シートの後端からシュッと伸びるテールカウル。羽根の様なカスタムパーツが販売されたり、ノーマルでもどんどん尖がったりと、走りの性能には関係ないかもしれないけれど。バイクのリヤビューを個性的に演出する大切な部分。旧車にはついていないけど、いつ頃誕生したんだろう?
シートの後ろに何も付いていないのが普通だった
旧車のスタイルを模したクラシック系を除けば、ほとんどのロードスポーツ車に備わる「テールカウル」。逆を言えば昔のバイクにはついていなかったワケで……。超高速で走るレーシングマシンなら空力的に重要だろうが、公道を走る上で機能としては必要ない気もする。とはいえルックス的には速そうなイメージも高まるから、やっぱりあった方が良いかも。
というワケで、今回はテールカウルの歴史を研究。ちなみにレーシングマシンの場合は、空力に力を入れていたモトグッツィは1940年代頃からテールカウルらしきパーツを装着していた。国産もホンダのRCレーサーが50年代から、ヤマハも最初の市販レーサーTD-1からテールカウルを装備していた。
ところが公道を走る市販量産車は60年代になっても皆無で、数々の新装備が自慢だった1969年発売のホンダCB750FOURにもシートカウルは付いておらず、当時のバイク先進国の英国車も非装備。やはりコレは走りの性能に関係ないからなのだろうか?
しかし1967年に発表されたノートンのコマンド750が、ついにテールカウルを初装備! なんとなくフェンダーのようでもあり現代ではあまり目にしない形状だが、おそらくコレが世界初の市販車のテールカウルだろう。
おそらく市販量産車初のテールカウル
1971年がテールカウルの分水嶺!?
そして現代的な「後ろ上がり」のテールカウルを初めて装着したのは日本車で、1971年にカワサキが発売した2ストローク3気筒の350SS。カタログ(いちばん最初の片面チラシ)には、誇らしげに「40年間お待たせしました。 はじめてウシロまで気を配ったクルマ。テールアップGT。」の文字が踊り、次に配布された本カタログの中面では「40年間、オートバイはかたくなに同じかたちだった。いま、それを破る――ニュースタイリングの登場」と記載されていた。
……現代では信じられないほど力のこもったキャッチコピーだが、それほどまでにテールカウルの装備が誇らしかったのだろう。とはいえ記載された『40年間』が何を意味するのかは不明。1971年から40年逆算した1931年は、川崎重工や吸収した目黒製作所の創業年というわけでもない。とはいえメグロの第1号車のZ97は1937年発売で、トライアンフやハーレーが自転車にエンジンを積んだタイプではない「オートバイ型」を作り始めたのも1930年代なので、その辺りを起点にした表現かもしれない。
不思議なことに、海外でもテールカウルは1971年スタートが多い。ドゥカティが450デスモを発売し、L型2気筒の750S(750SSのベースとなったスポーツモデル)のプロトタイプを発表したのも71年。前述のノートンコマンド750にロケットカウルとゼッケンプレート形状のテールカウルを装備したプロダクションレーサーが登場したのも71年(これはレーサーのジャンルかもしれないので微妙だが)。さらにハーレーのファクトリーカスタムであるボートテールのスーパーグライドも71年だったりする。
そしてテールカウルは標準装備に
それでは1971年に350SSがテールカウルを装備して以来、国産スポーツバイクはどうなったのだろう? ……と調べたら、350SS以前のテールカウルを発見。1969年のヤマハFS-1だ。こちらは旧いレーシングバイクで目にする、シートストッパーの後ろの球状のテールカウル形状に近い。というワケで、いま一度350SSのカタログ類を確認すると、スタイルの新しさや空力的なメリットには触れているが、「○○初」といった記載は無かった。
ともあれ国産ではやはりカワサキが先鞭を切り、2ストロークのマッハシリーズや人気のZシリーズにもれなくテールカウルを装備。ヤマハは前述のFS-1系以外では1976年のGX750に、スズキも大型初の4ストローク車であるGS750(同じく1976年)に装備した。
CB750FOURでビッグバイク界を先行していたホンダは、1975年のCB750 FOUR-IIを経て、大人気モデルとなったCB750Fにエッジの効いたフィン付きのテールカウルを装備した。
カワサキ
ヤマハ
ホンダ
スズキ
スーパースポーツ系はどうなった?
1980年代中頃から盛り上がった「レーサーレプリカ」は、当然ながらレーサーに似ているほど偉い(?)ので、テールカウルというより「シートカウル」を装備し、シートのタンデム部をカバーする「シングルシートカバー」も登場した。
そこから時代が進み、GP以外のレースがプロダクション(市販車ベース)に移行していくと、ますます「シートカウル化」が進む。かつてのテールカウルとは異なり、スーパースポーツ系はライディングポジションや空力特性を追求する方向に進化……という感じだろう。
いまや長く跳ね上がるテールカウルは少数派
近年はバイクの多様化もあり、ツアラーやアドベンチャー系もテールカウルを装備する。とはいえ、かつての「シート後端の造形物」とは異なり、テールランプ周りを集積するデザインパーツに変化しているように感じる。それはネイキッドモデルでも同様で、とくに最近は極端にテールの短いスタイルが増えたためか、テールカウルもかなりコンパクト化している(ライダー側とパッセンジャー側のシートを別体化した車両が増えた影響も大きいと思われる)。そして国産・外国車を問わず、クラシック系はテールカウルを持たないバイクがほとんど。これはこれでコンセプトが明確だ。
カワサキ350SSの流れを汲むような、シート後方に長く跳ね上がるテールカウルはむしろ少数派になってきた。この先、どんなスタイルが流行っていくのだろう……。
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