神奈川県でバイク通学を許可している県立津久井(つくい)高等学校。その背景と理由、安全運転への取り組みや課題とは? 前回はバイク通学の現状と許可条件、バイクの安全運転講習について尋ねた。本記事では、交通安全や通学手段に関する考え方、取り組みと事例について紹介する。
●文:ヤングマシン編集部(田中淳麿)
バイク通学の条件と講習 ――バイク通学をしている生徒は何人ぐらいいるのでしょうか? 舟久保:定時制を除けば26名です。 ――神奈川県には三ない運動がなく、高校生でも免許を取れますが、バイク通学を始める[…]
バイクだけでなく、すべての通学手段がフラット
――バイク通学以外の安全教育、とくに交通安全に関する考え方と具体的な取り組みについて教えてください。
熊坂:バイク通学以外で言うと、自転車通学の生徒も50人ほどいますが、努力義務ではなく自転車通学の条件として、ヘルメットの着用を義務化しました。
PTAの方々/津久井警察署/交通安全協会の方々と、学校に近い三ヶ木(みかげ)の交差点で交通安全キャンペーンを展開したり、朝夕の登下校時に職員が声をかけるということを続けて、ヘルメットの着用もだいぶ進んできました。
また年に1回、グラウンドで全校生徒を対象にしたスケアードストレート*も実施しています。そうした取り組みが認めていただけて、地域における交通安全優良団体ということで令和5年神奈川県交通安全協会の会長表彰をいただきました。
*スケアードストレート:スタントマンによる交通事故の再現により、事故の衝撃と恐ろしさを視覚的に理解させる取り組み。
ただ、授業や特別活動などの中で、交通安全について特段位置付けているということはないですね。日々、バイクや自転車で通学している生徒を見て、声をかけてということを重視しています。
とくに自転車のヘルメットについては、「とにかく命を守るため」ということをもう何度も生徒に言って聞かせており、「かっこいい悪いじゃなくて、とにかく自分の命を守りなさい」と伝えています。
どうしてもヘルメットをかぶりたくないなら、他の通学手段を考えなさいと言って、自転車通学からバス通学に変えた生徒もいます。自転車のヘルメットが嫌だということで、バイク通学に変えた女子生徒もいましたね。
――ヘルメットが理由で、自転車通学からバイク通学に変えたという事例は初めて聞きました。
熊坂:通学の手段に、徒歩/バス/車/バイクの順に優先順位をつけているというようなことは一切ありません。すべての通学手段がフラットですから。生徒の住んでいる場所や交通状況によって、自転車をやめてバイクにするというのもアリなんです。
――坂が多い地域ですが、生徒さんは冬場はどうされていますか?
舟久保:冬場は乗ってこない生徒もいますし、バイク通学者に限らず親御さんの送迎もかなり増えますね。
神奈川県の交通安全モデル校に選定
熊坂:また、2022年度から3年間ですが、文部科学省による学校安全総合支援事業において、津久井/城山地域を中心とした交通安全をテーマに、学校と地域が協働して取り組むという委託事業を受けています。神奈川県教育委員会の担当者が本校の状況を常に見ており、バイク通学に関してもモデル地域の拠点校ということになっています。
――バイクも含めた通学手段とリスク(事故/事件)についてはどうお考えですか?
