L=オフ性能/ラリー=快適性向上

ホンダCRF250L/ラリー比較試乗インプレッション【正常進化で個々の持ち味を徹底強化】


●文:ヤングマシン編集部(谷田貝洋暁) ●写真:山内潤也 ●取材協力:ホンダ

’12年に登場し、高速走行時の安定性や舗装ワインディングでの走りに定評のあるオフロードモデル・ホンダCRF250L/ラリーは、’21でフルモデルチェンジを果たし、フレーム刷新とともにエンジンもブラッシュアップ。その変更はオフロード性能の向上に重きが置かれているようなのだが、果たして!?

[写真タップで拡大]

【テスター:谷田貝洋暁】最近、ロードよりオフの仕事が多いフリーライター。CRF250Lとは、もてぎ本コースのグラベルを走って関係者に怒られ、8時間の耐久エンデューロに持ち込みクラッチを焼きつかせた縁がある。

フレームから作り直して、キャラクターを明確化

ホンダCRF250Lは今回のフルモデルチェンジでオフロードバイクになった。…そう言われても、多くの人が「ん? もともとCRF250Lってオフ車でしょ?」って思うことだろう。この謎かけみたいなカラクリを理解するには、ちょっとだけCRF250Lの生い立ちを知る必要がある。

’12年に登場した「CRF250L」は、オフ車とは言ってもそのコンセプトはちょっと特殊だった。というのも、オフ車で林道ツーリングとはいっても実質ダートの割合は10%程度。100km走ってわずか10kmしかダートがないのなら、バイクライフの大半を占める舗装路での性能を重視すべきじゃない!? CRFはそんなロードモデル寄りのオフ車として生まれたのだ。実際、初期型のロードスポーツ性は意外に高く、高速道路でのスタビリティはもちろん、ワインディングでへこたれない車体は、腰を落として膝を出す…なんていうロードバイク的な乗り方だってできてしまうくらいだった。

その後の’17年。CRF250Lをベースに、ラリーレーサー・CRF450ラリーのスタイリングを採り入れた「CRF250ラリー」が登場したことで、ちょっと風向きが変わった。大容量タンクにウインドスクリーンを備えてCRFのオンロードキャラを伸ばし、ツアラー化したようなラリー。一方のCRF250Lは、ロードセクションはラリーに任せ、それまでのキャラクターから方向転換して、オフロードテイストを”ちょっとだけ”強めた。ラリー=オンロードと、L=オフロードという差別化を行いたかった。そんな印象を受けた。

そして今回のフルモデルチェンジ。開発陣によれば、軽量化こそが最大の命題だったそうだが、資料を紐解けば、なんとメインフレーム/スイングアームは当然として、エンジン搭載位置やステップポジションまで見直す大改修。もはや車体を作り直したと言っていい。

【’21 HONDA CRF250L(右)】■全長2210[2230] 全幅820 全高1160[1200] 軸距1440[1455] シート高830[880] 車重140kg ■水冷4スト単気筒DOHC4バルブ 249cc 24ps/9000rpm 2.3kg-m/6500rpm 変速機6段リターン 燃料タンク容量7.8L ■ブレーキF/R=ディスク タイヤサイズF=80/100-21 R=120/80-18 ●色:赤 ●価格:59万9500円 ※[ ]内は<s>
【’21 HONDA CRF250 RALLY(左)■全長2200[2230] 全幅920 全高1355[1415] 軸距1435[1455] シート高830[885] 車重152kg ■水冷4スト単気筒DOHC4バルブ 249cc 24ps/9000rpm 2.3kg-m/6500rpm 変速機6段リターン 燃料タンク容量12L ■ブレーキF/R=ディスク タイヤサイズF=80/100-21 R=120/80-18 ●色:赤 ●価格:74万1400円 ※[ ]内は<s>

【旧CRF250L】’17年の改変でエンジンの出力アップやフロントアクセルの中空化などを実施。価格は税込50万7100円だったので、今回、9万2400円アップ。

【旧CRF250ラリー】CRF250Lをベースに、ダカールレーサーのスタイリング、30mm長い脚、10Lタンクを備えて’17年に登場。価格は71万5000円でシート高は895mm。

エンジンをブラッシュアップ

バルブタイミングの変更による低中回転域のトルクアップがエンジンまわりの一番大きなブラッシュアップポイント。合わせてギヤレシオも再設定され、1~5速は力強い加速のためにショート化。6速は逆にロング化して高速走行での快適性を高めている。また新装備として、レブル250にも採用されるアシストスリッパークラッチとシフトインジケーターのピックアップが導入された。

