かつての年間26万台から激減、しかしジワリと増える令和

「夏休みもご用心」バイクの盗難が令和3年から右肩上がりに伸びている! 盗難件数が多い機種は?……〈多事走論〉from Nom

「夏休みもご用心」バイクの盗難が令和3年から右肩上がりに伸びている! 盗難件数が多い機種は?……〈多事走論〉from Nom

バイクの盗難がジワリと増え始めていることをご存じだろうか。ピークの年間26万台から防犯意識の高まりで激減したが、コロナ禍2年目の令和3年から再び増加に転じている。四半世紀前のバイク盗難対策の高まりから平和ボケとも言える現代へ、当時を最もよく知るジャーナリストが改めて警鐘を鳴らす。


●文: Nom(埜邑博道) ●取材協力:二輪車普及安全協会警察庁

対策意識の希薄化に警鐘を鳴らしたい

24年前、当時、編集長をしていたBiG MACHINE誌で「盗難対策」の大特集をしました。

窃盗団に狙われて、高価なビッグマシンが次々と盗まれている実態を目にして、盗難対策の大特集を組んだBiG MACHINE 2001年2月号。この黄色い表紙の本が盗難対策の「バイブル」となった。

どちらかといえばネガティブで、あまり雑誌の巻頭特集にふさわしい題材ではありませんでした(そして、売れる企画だとも思えませんでした)が、ボクの耳に入ってくるさまざまな情報が林先生のように「いまでしょ!」と囁き、そして実行することを決断したことを覚えています。

きっかけは、この特集企画のリード文に書いたように、当時、企画していたライディングスクールのイベントの参加者から相次いで「愛車を盗難されたので参加できなくなりました」という連絡でした。

ライディングスクールを受講して、バイクライフをさらに楽しいものにしようと思っている方の愛車が盗まれてしまった。こんな悲しいことはありません。

このことがきっかけで、「いまでしょ!」と思って特集を企画したのですが、あらためて調べてみると当時は、高額な大排気量車=ビッグマシンを狙った盗難が多発していて、それも組織的な窃盗団によるものだという事実が分かってきました。

盗難防止対策は、やればやるほど効果的。特集内では、当時、考えられるありとあらゆる盗難防止対策を紹介した。

こうしてカラー24P、モノクロ14Pの大特集が完成して世に出たのですが、正直、あまりに窃盗の手段・方法などに深く突っ込みすぎて、当時、跋扈していた窃盗団にボクやスタッフ、そしてボクの家族が危害を加えられるのでは? と身辺を警戒するようになったことを覚えています。

もちろんそんな危害を加えられるようなことはなく、この特集がまだまだ盗難対策に対する意識が薄かった読者・ライダーに大きな影響を与えたと自負しています。なんだかこの本が、盗難対策のバイブルのようになって、さまざまなところで参考にもされていたようでした。

当時のバイク盗難件数は年間20万台以上。今とは比較にならない大きな数字ですが、まだまだバイクが盗まれるということに対する意識が希薄で、それほど問題視されていなかったように思います。

実際、ぼくが250ccのスクーターを自宅の駐輪場で盗まれたときも、事情聴取に来た警察官は「仕方ないよね。見つからないよ」と塩対応だったのを覚えています。

この特集号をきっかけに盗難対策が大きな課題に

そして、この大盗難特集号はさまざまなところに影響を与えました。

アフターパーツメーカーは、「切断されない」頑丈なロックを開発し、車両メーカーもこの特集を参照しながら(これ、事実です)、盗まれにくいバイクにすることを検討し始めたのです。

その結果、どんなに強力なカッターでも切断されにくい極太・強靭なチェーン(10万円近いものもありましたね)が開発され、盗まれた後の愛車の位置情報を知らせる「ココセコム」のサービスが始まり、さらにはバイクにシャッターキーやイモビアラームが標準装備されるようになったのを覚えています。

