
近年はゲリラ豪雨線状降水帯が頻発し、短時間の集中的な降雨で一般道が冠水してしまうケースが増えています。しかし高速道路の場合、路面に轍(わだち)があったとしても水たまりを見ることはまれ。高速道路が雨の日でも快適で安全に走行できるのは、道路の舗装に秘密があるようです。
●文:ピーコックブルー(ヤングマシン編集部)
高速道路には雨水が溜まらない舗装が採用されている
そもそも、なぜ道路に雨水が溜まるのでしょうか。その疑問を解く鍵はアスファルトの粒度、つまり舗装アスファルトの粒同士の隙間にあります。
一般道の舗装には、アスファルト同士の密度が高い“密粒アスファルト”が使用されており、雨水がアスファルト内を通り抜けにくいため、路面上の轍や凹みに水溜まりができてしまいます。
一方、粒同士の隙間が大きい“開粒アスファルト”が使用される高速道路では、雨水が効率よく粒の隙間を通って道路外へ排水されるため、路面上に雨水が溜まりにくいというわけです。
この開粒アスファルト舗装は1980年代後半から導入され始め、現在では高速道路の舗装に広く用いられています。
すべての道路を開粒アスファルト舗装にできない理由
ここで、「一般道の舗装も『開粒アスファルト』にすれば、道路の冠水や水たまりがなくなるのでは?」と思う人も少なくないでしょう。
もちろん一般道であっても、大きな国道などでは開粒アスファルトが用いられているものの、すべての道路を開粒アスファルトにするには難しい事情があります。
排水性を高めた開粒アスファルト舗装には、透水性舗装/排水性舗装/保水性舗装の3種類が存在し、それぞれ以下のように固有の特徴があります。
- 透水性舗装:雨水をアスファルト表面から下層の地面まで透過させる構造。路床浸透型とも呼ばれる
- 排水性舗装:舗装の下に遮水層を設けることで、地面に雨水を浸透させず、路肩や排水口へと導く構造。おもに橋や高架などに用いられる
- 保水性舗装:アスファルトの隙間に雨水を保持させ蒸発させる構造。蒸発時の気化熱により路面温度の上昇を抑える効果を持つ。過剰な水は排水経路から排出される
透水性舗装は、下水/河川への雨水を流出させないため、ゲリラ豪雨による都市型洪水の防止に効果的です。しかし、地面に浸透する雨水が増えることで地盤が緩む恐れがあるため、使える場所が限られます。
排水性舗装/保水性舗装は、どちらも遮水層や排水設備が必要になるため、敷設コストが高くなる点が大きなデメリット。もちろん排水設備の容量を超える大雨では、排水性舗装/保水性舗装でも冠水する恐れもあります。
また開粒アスファルト自体の特徴として、内部の隙間が大きいぶん耐久性に劣る性質があるため、交通量が多い道路やトラックなどが通る道路では、耐用年数が短くなる難点があります。
その点、密度が高く耐久性に優れる密粒アスファルトは、緩やかな傾斜などをつけておくだけで、路面に溜った雨水の多くを路肩の側溝などへ流すことが可能です。さらに、敷設コスト/メンテナンスコストも開粒アスファルトに比べて安いため、道路の総延長が高速道路よりもはるかに長い一般道への敷設に適しています。
これが、すべての道路を開粒アスファルト舗装にできない理由です。ちなみにこのほかにも、さまざまな特性を持った舗装が存在し、道路環境などに応じて使い分けられています。
ハイドロプレーニング現象への対策として
開粒アスファルト舗装が敷設された道路は、雨水が溜まりにくい構造になっています。しかし、それは豪雨対策が主目的ではなく、雨天時の走行で起きやすい“ハイドロプレーニング現象”への安全対策のためです。
ハイドロプレーニング現象とは、タイヤと路面の間に形成された水膜によって、タイヤが浮き上がって制御不能になる現象のこと。水膜が厚く=速度が高まるほどハイドロプレーニング現象が起こりやすくなるため、水が溜まりにくい開粒アスファルト舗装は高速道路に最適といえるでしょう。
さらに開粒アスファルト舗装には、水はねによる視界悪化の防止/ヘッドライト光の乱反射防止に加え、大きめの粒と隙間によるタイヤグリップ向上/タイヤノイズ軽減などといったメリットもあります。
このように開粒アスファルトは、雨水が溜まらないだけでなく、さまざまな機能が備わっていることから「高機能舗装」とも呼ばれ、高速道路等での安全性向上に大きく貢献しています。
