●文/翻訳:ヤングマシン編集部(Alan Cathcart) ●写真:Bimota – Avenidas/Loretta Dell’Ospedale & Davide Bianchi
ついに生産が開始された、スーパーチャージドエンジンとハブセンターステアの車体を掛け合わせたスーパーマシン・ビモータ テージH2に、ヤングマシン初登場となる英国人バイクジャーナリスト、アラン・カスカートが試乗した。
231ps過給エンジン&乾燥重量207kg
「テージH2」の高さ840mmのシートにまたがり、身長180cmの私が信号待ちで両足を地面に接地させた時、最初に気付いたのはカーボン製ウイングの広がりだった。バイクの全幅770mmは、270km/hで18kgのダウンフォースをもたらす、この翼によるものだ。
私はビモータ本社があるリミニからほど近い丘陵道路でシリアルナンバー”0000002″のテージH2に乗って過ごした後、ビモータが30年前に発売した「テージ1D」などが並べられたミュージアムに立ち寄り、その翌日にはミザノGPサーキットを走ることになった。両日とも途中で雷雨に見舞われたが、テージH2のフルポテンシャルを試す前でなかったのは幸運だった。
ビモータは’19年のミラノショーで劇的な復活を遂げ、その際にカワサキがイタリアンメーカーの株式を49.9%取得し、新しいコラボによる最初のモデルが過給エンジンを搭載する「テージH2」になることも発表した。
テージH2はこの’20年10月から生産が始まり、最終的には250台がリリースされる。月産20台のこのマシンは、カワサキ独自の遠心式スーパーチャージャーを搭載した998ccの4気筒を選択し、1.41barのブースト圧によって231ps(ラムエア加圧時242ps)を得た。ちなみに、このエンジンはユーロ4準拠であり、将来的にはユーロ5に適合する必要があるため、後継モデルは同程度のパワーが得られなくなる可能性もある。
H2エンジンの膨大なパフォーマンスをフレンドリーにするために、3つのライディングモード、双方向クイックシフター、9段階のトラクションコントロール、ボッシュの6軸IMU、ローンチコントロール、インテリジェントブレーキシステムがカワサキのマシンから引き継がれた。オーリンズ製の電子制御ステアリングダンパーを装備する。
そしてこの馬力を活かすために、バイクの前後鏡合わせのようなスイングアームとハブセンターステアリングのデザインを完全に最適化。フレームは廃止され、エンジンは背後に前後両方のショックユニットを取り付けた剛性メンバーとして活用される。
前後サスペンションはオーリンズ製フルアジャスタブルTTXで、前100mm/後130mmのホイールトラベルを持つ。207kgの乾燥重量は静止状態で53対47の前後配分となっているが、80kgのライダーが乗車すると50対50になるという。ステアリングジオメトリーはテレスコピックフォークの基準ではかなり極端な、キャスター21.3度/トレール117mm。
さて、私がかつてドゥカティの2気筒エンジンを搭載した「テージ1D」でレースをしたとき、最大の課題は高速安定性だった。直線でさえ路面の凹凸にぶつかった際にキックバックを受けることがあったのだ。フロントのホイールトラベル不足が主な理由だろうが、リヤから始まることもあり、その場合はさらにリカバリーが難しかった。当時のショックユニットが現在のものよりもはるかに性能が低かったことも影響しているだろう。その代わりに、他の誰よりも遅いハードブレーキングでさえサスペンションの動きは止まることなく、すべてが正常に機能し続けた。
それこそがサスペンション/ブレーキ/ステアリングの機能を分離して処理することができる「ハブセンターステアリング」のメリットだったのだ。
超高速からでも安定したブレーキングが可能
アドリア海に面したGPサーキットで、私は最初にH2エンジンのパフォーマンスを最大限に活用するというスリリングな体験をした。このパワーをテージH2のコンセプトに融合することにより、ストレートの反対側では遅く、ハードに、そして完全に安定したブレーキングを行うことができる。
そして私は、テージ1Dのトレードマークだったフラットなブレーキングが、テージH2ではわずかなフロントダイブを生じるようになったことに気付いた。これはブレーキのフィーリングを得るのに重要で、古い1Dでは必ずしも明瞭ではなかった部分だ。
これは1Dでもっとも慣れるのが難しいことのひとつだったが、テージH2では制動している感覚とフロントタイヤからのフィードバックがはるかに優れている。実は前日の公道走行でも、1Dのフロントホイールトラベルが80mmだったのに対し、100mmを確保したテージH2はより柔軟なフロントサスペンションになったことがわかっていた。これにより、驚くほど路面の悪いイタリアの田舎道でも優れた乗り心地が実現しただけでなく、バンプによるキックバックという最大の問題も解消されたのだ。
テージH2は他のどのバイクと比べても、遅くハードなブレーキングを可能とするだけでなく、路面のバンプを通過した際にもイメージした走行ラインからズレることはない。ミザノの高速コーナーでも何度かトライしたが、不安定な兆候を示すことはなかった。
気になったのは、カワサキH2に比べてスロットル全閉からのピックアップが激しすぎること。これは試作車ゆえだろうから、すでに予約された42台については解決してから出荷されるはずだ。
また、低速コーナーでは不安定な感じもしたが、これはフロントのジオメトリーとBSタイヤの相性かもしれないので、タイヤ次第で解決する可能性もある。ただ、いずれにしてもこのバイクは60km/hで走るようには設計されていないことを指摘しておく必要があるだろう。
その代わり、このバイクは300km/hからのブレーキングを遅らせることに恐れを感じなくていい。このスリリングなパフォーマンスを30年待つ価値はあったのか? 賭けてみるがいい。
ビモータ テージH2試乗テスト、後編ではテージH2の生みの親、ピエルルイジ・マルコーニ氏を中心にビモータ復活までの歩みを振り返る。
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