  • エンジン全高:エンジン搭載位置を20mmアップするとともにドレンボルトを10mm内側へ追い込んだことで、従来比30mmアップの最低地上高285mmを確保。
  • ギヤ比:‘17年のラリー登場時には、5速と6速のギヤ比が変更されたが、今回は1~6速まですべてを変更。1~5速を力強くショート化してより加速がよくなり、6速は逆にロング化して最高速重視の設定に変更。
  • カムシャフト:低/中回転域での出力&トルク向上のためにインテーク側のカムプロフィール(バルブタイミング)、点火時期を変更した。
  • エキゾーストパイプ系:エキゾーストパイプを軽量化するととともに、出力向上を狙って中間部のフロントコーン部分の形状変更で排気ガスのキャタライザーへの当たりをスムーズ化。
  • エアクリーナーボックス:車体のスリム化で、わずかにエア容量は減っているとのことだが、旧モデルよりも優れた吸入性能にするべく、吸排気諸元とエアマネジメントを徹底的に突き詰めている。
  • サイレンサー:低中速出力特性改善のために、サイレンサー内部のパイプ径を変更し、キャタライザーの容量や配置も最適化。グラスウールをなくした構造でパルス感と歯切れのいい音を手に入れた。エミッションはユーロ4。

【出力特性】最高出力24ps/9000rpm、最大トルク23kg-m/6500rpmの数値に変わりはないが、全回転域で出力/トルクが向上。最高値発生回転数もアップ。特に中低回転域でのトルク特性の底上げが顕著だ。

【アシストスリッパークラッチ採用】アシストスリッパークラッチを採用したことで、従来比20%の荷重軽減を達成。レバー操作がすごく軽くなった。また構造的に押しつけ力がアップするため、クラッチが強くなっている。

CRF250L:軽量化&トルクアップでオフ車になった!

このL/ラリーの兄弟モデルがどんな進化を遂げているのか? あれこれ考えながら試乗会(今回試乗したのはL/ラリーともに車高の高い<s>タイプ)へと向かったのだが、Lで走り出した瞬間、予想どおりの進化に思わずニヤリとしてしまう。

Lがしっかりオフロード性能を高めていたからだ。ヒラヒラと軽快感のある乗り味は、まさにオフ車のそれである。ちょっと意地悪な言い方をすれば、どっちつかずのキャラクターから、ちゃんとしたオフロードバイクになった…、とようやくここで冒頭の一文につながるワケ。

実際、ダートセクションに持ち込んでみるとその予想が確信に変わった。滑りやすい路面をしなやかに掴むフレームは非常に安心感があり、重さも感じにくい。「CRF250Lは、舗装路はいいけどダートに入ると重く感じるんだよね…、なんてもう言わせない!」そんな開発陣の気合いをヒシヒシ感じる。調子に乗って、ナンバー付きのオフ車が押しなべて苦手なジャンプも試したが、軽々と飛べるし、着地も意外なほど軽やかにこなすから驚く。オフロードバイク特有の動きがかなりやりやすくなっているのだ。

Lのオフロードキャラ強化について、一番の立役者はやはり軽量化と剛性変更されたフレーム&スイングアームである。それは間違いないのだが、走り込んでいると、エンジンもダートセクションを気持ちよく走れる味付けに変更されていることに気づく。中低速を中心としたトルクアップと、1〜5速のギヤ比をショート化したからだろう。コーナーの出口でアクセルをクッと開ければ、リヤタイヤが気持ちよく路面を掻きむしる。この走り方が速いとは思わないが、後輪をパワースライドさせて遊ぶ感覚がオフの醍醐味であることは間違いない。新型のCRFとなら、そんな”ファンライド”もしやすいってワケだ。

【Lはフレーム新設計でオフキャラを強め、飛べる車体をゲット】メインフレーム単体で2150gもの軽量化が行われたのも特筆点だが、乗って感じるのは、横剛性を25%ダウンしたことによる、車体のしなり感の強化。近年の飛躍的に進化した解析技術を使って、縦剛性は定評ある従来モデルをそのままに、ねじり/横方向の理想的な剛性バランスを追求。剛性バランスに関してはライバル車両などを考慮して決められた。

CRF250L〈s〉:シート高880mmで、従来モデルの875mmから5mmアップ。踵が数センチ浮くが、車体が軽いため支えるのに苦はない。

スタンダードモデルは踵がついて膝に余裕がある。今モデルよりグレード設定が、従来のSTDとLD(ローダウン仕様)から、STDと<s>に変更され、基本設計は<s>で行われている。<s>はSTDに対し、フロントストロークが25mm/リヤアクスルトラベルが30mm大きく、シートも50mmほど高い。つまり、新型はSTDが従来のLD相当となる。

ヘッドライトにLEDを新採用したことで、CRF450L風の小顔化とともに110gの軽量化に成功。ウインカーもLED化。なぜか未だにテールランプのみ電球を採用している。

キャスター&トレールを変更し、よりオフ車らしい軽快なハンドリングに。フロントフォークのストロークは<s>で10mmアップの260mmを確保。最低地上高も+30mmの285mmを確保。

