「ハイスペック空冷4気筒」の独自路線 1995年ヤマハ『XJR400R』【柏 秀樹の昭和~平成 カタログ蔵出しコラム Vol.13】

ヤマハ|XJR400R|1998年モデル

ライディングスクール講師、モータージャーナリストとして業界に貢献してきた柏秀樹さん、実は無数の蔵書を持つカタログマニアというもう一つの顔を持っています。昭和~平成と熱き時代のカタログを眺ていると、ついつい時間が過ぎ去っていき……。そんな“あの時代”を共有する連載です。第14回は、400ccネイキッドにあってハイスペック空冷4気筒という意地を貫いたXJR400とXJR400Rです。


●文/カタログ画像提供:柏秀樹 ●外部リンク:柏秀樹ライディングスクール(KRS)

空冷4気筒で当時の自主規制値いっぱいの最高出力を達成

1980年代後期、少しトーンダウンしたかのように見えたレーサーレプリカ人気ですが、ハイテク満載で高価格化する一方なのに1990年代に入っても各部の機械技術進化が大きく進んで根強い人気が続きました。ちなみに、1989年のCB-1が59.9万円だったのに対して、VFR400Rは74.9万円でした。

そんな中、日本の4社によるミドル級ネイキッドモデルが新たに台頭しました。扱い切れる性能と疲れにくいライディングポジション、リーズナブルな価格と維持費、そして何よりも昔からのバイクらしい古典的なスタイルによる安心感が多くのライダーのハートを鷲づかみにしたのです。

今回ご紹介したいのは数あるミドル級4気筒400ccモデルの中にあって独自のスタンスを持ったヤマハXJR400とXJR400Rです。

XJR400 主要諸元■全長2075 全幅745 全高1080 軸距1435 シート高770(各mm) 車重175kg(乾)■空冷4ストローク並列4気筒DOHC4バルブ 399cc 53ps/11000rpm 3.5kg-m/9500rpm 燃料タンク容量18L■タイヤサイズF=110/70-17 R=150/70-17 ●1993年3月27日発売 ●当時価格:57万9000円

XJR400R 主要諸元■全長2075 全幅735 全高1080 軸距1435 シート高770(各mm) 車重178kg(乾)■空冷4ストローク並列4気筒DOHC4バルブ 399cc 53ps/11000rpm 3.7kg-m/10000rpm 燃料タンク容量18L■タイヤサイズF=110/70-17 R=150/70-17 ●1995年11月17日発売 ●当時価格:59万9000円

XJR400Rのルーツは1993年3月にデビューしたXJR400です。エンジンは空冷式です。空冷といえばヤマハはXJR400の前に空冷4気筒400ccのツーリングバイク「ディバージョン」を1991年に発売しました。同時開発されたディバージョン600は欧州では高評価を得たものの国内向けの400は人気が今ひとつでした。

ベストセラーを記録した1989年登場の空冷エンジンのゼファーに対して、ほぼ同時期にホンダCB-1、バンディット400がデビューし、角張ったスタイルのZXR400と角型ヘッドライトのFX400Rなどが加わりました。いずれもエンジンは高性能水冷式4気筒エンジンを流用したミドル級のネイキッドです。

上記に対してヤマハはXJR400そしてその進化版XJR400Rをリリースしました。大型バイクを含めてバイク史上最後になるかもしれない完全新作の4ストロークDOHC4バルブ4気筒400ccの空冷エンジンを搭載して。

端正かつ精緻とも言えるシリンダーフィンの美を放つXJR400のエンジンは、軽量コンパクトな動弁系、高圧縮比採用と高効率な吸気ポート形状、熱対策として大型オイルクーラー装備の他にピストンの裏側にオイルを吹き付ける冷却方式も採用するなど多くの技術を盛り込んだ意欲作であるとカタログが語っています。

実際に走って感じたのは4ストローク4気筒エンジンらしく高回転になるほどシャープに吹け上がるエンジンであること。アクセルを開けた分だけちゃんと前へ進む快感、自在に旋回できるエンジンを400ccの空冷式で表現したかったことがわかります。400ccの空冷だから我慢! を一切感じさせない作り込みです。

