![[自分だけのバイク選び&最新相場情報]ヤマハSR400FINAL EDITION(2021) 試乗レビュー](https://young-machine.com/main/wp-content/uploads/2025/08/wym2508-14-02-yamaha-sr400-1.jpg?v=1755120952)
中古車を選ぶ際、なかなか悩ましいのが何を持って完調の状態といえるかわからないこと。そこで役に立つのが、劣化や不具合のない新車当時の試乗レビューだ。自分が中古車を試乗して、それぞれの個体の状態を確かめる際の参考にしてみて。
●文:伊丹孝裕 ●写真:真弓悟史 ●取材協力:ヤマハ発動機
ヤマハSR400試乗レビュー
この記事では、ヤマハのヘリテイジネイキッド、SR400の2021年モデルについて紹介するぞ。43年の歴史に幕を下ろした、最終モデルだった。 ※以下、2021年5月公開時の内容に基づく
ピンクレディーの時代から変わらないザ・スタンダード
ヤマハSR400は、1978年3月に発売された。スーパーカーやピンクレディーが大きなブームを巻き起こしていた一方で、沖縄の道路がアメリカンスタイルから左側通行に戻された年でもある。まだ戦後をひきずっていた時代と言ってもよく、振り返ればずいぶん昔のことだ。
昔のことではあるが、SRは1978年型も2021年型も本質的には変わらない。空冷4ストローク単気筒エンジンを搭載し、その排気量が399ccであることも、ボアストロークが87mm×67.2mmに設定されているところも同じだ。大きな変更点としては、フロントのホイール径が19インチから18インチになり(1985年)、燃料供給方式がキャブレターからインジェクション(2009年)になったことが挙げられる。
移り変わる時代の中、31万円だった初代の価格は最終的に60万5000円(リミテッドは74万8000円)になったものの、当時の大卒初任給の平均が10万5000円程度だったことを思えば適正か、むしろ割安と言っていい。
そんなSRは、発売当時からオーソドックスというか、控えめというか、地味な存在だった。メイン市場が北米や欧州向けだったSR500は「ビッグシングルの再来」と謳われ、しばしば1950年代のBSAやノートンが引き合いに出されたが、絶対性能よりもコストパフォーマンスに優れたスタンダードモデルとして定着。
日本におけるSR400もそれは同様で、よき素材で在り続けたがために、驚異的なロングセラーを記録することになった。世の中の流れやユーザーの顔色をうかがい、どこかでブレていれば、とっくに消えていたに違いない。
とはいえ、決して順風満帆だったわけでもなく、幾度となくカタログ落ちの危機に直面している。それでもなお、わずかな生産休止期間を除いて存続してきた稀有なモデルながら、2021年モデルをもって、いよいよその歴史に幕が降ろされることになった。
名前を残すことと引き換えにカタチがいびつになったり、エンジンから“らしさ”が削がれたりするよりはよかったと思う。人気の連載漫画が無理な延命なく最終回を迎えられたのにも似ていて、心から「ありがとう」と言いたい。そんな感謝の思いは、「SR400ファイナルエディション」に触れて、より一層強くなるばかりだった。
用意されたのは、ダークグレーメタリックNと呼ばれる車体色のSR400だ。燃料タンクは濃淡それぞれのグレーで塗り分けられ、その下部には「Final Edition」の文字が控えめに記されている。
シートは前後の自由度が高く、上体は直立に近い姿勢になるため、ライディングポジションは安楽そのもの。車体がスリムなため、足を降ろしても股が広がらず、足裏全体が地面に接地。取りまわしやUターンもプレッシャーを感じることなく、行うことができる。
エンジンの始動はSRとしてはお馴染みの、しかし他のモデルではほとんど見られなくなったキック式だ。デコンプを備えていることと、インジェクション化されたことによって格段に容易になっているとはいえ、これを苦手とする人は多い。
かつてのオーナーとしてひとつアドバイスすると、キックペダルを「踏み下ろす」のではなく、「前へ蹴り出す」というイメージで行うと成功の確率はかなり高まる。単に踏み抜くだけではクランキングが少し足りない。真下ではなく、そこから斜め前へもうひと踏み。
