排気圧力で過給用タービンを回転させ、コンプレッサーがシリンダー内に混合気を圧縮して送り込むターボチャージャー。通常のバイクでは一般的ではないものの、ハーレーのカスタムワールドでは強い存在感を放つ。ここにも強烈な1台があった!!
●文:ウィズハーレー編集部(青木タカオ)●写真:ミヤシーノ宮下豊史 ●外部リンク:イビサモトファクトリー
ターボ搭載の心臓部だけでなく、足まわりの充実ぶりにも目を見張る
複雑に取り回したパイピングといい、なんともメカメカしいエンジン。驚くなかれ、スポーツグライドの空冷Vツイン・ミルウォーキーエイトに備わっているのは、ターボチャージャーだ!
排ガス流路に配置したタービンが排圧を受けて回ることで、同軸上のコンプレッサーが空気を圧縮し、強制的にエアを燃焼室へ送り込む。大気圧の空気を自然に吸い込むのではなく、加圧して強制的に押し込んで、燃焼効率/パワーを飛躍的に上げる。クルマでは一般的だが、バイクでは普及しなかった。
1980年代に市販車にも採用されたが、ターボが効き始めるまで若干のタイムラグが発生するなど、応答性がシビアなオートバイには不向きとされた。
実際には、ターボラグは気にするほどのものではないという意見もあるものの、日本国内においてはターボバイクの認可が下りなかったなど、いずれにせよ2輪車ではヒットに至らず、広まっていない。
そんな背景もあり、過給機にロマンを抱くバイクファンは世界中に少なからず存在する。大排気量エンジンのハーレーには、これがまたよく似合う。捨てるだけの排気を活用し、電気仕掛けの要らないアナログなメカニカルとしているのも、ファンを魅了してやまないのだ。
さぁ、なにはともあれ乗ってみようではないか! 排気量はストックのままの107キュービックインチ(=1745cc)。セルモーターを回すと、いたって簡単に目覚め、何も変わらずアイドリングは安定している。
しかし、タービンの回る音が発生し、アクセルをグリッピングすれば、ヒュルルっとさらに独特のサウンドが聴こえるから、もう昂ぶる気持ちを押さえられない!!
ギヤを落とし、クラッチを繋げると、スルスルと車体が前に動き出す。極低回転から中速域まではノーマルエンジンのように扱いやすく、違和感はない。走り出す前は、低速スカスカのジャジャ馬ではないかとの不安もよぎったが、そんな心配はよそに、まったくもってマイルドで扱いやすい。市街地での街乗りも、手こずることなくこなす。
しかし、3000回転を過ぎたあたりから、異次元の世界が待っていた!!
排圧を受けたタービンが高速回転し、ターボチャージャーならではのヒュイーンという音が発生するとともに、ぐんぐんパワーが盛り上がっていく。ダッシュは凄まじく、ハイリフトカムの恩恵もあって、トップエンドまで気持ちよく伸びて回る。
オリジナルで製作したシートが腰回りを包み込み、パッセンジャーのための後部座面がストッパーとなって、ライダーを加速に耐えさせる。ハンドル右に指針式のアナログメーターが配置されていて、ブースト圧がかっていくのが見てわかるが、凝視している余裕はない。
そしてアクセルを戻せば、怪物が息を吐き返すかのように吸い込みが止まり、ものすごい量の空気でエンジンが呼吸を繰り返しているかのごとく、まるで生き物みたいだ。
また、報告しておかなければならないことは、過給器の追加でビッグトルクを獲得しているものの、唐突にパワーが出て手がつけられないといった神経質さを伴っていないことである。ラグもなく、右手のスロットル操作に従順なまでに、さらなるトルクを発揮。ターボの効く領域へスムーズにパワーが立ち上がり、ライダーはトラクションを駆動輪にしっかりと感じつつ、不安なくスロットルをワイドオープンしていける。
ビレットアルミ製のプルバックライザーで持ち上げられたハンドルを高い位置で握りしめ、堂々たるライディングポジション。速度が上がれば、フェアリングが効果を発揮し出す。ノーマルカウルより横の張り出しが大きく、楕円ヘッドライトとの組み合わせによって、フロントマスクはボリューミーで迫力があるものとなった。
センタールーツによる手の込んだペイントは、ホワイト基調でパッションピンクを巧みに織り交ぜた、大胆かつ妖艶なデザイン。スポーツグライドであるのか否か、その正体を分かりにくくしているのもたまらなく良い。
さらに目を見張るのが、ステアリングフィールをはじめとするコントロール性の高さだ。ノーマルでは18インチの前輪が21インチ化され、ブレイクアウトのような迫力をフロントエンドに感じさせるが、リヤは16インチでタイヤは180mm幅のままとした。この組み合わせが軽快なハンドリングを生み出し、コーナーアプローチでの寝かし込みが素直でクセがない。
前後ホイールを軽量かつ高剛性なアルミ鍛造製にし、サスペンションはオーリンズの倒立フォークと大口径シングルチューブショックへとグレードアップ。ブレーキも前後とも、ベルリンガーのラジアルマウント4ポットキャリパーが奢られている。
油圧クラッチで操作系にも隙がなく、ターボエンジンにばかり気を取られがちだが、足まわりの充実といい、車体全体のトータルバランスがとてつもなく高い次元にある。
つまり、過給器付きの心臓部だけでなく、すべてに究極を求めている。これはイビサモトファクトリー今濱代表の「バイクは見た目だけでなく、走ってナンボ」という理念を感じさせてならない。艶っぽく怪しくセクシーなスポーツグライドは、アメリカンマッスルカーやドラッグレーサーの息吹も感じさせ、独特のオーラを放っていた。
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