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「F1部門と市販車部門がタッグを組んだ」唯一無二のフェラーリ! V12搭載のF50こそ「公道を走れる直系マシン」その伝説と魅力に迫る

「F1部門と市販車部門がタッグを組んだ」唯一無二のフェラーリ! V12搭載のF50こそ「公道を走れる直系マシン」その伝説と魅力に迫る

「フェラーリはF1で闘う資金のために市販車を作っている」。巷でよくいわれることですが、真偽のほどは別にして、F1部門と市販車部門は「別の会社か⁉ 」と思うほど隔離されています。それゆえ、他社では「F1テクノロジーのフィードバック」といった宣伝文句も散見できますが、フェラーリに関してそれは滅多にないこと。ですが、一度だけF1部門と市販車部門がタッグを組んだことがありました。フェラーリ創立40周年を祝ったF40の後継モデル、F50こそ「公道を走れるフェラーリF1直系マシン」にほかなりません。限定349台しか作られなかった中で、さらに2台しかないという北米仕様のジャッロ・モデナ(モデナイエロー)をサンプルに振り返ってみましょう。


●文:ヤングマシン編集部(石橋 寛) ●写真:RM Sotheby’s

F1直系のV12を縦置きミッドシップ

エンツォ・フェラーリは創立40周年記念モデル、F40の企画を初めて耳にした際、さほど喜ばなかったという証言があります。

やはり、エンツォにとって市販車はあくまでレース参戦のための商売であり、いくらすごいクルマだといっても「レースに出ない市販車だろうが」と興味も半減。

周囲がいくら記念のモデルだと言っても、決して機嫌は戻らなかったというのも納得です。

そして、エンツォ亡き後で50周年記念モデル、すなわちF50の企画が持ち上がった際、エンツォの庶子であるピエロ・ラルディ・フェラーリは「F1に匹敵するものでなけりゃ認めん」とばかりに、当時の社長、ルカ・ディ・モンテゼーモロに無茶ぶり。

ちなみに、さすがフェラーリと思うのは50周年記念モデルなのに、創立48年の段階(1995)でリリースしちゃってるところ(笑)。実は翌年に新たな排ガス規制があったため、早めに出してひっかからないようにした、という事情があったのです。

そんなこんなでモンテゼーモロは、1990年のF1でフェラーリに6度の優勝をもたらしたフェラーリ641のエンジンを使用することに。

ですが、3.5リッターのV12エンジンは当時680psまでチューンされていたため、公道で使うにはあまりにピーキー過ぎる上、耐久性の担保も難しいわけです。

そこで、エンジニアたちは排気量を4.7リッターへと増やすことでピークパワーよりも柔軟性や耐久性(主に冷却)の確保に努めました。ここには、当時最先端だった可変長インレットマニホールドとバタフライバイパスバルブ付きの6-2-1エキゾーストといった市販車ならではのエンジニアリングも加えられています。

こうして、F50は519ps/8000rpm、48.0kg-m/ 6500 rpmというパフォーマンスが与えられ、0-100km/h:3.6秒、最高速320km/hとF40を上回ることに成功したのでした。

1995年にリリースされたフェラーリ創立50周年記念モデルのF50。ですが、実際の50周年は1997年。この年の排ガス規制を避けるために前倒しで発表という苦肉の策⁉

641F1で使用されたティーポ036エンジンをベースに、3.5リッターから4.7リッターへとスープアップされたV12エンジン(ティーポF130B)をF1同様に縦置きミッドシップ。この眺めはほとんどフォーミュラマシンと変わりがありません。

ノーマル車両で筑波1分5秒台をマーク

V12エンジンを縦置きミッドシップとはいえ、フェラーリはそれまでにも水平対向12気筒エンジンを同様のパッケージとして市販しています(512BBやテスタロッサ等)。

それでも、F50がF1直系といわれる所以は、居住性や快適性能よりも先に「速いシャシー」から作り上げたことが大きな要因かと。その設計にはさすがに、641を手掛けたジョン・バーナードこそブッキングされていませんが、レーシングコンストラクターのトップランナーであるダラーラの支援を受けています。

といっても、カーボンのバスタブシャシー、プッシュロッドの不等長ウィッシュボーンのサスペンション、ミッションケースの剛体化といった基本メソッドに過ぎないとか。

やはり、最終的にはF1チームが用いるスーパーコンピューターによる解析支援が物を言ったようで、ダラーラ社はF50に関して公式コメントを避けているような節もあります。

ちなみに、ダラーラは641ベースのV12を使って、スポーツプロトタイプのフェラーリ333SP(1994)を作り上げていますが、F50の設計で得られた知見が役に立っていることは想像に難くありません。

