街中では15秒ブーストを使いきれない!

【速報】カワサキ初の電動スポーツバイク「ニンジャe-1」速攻インプレ! 原付二種だけどeブーストで400並みの加速?!

カワサキは、同社初の公道走行可能なEVスポーツモデル「ニンジャe-1(Ninja e-1)」を2024年1月13日に発売。その後メーカー広報車が配備されたので、一番乗りで試乗してきた。原付二種の電動スポーツバイクってどんな乗り物?


●文:ヤングマシン編集部(ヨ) ●写真:長谷川徹 ●外部リンク:カワサキモータースジャパン

まず気になる点は2つ、「速いのか」「航続距離は?」

カワサキからついに電動スポーツバイク「ニンジャe-1」 と「Z e-1」が発売された。カテゴリーとしては原付二種になり、AT限定免許で運転できるのが特徴だ。

2022年夏の鈴鹿8耐でハイブリッド車とともにプロトタイプが突如お披露目されてから、2023年秋にかけての正式発表まで『いったいどんな乗り物なのだろう?』と注目を集めてきたが、2024年1月13日に電動バイクが先行して国内投入された。

これにともないカワサキがニンジャe-1の広報用試乗車を配備したので、さっそく借用を申し込むと、なんと一番乗りで試乗できるという。しかも、日本の公道で走らせるのは我々が最初だというのである。こ、これは身に余る光栄というかプレッシャー……。

とまあそんなわけで、雪が解けたばかりの都内でバッテリー残量の限界近くまで試乗してきた。

“eブースト”という夢のある仕掛けはライダーにどんな楽しさを提供する?

おそらく読者の方々が興味津々なのは、「どのくらい走るの?(速いの?)」と、「どれくらい走れるの?(航続距離)」の2つだろう。もちろん取り回しや各種モードの使い勝手、ユーティリティの実用性、電動ならではの静けさなどについてもレポートしていくつもりだ。

ECOモードは“50ccよりちょっと速い”

まず速さについて。ニンジャe-1はECO/ROADの2つの走行モードを持ち、それぞれのモードでeブーストを使用することができる。eブーストとは、右手元にあるボタンを押すと15秒限定で加速力が大幅に強化されるというギミックであり、最高速度もプラスされるというものだ。以下に各モードを順に説明していこう。

ECOモードでは、幹線道路の流れをリードすることは難しく、50ccのスクーターよりは少し速いが空冷110ccクラスのスクーターには及ばない感じだ。ゼロスタートで最大トルクを発揮するのがモーターの特性だが、このモードではスタートダッシュも控えめだ。

ECOモードのスペック上での最高速度は64km/hだが、平坦な道路で上体を起こしたままだと55~56km/h程度だろうか。空気抵抗を減らすために伏せると60km/hをわずかに超え、下り坂ではメーター読み64km/h(おそらく実測60km/h程度)を超える。長い下り坂でスロットル全開にし続ければ、法定速度も超えていくだろう。

上り坂では、60km/hで進入しても徐々に速度が落ちていき、今回のテストでは45km/hくらいになった場面もあった。こんな時にとても使えるのがeブーストだ。

eブーストを使用すると俄然元気になり、上り坂の途中でも60km/hまで比較的簡単に速度を回復する。スロットルを開け続ければ、さらに速度を増すことも可能だろう。ちなみにECOモード+eブーストでの発進加速は、水冷エンジンの125ccスクーターに近い感じになる。

スペックシートに書かれた最高速度はECOモード時:64km/h、ROADモード時:88km/hだが、eブーストを使用するとそれぞれ75km/h・105km/hに強化される。公称航続距離は55km(ROADモード・60km/h定地走行)だ。

eブーストによって得られる爆発的なダッシュ力

さて、お待ちかねのROADモードだ。こちらは明らかにパワーが増し、ECOモードでeブーストを使用したときよりも力強く感じられる

スタートダッシュでは水冷125ccスクーターと互角か、もしかしたら少し速いだろうか。法定速度60km/hまでの加速には余裕があり、125ccマニュアルトランスミッションのスポーツバイクと同等の走りといって差し支えないだろう。常に全開のECOモードに対し、スロットルコントロールする余裕が生まれる。