なお、高機能舗装は路面の摩擦係数が大きいため、転倒時にライダーが受けるダメージも大きくなる傾向にあります。高速道路を走行する際は、とくにプロテクターなどの装備をしっかり整えておきましょう。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
最新の関連記事(交通/社会問題)
一回の違反で免許取消になる違反 交通違反が点数制度となっているのは、よく知られている。交通違反や交通事故に対して一定の基礎点数が設定されており、3年間の累積に応じて免許停止や取消などの処分が課せられる[…]
大切なバイクのメンテナンス バイクや乗用車に限らず、どんな乗り物でもメンテナンスは必要不可欠です。定期的にメンテナンスを行うことで、長く乗り続けることができるだけでなく、事故を防ぐことにもつながります[…]
日本に存在する色とりどりの特殊車両たち 警察車両である白バイ以外にも取締りや犯罪抑止のためのオートバイが存在しています。それは、黒バイ、青バイ、赤バイ、黄バイと言われる4種のオートバイたち。意外と知ら[…]
重点的な交通取締り場所は決まっている 安全運転を心がけていても、パトカーや白バイの姿を目にすると、必要以上にドキッとしたり、速度メーターを確認したりするといった経験がある、ドライバーやライダーは少なく[…]
フルフェイスが万能というわけでもない ライダーにとって必需品であるヘルメット。みなさんは、どういった基準でヘルメットを選んでいますか。安全性やデザイン、機能性等、選ぶポイントはいろいろありますよね。 […]
人気記事ランキング(全体)
コラボモデルは継続販売、新作も生地は同スペックだ 昨年、Honda二輪デザイナー監修の「イナレムプレミアム レインジャケット ライディングモデル(4900円)」を発売したワークマン。これが大好評だった[…]
誤操作が少なくシンプルな構造で実現するという もう何十年も前から完成形に至っているような印象を受けるホンダ「スーパーカブ」シリーズだが、ホンダは今も改良の手を緩めているわけではない──。そんな気概を感[…]
振動の低減って言われるけど、何の振動? ハンドルバーの端っこに付いていいて、黒く塗られていたりメッキ処理がされていたりする部品がある。主に鉄でできている錘(おもり)で、その名もハンドルバーウエイト。4[…]
力むとライダーの荷重がタイヤに対し遅れて上下! よくバイクに乗るときは、力んだりせずにチカラを抜いてリラックスするようにいわれる。 もちろん緊張をほぐして余裕をもって操作しようという気持ちの部分もある[…]
250ccクラスは16歳から取得可能な“普通二輪免許”で運転できる バイクの免許は全部で7種類ある。原付(~50cc)、小型限定普通二輪(~125cc)、普通二輪(~400cc)、大型二輪(排気量無制[…]
最新の投稿記事(全体)
M1000RR:究極のレーシングパフォーマンス M1000RRは、BMW Motorradにおけるスーパースポーツの頂点に立つモデルだ。新型では、搭載される直列4気筒エンジンがさらなる進化を遂げ、最高[…]
スタンドの重量はわずか2.5kg! 「チタニウムリヤスタンド TYPE-T11」は、ひとつひとつ職人が手作業で仕上げています。湾曲する部分はチタンパイプを溶接してつなぎ合わせて制作。細部にクラフトマン[…]
8耐の熱い走りを思わせるライムグリーンと赤の差し色 2020年モデルの発売は、2019年9月1日。250ccと基本設計を共通化した2018年モデルにおけるフルモデルチェンジ時のスペックを引き継ぐ形で登[…]
【本田技研工業 電動事業開発本部 二輪・パワープロダクツ電動事業開発統括部 CUV e: LPL(開発責任者) 後藤香織さん】2006年入社。以来一貫して2輪車開発に従事し、おもに車体設計としてEV-[…]
スズキRG250Γ(ガンマ):レーサーそのものの仕様に大歓喜 1983年、ようやく運輸省(当時)がカウリングとセパレートハンドルを認可。Γ(ガンマ)は、その恩恵を受け、車体を一気に”近代化”した第1号[…]