
ニッポンがもっとも熱かった“昭和”という時代。奇跡の復興を遂げつつある国で陣頭指揮を取っていたのは「命がけ」という言葉の意味をリアルに知る男たちだった。彼らの新たな戦いはやがて、日本を世界一の産業国へと導いていく。その熱き魂が生み出した名機たちに、いま一度触れてみよう。
●文:ヤングマシン編集部(沼尾宏明) ●取材協力:ZEPPAN UEMATSU
零戦と同じサムライ魂が成し遂げた「究極」の直4
時代を決定的に「それ以前」と「以降」に画してしまうエポックメイキングなモデルはいくつか存在する。中でもZ1は紛れもない革命児である。
今や「Z1」の方が通りがいいが、正式車名は「900 スーパー4」。Z1は型式名だ。「火の玉」と呼ばれるオレンジ×茶は’73年の初期型のみの塗色。
量産車として世界初の直列4気筒DOHC、直4最大の900ccを実現し、ゼロヨン12秒、最高速200km/h超という当時の常識を覆す性能を発揮。ティアドロップ型燃料タンクとテールカウルを備えた流麗なシルエットも斬新だった。以降、各社はZ1をベンチマークに切磋琢磨を繰り返すことになる。後世への影響は計り知れない。
しかし、デビューするまでの道程は苦難の連続だった。日本メーカーが海外に進出し、マーケットを拡大した60年代。当時はトライアンフら欧州の600cc級ツインが高性能車として席巻。環境問題から米国市場で4ストロークの注目度が高まっていた。
こうしてカワサキは66年、水面下で4スト750ccDOHC4気筒の開発をスタート。ところが同年10月、東京モーターショーに量産車初の4気筒車・ホンダCB750フォアが登場。まさに寝耳に水の出来事だった。
USカワサキはV4やスクエア4、直6などを再提案したが、機構が複雑になることから技術陣は直4が最適と判断。ただし、「ホンダを完全に打ち負かすには完璧を期すべし」と方針を修正し、1200cc級への展開も考慮した903ccの排気量を選択する。
掲げたスローガンは「ベスト・イン・ザ・ワールド」。可能な限り高く目標を設定し、当時最高の技術水準をも大幅に上回る性能を目指した。これは、当時の開発リーダー、大槻幸雄氏が語るように、零戦や戦艦大和と同様の開発哲学である。その意気込みのとおり、Z1のコードネームは当初のN600からT’103に変更。零戦のエース機として有名な「V’103」号機にあやかったネーミングである。
執念で開発を重ね、Z1=900スーパー4が量産にこぎ着けたのは72年8月。ホンダから3年遅れの発売となったが、爆発的なヒットとなる。CBが示した日本車の優位性はここに決定づけられた。同時に国内では750cc版のZ2が販売され、人気を博した。
サムライスピリッツと呼ぶべき高潔な精神から生まれたZ1は、半世紀近くを経た今も我々の心を捉えて離さない。そして、究極を意味する「Z」の称号は、現代のZやZXシリーズに至るまで連綿と受け継がれている。
自主規制によって生まれた 750cc版「ゼッツー」:1973 KAWASAKI Z2 (750RS)
CB750フォアの発売 (’69年) と前後して多発した大型バイクの事故を受け、’70年頃から750ccオーバー車の国内販売を自主規制する動きが活発化。これを受けてカワサキが日本市場に投入した排気量ダウン版が750RS・形式名Z2だ。
750ccでのバランスを追求してボア・ストロークをともに短縮しているのが特徴で、外観はZ1とほぼ共通とされる。ちなみに生産台数の少なさ(Z1系の約10万台に対し、Z2系は1万6000台ほどと言われる)から、最近の中古車相場ではZ1よりも高値が付く傾向がある。
【1973 KAWASAKI Z2 (750RS)】
排気量エンブレムのほか、速度計の80km/h より上がレッドゾーンとなり、’74年のZ2A 以降は220km/h フルスケールとされるのもZ1との違い。
【ボアスト、キャブ、圧縮も専用】66×66mm・903ccのZ1に対し、64×58mmの746ccとなるZ2。ボアスト比率はショートストロークとなり、圧縮比は0.5アップの9.0、キャブはVM26Φと小径化。二次減速もショート化される。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※掲載されている製品等について、当サイトがその品質等を十全に保証するものではありません。よって、その購入/利用にあたっては自己責任にてお願いします。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
最新の関連記事(名車/旧車/絶版車)
カワサキZ1、伝説のディテール デザインは後にGPZ900Rなども手がけた多田憲正氏によるもの。完璧なバランスのスタイリングだけでなく、ディテール面でも後世の車両に大きな影響を与えた。反り上がったテー[…]