そうやって一発でエンジンが掛かった時の高揚感は、何度体験しても心が弾む。晴れた日に富士山が見えると、いくつになっても得したような気分になるものだが、あの感覚ととても似ている。我々日本人にとって、琴線のようなものかもしれない。
マニアックなスポーツ性も隠し持つ、癒しの単気筒
アイドリング音は「スタタタタ……」とメカノイズ混じりのくぐもった低音を奏で、音量は抑えられている。軽くブリッピングするとマフラーが小刻みに揺られ、フロントフォークもわずかに首を振って連動。ビッグシングルという語感から連想されるほどトゲトゲしくはないが、単気筒であることを明確に主張してくる。
キックが敬遠されるのは、エンストのリスクを拭えないからだ。その気持ちは確かによく分かる。発進の時ならまだしも、交差点を曲がっている途中にうっかり止まってしまうとちょっとしたパニックだ。下手をすれば後ろから追突されるリスクもある。
残念ながらこれを防ぐ決定的な技術はなく、慣れるしかない。ただし、必要以上の遠慮は無用だ。充分なトルクを逃がさないよう、クラッチはスパッとつないだ方がスムーズに、そして力強く車体を押し出してくれる。
車速が上がってからも単気筒ならではの走らせ方がある。エンジンの性質上、トルクそのものは強くとも、トルクバンドはあまり広くない。おいしい回転域は狭く、4気筒のように高回転まで引っ張っていては振動を誘発するだけだ。
SRの場合、2500rpm~3500rpmに心地いい領域がある。その気になれば7000rpm超に到達するものの、せいぜい4000rpmも回せば充分だ。トルクカーブの盛り上がりを意識し、早め早めにシフトアップすることでトラクションと旋回力がグイグイと増していく。
高回転を維持しようとせず、低回転からスパッとスロットルを開けるとリヤタイヤが力強く路面をキック。トラクションの意味を誰もが体感できるはずだ。
ペースを上げると徐々にフロントタイヤがヨレ始め、バイクの限界点を優しく示唆。ライダーをそっとたしなめてくれる、よきインストラクターでもある。
その意味で、単気筒とは結構マニアックなエンジン形式である。基本的に気筒数が増えれば増えるほど、使える回転域や選べるギヤが寛容になるのに対し、単気筒のそれはシビアだ。
絶対的なエンジンスペックは限られているが、だからこそちょっと失敗するとレスポンスが悪化してギクシャクしたり、回転が頭打ちになって失速。トルクを意のままに掴むにはピンポイントな操作が要求され、そこに単気筒乗りならではの手練れ感がある。
もっとも、これはSRを生粋のライトウェイトスポーツだと捉えている筆者自身の見解であり、一般的には平穏で牧歌的な時間をもたらしてくれる癒しのバイクと捉えられているに違いない。もちろん、その認識も正しい。
既述のようにスペックをフル活用しようとせず、一定の回転数を維持しながら街を駆け抜け、ワインディングを流した時にはまた別の快楽がある。特に好ましいのは、3500rpmあたりのフィーリングで、5速ならスピードメーターの針は80km/hといったところ。その近辺でスロットルをわずかに開閉しながら高速道路を流した時の鼓動感は本当にすばらしい。
エンジンが発するその鼓動に、マフラーから聞こえてくるサウンドと身体にあたる風とがマッチ。バイクと一体になり、空気に包み込まれているような気分が味わえるのだ。100km/hだと回転数は4500rpmまで上昇する。ここまでくると鼓動が振動の域に差し掛かり、風圧も増加。無意識の内に回転数を元に戻している自分に気づく。
SRは高速巡行が苦手と評する人は、単に求める速度が高過ぎるだけだ。80km/h程度でゆったり流した時は格別心地よく、鼓動感が身体中に染みわたっていく。時間に急かされない、のんびりとした旅へといざなってくれるはずだ。
200psを超えるスーパースポーツが珍しくなく、おもてなしの限りを尽くすアドベンチャーモデルが揃っている今、80km/hの速度域のことなど、あまり関心が持たれないかもしれない。しかしながら、この国の道路環境と法定速度を踏まえると、この領域が気持ちいいかどうかは重要だ。SRは非日常的な高速巡行性能を持たない代わりに、日常に寄り添ってくれる優しさが詰まっている。
