[高校生のバイク通学]「今朝は無事に来れたからといって、帰りも事故に遭わない保証はないんだよ」

神奈川県でバイク通学を許可している県立津久井(つくい)高等学校。その背景と理由、安全運転への取り組みや課題とは? 前回はバイク通学の現状と許可条件、バイクの安全運転講習について尋ねた。本記事では、交通安全や通学手段に関する考え方、取り組みと事例について紹介する。


●文:ヤングマシン編集部(田中淳麿)

バイク通学問題|神奈川県立津久井高校

【神奈川県立津久井高校 熊坂和也校長(右)/舟久保健人教諭(左)】着任7年目の熊坂校長は、自身がスーパーカブで通勤することもあり、生徒の通学事情や点検/メンテナンスにも詳しい。バイク通学担当の舟久保先生は、硬式野球部の顧問でもある(現在は他校へ異動)。※以降、敬称略

バイクだけでなく、すべての通学手段がフラット

――バイク通学以外の安全教育、とくに交通安全に関する考え方と具体的な取り組みについて教えてください。

熊坂:バイク通学以外で言うと、自転車通学の生徒も50人ほどいますが、努力義務ではなく自転車通学の条件として、ヘルメットの着用を義務化しました。

PTAの方々/津久井警察署/交通安全協会の方々と、学校に近い三ヶ木(みかげ)の交差点で交通安全キャンペーンを展開したり、朝夕の登下校時に職員が声をかけるということを続けて、ヘルメットの着用もだいぶ進んできました。

また年に1回、グラウンドで全校生徒を対象にしたスケアードストレート*も実施しています。そうした取り組みが認めていただけて、地域における交通安全優良団体ということで令和5年神奈川県交通安全協会の会長表彰をいただきました。

*スケアードストレート:スタントマンによる交通事故の再現により、事故の衝撃と恐ろしさを視覚的に理解させる取り組み。

ただ、授業や特別活動などの中で、交通安全について特段位置付けているということはないですね。日々、バイクや自転車で通学している生徒を見て、声をかけてということを重視しています。

とくに自転車のヘルメットについては、「とにかく命を守るため」ということをもう何度も生徒に言って聞かせており、「かっこいい悪いじゃなくて、とにかく自分の命を守りなさい」と伝えています。

どうしてもヘルメットをかぶりたくないなら、他の通学手段を考えなさいと言って、自転車通学からバス通学に変えた生徒もいます。自転車のヘルメットが嫌だということで、バイク通学に変えた女子生徒もいましたね。

――ヘルメットが理由で、自転車通学からバイク通学に変えたという事例は初めて聞きました。

熊坂:通学の手段に、徒歩/バス/車/バイクの順に優先順位をつけているというようなことは一切ありません。すべての通学手段がフラットですから。生徒の住んでいる場所や交通状況によって、自転車をやめてバイクにするというのもアリなんです。

――坂が多い地域ですが、生徒さんは冬場はどうされていますか?

舟久保:冬場は乗ってこない生徒もいますし、バイク通学者に限らず親御さんの送迎もかなり増えますね。

神奈川県の交通安全モデル校に選定

熊坂:また、2022年度から3年間ですが、文部科学省による学校安全総合支援事業において、津久井/城山地域を中心とした交通安全をテーマに、学校と地域が協働して取り組むという委託事業を受けています。神奈川県教育委員会の担当者が本校の状況を常に見ており、バイク通学に関してもモデル地域の拠点校ということになっています。

――バイクも含めた通学手段とリスク(事故/事件)についてはどうお考えですか?

舟久保:天気が悪いときや寝不足、体調が良くないときは、なるべく乗らないようにと言っています。とくに、雨の降り始めは危ないよということを言いますし、朝は晴れていたからバイクで登校したけど、帰るときには雨が降っていたという時は、なるべくバイクを学校に置いていきなさいと言っています。

熊坂:とくに、自転車通学者のヘルメット着用を義務化してから繰り返し言っているのは、今朝まで事故もなく無事に来れたからといって、帰りも事故に遭わない保証はないんだよということです。これはかなり口を酸っぱくして言っています。

私自身がスーパーカブで道志みちを走っていたとき、ダンプが落とした砂利を踏んでハンドルを取られて、思わずブレーキをぎゅっとかけてしまって、滑って転んだという話も繰り返ししています。生徒も「それ聞いた聞いた」って言うぐらいですね。(次号に続く)

高校生のバイク通学|神奈川県立津久井高校

熊坂和也校長と愛車のスーパーカブ50。津久井高校はバイクに乗る先生が多く、職員用のバイク置き場も設けられていた。

高校生のバイク通学|神奈川県立津久井高校

校長室の壁にかけられていた、公益財団法人神奈川県交通安全協会からの感謝状。

※掲載内容は取材時点(’23年12月)のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。