イタリアを拠点とするMVアグスタは、『LXP ORIOLI(エルエックスピー・オリオリ)』に続くアドベンチャーバイクのニューモデル、『ENDURO VELOCE(エンデューロ・ヴェローチェ』を発表した。2024年4月現在、日本導入時期や日本仕様の主要諸元、車両価格は未定だ。ツーリズモヴェローチェ、スーパーヴェローチェに続く3機種目のヴェローチェを名乗るマシンとなる。
●文:ヤングマシン編集部(山下剛) ●外部リンク:MVアグスタ
オフロード走破性を向上させたMVアグスタのアドベンチャー登場!
’23年のEICMA(ミラノショー)で、MVアグスタが世界初公開して話題となった『LXPオリオリ』は、パリ=ダカールラリーで4度の優勝を果たした名ライダー、エディ・オリオリ選手にちなんだアドベンチャーバイクだ。オリオリ選手は、その4度の優勝のうち、2度をカジバ・エレファントで成し遂げている。
MVアグスタとカジバの関係について、古くからのバイクファンはご存知だろうが、新しい人たちは、「過去のカジバの活躍が、MVアグスタのニューモデルの車名になるのか」がわからないかもしれない。ここで簡単に説明しておこう。
MVアグスタの前身は、1907年にジョバンニ・アグスタ伯爵がイタリア・ヴェルゲーラで創業した航空機メーカー「アグスタ」だ。第一次大戦、第二次大戦ともに航空機の製造や整備を手がけてきたが、やがて終戦を迎えると、ドイツ、日本とともにイタリアも連合国によって航空機製造を禁じられた。そのためアグスタ社は、名を「MVアグスタ」に改めるとともにバイク製造を開始する。社名の「MV」とは、「メカニカ・ヴェルゲーラ」の略称だ。そのとき、すでにジョバンニ氏は死去しており、長男のドメニコ氏がMVアグスタを牽引していくことになる。
その後、MVアグスタは’50~’70年代にイタリア国内レースのみならず世界グランプリでも大活躍し、37もの世界タイトルを獲得。母国イタリアはもちろん世界中のバイクファンを熱狂させた。その魅力のひとつは、2気筒が主流だった初期のバイクレースにおいて、3気筒や4気筒エンジンを搭載したレーシングマシンで圧勝したことにあった。
しかしドメニコ氏の死去、国内バイク産業の落ち込み、’50年代に再興していた航空機部門に注力するなどの理由によって、MVアグスタはレースだけでなくバイクの市販車製造、販売からも撤退したのである。なお、MVアグスタの航空機部門は別会社となる『アグスタ社』として存続しており、現在も高性能ヘリコプターの開発、生産、販売をしている。
そのようにバイク史の表舞台から姿を消したMVアグスタだったが、とくにイタリアのバイクファンに与えた影響は大きく、MVの名は永遠であり、憧れであり続けた。イタリアのバイクメーカー、カジバの創業者であるクラウディオ・カスティリオーニ氏もそのひとりで、1991年にMVアグスタの商標権を手中にしてMVアグスタを継承。1997年のミラノショーで、復興MVアグスタの第1号車となる『F4』を発表し、世界中のエンスージアストたちは驚愕し、感嘆したのである。その後、カスティリオーニ氏は社名をカジバからMVアグスタに変更した。カジバの名は消えてしまったが、MVアグスタの名は残ったのだ。
このように、MVアグスタはパリ=ダカールに参戦したことはなく、直接的な関係はない。しかしカジバによって両社はバイク史のなかで密接につながっているのである。
逆回転クランクの3気筒など独自のメカニズムに、DLCほか贅を尽くした装備
さて、前置きが長くなってしまったが、エンデューロヴェローチェの詳細に戻ろう。エンデューロヴェローチェは、世界限定500台で販売されているLXPオリオリの量産モデルであり、オフロード走破性をさらに高めたアドベンチャーバイクだ。
エンジンは、LXPオリオリと同一となる931cc水冷並列3気筒で、これらのモデルのために新開発されたものだ。カムシャフトにDLC(ダイヤモンド・ライク・コーティング)を施してフリクションロスを軽減したほか、カウンターシャフトやクランクギヤの調整によって振動を抑制しており、MVアグスタらしい高品質な設計となっている。さらに、近年のMVアグスタが得意とする逆回転クランクを採用することで、前後タイヤによるジャイロ効果を相殺し、軽快なハンドリングとターンインを実現している。そのため21インチという大径のフロントホイールを装着しつつも、素早い切り返しが可能だ。
また、最高出力は124ps/10000rpmと高回転型ではあるものの、3000rpmで最大トルクの85%を発生することで、オンロード、オフロードを問わず扱いやすい特性としている。
フレームはペリメター構造のクローズドダブルクレードルで、高速走行とオフロード走行のいずれも高次元の安定性を発揮する。整備性を高めるため、リヤフレームは着脱可能としている。
