あらゆる物体が動く時に発生する「静電気」。それを取り除くのが、NGCジャパンが特許を取得した帯電除去装置・スムースドライブシステムだ。そしてさらに新開発を果たした「アーシングヘルパー」は、静電気対策の決定版になるという。独特な色合いのボルトとつば付きワッシャーに、どんな秘密が隠れているのだろうか。
●文/写真:栗田晃 ●取材協力:NGCジャパン ※本内容は記事公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※掲載されている製品等について、当サイトがその品質等を十全に保証するものではありません。よって、その購入/利用にあたっては自己責任にてお願いします。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
帯電除去装置「スムースドライブシステム」の開発
物体が動くと必ず電気が発生し、それがゴムやプラスチック、ガラスなどの絶縁体に接触すると静電気となる。にわかには信じられないが、天下のトヨタがアルミテープで静電気対策を行ったことで、バイクやクルマ好きの話題に上る機会が増え、関心も高まった。
そんな静電気対策/除去の先駆者が、NGCジャパンの小林史和氏だ。氏は静電気がもたらす身の回りの不思議な現象を考察し、静電気のデメリットや解決手段を考え続けてきた。その結果、静電気によるフリクションを除去する「スムースドライブシステム」を開発。集めた静電気を独自形状のトゲ付きボルトやナットで放電させる発明は、帯電除去装置として特許が認められたのだ。
静電気除去のキモは、金属の抵抗値
エンジン各部とバッテリーのマイナス端子をつなぐ「アーシング」は、電気系カスタムの定番メニュー。そもそも多くの車やバイクのアースコードは、バッテリーのマイナス端子からフレームやクランクケースなどにつなげて、車体を使ってマイナス回路を作っている。
じつは小林氏は、トゲ付きボルトのスムースドライブによる静電気対策を研究する過程で、金属の抵抗値が重要なカギとなることを掴んでいた。
バイクや車で使用する金属は、鉄でもアルミでも銅でも電気を通す導電性であることはご存じの通り。サーキットテスターで抵抗値を測定しても明確な差はない。ところが電気伝導率を比べると、銅を100とした場合に鉄は18、アルミニウムは61、SUS304ステンレスは2.4と大きな差があり、同じ金属でも鋳物の方が数値が悪くなる。これはネットで調べればいくつも文献が出てくる一般的な特性なのだが、それでも12Vの電気自体は流れるから、何が起こっているかを特に意識することもなかったのだ。
新開発「アーシングヘルパー」で静電気のデメリットを解消
静電気除去で金属の抵抗値を強く意識した小林さんは、アース回路の抵抗に着目。アルミニウム合金製のクランクケースから、アルミの約3分の1しか電気を流さない鉄のボルト(ユニクロメッキも比伝導率は鉄と同等)と端子を通して銅のアース線につながる経路に、今まで意識していなかった電気抵抗が潜んでいることに気づいたのだ。
さらには「電気がどこを通るのか?」にまで着眼。ターミナル下面は電気を通しやすいアルミに、上面はユニクロメッキのボルト下面からスクリュー部分を通じて接地していることを考慮すれば、アルミに比べて抵抗の大きい鉄の接触面積を増やしたところで抵抗値の差を補いきれるものではない。
これではアーシングケーブルが太く高性能でも、端子とボルトがボトルネックとなってしまう。せっかく高速道路を走っているのに、料金所でETCレーンでなく現金レーンに並んでしまうようなものだ。現金レーンで渋滞が発生しても電流は通過することはできるが、渋滞が発生することで行き場を失った電流は静電気となって悪影響をもたらすのではないか。だからエンジン各部で発生する静電気をスムーズにバッテリーに戻すのが重要と考えたのだ。
そのために開発したのが、特殊な表面処理を施したボルトと無酸素銅のワッシャーによって締結部分の抵抗を徹底除去する「アーシングヘルパー」である。純正アースコードのターミナル内で終わっている銅線にワッシャーを接触させ、ボルトまで高効率な回路とするためのつば付きワッシャーも、既存のアーシングにはない独自のアイデアだ。
- 既存のアース回路は見えない抵抗値が大きい
- スムースドライブで放電しきれない静電気がフリクションとなる
- 特殊表面処理を施したボルトと無酸素銅ワッシャーで電気抵抗を除去
- 発生した電気はバッテリーへスムーズに戻しフリクションを低減
そしてアーシングヘルパーの発明と並行して、「ヘッドアーシングヘルパー」も開発された。ヘッドとバッテリーとつなぐアーシングは以前から存在したが、このパーツの目的はあくまで静電気除去だ。
カムやバルブが高速で運動するシリンダーヘッドは、小林氏からすれば静電気の量産工場である。クランクケースにアースコードがあっても、ヘッドからケースまでの間にはシリンダーヘッドガスケットやベースガスケットなど抵抗値の大きな素材が挟まっているため、アルミの電気抵抗値との差が大きくて流れていけない。そこで特殊表面処理ボルトと無酸素銅ワッシャー、さらに無酸素銅コードを用いてバッテリーマイナスに受け持ってもらおうというのがヘッドアーシングヘルパーである。
アーシングヘルパーやヘッドアーシングヘルパーはチューニングパーツとは意味が違う。今まで溜まっていた電気をスムーズに流して、静電気の発生を少なくするパーツである。しかしながら、ボルトとワッシャーによって電気的ロスを取り戻すだけで、セルモーターが力強く回る、ヘッドライトが明るくなったというだけでなく、スロットルレスポンスの向上やシフトタッチの改善、アイドリング時の安定など、スムースドライブと同様の効果が報告されている。
ケーブル交換や増設だけでは得られない変化や効果を体感してしまうと、今まで気にも留めていなかった電気抵抗の影響を認めざるを得ない。「最近では何でも理解不能な事案は、静電気が原因と考えると解決が早いことが多いんですよ」と笑う小林氏。物が動くところに必ず発生する静電気対策は、まだまだ奥が深そうだ。
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