歴史遺産・油冷GSX-Rを完調状態で後世に バイクブーム全盛期だった1980年代から、はや40年以上。とっくに純正パーツの供給も途絶え、そのまま埋もれ去っていく当時の車両は数知れず。その一方で「愛車と[…]
「ワインディングの覇者を目指すならCB-1」のキャッチコピーだったら評価は変わった!? カウルを装着したレーサーレプリカが出現する以前、1970年代までのスーパースポーツはカウルのないフォルムが一般的[…]
あの頃の中型 青春名車録「4気筒再び」(昭和54年) それまで全盛を誇った2気筒のブームを収束させたのが、カワサキのZ400FX。CB400フォア以来途絶えていた待望の4気筒は、DOHCヘッドを採用し[…]
“モンスターマシン”と恐れられるTZ750 今でもモンスターマシンと恐れられるTZ750は、市販ロードレーサーだったTZ350の並列2気筒エンジンを横につないで4気筒化したエンジンを搭載したレーサー。[…]
最新の関連記事(カワサキ [KAWASAKI])
コンパクトな車体に味わいのエンジンを搭載 カワサキのレトロモデル「W230」と「メグロS1」が2026年モデルに更新される。W230はカラー&グラフィックに変更を受け、さらに前後フェンダーをメッキ仕様[…]
2025年モデルの登場から間もないニューカラー設定 2024~2025年の年末年始に発売されたKLX230シリーズがマイナーチェンジ。既報のKLX230シェルパSおよびKLX230 DFは車体まわりに[…]
早くもモデルチェンジで“S”版に! ベーシックな空冷トレールモデル カワサキの新トレッキングマシンとして2024年12月25日に発売されたばかりのKLS230シェルパが早くもモデルチェンジ。2026年[…]
まるで自衛隊用?! アースカラーのボディにブラックアウトしたエンジン&フレームまわり 北米などで先行発表されていたカワサキのブランニューモデル「KLX230 DF」が国内導入されると正式発表された。車[…]
カワサキZ1、伝説のディテール デザインは後にGPZ900Rなども手がけた多田憲正氏によるもの。完璧なバランスのスタイリングだけでなく、ディテール面でも後世の車両に大きな影響を与えた。反り上がったテー[…]
人気記事ランキング(全体)
ミルウォーキーエイト117に3タイプのエンジン登場! ハーレーダビッドソンの現行クルーザーモデルには、シリンダーヘッド/スロットルボディ/インテークマニホールドを刷新した3タイプのミルウォーキーエイト[…]
ブランド名は「南北戦争」に由来 1991年、成功を収めた弁護士、マシュー・チェンバースが興したバイクメーカー、コンフェデレート。 和訳すると「南軍」を意味する社名は、創業地がルイジアナ州バトンルージュ[…]
軽量で取り扱いやすく、初心者にもピッタリ 「UNIT スイングアームリフトスタンド」は、片手でも扱いやすい約767gという軽さが魅力です。使用後は折りたたんでコンパクトに収納できるため、ガレージのスペ[…]
みんながCBを待っている! CB1000Fに続く400ccはあるのかないのか ホンダの名車CB400スーパーフォアが生産終了になって今年ではや3年目。入れ替わるようにカワサキから直列4気筒を搭載する「[…]
「ワインディングの覇者を目指すならCB-1」のキャッチコピーだったら評価は変わった!? カウルを装着したレーサーレプリカが出現する以前、1970年代までのスーパースポーツはカウルのないフォルムが一般的[…]
最新の投稿記事(全体)
風が抜けるのにCEレベル2! タイチ「ネックスエアー」が夏の安全を変える ライダーの命を守る重要な装備、胸部プロテクター。しかし夏場は熱がこもりやすく、つい安全性よりも涼しさや薄さを優先した装備に切り[…]
発売当初のデザインをそのままに、素材などは現在のものを使用 1975年に大阪で創業したモンベル。最初の商品は、なんとスーパーマーケットのショッピングバックだった。翌年にスリーピングバッグを開発し、モン[…]
3面同時に洗浄できる! メンテ初心者にもやさしいチェーンブラシ 「チェーン掃除って面倒そう…」と思っている方にもぴったりなのが、デイトナのバイク用三面チェーンブラシ。ブラシ部が上下、横の3方向に広がっ[…]
長距離ツーリング休憩時の立ち寄り場所の参考に 本記事の作成にあたり、AIの補助を借りつつ、「東名高速道路 グルメ おすすめ」「サービスエリア ランキング」「各SA PA名 グルメ」といったキーワードで[…]
空と大地が出会う場所に生まれた最新グルメスポット 明治期の開墾以来、総面積約5000ヘクタールの「牧之原大茶園」を中心に豊かな茶文化が息づいていた日本一の茶畑を誇る“お茶のまち”静岡県牧之原市。 空へ[…]
- 1
- 2