フロントフォークはザックス製φ48mm倒立式で、プリロード/コンプレッション/リバウンドを調整可能なフルアジャスタブル。リヤショックもザックス製のフルアジャスタブルで、プログレッシブリンクを介してアルミ製スイングアームに接続される。ストローク/トラベル量は前後ともに210mmとした。
ブレーキはブレンボ製スタイルマキャリパーをフロントに装着し、ディスク径はフロントがφ320mm×2、リヤはφ265mmだ。
ホイール径はフロント21インチ、リヤ18インチと、オフロードタイヤの選択肢が豊富なサイズとし、チューブレスタイヤも装着可能なエキセル製リムを採用した。タイヤはブリヂストン製バトラックスAX41を標準装着する。
シート高は850mmと870mmの2段階に調整できる。
もちろん電子制御デバイスも充実している。走行モードはアーバン、ツーリング、オフロード、カスタムオールテレインの4種から選択可能。ライドバイワイヤと6軸IMUを搭載し、ABSとトラクションコントロールはリーン対応だ。
コーナリングABSは介入度をレベル1とレベル2の2段階から選択でき、RLM(リヤホイールリフトアップ軽減)と連携する。レベル1ではリヤのABSはカットオフされ、オフロード走行における自由度を高めている。なお、レベル1選択時でもRLMは機能するが、走行モードをエンデューロ、またはカスタムではABSをカットオフできる。
トラクションコントロールは介入レベルを8段階から選択でき、カットオフも可能としている。そのうち5種類は舗装路用、2種はオフロード用、残りは滑りやすい濡れた路面用だ。
エンジンブレーキコントロールは2段階で、これは走行モードに応じて自動設定される。レベル1ではエンジンブレーキが抑制されるが、レベル2では介入しない。また、ローンチコントロールも搭載しており、右側ハンドルスイッチのボタンをオンにすると驚異的な発進加速をし、100km/hまでの到達時間は3.72秒だ。FLC(フロントリフトコントロール)も搭載しているので、不意のスロットル操作でフロントタイヤが浮き上がっても出力がカットされ、フロントタイヤを接地させる。
クルーズコントロールは1km/hまたは5km/h毎に設定可能で、スロットルを逆方向に回すと解除されるため、ブレーキを操作することなく高速巡航できる。
走行モードや各種電子制御デバイスの状況も確認しやすい液晶ディスプレイや7インチの大型で、輝度調整やグラフィックのレイアウト変更も可能。ブルートゥースのほおかWi-Fiでもスマートフォンなどと連携できる。スマートフォンに専用アプリ『MV Rideアプリ』をインストールすると、ターンバイターン方式のナビゲーションシステムを利用でき、経路の保存や共有、電子制御デバイスの各種設定を行える。また、イグニッションはキーレスシステムを採用したほか、ハンドルスイッチにはバックライトを備え、夜間走行時の操作性を向上させている。
純正アクセサリーも充実しており、左側39L、右側32L容量のアルミ製パニアケース、プロテクションバー、強化アルミ製スキッドプレート、サブライト、テルミニョーニ製チタンエキゾーストなどが揃っている。
カスティリオーニ氏がMVアグスタを復興してから紆余曲折を経て、現在ではオーストリアを拠点とするKTM傘下となっている。しかしMVアグスタの開発と生産を行う本社工場は、今もイタリア北部のヴァレーゼにあり、かつてはカジバの本社でもあったこの工場の正門には「CAGIVA」の名が刻まれたアーチが残っている。
LXPオリオリ、そしてエンデューロヴェローチェは、カジバとの歴史的なつながりだけでなく、カスティリオーニ氏のMVアグスタへの情熱を示す伝統でもあるだろう。
MV AGUSTA ENDURO VELOCE
主要諸元■全長2360 全幅980 全高― 軸距 シート高850/870(各mm) 乾燥車重224kg■水冷並列3気筒DOHC4バルブ 931cc 124ps/10000rpm 10.4kg-m/7000rpm 変速機6段 燃料タンク容量20L■タイヤサイズF=90/90-21 R=150/70-18 ●色:赤 ●価格:未定 ●発売日:未定 ※主要諸元は欧州仕様
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※掲載されている製品等について、当サイトがその品質等を十全に保証するものではありません。よって、その購入/利用にあたっては自己責任にてお願いします。
最新の関連記事(MVアグスタ)
998cc・並列4気筒のスーパーヴェローチェ1000セリエオロ爆誕!! MVアグスタ スーパーヴェローチェシリーズの最新作、208psを発揮する998cc並列4気筒エンジン搭載の「Superveloc[…]
