静かで力強い加速と、しっかりした足まわり

ホンダのお仕事向け電動バイク「BENLY e:(ベンリィ イー)」に試乗したら想像以上に面白かった!

ホンダが法人向けに発売し、都市部では郵政仕様も活躍しはじめているビジネス用の電動スクーター「BENLY e:」に試乗したのでお伝えしたい。コンセプトは「毎日のデリバリーにちょうどいいビジネスe:スクーター」だが、その走りは予想以上に面白いものだった。


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ホンダは、1994年に原付一種の「ホンダCUV ES」そして2010年に同じく原付一種の「EV-neo(イーブイ ネオ)」、さらに2018年11月に発売された「PCX ELECTRIC(エレクトリック)」といった法人や個人事業主を対象としたリース販売モデルをリリースしてきた。

このベンリィe:に関しては、法人向けは変わらないもののリース販売ではなく、市販モデルとしてラインナップに加わっているのが特徴だ。PCXエレクトリックと同じモバイルパワーパックを2個搭載し、原付一種仕様のベンリィe: Iと原付二種仕様のベンリィe: II、そしてそれぞれ新聞配達向けに積載能力を向上した「プロ」が設定されている。

価格はガソリン車のベンリィシリーズが24万2000円~30万300円なのに対し、ベンリィe:シリーズは73万7000円~74万8000円。原付一種のIと二種のIIで価格は同一だ。これは車体をまるごと共有しモーターもほぼ同一としたうえで、パワー制御による違いで造り分けていることによる。

[左]BENLY e: I/[右]BENLY e: II PRO……主要諸元■全長1820[1840] 全幅710[780] 全高1025[1050] 軸距1280 シート高710(各mm) 車重125[130]kg(装備)■交流同期電動機 定格出力0.58kW【0.98kW】 最高出力3.8ps/3000rpm【5.7/3900rpm】 最大トルク1.3kg-m/2000rpm【1.5kg-m/1500rpm】 変速機なし 一充電走行距離87km(30km/h定地走行)【43km(60km/h定地走行)】■タイヤサイズF=90-90-12 R=110/90-10 ●価格:73万7000円(I&IIとも)【74万8000円(Iプロ&IIプロとも】 ※[ ]内はプロ/【 】内はII

発進時の力強さは「I(原付一種仕様)」も「II(原付二種仕様)」も変わらない!

最初に乗ったのは原付一種の「ベンリィe: I プロ」だ。前カゴがと大型リヤキャリアが装着してあり、リヤブレーキはフットペダルで操作するようになっている。

驚いたのは発進加速だった。125cc相当のPCXエレクトリックよりも力強く感じるほどで、これが50cc相当の原付一種に分類されることが信じられない。配達業務を想定すれば、幹線道路よりも裏路地などでの走行がメインとなるだろうが、そこでの機動性には0~20km/h程度の領域が大切。じつはベンリィe: Iは、この0~20km/hの加速力が原付二種のIIと同等で、しかも、PCXエレクトリックよりも減速比が加速寄りになっている。これにより、ガソリン車のPCX(125)と比べても発進加速はそん色なく感じた。

クローズドコースでフル加速すると、0~20km/hの力強さは30km/hに向けて徐々に薄まり、それでも非力さを感じさせずに50km/hへと到達する。一般道に出てみると、裏路地のようなところでは確かに0~20km/hの力強さが感じられ、30km/hに達する頃には次の交差点に向けて減速体勢に入るので、ストレスはまったくないといっていい。ただ、片側1車線の少し大きめの道路になると、原付一種ならではの30km/h巡行になる場面もあった。

次に驚かされたのは車体だ。新聞の束などを積載して走ることが前提なので足まわりはしっかりしており、安定感がある。実際のホイールベースはPCXエレクトリックよりも100mm短いが、それを感じさせないどころか、むしろ長いのではと錯覚するほどだ。これは50mm低いシート高も関係しているのかもしれない。いずれにせよ、強くブレーキをかけてもフロントはしっかりと踏ん張り、またカーブの途中で路面の凹凸を通過しても、前後の足まわりがフワつく感じはない。意外とよく曲がるが、クイック過ぎず、気になるところがひとつもなかったのだ。

そして、電動バイクならではの音の小ささは、むしろ走りの楽しさを増幅している。エンジン音がなくなり、モーターのわずなかギヤ鳴りだけが響くなか、聞こえてくるのは風の音とタイヤの転がる音、そしてバイク以外の周囲の音だ。

