1993年、デビューイヤーにいきなり世界GP250チャンピオンを獲得した原田哲也さん。虎視眈々とチャンスを狙い、ここぞという時に勝負を仕掛ける鋭い走りから「クールデビル」と呼ばれ、たびたび上位争いを繰り広げた。’02年に現役を引退し、今はツーリングやオフロードラン、ホビーレースなど幅広くバイクを楽しんでいる。そんな原田さんのWEBヤングマシン連載は、バイクやレースに関するあれこれを大いに語るWEBコラム。第116回は、間もなく開幕の2024年シーズン、マルク・マルケスの仕上がりに焦点を当てました。
TEXT: Go TAKAHASHI PHOTO: Michelin, Red Bull
「マルケスがチャンピオン」と言ってしまったけど……
ドゥカティに移籍して注目を集めているマルク・マルケスですが、マレーシアとカタールで行われた公式テストを見ている限りでは、「思ったよりもよくないな」という印象を持っています。そうは言っても、マレーシアのセパンサーキットは「好きじゃない」と言いつつ6番手ですし、カタールでも4番手。まずまずではあるのですが、もうひとつ存在感に欠けますね。
日テレジータスのMotoGP座談会では「マルケスがチャンピオン」なんて予想をしてしまいましたが、現時点ではまだチャンピオンを獲れる感じがしない、というのが率直なところです。
マルケスは、人の後ろにくっついてタイムを出す姿がよく見られますよね。「コバンザメ」などと言われることもあるようだし、王者にふさわしいかと言われればちょっと疑問……。でもレギュレーションに触れているわけではないので、まあ、いいのではないでしょうか(笑)。彼はああやって人の走りを観察しながら、自分のペースを作っていきます。
テストでは人の後ろにくっつくというより、自分がドゥカティの走らせ方を掴むことに集中していました。これがいざ実戦になり、予選などでみんなが高い次元で走り始めた時に、いよいよコバンザメ走法でペースアップしていくでしょう。意外と彼は、人の走りから多くを学び、自分の体に染み込ませていくタイプなんです。
マルケスらしい驚速タイムがまだ見られていないのは、ホンダ・ファクトリーチームからドゥカティ・サテライトチームに移籍したことも大きく影響しているはずです。自分が望んだ通りのパーツが手に入るわけではありませんし、ポジション合わせにも妥協が必要です。
そしてマルケスの場合、型落ちの’23年型マシンに乗っていることも響いています。カタールでは、最新’24年型のフランチェスコ・バニャイアとエネア・バスティアニーニが1-2フィニッシュ。かなり調子がよさそうです。そして’23年型のマルケスが4番手。
思い起こせば’23シーズンは、開幕前テストからシーズン序盤にかけて、バニャイアがだいぶ手こずっていました。シーズンが進むにつれて徐々によくなってきたのは、さすがファクトリーチームという感じ。最終的にはきっちりと2連覇を果たしています。
この経験を踏まえて’24年型が作られるわけですから、よりよくなっていて当たり前。逆に、いかにネガを潰したとはいえ、’23年型には少なからず問題があったということ。結果はバニャイアの2連覇でしたが、「まわりと比べてよかった」というだけで、特別に優れていたわけではなかったのかもしれません。
マルケスをもってしてもトップタイムが出せないということは、もはや’23年型の限界なのでしょう。……こんな風に思えるのは、マルケスのライダーとしてのパフォーマンスが相変わらず圧倒的だから、なのですが……。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
あなたにおすすめの関連記事
『マシンのせい』とは違う角度から見てみると── 最近ファビオ・クアルタラロ(ヤマハ)とマルク・マルケス(ホンダ)の影が薄いと感じませんか? ふたりとも、今、言われ放題の日本メーカーに乗っているから、「[…]
勝ちたいからドゥカティを選んだ。日本メーカーに喧嘩を売りに行く 加賀山就臣さんと言えば、スズキで長年にわたってライダーを務め、全日本ロードレースのみならずスーパーバイク世界選手権(WSBK)、英国スー[…]
バニャイアは何が上手かったのか モトGPも2023シーズンが終わり、ドゥカティのフランチェスコ・バニャイアが2年連続でチャンピオンを獲得した。連覇の要因はいろいろあるが、上毛グランプリ新聞はマニアック[…]
写真はパワー6 安心のウォームアップ性でストリートもコースも楽しめる まずはストリート向けスポーツの「パワー6」ですが、スポーツツーリングタイヤを履いている方が「スポーツタイヤを試してみたいな」と思っ[…]
最新の関連記事([連載] 元世界GP王者・原田哲也のバイクトーク)
「おいテツヤ、肉を焼いてるから早く来い!」 年末年始は、家族でケニー・ロバーツさんの家に遊びに行きました。ケニーさんは12月31日が誕生日なので、バースデーパーティーと新年会を兼ねて、仲間たちで集まる[…]
