東京モーターサイクルショーで会える!

【世界20台限定、2288万円!のバイクが上陸】ヴァイルス エイリアン988(VYRUS Alyen 988)

イタリアの小さな工房、しかし全世界のエンスージアストが注目するヴァイルスが手がける『エイリアン988』がついに日本上陸。革新技術であるハブセンターステアリングと、芸術的表現を高次元で融合した異形のマシンは、まさにバイクを超えた未知なる存在。東京モーターサイクルショーでワールドプレミアを迎える究極の造形とメカニズムをとくとご覧あれ!


●文:ミリオーレ編集部(伊藤康司) ●写真:真弓悟史 ●外部リンク:モトコルセ

鬼才エンジニアが長い歳月をかけて生み出した究極の趣味性。世界20台限定、2288万円!

バイクを超えた未知の生命体とも思える異形のマシン。エイリアンの車名にふさわしいフロントビュー。

映画「エイリアン2」で登場したエイリアン・クイーンを連想させる、もはやバイクとは思えない奇抜なデザインの「エイリアン988」は、イタリアに本拠を置くヴァイルス社を率いる鬼才エンジニア、アスカニオ・ロドリゴ氏の手による。マグネシウムやカーボンを多用し、あまりにアーティスティックなスタイルに目を奪われるが、じつはハブセンターステアリングを採用した革新的なマシンだ。

アスカニオ・ロドリゴ氏は、かつてビモータ社のスタッフに名を連ね、現ビモータの社長であり世界初のハブセンターステアリング機構を持つ市販モデル「TESI-1D」の発案者であるピエルルイジ・マルコーニ氏と共に開発に携わった人物。遡ると、創設期のビモータ社でマッシモ・タンブリーニ氏と共にフレームを製作していたデルヴィス・マクレッリ氏の工房で働いた経験が、フレーム設計に興味を持つキッカケになったという。

素材やリンク機構、そしてスタイリングなど、常人とは一線を画した感性で理想のバイクを探求し続けるエンジニアだ。オリジナルマシンの製作はもとより、ヴァイルス社は小規模な工房ながらMoto2やSBKに参戦するレーシングマシンのメンテナンスも請け負うなど、高い技術力がバックボーンとなっている。

そんなヴァイルスの最新作がエイリアン988で、世界限定20台、プライスはなんと2288万円!(2020年の発表と同時に完売したというから驚きだ)。しかし、搭載するドゥカティ製エンジンの他、ブレーキやタイヤなどごく一部のパーツを除けば、すべてがこのエイリアン988のためだけに設計・製作されたものだ。

全車合わせても売り上げは4億5000万円くらいで、開発費や製作費を考えたら、ほとんど利益など無いのでは……と心配になるほど。それほどまでに「作りたい」というエンジニアの熱い想いに突き動かされて生み出されたマシンを、隅々までご覧いただきたい。手に入れることは叶わなくても、この世にこんなに凄いバイクが存在する、という事実に胸が躍るだろう。

前後シリンダーの間、エンジン上部に配置されるアルミ切削のエアボックスには、車名ロゴが浮き出る。Alyen(エイリアン)のスペルは、映画のエイリアン(Alien)と異なる。じつはメーカー名のVYRUS(ヴァイルス)は「バイク好きは病気みたいなモノ」という想いからウイルス(VIRUS)の意味で命名したというが、こちらもスペルが異なり、いずれも同社を率いるアスカニオ・ロドリゴ氏の遊び心から生まれた造語だ。

元MVアグスタのチーフデザイナーであるエイドリアン・モートンのイメージスケッチをきっかけに、ハブセンターステアリングの可能性を、機能とデザインの両面でとことん追求。車体や細部のカラーはほぼフルオーダーが可能だが、この車両はオーナーの希望で前後サスペンションのプッシュロッド、およびフロントのトルクロッド、シートのステッチをパープルの差し色とする他は、アスカニオ氏にお任せしたという。

ヴァイルスを主宰するアスカニオ・ロドリゴ氏は、エイリアン開発プロジェクトを2011年に日本人デザイナーの五十嵐豊氏と立ち上げ、9年間で57種ものボディワークを検証。「頭部」が付き出した特異な形状は、バイクデザインのセオリーを一蹴。サイズ感がつかみにくく、バイク単体だと大きく見えるが、ライダーが跨ると一体感があってコンパクトに見える。この辺りもデザインの妙だ。

フォークが存在しない異質なフロントビュー。センターカウル(?)と思しき部分は、この画像ではボリューミーだが実車を前にすると大きさを感じない。リヤビューは驚くほど鋭利なシートとマフラーのエンドが、車体中心から放射状に延びるが、この辺りの作りもかなりコンパクト。後輪が猛烈に太く見えるがスーパースポーツ系では一般的な200mm幅だ。

エンジンはドゥカティ1299パニガーレのファイナルエディションが搭載する1285ccのL型2気筒“スーパークアドロ”。205psを発揮し、ライドバイワイヤでIMUを含む電子デバイスも数多く装備する。エンジンを左右からマグネシウム製のオメガプレート(Ωの形状をしたフレーム)が挟み、その前後端にスイングアームが連結される。

ハブセンターステアリング機構とは?

