
オークションで落札した1981年式のヤマハXT250(3Y5)。引き取り時にはアイドリングしていたのに、エンジンが冷えると始動性が最悪だった。圧縮圧力も点火火花も問題なければ、怪しいのはキャブレター。自分の目で見て状況を把握することが重要だ。
●文/写真:モトメカニック編集部
絶対的なエンジンコンディションを左右。キャブレター完全分解&オーバーホール実践
新車当時のタイヤを装着したまま、走行2600kmでオークションに出品されていたXT250。1981モデルのノンレストア車と言われても、素直に信じることはできなかったが、落札後に実車をじっくり観察すると、変に部品交換された跡はない。どうやら未再生というのは本当らしい。
XT250のキャブレターは、先行して発売された兄貴分のXT500やSR400/500と同様、ピストンバルブ式のミクニVMタイプ。フロートチャンバーとつながったチャンバー内のガソリンをダイヤフラムで加圧して、ベンチュリー内に突き出したノズルからガソリンを吐出する加速ポンプが付いているのが特徴だ。
落札したXT250を引き取りに行った時には、オーナーの目の前で小気味よくアイドリングしていたのだが、いざ持ち帰ってみると冷間時の始動性が悪い。
チョークを引いて加速ポンプを作動させても、なかなか初爆の気配がない。気付け薬代わりにエアクリーナーボックスにパーツクリーナーをスプレーすると勢い良く始動し、暖機すれば容易に再始動できるが、エンジンが冷えるとまたご機嫌斜めになってしまう。
程度の良さに浮かれたところもあるが、新車から40年以上を経たキャブレターは、いつ、誰が触ったのか冷静に考えなくてはならない。出品者がガソリンを入れたら、偶然エンジンがかかっただけなのかもしれない。個人売買やオークションで現状販売車を購入するのと、バイクショップで整備済みの車両を買うのとではワケが違うのだ。
パイロット系統が詰まっているかもしれないし、加速ポンプが機能していないのかもしれない。いや、加速ポンプはスロットルを開いた時の増量用だから、冷間始動時はチョークやパイロット系が主役のはず…。
そうやって頭の中であれこれ考えを巡らせるなら、目の前のキャブを分解して確認した方が手っ取り早くて確実だ。インジェクションやECUで制御された現代のバイクは、まずスキャナーやダイアグノーシスにつながなくてはならないが、アナログな絶版車は分かりやすい。
分解してジェット類を取り外し、キャブクリーナーに漬け込んだ後でガソリンやエアの通路を入念にエアブロー。キースターの燃調キットで組み立てたキャブは、冷間始動性も吹け上がりも改善された。
ナンバーを付けて走り出してから不調に気づくとモチベーションが下がってしまうので、キャブレターのオーバーホールは登録前に必ず行っておきたい作業である。
手軽に使える泡タイプのスーパーキャブレタークリーナー(右)と、ガソリンで希釈して使用するスーパーキャブレタークリーナー・原液タイプ(左)は、どちらも旧車や絶版車ショップで信頼されている高性能ケミカル。ワイズギアの商品なので、バイク用品店やネットショップで容易に入手できるのもありがたい。
内部パーツを再使用する際は、キャブレター専用のケミカルで洗浄する。ヤマルーブの泡タイプクリーナーは、ジッパー付きビニール袋で漬け置きするのも効果的。
一方、気分一新で初期化したい場合は、キースターの燃調キットが最適。セッティング用のジェットに加えてガスケット類も豊富で、オーバーホールの必須アイテムだ。
ひとつずつ注文しなくてはならない純正部品に対して、整備やセッティングに必要な素材をすべてセットにして4400円の燃調キットは、注文時の気軽さ/コスパの高さも超魅力的!!
キャブ分解時の約束事は“分解前のデータ”を明確にしておくこと
パイロットスクリューの戻し回転数は、始動時やアイドリングの混合気量に大きく影響する。1と1/2〜2回転戻しの機種が多く、このXTも1と3/4回転戻しだった。
パイロットスクリューのOリングが潰れているのは想定内だが、あるべきワッシャーがなくスプリングが食い込んだ形跡があるのは想定外。出品前に分解した?
さらにスクリュー本体をよく見ると、先端部分がわずかに曲がっている。パイロットアウトレットの口径を決める部分だけに、いよいよ良くない兆候かもしれない。
フロートチャンバーを外すため、スロットルドラムとつながる加速ポンプロッドの割りピンを取り外す。ロッドには、割りピンを差し込む穴が複数開いている。
加速ポンプ用のチャンバーとダイヤフラム。経年劣化でダイヤフラムが破れると、レバーが作動してもガソリンを押し出せなくなるが、このキャブは大丈夫だった。
ボディ外部の汚れ具合に対して、キャブレター内部は驚愕の美しさ。通常は漬け置き洗浄すれば外観もきれいになるので、洗浄なしでこの極上ぶりだったのだろうか?
