ほんの数年前にオーバー200psの世界が幕を開けたと思ったら、カワサキはコレですよ……。と、なかば呆れてしまう(褒め言葉です)ほどの途方もないマシンが発表されたのは’18年8月10日のことだった。’15年に初登場したニンジャH2が2度目のモデルチェンジを受け、’19年モデルで新型となることが明らかになったのだ。同じ頃、8月上旬のアメリカのボンネビル ソルトフラッツで開催される最高速競技=スピードウィークにカワサキのTeam38(チーム38)が発売前の新型H2で参戦。209.442mph(約337km/h)でP-PB1000クラスの世界記録を樹立した。
パニガーレV4Rをも圧倒するスーパーチャージャーの威力!
’15年モデルで200ps、’17年モデルでは205psを発揮していたニンジャH2であるが、「ちょっと遠慮してるんじゃないの?」と思う節はあった。
初代モデルが発表された’14年秋までは、最高出力トップのニンジャZX-10R/同ZX-14Rが200psで、他社もドゥカティ1199パニガーレが195psだったほかは180ps台が普通だった。そこへお披露目されたニンジャH2は200psで他のニンジャに横並びとされ、カワサキは3車3様の200psを提示したのだ。腕の立つライダーがラップタイムを刻むための「突き抜ける200ps」をニンジャZX-10Rのために。快適なハイスピードクルージングのための「豊潤な200ps」はニンジャZX-14R、そして加速に陶酔できる「暴力的な200ps」をニンジャH2で表現し、200ps時代の王者として君臨……するはずだった。
ところが、ヤマハは’15年モデルとしてフルモデルチェンジを果たしたYZF-R1で200psを達成し、同じくドゥカティは1299パニガーレで、Vツインでありながら205psを叩き出した。このときカワサキのエンジニアの眉がピクリとも動かなかった、とは思いがたい。なにせ、世界最速を我が物にしなければ気が済まない人々だからだ。
ニンジャH2にはポテンシャルがある。それを証明しているのは、初代とともに登場した『クローズドコース専用』のニンジャH2Rである(2019年モデルもH2と同時発表:594万円)。その最高出力は310ps。メーター読みで400km/hを達成した動画も有名だ。だから、H2の200psは市販車としての耐久性を持たせるために抑えた結果、というのがカワサキの公式見解とはいえ、誰だって「そんなこと言っても本当は……」と思いたくなるのが人情である。しかしその後のカワサキは、一見すると控えめに見えないこともなかった。10Rは勝つために必要なものだけを揃えればいいという考え方から、200psから変更なし。実際に勝ち続けた。14Rは大きな変更を受けず、H2も’17年モデルで205psにパワーアップしただけ。
ところが’17年のミラノショーで強烈なライバルが登場する。いわずと知れたパニガーレV4だ。1103ccの排気量から214psを発揮し、サーキット最速と市販車の加速最強を同時に達成しようとしているのは明らか。
で、これにカワサキが切れた。……のだと思う。
そして’18年、新しいパニガーレV4Rの221ps/16500rpmがカワサキにとって予想外だったかはともかく、ニンジャH2は205→231psへの大幅パワーアップ(パワー開放?)でそれを楽々と超えてみせ、市販車最強の加速力はカワサキのものだと誇示した。また、強すぎた代償として最高回転数にハンディキャップを持たされたワールドスーパーバイクでも、ジョナサン・レイ選手がニンジャZX-10Rで’15年から続く4連覇を達成。こちらは最高出力だけでは測れない「サーキット最速」を体現してみせ、’19年シーズンに王者としてV4Rを迎え撃つ構えだ。
そんな新型H2の上級版、ニンジャH2カーボンが、国内仕様としてラインナップされる。発売日は’19年6月1日だが、受注期間は本日12月10日から’19年1月18日まで。注文が予想を上回った場合は期間途中でも受注終了の可能性があるとのことなので、検討できる時間は、意外と短いかもしれない。
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