速度とともに増していく風の音は、20~30km/hでも十分に耳元に届き、爽快感を与える。タイヤの音が聞こえると、足まわりがしっかりしていることもあるだろうが、いつもより接地感がクリアに感じられるようにも思えてくる。そして周囲の音は、混合交通の中を走っているという臨場感をよりリアルに感じさせる。これらは電動バイクに乗るたびに新鮮に感じるものだが、十分な加速力としっかりした足まわりによって気になることが何一つないせいか、より強く印象に残った気がする。

ベンリィe:Iで坂道発進に挑む。エンジン車の遠心クラッチがつながるよりもスムーズでタイムラグはなく、それでいて力強い。

一方で、スロットルをわずかに開けるような微速発進、微速前進の場面では、PCXエレクトリックよりも巧みなパワー制御が感じられる。発進はとても滑らかで、スロットルの開閉によるギクシャク感も皆無。スムーズだがトルクはしっかりと出ていて、こうした仕立てが日常ユースでの疲れの少なさに貢献するのだろうなと思えた。坂道発進も試したが、力強く、かつスムーズな発進は好感が持てるものだった。

最後に「ベンリィe: II」にも乗ることができた。こちらは45~50km/hくらいまで加速が衰えず、最高速度はおよそ60km/h。発進加速はIと変わらないが、中間域からのトルクが太くなっている印象だ。免許が許すならば、巡航速度や2段階右折不要な点などから、こちらのほうを選びたくなる。ちなみに試乗したIIは標準仕様だったが、リヤブレーキがハンドブレーキになったほかに大きな違いはない。オプション装着のスクリーンの影響で、切り返しにドッシリ感がわずかにあるかな……という程度だった。

電力消費に関しては、IとIIでスペック上の違いはあるものの、これは測定時の走行モードによる違いが主。よって、同じ走り方をした場合には、ほぼ同じ電費になるとのことだった。

乗り味だけで言えば、すぐにでも一般向けに市販してほしいぐらいの出来栄えと面白さだった。もちろん価格や航続距離にはまだまだ課題はあるが、今後の技術開発でこれらが解決していくことを期待したい。もちろん、法人の立場であれば、メンテナンスを含めたランニングコストの安さと、デリバリー業務では必ず拠点に戻ってくるという使い方に合う特性などから、今すぐ導入を検討するだけの魅力がある。

HONDA BENLY e: I[2020 model]ディテール

モバイルパワーパック(充電池)は、PCXエレクトリックと同じ規格のもの。横に並べて2個搭載する(PCXエレクトリックは前後)。

十分な積載能力のリヤキャリア。タンデムは想定していないというが、関係者によれば海外に展開することがあった際には考慮する必要があるかも……とのこと。

電源ソケットも備えている。

ヘッドライトはLEDだ。

右スイッチにセルフスターター、左スイッチにその他。そしてセルスイッチと左手の前側のスイッチを同時押しすることでゆっくりとバックできる。電動モーターならではの転がり抵抗を考慮したのと、荷物を満載していても跨ったまま後退できたほうがよいという考え方に基づく。

前後ともドラムブレーキだが、タッチは驚くほどソリッドで、利きもコントロール性も十分以上。見ないで乗ってディスクブレーキと言われたら信じるかもしれない。

モーターは原付一種のIと原付二種のIIでそれぞれEF07M(I)/EF10M(II)と型式が異なっているが、特性はほぼ同じだという。定格出力や最高出力の違いについては、制御によるものが大きいとのこと。

シンプルでわかりやすいメーターには、充電残量が1%刻みで表示される。上の「READY」という緑のインジケーターは、スイッチONになっていてアクセルを回せば走る状態にあることを示す。音で判断できるエンジン車との違いを感じる部分だ。

専用充電器で充電。ゼロから満充電になるまで4時間程度。

HONDA BENLY e: II PRO[2020 model]……装備はI&IIで共通

大型のフロントバスケット。

大型リヤキャリア。最大積載量はIが30kg、IIは60kgとなる。60kgをフル積載したときの登坂能力は12%だ。

リヤブレーキはフットペダルになる。標準仕様は左手レバー。

リヤブレーキをロックできるノブが付く。

大型ナックルガード。新聞配達に向かない厚手のグローブをしなくても済むのが嬉しい。アクセサリーのグリップヒーターを装着すればさらに快適だろう。

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