SUPERVELOCE 1000 SERIE ORO【世界限定300台】 2022年秋のEICMA 2022で世界初公開された4気筒版のスーパーヴェローチェが1000だ。この“セリエオロ”は、エポック[…]
星座から読み解くあなたに最適なバイク 一人ひとりの特性を明らかにしてその日の運を占ってくれる星座占い。実は、「私がいて、あなたがいて、どんな関係で、どんな影響を与えるか」といった、相性の良し悪しをはっ[…]
ディーラー販売せず、公道走行の登録は不可 走る芸術品とも言われるMVアグスタ・スーパーヴェローチェをベースに、世界的アーティストが「動く彫刻」をテーマとした作品へと昇華したモデルが限定わずか6台で制作[…]
それ、同じヤツ何台もつくれるのか? 病院のベッドで決まったモーターサイクルクリエイターへの道 「もうこれ以上は仲間に迷惑。あのバイクを売って仕事に集中するんだ」 趣味のアマチュアレースで何度目かの転倒[…]
最新の関連記事(新型アドベンチャー/クロスオーバー/オフロード)
タイや欧州、北米で先行発表済みのW230とメグロS1 カワサキモータースジャパンは、新型モデル「W230」と「メグロS1」をタイ、欧州、北米に続き日本でも2024年11月下旬に発売すると発表。これと併[…]
電子制御も充実のロングセラー・ミドルクラスアドベンチャー ヴェルシス650は、以前のモデルは輸出専用モデルとして海外で販売されてきたが、2022年モデルで待望のフルモデルチェンジを果たし、2023年末[…]
前輪19インチの800は全色刷新、前輪21インチの800DEは一部刷新とホイール色変更 スズキ「Vストローム800」「Vストローム800DE」の2025年モデルが登場。前者の無印800は全カラーバリエ[…]
排気量アップだけでなくクイックシフターなど細部もリファイン 前後17インチホイールを採用し、高速道路から荒れた田舎道まで快適に走破できる新型アドベンチャークロスオーバー「ヴェルシス1100」が登場した[…]
世界初、デイタイムランニングライトにウインカーを統合 ホンダは欧州で新型「X-ADV」を発表。ヘッドライトまわりを含むフェイスリフトに加え、テクノロジーやオールラウンドな扱いやすさに磨きをかけたという[…]
人気記事ランキング(全体)
日本で登場したときの想定価格は60万円台か カワサキはタイに続き北米でも「W230}を発表。空冷233cc単気筒エンジンはKLX230のものをベースとしているが、レトロモデルにふさわしいパワー特性と外[…]
ヤマハの3気筒スーパースポーツがついに登場! ヤマハは欧州でR9、北米でYZF-R9を発表した。車名は仕向け地によって『YZF』を省略しているようだが、基本的には(細かな違いはあるとしても)同じマシン[…]
ライダーを魅了してやまない「ハイパーVTEC」 CB400SF(スーパーフォア)に採用されていることでも有名な、バルブ制御システム「ハイパーVTEC(HYPER VTEC)」。この口コミを検索してみる[…]
燃料タンクも新作! サスペンションカバーやディープフェンダーも特徴 ホンダは、昨年11月に車両の姿を公開し、後日国内で発売予定としていた新型モデル「GB350C」をついに正式発表、2024年10月10[…]
1441cc、自然吸気のモンスターは北米で健在! かつてZZ-R1100とCBR1100XXの対決を軸に発展し、ハヤブサやニンジャZX-12Rの登場からのちにメガスポーツと呼ばれたカテゴリーがある。現[…]
最新の投稿記事(全体)
元世界チャンピオンが全日本トライアルに参戦、先行して参戦しているヤマハに挑む ホンダが開発中の電動トライアルバイク「RTLエレクトリック」で、藤波貴久さんが全日本トライアル選手権に参戦する。そんなニュ[…]
水冷GVシリーズのGV125S/GV300Sに加え、250モデル×3機種を追加 ヒョースンモータージャパンは、新型水冷250cc・V型2気筒エンジンを搭載したクルーザーモデル「GV250」シリーズ3機[…]
ヤマハの3気筒スーパースポーツがついに登場! ヤマハは、欧州および北米で正式発表されたYZF-R9を日本国内にも2025年春以降に導入すると明らかにした。価格や諸元については国内未発表だが、欧州仕様の[…]
タイや欧州、北米で先行発表済みのW230とメグロS1 カワサキモータースジャパンは、新型モデル「W230」と「メグロS1」をタイ、欧州、北米に続き日本でも2024年11月下旬に発売すると発表。これと併[…]
CYBER LEATHER グローブシリーズの特徴 ライダーの基本的な要求である、「怪我から身を守ること」「清潔感を保持すること」「ストレスフリーで快適に走行できること」に基づいて作られたスタンダード[…]
- 1
- 2