
古くからドライブチェーンを製造するメーカーは数あるが、2021年に新たに参入したブランドがある。半世紀以上もスプロケットを作り続けてきたサンスターだ。スプロケットのプロが手掛けたチェーンは、いったいナニが違うのか?
●文:伊藤康司 ●写真:長谷川徹、サンスター ●外部リンク:サンスター
サンスターはなぜチェーンを作ったのか?
【サンスター モーターサイクルチェーン】
サンスターと聞いてアフターパーツのブレーキディスクやスプロケットをイメージするライダーは多いだろうが、バイク用のスプロケットに関しては生産を開始してから60年以上もの歴史を誇る老舗だ。そのサンスターが、なぜチェーンも手掛けるようになったのか?
チェーンがスプロケットと密接な関係にあるのは、バイクにセットされているところを見るだけでも、なんとなく理解できるだろう。性能を発揮するには両者が正しく嵌合することが重要で、耐久性においても互いの性能や精度が大きく影響するのは想像に難くない。とはいえスプロケットやチェーンの寸法や形状は工業規格で定められているため、どのメーカーが作っても基本的な形状に違いはなく、そこはサンスターのチェーンも変わらない。
しかし、スプロケットとの相性を最大限に高め、スプロケットへの攻撃性を徹底的に低くしているのが大きな特徴。そのためにチェーンのフリクションロスもとことん低減している。もちろんスプロケットが長持ちすれば、結果としてチェーンのライフも伸びるので、互いの耐久性を伸ばす相乗効果も大きいといえる。
スプロケットとの相性
互いの性能を存分に発揮するため、スプロケットの歯とチェーンのローラーの嵌め合い(相性)を最適化。
フリクションロスの低減
軽量化
ピンの端面に凹穴加工を施すことで、軽量化と高強度を実現。
自転車や工業用チェーンのトップブランドが製造
このモーターサイクルチェーンはサンスターが細部にわたり監修し、国内で長い歴史を持つチェーン専業メーカー製造する共同開発品。こちらの製造メーカーは工業用のチェーンなどを手掛け、自転車用チェーンとしてはトップブランドで、世界中のトラック競技や競輪などでも採用されている。
考えてみれば自転車の動力は人間なので、摩擦抵抗などのロスはバイク以上に排除したいはず。そこでフリクションロスを低減するため、高い充填率のグリス封入など、様々な独自技術を投入してチェーンを製造しているのだ。
選びやすさとプライスも「大切な性能」
サンスターのモーターサイクルチェーンは、「選びやすさ」も大きな特徴。現行スポーツバイクなら250ccクラスから1000ccオーバーまでのほとんどの車種をカバーできる520、525、530の3サイズを用意し、グレードは耐久性とフリクションロスの低減を追求したグリス封入式のシールチェーンの1種類のみ。そして、それぞれ3種のカラーを用意するが性能は一切変わらない。
シンプルな1グレードにしたのは、選びやすさはもちろん、製造コストを下げて価格を抑えるための方策でもある。ユーザーの負担を少なくするのも、立派な性能のひとつだ。
モーターサイクルチェーンは3種のサイズを用意。グレードは1種類のみで幅広い排気量に対応するため、チェーン選びに迷わない。
カラーはゴールド、シルバー、スタンダードの3種類。スタンダードはコストを抑えるためにメッキ処理を省いているため、ゴールド/シルバーと比べるとサビが発生しやすいが、その他の性能は変わらない。
サンスターだから実現できた「チェーン&スプロケット3点セット」
チェーンが寿命を迎えて交換する時期には、当然ながらスプロケットも相応に摩耗している。その状態でチェーンだけを交換すると、摩耗したスプロケットとキチンと嵌合できないため存分に性能(駆動ロスや振動や騒音の低減など)を発揮できないばかりか、チェーン本来の寿命を縮めてしまうのでもったいない。
そのためチェーンとスプロケットは同時交換がオススメなのだが、それだとスプロケットを探す必要があり、どんな組み合わせが良いのか調べるのも面倒……。そこでサンスターは、車種ごとに設定したチェーンとフロント&リアスプロケットの「3点セット」を用意。ホームページの適合検索で車両メーカーや車名を選ぶだけで、愛車に適合するセットを簡単に見つけることができる。
「チェーン&スプロケット3点セット」のスプロケット。フロントスプロケットはクロムモリブデン鋼(SCM)に浸炭窒化の熱処理と、四三酸化鉄被膜の表面処理を施す。リアスプロケットは耐久性重視のスチール製(S45C材にメッキ処理)と、軽量なアルミ製(超々ジュラルミンのA7075-T6に硬質アルマイト処理)から選択できる。
「チェーン&スプロケット3点セット」の例。国内4メーカーをはじめアプリリア、BMW、ドゥカティ、トライアンフなど欧州メーカーの約500車種用をラインナップ。1980年代から現行車まで多くのモデルを網羅する。3点を個別に購入するより、セットの方が断然お得だ!