開幕までに最低でもあと1秒、トップに近付くならさらに0.5秒 Moto2のチャンピオンになり、来年はMotoGPに昇格する小椋藍くんですが、シーズンが終わってからめちゃくちゃ多忙なようです。何しろ世界[…]
ポイントを取りこぼしたバニャイアと、シーズンを通して安定していたマルティン MotoGPの2024シーズンが終わりました。1番のサプライズは、ドゥカティ・ファクトリーのフランチェスコ・バニャイアが決勝[…]
勝てるはずのないマシンで勝つマルケス、彼がファクトリー入りする前にタイトルを獲りたい2人 MotoGPのタイトル争いに関してコラムを書こうとしたら、最終戦の舞台であるスペイン・バレンシアが集中豪雨によ[…]
Moto2クラスでは初の日本人チャンピオン 日本人ライダーの世界チャンピオン誕生です! ロードレース世界選手権の中排気量クラスとしては青山博一くん以来15年ぶり、2010年に始まったMoto2クラスで[…]
最新の関連記事(モトGP)
「おいテツヤ、肉を焼いてるから早く来い!」 年末年始は、家族でケニー・ロバーツさんの家に遊びに行きました。ケニーさんは12月31日が誕生日なので、バースデーパーティーと新年会を兼ねて、仲間たちで集まる[…]
高回転まで回す/回さないの“キワ”を狙うバニャイア 2024年最終戦ソリダリティGPと、2025年キックオフとも言えるレース後のテストを視察してきたので、遅ればせながらマニアックにご報告したい。 今年[…]
チーム、タイヤ、マシン、大きな変化があった2024年 2024年シーズン、小椋はチームを移籍、マシンもカレックスからボスコスクーロに変わった。さらにMoto2クラスのタイヤはダンロップからピレリになる[…]
中須賀克行から王座をもぎ取った岡本裕生は来季WSSPへ 全日本ロードレース選手権最終戦鈴鹿(10月26日・27日)を終えてから、アッという間に12月となり、2024年も終わりを告げようとしています。全[…]
開幕までに最低でもあと1秒、トップに近付くならさらに0.5秒 Moto2のチャンピオンになり、来年はMotoGPに昇格する小椋藍くんですが、シーズンが終わってからめちゃくちゃ多忙なようです。何しろ世界[…]
人気記事ランキング(全体)
プロトは国内導入を前のめりに検討中! イタリアで1911年に誕生し、現在は中国QJグループの傘下にあるベネリは、Designed in Italyの個性的なモデルをラインナップすることで知られている。[…]
6速MT仕様に加えEクラッチ仕様を設定、SエディションはEクラッチ仕様のみに 2017年4月に発売され、翌年から2024年まで7年連続で軽二輪クラスの販売台数で断トツの1位を記録し続けているレブル25[…]
「おいテツヤ、肉を焼いてるから早く来い!」 年末年始は、家族でケニー・ロバーツさんの家に遊びに行きました。ケニーさんは12月31日が誕生日なので、バースデーパーティーと新年会を兼ねて、仲間たちで集まる[…]
高回転のバルブ往復にスプリングが追従できないとバルブがピストンに衝突してエンジンを壊すので、赤いゾーンまで回すのは絶対に厳禁! 回転計(タコメーター)の高回転域に表示されるレッドゾーン、赤くなっている[…]
250と共通設計としたことでツアラーから変貌 2018年型でフルモデルチェンジを敢行した際、従来の650共通ではなく250共通設計へと方向変換。ライトウェイトスーパースポーツへ大きく舵を切り替えた。完[…]
最新の投稿記事(全体)
デイトナを制した伝説のマシンが代官山に出現! 日本が世界に誇るサンダンスハーレーのレーシングマシン「Daytona Weapon I」と「Daytona Weapon II」が、代官山蔦屋書店(東京都[…]
私は冬用グローブを使うときにインナーグローブを併用しています。防寒目的もありますし、冬用グローブを清潔に保つ目的もあります。最近、長年使い続けたインナーグローブが破れてしまったこともあり、新品にしよう[…]
白バイ隊員はバイクバカ⁉ 白バイに乗りたい、白バイ隊員になりたい、と白バイ隊員を目指す警察官のなかでバイクに関心のない人はいないと言い切っていいかと思います。少なくとも私が知るなかではひとりもいません[…]
みなさんは「バイク用のインカム」に最低限必要な機能はなに? と聞かれたら何だと答えますか? 近年はインカム市場にもさまざまなメーカーが参入してきており、いちユーザーとしては選べる選択肢が多いのは嬉しい[…]
年間6000台が目前に! BMW Motorradは、2024年の新規登録台数が2010年7月の統計開始以来、史上最高を記録。BMW Motorradの登録台数は250cc市場で5,986台(対前年比[…]
- 1
- 2