ただし、上り坂の途中でスロットルを戻して速度が落ちたりすると、速度回復にはそれなりの間が必要だ。これも普通の125ccモーターサイクルと同等と見ていいだろう。

圧巻はROADモード+eブーストだ。まず上り坂の速度回復では250ccクラスのモーターサイクルに近い力強さがあり、なんなら60km/hを軽く超えて加速していこうとする。eブーストONは15秒で終了するが、その15秒を使い切る前に法定速度を超えてしまうので、スロットルを戻さざるを得ない。スロットルを戻すとeブーストもOFFになるので、再加速したい場合はもう一度eブーストボタンを押す必要がある。

そして、信号待ちなどからのゼロスタートでは、原付二種クラスだし……と舐めてかかるとギョッとするほどの瞬発力を見せる。

フロントが浮いたりこそしないが、ある程度は構えていないとビックリする羽目に。

搭載するパワーユニットは、最大トルク4.1kg-mを0-1600rpmで発揮。これは400ccクラスのエンジンを最も効率のいい回転域まで回したくらいのトルクに相当する。つまり、パワーバンド近くまで回した400ccのエンジンで素早くクラッチを繋いだのと同じ程度の加速力がゼロ発進で得られるわけだ。しかも、それがスロットル開からタイムラグなく発揮される。

そこから、イメージ的には30km/hくらいまで400cc、60km/hくらいまでは250ccというように、爆発的な加速力は減衰していく。これはゼロ回転で最大トルクを発揮するモーターの宿命だが、だからといってピンクナンバー(原付二種)で走れる一般道では全く不足を感じないどころか十分に速い。ROADモード+eブーストでの最高速度105km/hは、ちょうど125ccエンジンのスポーツバイクに近いが、法定速度のある一般道を走る限りでは電動モーターサイクルのほうがエンジン車の原付二種よりも力強いと感じられた。

調子に乗ってeブーストを多用したら電力消費が……

さて、もうひとつ気になる航続距離である。スペック上はROADモードで55kmとなっているが、アップダウンのあるコース、かつ信号待ちがたびたび発生する環境で走らせていると、メーターに表示される航続レンジ(あとどれくらい走れるか)の数値がけっこう頻繁に変化する。

これは『現在の走り方を続けると残りはこのくらい走れるよ』ということのようで、オドメーター7kmで渡されたド新車だったこともあって過去の走り方を参考にしていない(できない)印象。最初は航続レンジ60kmだったが、低速の取り回しを続けたらすぐ半分になり、公道を走り出したら59kmに戻ったりした。

とはいえ、走行距離が進むごとに安定していったので、新車特有の挙動だったのかもしれない。

実際には残りレンジ表示が3kmになるまで走ったが、メーターの左右端には2個のバッテリーそれぞれの残量が目盛り表示され、ほぼ同時にひとマスずつ減っていく。最後のひとマスに近づいたあたり(レンジは15kmを切っていたと思う)でメーターのインジケーターに亀マークが表示され、eブーストが使用できなくなった。そこからはECOモードに切り替え、トランポのハイエースを目指して祈りながら帰り道を走った次第である。

バイクを停めたあと、再びメインスイッチをONにしてメーターを撮影しようとしたところ、残りレンジ表示が7kmになっていた。本日の走行距離は44km。右にオレンジの亀マークが確認できる。※筆者がスマホで撮影したので写真のクオリティは気にしないでください

実際に走行した距離は上記の通り44km。定地電費が55kmであることを考えれば、やや短く感じられるかもしれないが、eブーストが面白かったのでついつい多用してしまったのが敗因だと思う。ゼロ発進だけでなく、「テストしなきゃね~」と自分に言い訳しながら様々な場面でeブーストボタンを押した。普通に使えば100%充電から空になるまでに50km以上走れるはずだし、なんならカタログ通りの55kmを達成するのも難しくないだろう。