イタズラでバイクを盗むのと違い、盗んだバイクを売ったお金を生活の糧にしている窃盗団は手間のかかる盗みはやりません。なので、念入りな盗難対策が講じられたバイクは、彼らのターゲットから外れて、バイクの盗難件数は右肩下がりで減少していきました。

ご覧のように、件数が底を打った令和3年から徐々に上昇して、昨年はついに1万件をこえている。

しかし、2021年で底を打ったと思われた盗難の件数(7569件)が、近年、再び上昇傾向にあり、昨年は1万1641件までに増加していることを、日本二輪車普及安全協会(以下:二普協)の安全本部防犯推進部長の鈴木さんからお聞きしました。

盗難車を捜索する際に非常に有効な「防犯登録」サービスを行っている二普協では、それを踏まえてさらに加入率を向上させようとしているほか、昨年から「二輪車盗難防止強化月間」(10月1日~31日まで実施、今年も同じ時期に実施予定)を実施して、注意喚起を行っています。

ただ、盗難件数が増えているという話を聞いて関係各所に電話をしてみたのですが、総じて反応が薄くて、意外にも「盗難」のことはどこも深刻に考えていないような印象を受けました。

まあ、ピークで26万台、増えているといっても昨年は1万台そこそこ。「そんなに目くじらたてることないんじゃないの?」という感じでしょうか。

日本二輪車普及安全協会では、二輪車の盗難防止と万が一の盗難時の早期発見を実現するためのシステムである「二輪車防犯登録」を用意している。防犯登録取扱店で簡単に加入できるので、バイクを購入したら必ず加入しよう。

日本二輪車普及安全協会 安全本部防犯推進部長の鈴木高志さんは、二輪車防犯登録の加入率を上げようと苦心されているようだ。

ただ、気になるのは高額なクルマの盗難がTVのワイドショーなどに取り上げられるほど社会問題化していることと、バイクもビンテージマシンなどが狙われ、盗まれている現状があります。

さらに、信じられないのですが、バイクにキーをつけっぱなしで盗まれるケースが非常に多い(昨年は7624件中4377件・57%)ということバイク自体の防犯性が向上したことで、ライダーの盗難予防に対する意識が低くなっているのかもしれないのではと思いました。

盗難に対する危機意識が薄れている?

また、そういう盗難対策に対する意識を惹起するメディアの特集も最近はあまり見かけないようにも思います。確かに、イモビライザーなどが標準装備されて、盗んで海外などで転売しようとしても面倒と敬遠されるバイクが増えていますが、そんなことは気にせずにとりあえず盗んでしまおうという窃盗団もいるはず。個人個人が、バイクを盗まれにくい環境においておくことが必要なのは今も昔も変わりません。

ボクもいまは150㏄のスクーターしか持っていませんが、フロントタイヤにはMAGGIの極太チェーンをかけ、リヤタイヤにはデイトナの全長1200㎜のチェーンをかけて駐輪場の柱に結んでいます。もちろん、バイクカバーは必須です。

ただ、盗難対策用品を以前、積極的に開発・販売していたデイトナに聞いたところ、最近は携帯性がいい軽くて小さなキーロックや、キーをたくさん持ちたくないからという理由でのダイヤル式ロックの需要が多く、以前、用意していたような頑丈で強固なロックは現行のラインナップにはないそうです。

以前は、とても強固なチェーンロックを取り扱っていたデイトナも、最近は携帯性にも配慮したチェーンロックや、ダイヤル式で鍵が増えないヘルメットロックなどが主流だという。