現在のほとんどのバイクが採用するテレスコピック式フロントフォークは、サスペンションとしての「衝撃吸収」と、ステアリングとしての「操舵」の機能を一体化したシステム。対するエイリアン988が装備するハブセンターステアリングは、衝撃吸収と操舵を分離した構造になっている。

そのため、テレスコピック式フォークのようにブレーキ時にノーズダイブすることでキャスター角が起き、ディメンションの変化でハンドリングが変わることが無い。しかもハードブレーキ時でも路面の凹凸にキチンと追従できるため、路面からのインフォーメーションを得やすく、前輪のグリップをしっかり引き出すことができる。さらに、車体を傾けて旋回する時の「ロール軸」と呼ばれる中心軸が極めて低いため、軽く素早く向きを変えることができる。

このように走りのメリット盛り沢山のハブセンターステアリングだが、構造の複雑さと特殊性によって、従来のバイクの車体やフレームへの装備は限りなく困難で、汎用性はほぼ皆無。多くのバイクがテレスコピック式フロントフォークを採用する理由はそこにある。

前輪ハブとハンドルを、特殊なケーブルで連結!

前輪も後輪と同様なスイングアームで支え、その先端に備わる前輪ホイールの大きなハブの中に、一般的なバイクでいうところのステアリング軸が内蔵され、キャスター角やトレール量などのアライメントを形成している。なので、走行中に車体を傾けることで前輪に舵角が付く「セルフステア」の機能自体は一般的なバイクと変わらない。

そしてライダーが掴むハンドルと、舵角が付くハブ部分は、ナノ粒子をベースとした特殊なフルードを密閉したスチールケーブルで繋がれる。他のヴァイルス各車はリンク機構でハンドルとハブを繋ぐが、エイリアン988で初めてHWSS(油圧ワイアードステアリングシステム)を採用した。車軸の少し上のピロボール状の部分がハンドルから伸びたケーブルだ。そしてフロントサスペンションとして前輪の衝撃吸収を担うショックユニット(リヤと同じオーリンズTTX40を装備)は、操舵機構が影響しないスイングアーム基部にマウントされる……が、カウリングで全容が見えない。構造や取り付け方式は基本的にリヤサスペンションと同様なので、この後を参照。

ショックユニットが横向き!? 革新のプッシュロッド・ツインピボット・サスペンション

エンジンのクランクケース後端とオメガプレートの後端でピボットを支える片持ち式のスイングアーム(材質はマグネシウム)。スイングアームから伸びたプッシュロッド(紫色のアルマイトのパーツ)がオメガプレート後部に設けたL字型のリンクに繋がり、車体に対して横置きしたショックユニットを伸縮させる仕組みで、ここもアスカニオ氏がこだわった部分。ショックユニットのTTX40は四輪フォーミュラーカー等が採用するスルーロッド方式の高性能な極太ダンパーボディに、エイリアン988にマッチする別注スプリングを装備する。

カーボンホイールはスロベニアのROTOBOX(ロトボックス)製で、エイリアン988専用品。特殊なチョップドカーボンのスポーク部は厚さわずか5mm! タイヤはピレリのスーパーコルサSP V3を履く。

プッシュオープンのフューエルキャップが、右側センターカウルの上面(右ハンドルの下あたり)に装備。燃料タンク本体は、アルミ製のインナータンクを左右のセンターカウルの内側に分割してレイアウトし、低重心下とマスの集中化に貢献。左右のタンクに挟まれ、フロントタイヤの外周に合わせた形の曲面ラジエターが収まる。非常に合理的な配置だ。

エンジン下のアルミ切削カバー&ステンレスのコンテナが実質的なマフラーで、適正な排気圧や消音を担い、エンジンと合わせてユーロ5に適合。コンテナから立ち上がるパイプ(サイレンサー機能を持たない)のエンドにはUDカーボン製のヒートプロテクションが装着され、後輪のマッドガードとしての機能も兼ねる。ちなみにヒートプロテクションの内側には遮熱性に優れる「金箔」が貼られており、これは四輪F1マシン等と同様の手法という。