また、なんの攻撃性もないたたずまいがいい。周囲の人を威圧することなく、狭い路地に入り込んでも手足のように扱え、街中にあっても自然の中にあっても悪目立ちすることがない。日本の風景と環境にピタリとマッチしているからこそ、SRは長きに渡って愛されたのだと思う。
SRは決して急かされることなく、穏やかな気持ちで旅を楽しみ、人との触れあいを促してくれる最良のコミュニケーションツールだ。その一方で、持てるポテンシャルの限界を探りたくなるスポーツギアにもなり得る。華奢なスタイルに込められた、この懐の深さがSRの魅力であり、短期間の付き合いでやすやすと底が知れるようなものではない。
だからこそ、SRに魅入られたライダーは長く手元に置き、一度離れてしまってもまた戻ってくる。おそらくこのファイナルエディションも例外ではない。20年経ち、30年が過ぎても日本のあらゆる場所で目にすることができるはずだ。生産終了は心の底から残念なことではあるが、この世から消えてしまうことなど、きっとない。そう思える、誇るべき日本の良心である。
ヤマハSR400の最新相場情報
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※掲載されている製品等について、当サイトがその品質等を十全に保証するものではありません。よって、その購入/利用にあたっては自己責任にてお願いします。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
最新の関連記事(名車/旧車/絶版車 | ヤマハ [YAMAHA])
250でもビッグバイクと同じレベルのクオリティを! ヤマハは1988年に250ccのアメリカンクルーザー、空冷60°VツインのXV250 Viragoをリリースした。 それは250ccの片側125cc[…]
〈1978年3月〉SR400[2H6]/500[2J3]:ロードスポーツの原点 1976年に発売したオフロードモデルのXT500のエンジンとフレームをベースに、トラディショナルなロードスポーツとして登[…]
RZ250の歴代モデル 1980 RZ250(4L3):白と黒の2色で登場 ’80年8月から日本での発売が始まった初代RZ250のカラーは、ニューヤマハブラックとニューパールホワイトの2色。発売前から[…]
ライバル勢を圧倒する抜群のコーナリング性能 ’80年代初頭のヤングマシン紙面には何度もRZが登場しているが、デビュー当初のRZ250の実情を知る素材としてここで選択したのは、’80年11月号に掲載した[…]
TZの技術を転用しながら独創的な思想を随所に注入 伝統の2サイクルパラレルツインという構成を維持しつつも、数多くの新技術を導入したRZ。中でも最もインパクトが大きかったのは、市販レーサーTZを踏襲する[…]
最新の関連記事(SR400)
〈1978年3月〉SR400[2H6]/500[2J3]:ロードスポーツの原点 1976年に発売したオフロードモデルのXT500のエンジンとフレームをベースに、トラディショナルなロードスポーツとして登[…]
43年で歴史に幕……と思ったらタイで続いてるよ! 平成32年排出ガス規制の壁、ABS義務化、そして灯火類の追加レギュレーション……。日本ではさまざまな理由から継続生産ができなくなり、2021年モデルを[…]
〈2012年1月〉SR400[3HTU]:黒にホワイトステッチ追加 2012年モデルではカラー変更を実施。ヤマハブラックは、FI化した2009年モデルとはグラフィックを変更し、モノトーンのシートにSR[…]
〈2000年2月〉SR400[3HTB]:最終ドラムブレーキモデル ドラムブレーキの最終モデルだ。1999年のブラックゴールドは継続。ダークパープリッシュレッドカクテル3が廃止され、グロリアスマキシブ[…]
〈1991年11月〉SR400[3HT3]/SR500[3GW3]:ツートンシート 多重クリアの”ミラクリエイト塗装”によって深みのある艶を実現。シートはツートーンに。レバー/レバーホルダー/ハンドル[…]
人気記事ランキング(全体)
悪質な交通違反の一つ、「無免許運転」 今回は無免許運転をして捕まってしまったときに、軽微な違反とはどのような違いがあるのか紹介していきます。 ■違反内容により異なる処理無免許運転の人が違反で捕まった場[…]