いよいよLも今モデルよりABSを搭載。リヤブレーキのみ解除可能だが、林道レベルならカットする必要がないくらい制御レベルが高い。ディスクはフロントがφ256mmで、リヤがφ220mm。

鉄製だったボトムブリッジをアルミ鍛造化して-730g。10mmストロークアップしたショーワ製倒立フロントフォークも新設計。右にスプリング、左に減衰機構を収めるセパレートファンクション機構に変更はない。

70g軽くなるとともに、ギヤポシジョンインジケーターと平均燃費計が追加。表示は黒文字のポジティブLCDを採用し、速度計の文字が17→23mmになって読みやすくなった。

従来通り左右45°のハンドル切れ角を確保するも、肘の余裕を出すために絞り角を増加。ハンドル幅は5mm増えて820mm、ラリーはバーエンド追加で920mmだ。

着座部分のシート幅は従来モデルから変わっていないが、より積極的なマシンコントロールのためにシュラウド部をスリム化。内部のフレーム幅から変更してホールド感を良くしている。

前方はスリムで運動性を上げながらも、着座部は広めの座面で快適性にも考慮しているのは従来通り。前方のシュラウド部分が絞り込まれ、膝でホールドしやすくなった。

こだわりの幅広ステップは、今回、つま先の自由度と荷重入力のしやすさを求めて後方へ移設。軽量化と合わせて体感的にフロントアップしやすくなったような印象を受ける。

横剛性で23%、ねじり剛性で17%の剛性ダウンが行われ、より路面をグリップするようになったアルミスイングアーム。形状および肉厚変更で550gものダイエットに成功している。

従来比20mmアップの260mmのホイールトラベルを確保したリヤショック。ストローク拡大に合わせてリンク比も見直され、初期で柔らかく、奥で踏ん張る味付けになっている。

CRF250ラリー:航続距離増に快適性向上。旅性能に磨きをかけた!

一方の「CRF250ラリー」は、持ち前のロードセクションでの快適さを強めた。L比でソフトにセッティングされた足回りのコンフォートさはそのままに、シート/ハンドルウエイトと数々の振動対策が施されている。Lとラリーで高速道路を走り比べてみると、プラス12kgの重さからくる安定感もあるだろうが、快適性において格段の差がそこにある。「オフロードが好きならL、より遠くへ旅したいならラリー」という構図が、今回のモデルチェンジでより際立たされたのだ。

ところが、である。じつはラリーのオフロード性能も上がっていたのだ。従来モデルのラリーでダートを走ると、L比で30mm伸ばされたフロントフォークが路面のギャップを拾って心許なく感じることがあった。だが今回のモデルチェンジで、これまでは異なっていたリヤショックのリンク比や、フロントフォークのキャスター&トレールなどが共通化されたことで、それがなくなっている。

もちろん、飛んだり跳ねたりの3次元的な動きをするならLに軍配が上がるが、なかなかどうして、ラリーもダートセクションでの走りがシャッキリとしていて好印象だ。

CRF250ラリー〈s〉:シート高885mmで数値的にはL比で5mm高いだけなのだが、シートが幅広なこともあり、踵の上がり方には1cm近くの差が出ている。

ラリーの方もSTDは踵がついて膝に余裕がある。今モデルよりグレード設定が、従来のSTDとLD(ローダウン仕様)から、STDと<s>に変更され、基本設計は<s>で行われている。<s>はSTDに対し、フロントストロークが25mm/リヤアクスルトラベルが30mm大きく、シートも55mmほど高い。つまり、新型はSTDが従来のLD相当となる。

巡行時の振動低減のため、ラリーにはインナータイプのハンドルウエイトがバーエンドに仕込まれている。比べてみるとラリーの方が振動が少なく、高速走行でその違いが顕著に感じられた。

ウェーブ形状なのは変わらないものの、12kgほどの重量増となるラリーは、制動力を高めるためにフローティングマウント式となり、外径が40mm大きい296mmディスクを採用している。

従来から2Lプラスされた12Lタンク。燃費も良くなっており、WMTCモード値の34.8km/Lで計算すると航続距離は400km超。6速がハイギヤード化され、高速での燃費もアップしていると思われる。

L比でクッション厚が5mmアップするとともに着座部が20mmワイド化され、快適性が追求されている。極め付けはスペーサーがラバー化されていること。実際、L比でかなり快適に感じる。

快適性重視のラリーのワイドステップにはラバーパッドを装備して振動を軽減。Lにも流用可能で靴のダメージも減らせる。逆に、オフでの食い付きを重視するのであれば取り外そう。

従来モデルでは、Lと作り分けられていたリンクまわりを今回から共通化。前後ショックユニットやフォークオイル量などのセッティングは、Lとは異なるソフトな味付けが施されている。

ヤタガイ動画もチェック!!


※本内容は記事公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※掲載されている製品等について、当サイトがその品質等を十全に保証するものではありません。よって、その購入/利用にあたっては自己責任にてお願いします。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。

最新の記事