
1993年、デビューイヤーにいきなり世界GP250チャンピオンを獲得した原田哲也さん。虎視眈々とチャンスを狙い、ここぞという時に勝負を仕掛ける鋭い走りから「クールデビル」と呼ばれ、たびたび上位争いを繰り広げた。’02年に現役を引退し、今はツーリングやオフロードラン、ホビーレースなど幅広くバイクを楽しんでいる。そんな原田さんのWEBヤングマシン連載は、バイクやレースに関するあれこれを大いに語るWEBコラム。第120回は、チャンピオンになれるライダーとなれないライダーを分ける運不運とシーズン戦略について。
TEXT: Go TAKAHASHI PHOTO: Aprilia, Michelin, Red Bull,
初優勝の翌日にマシントラブルで転倒したビニャーレス
MotoGP第2戦ポルトガルGPは、土曜日のスプリントレースでマーベリック・ビニャーレス(アプリリア)が優勝しました。’21年、シーズン途中でヤマハからアプリリアに移籍したビニャーレス。アプリリアでの初優勝には、3年弱ほどかかったことになります。
「意外と時間がかかったな」というのが僕の印象です。もともと速さを備えたライダーなので、移籍後はポンと優勝するのではないかと思っていたんです。表彰台は何度も獲得しましたが、なかなか頂点には立つことができませんでしたよね。チームメイトのアレイシ・エスパルガロの方がずっと目立っていました。
しかし昨シーズンの中盤~終盤にかけてようやく調子を上げ、それが今回のスプリントレース優勝につながりました。「これでついに波に乗れるかな」と思っていた矢先、日曜日の決勝レースは2位走行中にミッショントラブルが原因で転倒、リタイヤ……。どうにも運がないライダーのひとりです。
ビニャーレスは、これまでもたびたびもったいないタイミングでトラブルなどに見舞われてきました。チャンピオンを獲ってもおかしくない速さを持ったライダーなのに、どうにも成績にムラがある。もちろん彼自身のミスもありますが、今回のようなマシントラブルも目立ちます。
トラブルは転倒する数周前から出ていたというビニャーレス。調子は悪くなかっただけに……。
チャンピオンになるためには、運が必要なんですよね……。振り返ると、僕はGP参戦初年度でチャンピオンになって、運を使い果たしました(笑)。でも本当に僕は割と運がない方。アプリリアに移籍して凱旋となる’97年と’98年の日本GPは、いずれもプラグが折れて片肺走行でした。両年とも勝ったのは加藤大治郎くん……。「何かある」としか思えませんでした。
アプリリア時代は本当にトラブルが多かったんです。飛び石がキャブレターに飛び込んで壊れる、なんてこともありました。「え!? そんなことある!?」と言いたくなるようなことが多く、腐ることはありませんでしたが、「またオレか……」と思っていたのは事実です。
今になって思えば、そういう運も含めて実力なんだな、と。当時はそんなことを1ミリも思いませんでしたが、運も実力です。マックス・ビアッジは世界GP250ccクラスで4回もチャンピオンになっているのに、僕は1回。この差はもう、運も含めた実力だとしか言いようがありません。
ドジャースに移籍して待望のホームランを打った大谷翔平選手が、「メンタルを言い訳にしたくない。そこも技術だと思っている」と言っていましたよね。その考え方こそが、超一流の証です。人間誰しも、何かのせいにしたがる。どこかに言い訳を作りたがるものなんです。
僕はきっと、運のせいにしていた、ということでしょう。大谷選手のような超一流なら、そうは考えないはずです。例えば僕がプラグトラブルに見舞われることが多かったのも、運と言ってしまえばそれまでです。でも、もしかしたらセッティングの煮詰めが足りなかったのかもしれない。大谷選手なら「もっとやりようはあるはずだ」と考え、実行するのだと思います。
つまり、トラブルを運のせいだと考えてしまったのが、僕の限界だったんです。それこそが、アプリリアではタイトルを獲れなかった大きな要因だったのかもしれません。そういう意味では、アプリリアで3回も世界GP250ccクラスでチャンピオンになり、スーパーバイク世界選手権でもアプリリアで2回チャンピオンになったビアッジは、超一流だったんでしょうね。……いや、彼もGP最高峰クラスではチャンピオンになれなかったから、一流かな(笑)。
2019年のファンイベントでRSV4を走らせるマックス・ビアッジ。
全21戦・42レースを通して戦うには?
さて、ポルトガルGPに話を戻しますが、決勝レースで優勝したのはホルヘ・マルティンでした。昨年から強さを見せ始めていたマルティンですが、今年はさらに充実しているようです。コメントも自信に満ちていますよね。
決勝レースを制したマルティン。写真の時点では背後にビニャーレスがいた。
ただ、今シーズンは全21戦。スプリントレースを含めると42レースが行われることになります。これはちょっと、’02年に現役を引退した僕には想像ができません。よく「レース中のタイヤマネージメントが大事」なんて話が出ますが、42レースあると思うと、タイヤマネージメントよりもシーズン通してのリスクマネージメントの方がよっぽど大事です。
例えばケガをして3戦連続で出場できなかったとします。スプリントレースがなければ、最大で75点を失ったことになります。でもスプリントレースがあると、最大で111点。ライバルがすべて優勝した場合、自分と最大で111点差が開くなんて、非常に大きな痛手です。
僕なら、ここぞというレース以外では優勝は狙わないかもしれません。表彰台をターゲットにして、ポイントを睨みながら安全にシーズンを戦うことを選びそうです。ここはライダーによっていろいろな考え方があると思いますが、無理に勝ちを狙って転倒してケガでもしようものなら、大きくポイントを失う可能性が高い。それなら手堅く安全に……と、僕なら考えてしまいます。
だから、今のように42レースもあるシーズンを戦ううえでもっとも手強いライバルは、「勝ちたくなってしまう自分」かもしれません。ライダーですから、いくら頭では分かっていても、走り出してしまうとつい欲が出てしまいます。そういう自分を抑えられるかどうかが、とても大きなポイントになると思います。
そして、今のMotoGPライダーの中でもっとも自制心が強いと思っていたのがフランチェスコ・バニャイアだったんですが、ポルトガルGPではちょっとやらかした感がありますね。次回はバニャイアとマルク・マルケスのクラッシュと、とんでもない化け物、ペドロ・アコスタについてお話します。
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