おそらく一度も交換されたことがないフロートチャンバーガスケットを剥がし、ワンウェイ機構が組み込まれた加速ポンプのチェックバルブを取り外す。
フロートバルブの先端は金属製で、バルブシートとの摩擦で線条痕が入ることも多いが、状態は良好だ。それよりフロート室内に汚れがまったくないのが薄気味悪い。
汚れを見つけて安心するのも変な話だが、引き抜いたバルブシートに絶版車用キャブの痕跡が垣間見えた。劣化したガソリンが浸っていた時期はあったようだ。
ところが取り外したジェットホルダーのエアブリード部分は黄銅色に輝いており、ここでも肩透かしとなった。このホルダーは、純正で根元にOリングが組み込まれる。
スタータープランジャー先端のゴムシール部分には、ボディに押しつけられた痕がある。これで始動時に薄いのだから、スターター系のガソリン流路の不具合なのか?
ジェットニードルを交換する際は、スロットルシャフトが抜けないよう結束バンドで縛った状態でリンクロッドの固定ビスを緩めて、ピストンバルブを引き抜く。
ガソリン70:原液30の比率で希釈したクリーナー溶液にキャブレターボディを漬け込む。キャブ内部の通路にクリーナーが行き渡ることで、頑固な汚れを溶解する。
ピストンバルブやジェットニードルホルダーなどの小物パーツは、まとめて泡タイプのキャブレタークリーナーで洗浄。寒い季節は袋を手のひらで温めると活性化する。
1〜2時間を目安にクリーナー溶液に漬け込み、パーツクリーナーですすいだ後、すべての通路を入念にエアブロー。この作業が重要で細ノズルエアガンが使いやすい。
固着したガスケットは、合わせ面に刃を食い込ませないように注意しながらカッターナイフやスクレーパーで剥がし、オイルストーンで面出しを行う。
念には念を入れて、キャブレター内部にパーツクリーナーをスプレーする。通路は必ずどこかとつながっているので、注入によって通路がつながる先を確認できる。
ジェットニードルとの隙間でメイン系のガソリン流量を決めるニードルジェット。ニードルと擦れて穴径が拡大すると混合気が濃くなるので、新品交換が必須。
ニードルジェットの後端をジェットホルダーの先端で押すように組み付ける。締め付け時はオーバートルクでOリングを潰しすぎないように注意。
メインジェットはスタンダードの#165を中心に、#150/#155/#180/#195/#210の6サイズが入っている。吸排気系がノーマルなので、まずは#165をセット。
パイロットジェットは純正サイズの#17.5対して#16、#22.5が付属。このサイズはキースター独自の設定だ。始動性を改善したいが、ここは#17.5で様子を見る。
キースターが特許を取得したAAニードルをフロートにセット。その際にニードルバルブのプランジャーが接する調整板に、摩耗や傷がないことを確認しておく。
サービスマニュアルでは実油面表記のようだが、多くのキャブはフロートのパーティングラインとボディ下面が平行になるよう設計されているので、それも参考に油面を調整。
フロートチャンバーの底に付く「ハカマ」と呼ばれる円形のパーツは、車体姿勢にかかわらずメインジェットにガソリンを供給する防波堤の役目がある。
ニードルを固定するブラケットの下には、吸気の脈動やエンジンの振動によってニードルがある程度自由に動ける設計だ。張力の低いスプリングが組み込まれている。
燃調キットのジェットニードルはスタンダードを中心に4サイズ用意されている。突き出し量を決めるクリップの下側に樹脂製のリングが入るのが純正仕様だ。
スロットルシャフトのリンクロッドとピストンバルブのブラケットを、レバーと呼ばれるパーツで連結したら、内側に抜け止めのためのスプリングをセットする。
純正同様に指で回せるパイロットスクリューに、スプリングとワッシャーとOリングをセットしてキャブに取り付ける。スクリューの戻し回転数は1と1/2回転とした。
オーバーホールが完了したら、必ずキャブ単体でガソリン漏れの確認を行う。その後、エンジンに組み付けてチョークを引いてキックペダルを踏み降ろすと、何事もなかったかのようにあっさり始動。漬け込み洗浄と燃調キットを使ったパーツ交換が功を奏し、冷間始動性改善!!
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