
●文:Nom(ヤングマシン編集部)
Moto3、Moto2に続き、最高峰MotoGPクラスにも
昨晩(日本時間3月6日午後7時過ぎ)、レース関係者ならびにレースファンの間に激震が走った。
現在、ワールドスーパーバイク(WSBK)、ワールドスーパースポーツ(WSSP)、さらに昨年からMoto2/Moto3の公式タイヤサプライヤーとしてレース用タイヤを独占供給しているピレリが、2027年から現在のミシュランに変わってMotoGPにもタイヤを供給するとWSBKおよびMotoGPのレースオーガナイザーであるDorna(ドルナ)が発表したのだ。
ピレリは次世代の世界的ライダーを育成するためのプログラムとして、上記のトップカテゴリーだけではなく、若いライダーを育ててMotoGPまでの道のりを作る(Road to MotoGP)ことを目的としてFIM JuniorGP、FIM MotoGPルーキーズカップ、FIM MiniGPワールドシリーズ、アジア・タレントカップ、ノーザンタレントカップなど、Dornaが主催する若手育成プログラムにもワンメイクのタイヤを供給している。
これは、才能のある若いライダーがそれぞれのクラスで同じメーカーのタイヤを装着して戦う、つまり一貫性のある安定した環境で最高峰クラス(=MotoGP)へステップアップできる環境を整えるための、Dornaの「全クラスで単一のタイヤサプライヤーを導入する」という方針に基付いたものだ。
一昨年、Moto2&Moto3へ2026年までタイヤ供給することを発表した。右はドルナスポーツのカルロス・エスペラータCEO、左はピレリノレーシングディレクター、ジョルジョ・バルビエ。
2024年のカタールGPから、Moto2&Moto3へのピレリのタイヤ供給が始まった
Dornaの公式発表によると、ピレリのMotoGPへのタイヤ供給は2027年から2031年までの5年間。現在のマシンレギュレーションが変更になり、排気量が1000ccから850ccに変更になる最初のシーズンからピレリのタイヤ供給が開始されるとのことだ。
タイヤの仕様・性能に関しては、2027年にバイクの排気量の変更に伴いレギュレーションが大幅に変更されるため、現在のミシュランタイヤとの直接比較はできず、どんな種類のタイヤが供給されるかについても、ピレリは「2027年の新レギュレーションを考慮し、詳細は後日発表します」というコメントにとどめている。
また、現在務めているスーパーバイク世界選手権(WSBK)の単独タイヤサプライヤーについては、MotoGPと両立することは可能で、2026年まで契約を継続することも発表されている。
2023年に、WSBKへのタイヤ供給20年を迎えた。
ちなみに、MotoGP用タイヤは専用に製造され、当然、一般販売はされないが、市販タイヤと同じ工場(ドイツ・ブロイベルク)で生産されるとのことだ。
レース用タイヤを販売し、市販タイヤでレースをするのがピレリのポリシー
ここでひとつ気になることがある。
前述の各カテゴリーの二輪レースに対する供給に加え、四輪のF1にもタイヤを独占供給しているピレリだが、タイヤサプライヤーがピレリから他メーカーに変更されるのではという話が一昨年に巻き起こった。
しかし、これに対してはFIA(国際自動車連盟)とFOG(フォーミュラ・ワン・ブループ)が2023年10月に決定したとおり、ピレリがその際の契約どおり2027年までF1にタイヤ供給を行うこと、さらに2028年への延長の可能性もあるとピレリはコメントしている。
二輪の「Road to MotoGP」活動による広範囲なカテゴリーに加え、四輪の最高峰レースであるF1にもタイヤを独占供給しているピレリ。どんだけレースが好きなんだと、思わずツッコミを入れたくなるのだが、これはピレリの以下のポリシーに基づいている。
「We sell what we race, we race what we sell(レース用タイヤを販売し、市販タイヤでレースをする)」。
あらゆるカテゴリーのレースで、この理念に基づいてタイヤ供給をすることで、各カテゴリーで磨いた技術を市販タイヤにフィードバックしていく方針なのである。
つまり、二輪、四輪問わず、さまざまなレースで培われた最新・最強のテクノロジーが速やかにピレリの市販タイヤにフィーバックされ、一般ライダーにも提供されるという理想的な循環を作り出しているのである。
この効果は、トップカテゴリーのレースだけではなく、例えば日本における「もて耐」(占有率60%以上)や「テイスト・オブ・ツクバ」(占有率70%以上)といったイベントレースでも出場ライダーにピレリタイヤが圧倒的な支持を受けていることが証明している。
現時点では、ピレリとしてはDornaが公式発表で述べたこと以上に付け加えることはなく、現在、契約の最終調整を行っていて、契約の署名が完了次第発表する。詳細は追ってお知らせしますとしていて、現在、契約の最終調整を行っているとコメントしている。
ピレリジャパンの二輪部門の責任者である児玉秀人さんは以下のようにコメントした。
「MotoGPへのタイヤ供給が決まり、ピレリがDornaとともに目指してきた“Road to MotoGP”が完成することをうれしく思います。MiniGPに始まり、若手ライダーの育成に力を注いできたピレリジャパンにとってもこれまでの活動にさらに一貫性が生まれることとなり、より力を入れて将来のMotoGPライダーの育成に注力していきたいと思います」