車体系も侮れません。レプリカ系にありがちなハイペース走行の時こそ楽しい高剛性フレームではなく、あらゆる路面と速度域で車体のしなりが巧みに生かされています。前後タイヤの接地感に溢れ、軽快かつ安心感に満ちた操縦性ながらカーブを攻めるほど車体がコンパクトになっていく、まさに剛性バランスに優れた車体と前後サス設定が印象的でした。

ヤマハが2ストローク最後のロードスポーツとして開発した1980年登場のRZ250のエンジニアの心意気と大きく被ってきます。

初代XJR400は1994年2月に鮮やかなバイオレット系車体色を追加しました。同年6月にはリヤショックにオーリンズ(ヤマハのカタログではオーリンス)装備のXJR400Sが限定4000台で登場。

限定4000台で発売されたXJR400S(1994年6月発売)。

オーリンスというブランド品を付ければ売れるという発想も販売サイドにはあったかもしれませんが実際に乗って、そのこだわりを感じました。

それまでのリヤショックは伝統的な「ド・カルボン式」でしたがオーリンズの「ビルシュタイン式」では、スロットルをオンにした時の微細な変化がライダーに伝わる作りになっていました。

これは圧側と伸側を別室独立型にすることで作動性が向上し、セッティングの自由度もアップするもの。当時の取材データによるとSTDに対してオーリンス製はダンパーサイズがφ28mm→φ40mmにアップし、ショックユニット長は6mm長く、乗車1Gでは7mm高いリヤショックになりました。

減衰特性だけでなく、バネ定数を10%高めたスプリング特性の見直しも手伝って低速走行時の初期作動性をより高めながらハイスピード時の高荷重走行ではきっちり踏ん張る作りになりました。

XJR400SのカタログではキャスターなどすべてXJR400と同じなのに最小回転半径のみXJR400の2.7から2.8mになっています。それはリアショックの違いによる差から生まれたのではないかと判断できます。

XJR400Sでリアサスのグレードアップの手応えを感じたヤマハは1995年2月になるとオーリンスのリヤショック+ブレンボのブレーキをセットしたXJR400Rをリリースしました。

ピストン、ピストンピン、コンロッド軽量化、緻密に制御を詰めた点火系、キャブセッティング変更を受けて低速域を大幅に改善。XJRの高回転域の伸びとパワーはそのままに低中速域のドライバビリティが向上。マイペース走行で乗り心地が良好ながらハイペース走行時の安心感が大きくアップしました。

その1か月後に通常のリヤショックとブレーキ装備のSTD(スタンダード)モデルXJR400が登場。XJR400Rはブレーキキャリパーとリアショックのスプリングは黄色ですが、STDのブレーキキャリパーはグレイ。スプリングは黒。フロントフォークはシルバーのバフがけ。XJR400Rは精悍な黒として差別化していました。手元式チョークレバー、デュアルホーン、ウインカーポジションランプはXJR400Rと同じ設定でしたが2万円高価なXJR400Rに人気が集中しました。

ビキニカウル付きのスポーツ版も登場

1996年1月にはビキニカウルと角形ヘッドライト、デジタルメーターのXJR400RⅡが追加。CB400スーパーフォアにビキニカウルをセットした1995年3月登場のCB400スーパーフォア・バージョンRに似た設定ですが、見かけることが少ないレアな存在でした。

「ネイキッドのルールを変える。」として登場したXJR400RⅡ。同様にビキニカウルを装着して1995年3月に発売されたCB400スーパーフォア・バージョンRをライバル視していたのは明らかだった。

XJR400R II 主要諸元■全長2075 全幅735 全高1080 軸距1435 シート高760(各mm) 車重178kg(乾)■空冷4ストローク並列4気筒DOHC4バルブ 399cc 53ps/11000rpm 3.6kg-m/9500rpm 燃料タンク容量18L■タイヤサイズF=110/70-17 R=150/70-17 ●1996年1月発売 ●当時価格:60万9000円

1996年といえば、免許制度改正により教習所でも大型二輪免許が取得できるようになったことで魅力的な大型二輪車に多くが注目し、中型クラスへの注力は各社トーンダウンするのかと思われました。

そんな中でもXJR400Rの進化は止まりませんでした。

リヤショックとブレーキのグレードアップで注目度を高めたXJR400Rは1998年6月に外観を大幅に変更しました。同年3月に登場したXJR1300そのままのイメージでまとめられ、燃料タンクやテールカウルが凹凸を持たせながらボリュームのある形状へ。

