しい環境の中でも、乗り味を含めた懐かしい世界観すべてを再構築できたのは、まさしく”最高性能のホンダ”ならではだろう。
しかし、本当にCB1100の空冷直4は素晴らしい。街中ですら、たっぷりとした低速トルクによるゴロンとした空冷ならではの豊かな味わいが感じられる。いつまでもこの濃密な時間が続くようにと、気が付けば鷹揚な景色の流れとシンクロするような走りになっている自分がそこにいる。実に自由で、爽快だ。
エンジンのとことん上質な仕上げぶりは、外観も同じ。走りに出なくても、ガレージでずっと眺めているだけで、その存在感に飽きさせない。僕は自分のショップで多くのバイクに触れているので分かるが、CB1100のエンジン塗装は経年劣化に対してすこぶる強いのが印象的。
EXではシルバーに塗られたフィンがクロームメッキのカムシャフト部とマッチ。マットブラックでまとめられたRSのエンジンも、グロスブラックのカバー類がアクセントとなって、いつまでも美しい輝きを放ち続けてくれるはずだ。
見てよし、乗ってよし。だからこそCB1100は、オーセンティックなモデルがブームとなっている最近のバイク界においても、ひと際輝く存在となっているのだ。
青春時代に帰してくれるCB1100とも、もうすぐお別れだ
もしあなたが幸運にもこのファイナルエディションを手にすることができたならば、左右2本出しのメガホンマフラーが奏でるサウンドにも、是非耳を傾けてほしい。
CB1100はその11年の歴史のなかで、マフラーについても数度の仕様変更が行われている。排ガス同様に厳しくなった騒音規制は、だがその一方で内室構造や共鳴のさせ方など音の作り込み方にも大きな進歩を与えてくれた。
その結果、ファイナルエディションにも使われている最終型のマフラーは、歴代でも最高の音に仕上がっていると言っていい。重みがあり五感に響く上質なその音色は、CB750フォアから紡いできた長いホンダ空冷直4の歴史到達点にふさわしい。
ファイナルエディションは、注文殺到で予約受注も早々に終了。こんな唯一無二の味わいを持った空冷CBとも、残念ながらもうすぐお別れだ。いつまでも、残ってくれると思っていたのに。
果たして、青春時代そのままの気分に帰してくれるこんな貴重なバイクに、僕らはまた再び出会うことができるのだろうか。
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