警察庁に質問状を出して、現在の盗難の状況を調べてみました(警察庁は、基本的に対面での取材はNGで、文書での回答になります)。

質問をしたのは下記の項目。

  • ①二輪車盗難の現状について、令和4年から7913台、令和5年9946台、昨年1万1641件と、令和3年に件数が底を打った後、年々増加しています。この増加理由をどう分析していますか。
  • ②現在、盗難に遭った二輪車についてお聞きします。 特に集中して盗難に遭っている二輪車はありますか。あれば、その具体的な車種名を教えてください。 盗難の多い二輪車の排気量はどのクラスでしょうか(原付、原付二種、中型、大型、外車など) 
  • ③かつては、単なるイタズラによる盗難に加えて、バイク専門の窃盗団による盗難が多かった時期がありましたが、現在はどのような状況(いたずら、窃盗団と思われる盗難の割合)でしょうか。
  • ④盗難された二輪車の盗難対策の実施状況はどのようなものでしょうか。
  • ⑤令和3年~令和6年までの盗難犯人の検挙率を教えてください。
  • ⑥過去4年間の、検挙した盗難犯の属性(年齢、国籍、単独、グループなど)を教えてください。
  • ⑦盗難されているのは、早朝、午前中、午後、夜間、深夜のどの時間帯が多いですか。
  • ⑧二輪車の盗難件数の多い都道府県を教えてください。

丁寧に回答したいからという理由で、質問をしてから3週間後に返ってきた回答を以下に記します。

バイクの盗難だけではなく全刑法犯も令和3年から右肩上がり

まず、①の盗難件数の増加理由について。

増加要因を明確にお答えすることは困難ですが、今後とも推移を見ながら必要な分析をおこなってまいります。なお、オートバイ盗を含めた全刑法犯認知件数も、令和3以降3年連続で前年比増となっています。

次に②。

令和6年度における型式別盗難件数では(外国車を除く)、ホンダが約43%、スズキが約23%、ヤマハが約26%、カワサキが約3%で、第一種原動機付自転車及び第二種原動機付自転車で全体の約89%を占めています。各メーカー別のもっとも盗難件数が多い型式は、ホンダ・AF79(編注・タクトシリーズ以下同)、スズキ・CF46A(アドレスV125シリーズ)、ヤマハ・AY01(ジョグシリーズ)、カワサキ・ZR400C(ZRX400シリーズ)となっています。

③ いたずら、主体として「窃盗団」による犯行を示すデータはなく、その割合を示すことは困難です。

④ 別紙・資料1のとおり

⑤ 別紙・資料2のとおり

⑥ 別紙・資料2のとおり

⑦ 別紙・資料3のとおり

⑧ 別紙・資料4のとおり

警察庁の見解は以上(別紙・資料は本記事の次ページに掲載)ですが、現実はバイクの盗難が増加傾向にあるというのは事実です。

そのひとつの要因が、バイクの持ち主=オーナー、そしてバイク業界全体の盗難に対する防犯意識の希薄化がひとつの要因になっているのではないかというのがボクの認識です。

しかし、バイクは簡単に盗難されてしまうのは事実です。どんなに重くて大型のバイクであろうと、ロックを切断され、前後輪を台車に載せられれば簡単に移動されてしまいます。

さらに、昔はもっと大掛かりにガレージで保管しているバイクをクレーンで吊って盗んでいくようなケースもありました。つまり、バイク盗難を生業にしている窃盗団に狙われたら、並大抵の盗難対策ではまるで歯が立たないのです。

そんなのが実情なのに、まるで盗んでくださいとばかりにキーをつけっぱなしでバイクを放置しているライダーがこれほど多いとは……。

昨年は、久しぶりに1万台を超えたバイクの盗難ですが、ライダーの盗難に対する現在の意識のままでは現状の盗難件数がどんどん増えていくのではないかと非常に危惧してしまいます。

そして、もっと気がかりなのは、バイクの盗難だけでなく、全刑法犯自体も年々増えているという事実。ニュース等を見ても、とても「安全」だったはずの日本がそうではない国になってきたようにも感じます。

先日、ボクのかかりつけの病院に行ったら、「このバイクが盗難されました」という情報が写真付きで張り出されていました。みなさん、バイクは盗難されやすいものです。そう思って、大切なご自分のバイクを、ご自分の力で守ってあげてください。お願いします!

筆者のかかりつけ医の待合室に貼ってあった盗難されたバイクの写真。バイクは日々、盗まれているのだ。

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