6999ドルで入手したバイク「VOGER」、ハーレーよりでっかい箱で到着! タンクの中が明るいぞ! 彼女を乗せたらどこに足を置けばいいんだ? ヘッドカバーがプラスチック?! アメリカの人気YouTub[…]
充実してきた普通二輪クラスの輸入モデル この記事で取り上げるのは、日本に本格上陸を果たす注目の輸入ネオクラシックモデルばかりだ。それが、中国のVツインクルーザー「ベンダ ナポレオンボブ250」、英国老[…]
進化した単気筒TRエンジンは5%パワーアップの42psを発揮! トライアンフは、2026年モデルとして400シリーズの最新作×2を発表した。すでにインドで先行発表されていたカフェレーサースタイルの「ス[…]
バッテリーで発熱する「着るコタツ」で冬を快適に ワークマンの「ヒーターウエア」シリーズは、ウエア内に電熱ヒーターを内蔵した防寒アイテム。スイッチひとつで温まることから「着るコタツ」として人気が拡大し、[…]
最新の投稿記事(全体)
売上げ増大のためにあえて小型マシンを発売 ハーレーダビッドソンは1969年に経営難から株式を公開し、AMFという機械メーカーの傘下に入ったことがあります。ハーレー/AMF時代が1984年まで続いたこと[…]
250でもビッグバイクと同じレベルのクオリティを! ヤマハは1988年に250ccのアメリカンクルーザー、空冷60°VツインのXV250 Viragoをリリースした。 それは250ccの片側125cc[…]
航続距離はなんと362km! ヤマハは、2025春に開催された大阪モーターサイクルショーにて「オフロードカスタマイズコンセプト」なる謎のコンセプトモデルをサプライズ展示。従来型のWR155R(海外モデ[…]
〈1978年3月〉SR400[2H6]/500[2J3]:ロードスポーツの原点 1976年に発売したオフロードモデルのXT500のエンジンとフレームをベースに、トラディショナルなロードスポーツとして登[…]
125ccクラスは16歳から取得可能な“小型限定普通二輪免許”で運転可 バイクの免許は原付(~50cc)、小型限定普通二輪(~125cc)、普通二輪(~400cc)、大型二輪(排気量無制限)があり、原[…]
- 1
- 2

![YAMAHA SR400 Final Edition[2021 model]|[自分だけのバイク選び&最新相場情報]ヤマハSR400FINAL EDITION(2021) 試乗レビュー](https://young-machine.com/main/wp-content/uploads/2021/05/002_yamaha-sr400-final-768x437.jpg?v=1621229631)
![YAMAHA SR400 Final Edition[2021 model]|[自分だけのバイク選び&最新相場情報]ヤマハSR400FINAL EDITION(2021) 試乗レビュー](https://young-machine.com/main/wp-content/uploads/2021/05/DSC0116-768x512.jpg?v=1621231559)
![YAMAHA SR400 Final Edition[2021 model]|[自分だけのバイク選び&最新相場情報]ヤマハSR400FINAL EDITION(2021) 試乗レビュー](https://young-machine.com/main/wp-content/uploads/2021/05/DSC0325-768x512.jpg?v=1621230199)
![YAMAHA SR400 Final Edition[2021 model]|[自分だけのバイク選び&最新相場情報]ヤマハSR400FINAL EDITION(2021) 試乗レビュー](https://young-machine.com/main/wp-content/uploads/2021/05/003_yamaha-sr400-final-768x512.jpg?v=1621229758)
