燃料タンクは18Lから20L容量へ。タンクのエンブレムも立体式に戻りました。ニーグリップ部分の大きなエグリが強調され、カタログでもこの部分を主張するために右斜め後方からのカメラアングルと照明にこだわったことがわかります。

XJR1300のイメージチェンジに合わせ、XJR400Rもテールまわりのデザインを大幅変更。タンク容量なども変更を受けている。【XJR400R[1998]】

ほぼ同アングルながら人が跨っていない姿も掲載するあたりにこだわりが感じられる。【XJR400R[1998]】

ボリュームを増した燃料タンクと空冷4気筒の存在感。【XJR400R[1998]】

特に小股の切れ上がったロングヘアの女子が映るブラックの1999年型XJR400Rのカタログは、それまでの国内向けカタログとしては異例に大人びた表現でカタログマニアとして驚かされました。

テールランプもXJR1300と共通デザインへ。従来比約2倍の照射面積と独自の形状を持つことでXJR兄弟の存在感をアピールしました。シートはXJR400RⅡの時からの継続で低反発素材のワイラックスを導入。STDモデルはこの年式で廃止となりました。

1999年と2000年はカラーリングを変更し、2001年4月にはマフラー形状変更のほか約250箇所もの見直しでまさにフルモデルチェンジに近いXJR400Rとなりました。ハンドル位置は9mmアップしながら手前に4.4ミリ移動。ステップ位置も見直しながらステップとチェンジペダルが同軸配置となり、素材も鋳造から剛性の高い鍛造式へ。タイヤはこの時にラジアルとなりました。エンジンは軽量な樹脂製・異形翼型断面ピストンバルブを持つBSR30型キャブレターを採用。新排気ガス規制に対応しつつ、3kg減量のうち約2.5kgはバネ下重量の軽量化に注がれた新しいXJR400Rはさらにスポーツ性の強い空冷ネイキッドへと進みました。

こちらは2003年モデルのカタログ。

ブランド力のあるブレーキやサスペンションでバイク本体の商品性を上げるのは今でもよく使われる手法ですが、ヤマハはこのモデルからあえてブレンボをやめて高剛性でコンパクトなモノブロックMOS型ブレーキキャリパーを前後輪に新採用しました。それはブレンボのブランド力に依存しないヤマハの自信の表れと解釈できます。MOSキャリパー色は大半がブルーを採用していました。

実際にフル減速で攻め込んでみると、あらゆる速度域で意のままに速度調整できる高剛性なブレーキになっていました。もちろんブレーキフィールは車体やサス設定も大きく関係することですが、レプリカ系に勝るとも劣らないコントロール性と制動力を強く実感しました。

興味深いのは、ちょっと遡って1998年型以降の燃料タンクの大型化です。

XJR400R独自のスポーツ性を高めるためなら本来は燃料タンクを大きくすることは通常あり得ないことです。

同クラスでも20L容量は例外的でリッタークラスに相当する容量です。満タンなら重量アップで走りを阻害し、ライディングポジションの自由度も削られる可能性があります。

しかし実際に走り出せば、それは杞憂でした。むしろそれまでのフィット性に勝るとも劣らぬ形状に仕立ててあったのです。

タンクサイド部の大きなエグリはデザイン性とニーグリップしやすい形状が見事に噛み合った産物です。

この時期のヤマハはすでに秀作と呼べる水冷4気筒エンジンのFZ600の姉妹車FZ400を市場投入していました。

XJR400Rは最後にして最強の「空冷式4気筒ミドルスポーツ」であることを改めて噛み締めつつ、空冷4気筒エンジンを再定義し、前後サスとブレーキ性能をきっちりレプリカレベルに仕立て、400ccという枠を超えた力量感のあるスタイルを盛り込んだ本気のバイクだったと解釈できます。

2006年型はタンクのエンブレムはYAMAHAの立体型から丸い音叉マークがセットされています。そして2007年にXJR400Rは生産終了となりました。

見るほどに、読むほどに、有終の美を飾るにふさわしい空冷4気筒バイクを! というエンジニアの熱い思いがカタログを通して伝わってきます。

2006年12月発売の実質2004年モデルが最終型に。ストロボラインがスポーティさをアピールした。2003年モデル以降はマフラーの形も違っている。

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