突き出した頭部に内蔵されるハンドル。いわゆるトップブリッジ的なモノやHWSSのケーブル連結部も上手く隠されて見えない。左右のハンドルスイッチは、MotoGPマシンでお馴染みのプッシュボタンだが、スイッチのハウジングはヴァイルスオリジナルのアルミ削り出しだ。フロントブレーキ&油圧式クラッチのマスターシリンダーはブレンボのラジアルタイプだが、フルードカップはやはりヴァイルスオリジナルのアルミ削り出しが奢られる。グリップゴムはシンプルなデザインのレンサル製。

ドゥカティも採用するイタリアCOBO社の液晶ディスプレー。表示グラフィックはエイリアン988専用。そしてダッシュボードには微妙に右にオフセットした位置にエンジンスタートボタンを配置。鍵はしっかりデザインされたアルミ削り出しボディのリモコンキーだ。

ヘッドライトはハイ/ローが独立したミニLEDで、ハウジングにはV型のデイタイムランニングライト(これもエイリアン988専用のオリジナル)が備わる。フロントウインカーはハンドルバーガードに細身のLEDタイプを内蔵。

薄く跳ね上がったカーボン製のシートボディの後端に、極めてシャープな形状のテールランプが一体化。ストップランプ、ナンバー灯、リヤウインカーはスイングアームから伸びるライセンスサポートに装備。

ライディングステップのステーやブレーキ/シフトペダルのアーム部分はマグネシウム製。しかしフットペグやペダル先端部はアルミ削り出し。異なる材質を組み合わせた凝った作りだ。

素材感で魅せる

シートフレームを兼ねるビーム部分はマグネシウムのダイキャスト製で独特な風合いを持つ。マグネシウムを多用するのもエイリアン988の特徴だ。外装パーツの多くはUDカーボン(ユニディクショナルカーボン)と呼ばれる、引っ張り方向の強度に大きく優れた、単一方向のみに繊維を並べて形成した最新製法のドライカーボン。表面を近くで見ると金属のヘアライン仕上げのような独特な質感を持つ。しかしメーターハウジングやフロントフェンダーなどには織り目のあるドライカーボンを用い、異なる質感を絶妙に配置。上質なバックスキンのレザーシートは丁寧に手縫いされ、オーナー指定のパープルのステッチがブラックに映える。

モトコルセにて開梱セレモニーを開催

東京モーターサイクルショーでのワールドプレミアに先駆け、ヴァイルス社の日本総代理店を務めるモトコルセにおいて、さる3月19日にエイリアン988の入荷に際し、同車オーナーの厚意により、開梱セレモニーが行われた。

神奈川県厚木市のモトコルセ・ムゼオの店頭に、当日朝に到着したばかりの木箱が置かれ、午前11時よりオーナーやモトコルセのお客様が見守る中で開梱を開始。そして現れた異形のマシンに一同感嘆。熱い視線の中でのお披露目となった。コロナ禍や時世による航空貨物便の遅延によって国内への入荷の正確な予定が立たず急な開催となったが、多くのお客様が訪れた。ヴァイルス自体がマイナーなブランドであり、超高額なプライスゆえにおいそれと入手できないが、同日集まったようなコアなファンに支えられることで、珠玉のモデルを輩出することができる。

この度は極めて貴重な車両の取材・撮影に快く協力して頂いたオーナー、そしてモトコルセに、この場を借りて御礼申し上げます。

店舗前に敷いた大きなカーペットの上に、エイリアン988の入る木箱が鎮座。同店スタッフが極めて慎重かつ手際よくパネルを分解し、ついに全貌を現した!

モトコルセ代表の近藤伸さんが挨拶し、セレモニーに訪れたお客様にエイリアン988の概要を解説。皆が食い入るように観察し(でも触れずに)至近距離から撮影。

歴代ヴァイルスが揃った! じつはすべて同一オーナー車両!

左が「984C3 2V」。2004年に発表したヴァイルス初の市販モデルで、ドゥカティの空冷L型2気筒エンジンを搭載。当時はカラーリングのみ変更してビモータ車にOEM供給し、TESI 2Dの名前でも販売された。細部のリファインを重ね、現在もラインナップする。中央が「986M2 Strada」で、ホンダCBR600RRの並列4気筒エンジンを逆オメガプレートに抱く。ハブセンターステアリング機構は他モデルと同様の構造だが、ハンドルとハブはパンタグラフ状の屈曲式アームで連結。車名の“M2”はMoto2クラスの意味で、2015年のスペイン国内選手権に参戦。その公道バージョンが、このStradaだ。そして右が日本初上陸のエイリアン988で、じつは3台とも同一オーナーの車両。こんな熱いファンがヴァイルスを支えているといっても過言でない。


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