現在も数多くのライダーが愛用するピレリタイヤが、二輪の最高峰レース用タイヤにも採用され、MotoGPの技術や素材を活用して市販タイヤを開発することとなったことは、愛車にピレリタイヤを装着しているライダーにとっては非常に誇らしいことで、さらにピレリタイヤに高い信頼や安心感を抱くことは間違いない。
MotoGPマシンが新レギュレーションで生まれ変わり、さらにタイヤもミシュランからピレリにスイッチする2027年シーズンが今から待ち遠しい。
ワールドスーパーバイクでおなじみのこんなシーンが2027年からMotoGPにも。写真はアルヴァロ・バウティスタの走り。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
最新の関連記事(モトGP)
2ストGPマシン開発を決断、その僅か9ヶ月後にプロトは走り出した! ホンダは1967年に50cc、125cc、250cc、350cc、そして500ccクラスの5クラスでメーカータイトル全制覇の後、FI[…]
タイヤの内圧規定ってなんだ? 今シーズン、MotoGPクラスでたびたび話題になっているタイヤの「内圧規定」。MotoGPをTV観戦しているファンの方なら、この言葉を耳にしたことがあるでしょう。 ときに[…]
2009年に移籍したのに「GP8」にも乗っていた?! 2003年にホンダからモトGPにデビューしたニッキーでしたが、2009年にはドゥカティ・コルセへと移籍。2007年にケイシー・ストーナーがデスモセ[…]
「自分には自分にやり方がある」だけじゃない 前回に続き、MotoGP前半戦の振り返りです。今年、MotoGPにステップアップした小椋藍くんは、「あれ? 前からいたんだっけ?」と感じるぐらい、MotoG[…]
MotoGPライダーが参戦したいと願うレースが真夏の日本にある もうすぐ鈴鹿8耐です。EWCクラスにはホンダ、ヤマハ、そしてBMWの3チームがファクトリー体制で臨みますね。スズキも昨年に引き続き、カー[…]
最新の関連記事(レース)
作って、触って、攻略する。新感覚のサーキット模型 スマホケースなどの地図柄グッズを手がけるクロスフィールドデザインが、モビリティライフスタイルブランド「レシプロ」の新商品として「レイヤード ランドスケ[…]
辛い土曜日、長島ダム機能せず 「ようやくスタートラインに立てたかな」 全日本ロードレース第4戦もてぎ(2025年8月23日~24日)のレース2を終えた長島哲太は、こう答えた。 会心のレースだった。長島[…]
欧州仕様に準じた仕様でKYB製フロントフォーク、ウイングレット、ブレンボキャリパーなどを採用するR1 2026年シーズンをヤマハ車で戦うライダーに向け、サーキット走行専用モデルの新型「YZF-R1 レ[…]
『鈴鹿8時間耐久ロードレース選手権』を初めて観戦した模様を動画に収録 この動画では、若月さんが鈴鹿サーキットの熱気に包まれながら初めて目の当たりにするロードレースの“速さ”や“迫力”に驚き、感動する姿[…]
2ストGPマシン開発を決断、その僅か9ヶ月後にプロトは走り出した! ホンダは1967年に50cc、125cc、250cc、350cc、そして500ccクラスの5クラスでメーカータイトル全制覇の後、FI[…]
人気記事ランキング(全体)
9月上旬~中旬発売:アライ「RAPIDE-NEO HAVE A BIKE DAY」 旧車やネオクラシックバイクにマッチするアライのラパイドネオに、新たなグラフィックモデルが登場した。グラフィックデザイ[…]
個性を求めて生まれた新しいスタイルとメカニズム ライバル他社に対して欧米市場での競争力強化を迫られていた1970年代後期のホンダは、CB400フォアよりも低コストで低価格にできる2気筒モデルに舵をとり[…]
夏場は100℃超えも珍しくないけれど… いまやバイクのエンジンは“水冷”が主流。安定した冷却性能によってエンジンパワーを確実に引き出すだけでなく、排出ガス/燃費/静粛性の面でも水冷の方が空冷より有利な[…]
フレームまで変わるモデルチェンジ、かつリヤキャリアを新装備してたったの+6600円 スズキは、グローバルで先行発表されていた新型「アドレス125」の国内導入を正式発表。基本スタイリングは継承しながら、[…]
作って、触って、攻略する。新感覚のサーキット模型 スマホケースなどの地図柄グッズを手がけるクロスフィールドデザインが、モビリティライフスタイルブランド「レシプロ」の新商品として「レイヤード ランドスケ[…]
最新の投稿記事(全体)
一線から退くことすらファンが許さなかった「革新モデル」 世界最速を目指したZ1発売から10年余り、ついにカワサキは水冷4気筒エンジンを搭載するGPz900Rを1984年に発売。北米モデルはNinja([…]
イタリア魂が込められたフルサイズ125ccネイキッド イタリアンブランドとしての誇りを胸に、資本も製造もすべてイタリアで行うファンティックは、コストダウンのために安易なアジア生産に走らず、職人の手で丁[…]
厳格な基準をクリアした車両のみが“認定中古車”を名乗れる 国内外のほとんどの2輪/4輪メーカーが設けているのが“認定中古車制度”だ。これは自社のブランド価値を保ち、中古車市場においても顧客に安心して車[…]
なぜハイエンドの性能が「半額水準」なのか ASMAX F1 Proは、次世代バイク用インカムブランド「ASMAX」のフラッグシップモデルで、2025年9月上旬から販売開始される。F1 Proがライダー[…]
バイクとの親和性はスマホを圧倒的に上回る AKEEYOが販売する「AIO-6LTE」は、太陽光の下でもはっきり見える視認性の高い大型6インチのIpsモニター、Wi-FiとBluetoothによるスマホ[…]
- 1
- 2