舟久保:天気が悪いときや寝不足、体調が良くないときは、なるべく乗らないようにと言っています。とくに、雨の降り始めは危ないよということを言いますし、朝は晴れていたからバイクで登校したけど、帰るときには雨が降っていたという時は、なるべくバイクを学校に置いていきなさいと言っています。
熊坂:とくに、自転車通学者のヘルメット着用を義務化してから繰り返し言っているのは、今朝まで事故もなく無事に来れたからといって、帰りも事故に遭わない保証はないんだよということです。これはかなり口を酸っぱくして言っています。
私自身がスーパーカブで道志みちを走っていたとき、ダンプが落とした砂利を踏んでハンドルを取られて、思わずブレーキをぎゅっとかけてしまって、滑って転んだという話も繰り返ししています。生徒も「それ聞いた聞いた」って言うぐらいですね。(次号に続く)
※掲載内容は取材時点(’23年12月)のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
最新の関連記事(三ない運動)
※特定原付:’23年7月に施行された新しい車両区分「特定小型原動機付自転車」について国交省が定めた略称。特定小型原付とも呼称される。 学校に戻ってから内容を伝える“伝達講習会” この取り組みは、高校生[…]
自分と他人の命を守ること コロナ禍開けの2023年は県内の二輪車交通事故が2331件と微増したが、そのような状況でも県内高校生の二輪車事故は減少傾向にあり、2023年は2022年に続いて死亡事故が発生[…]
スクールバス運行の経済的な限界 廃校や学区の統合により、児童や生徒の通学環境は年を追うごとに悪化している。菅政権下のこども庁(現こども家庭庁)では、スクールバスの全国的な展開も期待されたが、2023年[…]
*4+1ない運動:1980年、神奈川県高等学校交通安全運動推進会議が提唱した「免許を取らない/車をもたない/車を運転しない/車に乗せてもらわない」プラス「子供の要求に負けない」という運動。 駅から学校[…]
バイク通学の条件と講習 ――バイク通学をしている生徒は何人ぐらいいるのでしょうか? 舟久保:定時制を除けば26名です。 ――神奈川県には三ない運動がなく、高校生でも免許を取れますが、バイク通学を始める[…]
最新の関連記事(交通/社会問題)
一回の違反で免許取消になる違反 交通違反が点数制度となっているのは、よく知られている。交通違反や交通事故に対して一定の基礎点数が設定されており、3年間の累積に応じて免許停止や取消などの処分が課せられる[…]
大切なバイクのメンテナンス バイクや乗用車に限らず、どんな乗り物でもメンテナンスは必要不可欠です。定期的にメンテナンスを行うことで、長く乗り続けることができるだけでなく、事故を防ぐことにもつながります[…]
日本に存在する色とりどりの特殊車両たち 警察車両である白バイ以外にも取締りや犯罪抑止のためのオートバイが存在しています。それは、黒バイ、青バイ、赤バイ、黄バイと言われる4種のオートバイたち。意外と知ら[…]
重点的な交通取締り場所は決まっている 安全運転を心がけていても、パトカーや白バイの姿を目にすると、必要以上にドキッとしたり、速度メーターを確認したりするといった経験がある、ドライバーやライダーは少なく[…]
フルフェイスが万能というわけでもない ライダーにとって必需品であるヘルメット。みなさんは、どういった基準でヘルメットを選んでいますか。安全性やデザイン、機能性等、選ぶポイントはいろいろありますよね。 […]
人気記事ランキング(全体)
使わないのは「どうせ利かない」もしくは「踏んでもよくわからない」…… リヤブレーキをかけているライダーは、驚くほど少ない。 ブレーキペダルを踏んでも利いているかわからない、すぐABS(アンチロック)が[…]
振動の低減って言われるけど、何の振動? ハンドルバーの端っこに付いていいて、黒く塗られていたりメッキ処理がされていたりする部品がある。主に鉄でできている錘(おもり)で、その名もハンドルバーウエイト。4[…]
足着きがいい! クルーザーは上半身が直立したライディングポジションのものが主流で、シート高は700mmを切るケースも。アドベンチャーモデルでは片足ツンツンでも、クルーザーなら両足がカカトまでベタ付きと[…]
ホンダ新型「CB400」 偉い人も“公認”済み ホンダ2輪の総責任者である二輪・パワープロダクツ事業本部長が、ホンダ新ヨンヒャクの存在をすでに認めている。発言があったのは、2024年7月2日にホンダが[…]
一回の違反で免許取消になる違反 交通違反が点数制度となっているのは、よく知られている。交通違反や交通事故に対して一定の基礎点数が設定されており、3年間の累積に応じて免許停止や取消などの処分が課せられる[…]
最新の投稿記事(全体)
片手で食べられるハンバーガーはバイク乗りにおすすめ いよいよ始まるゴールデンウィーク。気候も暖かくなり、梅雨や猛暑を迎える前のこの時期はツーリングにうってつけだ。 ちょっとバイクで遠出しようか…そんな[…]
1位:スズキ『MotoGP復帰』&『850ccで復活』の可能性あり?! スズキを一躍、世界的メーカーに押し上げたカリスマ経営者、鈴木修氏が94歳で死去し騒然となったのは、2024年12月27日のこと。[…]
1105点の応募から8点の入賞作品を選出 株式会社モリタホールディングスは、このたび「第20回 未来の消防車アイデアコンテスト」を実施、受賞作品が決定となりました。 全国の小学生から集まった、1105[…]
「ETC専用化等のロードマップ」の現状 2020年に国土交通省が発表した「ETC専用化等のロードマップ」。その名の通り、高速道路の料金所をETC専用化にするための計画書だ。これによると、ETC専用化は[…]
一大ブームが巻き起こった1986年 滑走路で戦闘機と加速競争する姿、美人教官とのタンデム、苦悩を抱えて丘の上に佇む夕暮れ──。数々の印象的なシーンに初代ニンジャ=GPZ900Rがいた。 1986年に公[…]