ところで、カーボン素材でシャシーとボディを構成してはいるものの、F50の車重は1400kgと軽量級と呼ぶには無理がありそうです。

そのため、ブレーキは当時のブレンボが専用に作った削り出しキャリパーと、F356/R335mmという巨大なキャリパーを装備していました。それでいて、トラクションコントロールやABSといった運転支援機能は一切なく、付いているのは電子制御ダンパーくらい。

ミッションだって普通に6速マニュアルで「セミオートマ? それ食えるの? 」くらいのワイルドぶり。ここだけでも、最後の男気あふれるフェラーリと呼んでも差し支えないでしょう。

ちなみに、国内メディアがプロドライバーによる筑波と鈴鹿のタイムアタックをしたことがあります。それによれば、筑波が1分5秒810、鈴鹿は2分25秒525とノーマルの市販車としては恥ずかしくないどころか、堂々のラップタイムではないでしょうか。

ハードトップを装着したスタイリング。ちなみに、車内にハードトップの置き場はなく、不意の悪天候には簡易ソフトトップを張る必要がありました。

簡単な布を張っただけのF40に比べ、F50はアルカンタラやカーボン素材をきれいにデザインしたインテリア。荷物置き場など余剰スペースはまったく見当たりません。

シートは最低限のリクライニングと前後調節が可能。アルカンタラとレザーのコンビで、オーダー次第では座面をボディカラーと同じくするサービスもありました。

当時の価格で5000万円以上したクルマですが、ウィンドウは手動という割り切り方(笑)総重量1400kgを意識して、少しでも軽くしたかったフェラーリの意地にほかなりません。

8000rpmからイエロー設定されたタコと、220mph(354km/h)まで刻まれたスピードメーター。ドライバーサポートのコーションランプがまったくないシンプルさも驚きです。

セミオートマも選べたはずですが、あえてマニュアルミッションとされたところにフェラーリの男気が感じられます。シフト手前のダイヤルはダンパーの減衰調整用。

ラルフ・ローレンが長年所有したジャッロ・モデナ

フェラーリの公式コメントによると、F50の限定台数349というのは「市場が受け入れる数字より1台だけ少ないもの」とのこと。つまりは、全世界で350人はF50を欲しいと思うはず、というへりくだったというか、慇懃なもの。

この350人のひとりだったのが、ファッション界の帝王と呼ばれるラルフ・ローレン氏でした。氏のクルマ趣味は広く知られており、ご本人もクラシックカーレースにたびたび出場するなどなかなかのドライバーです。

彼が手に入れたのは前述の通り、北米仕様55台中2台しかないイエロー。ですが、F50全体のボディカラーで見るとロッソコルサ(レッド)302台に次いで、ジャッロ・モデナは31台とほぼ1割を占める人気のカラー。

ちなみに、レアなカラーはロッソ・バルケッタ(えんじ色)8台、そしてアルジェント・ニュルブルクリンク(シルバー)とネロ・デイトナ(ブラック)がともに4台ずつ。

また、フェラーリのスペシャルモデルには専用のトラベルバッグやガーメントケースなどが付属(またはオプション)してくるのですが、氏はすべて保存していました。

有名なフェラーリ御用達ブランドの「スケドーニ」製F50専用バッグをはじめ、キーケースや車検証入れ(懐中電灯までは付属しています)まで、未使用品のような美しさをキープ。

もっとも、専用バッグでないとF50なんか荷物をどこに積んだらいいのか途方に暮れるほど余剰スペースが見当たりませんからね。なお、トラベルバッグはフロントフード下、スカットル前の棚にすっぽり収まることになっています。

最初のオーナーだったローレン氏が手放したあと、フロリダのご夫婦が手に入れたとのことですが、それでもマイレージは5400マイル(8690キロ)ほどしか刻まれていません。

近年、高騰著しいスペシャルフェラーリですから、これだけレアで極上なコンディションとなるとオークションの予想落札価格も750万ドル(約10億9000万円)と目ん玉飛び出るような金額でした。

もっとも、641F1を買ってサーキットで乗り回そうとしたら、さらに倍くらいはするでしょうから、手軽にF1風味を味わいたい方にはお手頃価格かもしれませんね。

フェラーリ専用ケースはもちろん、スケドーニ製。数少ない荷物スペースに収まるよう、専用設計となっているほか、オーナーにふさわしい高品質というのがアピールポイント。

フロントスカットル前、黄色のカバーをかけられた専用ケース。後ろの革ケースは折りたたまれたガーメントケースで、もちろんスケドーニの専用品。ちなみに、F50新車購入の際は標準装備として付属してきました。

ジャッロ・モデナ

ジャッロ・モデナ

ジャッロ・モデナ

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