調子を落としても“持ち直す力”がチャンピオンの資質

「小椋藍と中上貴晶 それぞれの“最後の”日本GP、マニアックすぎない見どころ紹介」【ノブ青木の上毛グランプリ新聞 Vol.17】

元MotoGPライダーの青木宣篤さんがお届けするマニアックなレース記事が上毛グランプリ新聞。1997年にGP500でルーキーイヤーながらランキング3位に入ったほか、プロトンKRやスズキでモトGPマシンの開発ライダーとして長年にわたって知見を蓄えてきたのがノブ青木こと青木宣篤さんだ。WEBヤングマシンで監修を務める「上毛GP新聞」。第17回は、今週末に決勝レースが開催される日本GPの見どころを珍しくライトに(!?)紹介します。


●監修:青木宣篤 ●まとめ:高橋剛 ●写真:Michelin, Pirelli, Red Bull

現地だからこそわかるMotoGPライダーの凄さ

MotoGPは第16戦日本GP(モビリティリゾートもてぎ・10月4日~6日)を迎え、北関東は大いに盛り上がっている。ワタシももちろん現地におり、さらにマニアックなネタを仕入れている。今後の上毛GP新聞にさらにご期待ください。

さて、今回はマニアック度合いを控えめに抑え、モビリティリゾートもてぎの見どころなどを解説したい。マニアだけではなく、幅広いファンの方たちにも喜んでいただける上毛GP新聞という、異色の回である(笑)。

いきなりですが、主要MotoGPライダー別・オススメコーナーをお知らせしよう。みんな大好きマルク・マルケスは、ブレーキングからの倒し込みに注目。ビクトリーコーナー手前や1~2コーナーにかけてなど、バッチバチにキマッたマルケスの制動&旋回を、ぜひ生でご覧いただきたい。

メディアスクラムで対応するマルク・マルケス。

ペッコことフランチェスコ・バニャイアの走りは、ちょっと地味に感じるかもしれない(笑)。でも、そこが彼の凄味だ。特にブレーキングは秀逸。3コーナー、5コーナー、そして90°コーナーへの進入などで、シュシュシュッとスムーズに、しかしキッチリと減速する様子は実にシブい。分かる人には分かることが多いだろう。

ホルヘ・マルティンはバッチバチにマシンを寝かせる派。1~2コーナー、3~4コーナーなどでのヒジ擦り、もしかすると肩擦りが見られるかもしれない。エネア・バスティアニーニはバッチバチに体をイン側に落とす派。どこもかしこも体を落としまくるので、どのコーナーでも目立つはずだ。

VR46のライダーらとコースを歩くペッコ・バニャイア。

こちらはホルヘ・マルティン。コース確認は大事。

MotoGPライダーのライディングは、いずれもバッチバチで本当にスゴイ。ここに挙げたライダーはごくごく一部だし、誰をとっても見応えは十分だ。今はMotoGP公式やテレビなどでたっぷりと映像を観ることはできるが、やはり現地だからこそ気付くこと、分かることは非常に多い。ぜひ楽しんでください。

Moto2最後の日本GPを迎える小椋藍

さて、日本GPということで、Moto2の小椋藍くんにも触れておきたい。彼は現在ランキングトップで、チャンピオンの最有力候補となっている。これはものすごいことだ。中量級での日本人チャンピオンになれば、2009年の青山博一くん以来、15年ぶりとなる。その前は2001年の大ちゃん(加藤大治郎)、さらにその前は1993年の哲ちゃん(原田哲也)だ。

しかし時代はすっかり変わっていて、今のMoto2はエンジン、ECU、そしてタイヤもワンメイク。差が少ないマシンで勝ち上がるのは、本当に大変なことだ。もし藍くんがチャンピオンを獲ったら、と想像すると……、いやもう、あまりの偉業に言葉が出ない。

サンマリノGPで今季3勝目を挙げた小椋藍。

来季はトラックハウス・レーシングからMotoGPにステップアップし、アプリリアを走らせることが決まっている。藍くんの起用を決めたダビデ・ブリビオは、「調子が悪くなったとしても、アイはそこから持ち直す力を備えているのがスゴイ」と語っていた。その通りだと思う。

長いシーズン中には、必ずや調子を崩す時がある。すべてのコースが自分の好みに合うわけではないし、すべてのコースが自分のマシンに合うわけでもない。うまく行かない時が必ずやってくる。

その時に、どん底まで行かずにある程度のダウンで済ませ、そこからしっかりと持ち直すには、ある意味で図太く、粘り強く、タフでなければならない。今の藍くんにはそういう逞しさが身に付いている。Moto2ライダーとしてはひとまず最後となる日本GPでの活躍にも、もちろん期待したい。

今季がラストシーズンの中上貴晶

「最後」と言えば、MotoGPの中上貴晶くんにとっても最後の日本GPとなる。少し別のマニアックな話になるが、お付き合いください。先日、最新型CBR1000RR-Rに乗る機会があり、正直、ちょっと首を傾げた。ものすごくパワフルなのだが、ただそれだけだったのだ。ドライバビリティや過渡特性──いわゆる「スロットルの開けやすさ」という面では、煮詰め不足を感じた。

「とりあえず出せるだけエンジンパワーを出す」というコンセプトなのかもしれない。パワーはもちろん大事だし、数値化できるものだから追いかけたくなるのも分かる。でも、もう少し乗り手の言うことを聞いた方がいいのではないか、と感じた。スロットルを開けにくく、開けても加速につながらないのだ。

もちろんこれは量販車の話で、MotoGPマシンとは直接的な関係はないかもしれない。しかしホンダRC213V+ジョアン・ミルの走りを真後ろから見ていたバニャイアが、満足に加速できていない様子に「コーナーの立ち上がりが悲惨だぞ……」とコメントしたことからすると、まったく無関係とは言えない気もする。

最新型CBRは、車体にも問題アリと感じた。ライダーに「もっと倒して!」と訴えかけてくる車体なのだが、「では」と倒し込むとエッジの接地感が薄い。倒すことで旋回力は発揮するのだが、どうにも怖いのだ。これも直接MotoGPマシンとつなげることはできないが、「ホンダの車体開発」というくくりの中で、まったくつながりがないとも言えないだろう。

外からライディングを見ているだけでも、中上くんが相当な苦労をしていることは分かっていた。しかし最新型CBR1000RR-Rを走らせたことで、それがよりリアルに実感できた。彼には心からの労いの言葉を贈ると同時に、来年以降開発ライダーを務める彼の言葉に、ホンダは真摯に耳を傾けてほしいと切に願う。彼なら間違えたことは言わないはずだ。

ホンダに必ずや有益な情報をもたらすであろう中上貴晶。

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