チェーンとスプロケットの相性の良さや、フリクションロスの低減などの性能面はもちろん、交換にかかるコストも含めた「選びやすさ」も追求したモーターサイクルチェーン。スプロケットのプロだから実現できた、ユーザーフレンドリーなチェーンと言えるだろう。
【国美コマース株式会社 二輪AM事業部 業務推進課 菊地純次長】
スプロケット/チェーン/ブレーキディクス/パッドに精通し、自身もイベントレースや地方選手権(ST600/ST1000)に参戦し、実際の使用感や性能を身をもってテストするスポーツライダーだ。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※掲載されている製品等について、当サイトがその品質等を十全に保証するものではありません。よって、その購入/利用にあたっては自己責任にてお願いします。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
あなたにおすすめの関連記事
「チェーンに注油不用説…」はどこから生まれた? エンジンが生み出したパワーをリヤタイヤに伝えるドライブチェーン。1000ccスーパースポーツともなれば200馬力を超えるパワーを発揮するが、その大きなパ[…]
チェーンのプレート部分は伸びない! ではどこが伸びる? チェーンの構造 摩耗した分だけチェーンが長くなる! チェーンが伸びるとどうなる? 多くの中~大型バイクのチェーンは100リンク以上ある。そこでブ[…]
海外のプロチームも採用する新時代のフローティングディスク フィーリングと耐久性を高める独自の締結方式 エプタ ステージ0の最大の特徴は、アウターディスクとインナーディスクを面で嵌合し、専用のカシメプレ[…]
スプロケットメーカーが手掛けるチェーンだから安心! ワングレードで選びやすく! お財布にやさしい価格も実現 サンスターのチェーンは520/525/530の3サイズを用意。現行スポーツバイクなら250c[…]
AELLAクオリティをZ900RSで味わう カワサキZ900RSでこの性能を体感できるとは思っていなかった。京都のカスノモーターサイクルがプロデュースするAELLA(以下、アエラ)のパーツラインナップ[…]
最新の関連記事(メンテナンス&レストア)
メンテナンスで覚えて、カスタムで楽しむホンダのモンキー&ゴリラ シフトアップ製88ccキットを組み込み、ノーマルキャブのままでセッティング変更せずに普通に走ることができた、6ボルト仕様の初期型黄色ゴリ[…]
ネットで注文できる1サイズ&1プライスガレージ。完成状態で運搬されてクレーンで据え置きされる サンデーメカニックなら誰もが知る工具ショップ・アストロプロダクツのホームページ上に「BIKE小屋」という商[…]
前後バランス配分が崩れてしまったフロントまわりを構築 フロントフォークの動き云々もあるが、動き以前に長さが違って前後バランス配分が崩れてしまうと、まともに走れなくなってしまうのがバイクだと思う。とりわ[…]
【ご注意】本記事は、エンジンオイルの過剰注入がエンジンに与える影響を確認するための実験であり、一般使用車両での実施や再現を推奨するものではありませんのでご了承ください。 オイルの規定量は守らなくちゃイ[…]
旧車の開発に使われた”鉱物油”にこだわる 1992年に創業した絶版車ディーラーのパイオニア・ウエマツ。販売だけでなく、整備にも徹底して力を注いできた同社がそのノウハウをフィードバックし、旧車に特化した[…]
人気記事ランキング(全体)
情熱は昔も今も変わらず 「土日ともなると、ヘルメットとその周辺パーツだけで1日の売り上げが200万円、それに加えて革ツナギやグローブ、ブーツなどの用品関係だけで1日に500万円とか600万円とかの売り[…]
660ccの3気筒エンジンを搭載するトライアンフ「デイトナ660」 イギリスのバイクメーカー・トライアンフから新型車「デイトナ660」が発表された際、クルマ好きの中でも話題となったことをご存知でしょう[…]
CB1000 SUPER FOUR BIG-1の400cc版でスタート、1999年のHYPER VTEC搭載で独り舞台に! 2019年モデル発表後、期間限定で2022年まで販売され惜しまれつつホンダの[…]
1980年代の鈴鹿8時間耐久の盛り上がりを再び起こしたい 設楽さんは、いま世界でもっとも伸長しているインドに2018年から赴任。その市場の成長ぶりをつぶさに見てきた目には、日本市場はどう映っているのだ[…]
カワサキUSAが予告動画を公開!!! カワサキUSAがXで『We Heard You. #2Stroke #GoodTimes #Kawasaki』なるポストを短い動画とともに投稿した。動画は「カワサ[…]
最新の投稿記事(全体)
専用ロゴがファン心をくすぐる 1975年に初代GL1000が誕生してから50年が経つホンダのプレミアムツアラー、ゴールドウイング。2018年のフルモデルチェンジでは、フロントにダブルウィッシュボーンサ[…]
電子の力で瞬時に冷却する「ペルチェ素子」を採用 このベスト最大の売りは、その冷却システムに「ペルチェ素子」を採用していること。これは、半導体の一種で、電気を流すと素子の片面が熱を吸収(冷却)、もう片面[…]
凛としたトラディショナルをカジュアルクラシックで訴求! ヤマハが1992年にリリースしたSRV250は、1988年のXV250Viragoで開発した空冷250Vツインを搭載、感度の高いトラディショナル[…]
着脱の快感を生む「ピタッ」&「カチッ」を実現する独創的なデュアルロック 今や街乗りでもツーリングでも、すべてのバイクの必須アクセサリーといっても過言ではないスマートフォンホルダー。バイク用ナビやスマー[…]
ホンダCBR600RR(2020) 試乗レビュー 排気量も気筒数も関係ない、コイツがいい! 仕事柄、しばしば「スーパースポーツが欲しいんですけど、リッタークラスとミドルクラスのどっちがいいと思います?[…]
- 1
- 2