MotoGP ’20シーズン開幕直前

’19 MotoGPを振り返る〈スズキ編〉【手堅い開発が実を結んだ1年】

  • 2020/3/1
MotoGP スズキ GSX-RR

アレックス・リンスが強大なライバルを従え、青い光が鮮やかに輝きながら、トップを走った。イギリスGPで接戦を制するなど、’19シーズンに2勝を挙げたスズキ。ライダーの感覚を重視しつつ、手堅い開発を続けた姿勢が結実した結果だった。開発者へのインタビューとともに’19シーズンを振り返る。

●文:高橋 剛 ●取材協力&写真:スズキ
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コンパクトな体制で戦い、もぎ取った勝利

#42:アレックス・リンス
#36:ジョアン・ミル

「よそさんに比べて、ウチは小さな規模でやってますから」スズキのMotoGPマシン開発者たちは、たびたびそう口にする。そこにはいくらかの謙遜の空気も混じっているが、厳然とした事実でもある。現在のMotoGPにマシンを提供しているコンストラクターは、ホンダヤマハスズキ、ドゥカティ、KTM、アプリリアの6つだ。ファクトリーチーム、サテライトチームで体制や予算の動きは異なるが、単純に台数をカウントすれば、ドゥカティは6台、ホンダヤマハ、KTMは4台、そしてスズキとアプリリアは2台だ。今のスズキは、最小単位でMotoGPを戦っていることになる。

しかも、多くのチームにはメインスポンサーや巨大グループ企業の後ろ盾があるが、スズキにそれらの姿はない。チーム名の「チーム・スズキ・エクスター」に冠されている「エクスター」はスズキの純正オイルブランドで、事実上は自社運営ということになる。

その割に──と言っては失礼になるだろうか。ホンダRC213V+マルク・マルケスが猛威を振るった’19シーズン、真っ青なGSX-RRは鮮やかな存在感を示した。アレックス・リンスがマルケスから2勝を奪い取ったのだ。第3戦アメリカGPは、マルケスの転倒リタイヤによる勝利だった。だが第12戦イギリスGPは、最終ラップまでマルケスと競り合っての優勝。爽やかな感動がサーキットを包んだ。

MotoGP スズキ GSX-RR

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トップから現場まで一体となり、確実に前進

スズキは’19年始めに「スズキレーシングカンパニー」を設立した。独自予算を持つことで、MotoGPプロジェクトをより動きやすい組織にする狙いだ。さらに言えば、’19年4月1日をもって、二輪事業そのものを二輪カンパニーとして独立採算化。二輪カンパニー長は、スズキ代表取締役の鈴木俊宏氏が兼務している。

「アメリカGPで優勝した時は、私の携帯電話に社長秘書から連絡が入ったんですよ」と、現場を取り仕切るテクニカルマネージャーの河内健氏。

「『社長が10分後にアレックス(リンス)と話したがっている。祝福したいそうだ』と。ところがアレックスが見当たらない(笑)。あわてて探し出したんですが、電話ではお祝いの言葉をもらったようです」

プロジェクトリーダーの佐原伸一氏も、目を細める。 「アレックスは、社長のことを『トシヒロ』と呼び捨てですから(笑) 欧米文化なんでしょうけどね……。社長も『アレックス』と気さくに声をかけてくれますよ」

トップから現場まで、気持ちのいい空気が流れているのだ。「小さな規模」とは言っても、それだけスズキが会社としてMotoGP活動に、そして二輪に対して理解があり、熱意を傾けていることの表れでもある。’15年にMotoGPに復帰して以降、スズキは確実に前進していると言えるだろう。

MotoGP スズキ GSX-RR

(左)河内 健氏:スズキレーシングカンパニーテクニカルマネージャー。スズキのピットで存在感を放ち続ける大ベテラン。テクニカルディレクターとして現場に赴き、技術開発の陣頭指揮を執っている。’19年イギリスGPではリンスの勝利に喜びを爆発させた。(右)佐原伸一氏:スズキレーシングカンパニープロジェクトリーダー。V型エンジンを搭載していたMotoGPマシンGSV-Rの開発に従事。その経験を生かし、量販車部門に移ってからはGSX-R1000の開発をリード。現在はGSX-RRの開発全般を取り仕切る。

バランスを崩さずにトータルで性能を高める

ただし、そこにジャンプアップはない。一歩一歩踏みしめながらの、着実な歩みだ。河内氏は、こう言う。

「少人数のレース集団で、どうやってライバルに立ち向かうか。しっかりと地道な開発をして、経験を生かしながら、バランスがよく、ライダーのパフォーマンスを100%引き出せるマシンを作るしかないんです。

正直なところ、飛び道具を繰り出すのは難しい。『地道』こそが、今のウチの状況に合っているのかな、と」

堅実な河内氏の言葉は、実際の開発のあり方に即している。佐原氏は、「GSX-RRの強みはバランスです。これを崩さず全体的にパフォーマンスを高めるのは、非常に難しいんですよ」

MotoGP スズキ GSX-RR

MotoGP史上最強の呼び名が高いホンダ+マルケスに、コンパクトな体制で戦いを挑むには、すべてが万全でなければならない。今季でスズキ3年目となる実質エースライダーのアレックス・リンスが求めるマシンが作り込まれている。’19年から加入した新人ジョアン・ミルに対しても同様。バランスを重視しながら各人のニーズに合った開発が続く。 [写真タップで拡大]

“MotoGPマシンは極めて精巧にして繊細であり、それを走らせるライダーも鋭敏なセンサーの持ち主だ。彼らはわずかな差異を決して見逃すことはなく、それが精神状態に作用し、成績の優劣に直結する” →【’19 MotoGPを振り返る〈スズキ編〉後半へ続く】

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