ちなみに最も電力を消費したなと感じたのは、高めの速度で上り坂を頑張ったときだ。空気抵抗と上り坂の抵抗によってだいぶエネルギーを食われたように思う。

逆に、下り坂や平地を惰性で走行している間はエネルギー回生システムが働いて、減速によって発生したエネルギーがバッテリーに戻される。この回生を使う余地なくブレーキでの急減速を多用した場合、航続距離はだいぶ短くなるだろう。

パワーと航続距離以外の印象は?

跨った感じは普通の原付二種モーターサイクルだ。おそらくバッテリー&モーター搭載位置の関係で低重心、かつ重心近くに重量物が集まっており、140kgという車重の割には軽く感じられる。

メインスイッチをONにするとメーターが目覚め、ニュートラルに相当するNの字が表示される。サイドスタンドを払ってから赤いスターターボタンを押すとD=Drive Ready表示になって走行可能な状態に。最初の走行モードはROADになっており、スロットルをひねればすぐに発進できる。eブーストはバッテリー残量とパワーユニットの温度に問題がなければ任意のタイミングで使えるそうだ。

【身長183cm/体重83kg】体格と車格があまり参考にならないバランスで申し訳ないが、ニンジャ250/400をベースにした車体はコンパクトながら窮屈さもなく、軽い前傾で自然に扱えるライディングポジションだ。シートは体重を預けやすい形状。

クラッチレバーとシフトペダルは存在せず、加速の操作はオートマチック車と同じ。フロントブレーキは右手、リヤブレーキは右足で操作する。

走り出すと、EV特有の「ヒューン」という音をともないながら加速。スロットルを戻すと駆動系からギヤ鳴りがするものの、うるさいというほどではない。このギヤ鳴りは新車時よりも少し走ってからのほうが少し静かに感じられたので、慣らしが進むとさらに静かになるかもしれない。

基本的には「ヒューン」音のほか、速度に応じて風切り音がするだけ。静けさゆえにエンジン車よりも気になりやすいというボディのたわみ音やガタつき音はよく対策されているようで、タイヤのロードノイズや段差に叩かれたときの音が時折耳に入ってくる程度だ。今回は都内のみの走行だったが、これで景色の開けた場所を走ったら、エンジン車よりも穏やかな気持ちで風景を眺めながら走れるだろう。

走行音がほとんどないので、都市部や住宅街でも気を遣わずに済む。

エンジンによるノイズがないことで、タイヤやサスペンションの動きも感じ取りやすい。リンク式を採用するリヤサスペンションは吸収性がよく、フロントはまずまず。全体にスムーズな特性で自然に曲がることができる。ホイールベースは他社の125ccエンジン車に比べて少し長い1370mmだが、モーターのジャイロモーメントが小さいためかハンドリングは軽快。しかるべき場所に持っていけばスポーティなライディングも楽しめそうだ。

ブレーキに関しては普通というか自然。前後ABSも標準装備しているので安心だ。

電動ならではの取り回しモード

パワーユニットにモーターを採用していることから、押し歩き時にはわずかな抵抗がある。リヤブレーキをごく弱く引きずっているような感じで、普通の押し引きでは気づかないが、数十メートルを押したりすると、このわずかな抵抗がボディブローのように効いてくる。

そんなモーターならではの特性を持つニンジャe-1だが、モーターならではの解決法も仕込んである。それが“ウォークモード”だ。

短距離なら電源OFFでの押し歩きも苦にならないが……。

跨ったまま後ろに進みたいときにも便利なウォークモード。

メインスイッチON→Dレンジにした後、速度ゼロ&スロットルオフ時に左手側の灰色のボタンの上側を長押しすると、ウォークモードが起動する。これはスロットルを開けると約5km/hで前進、スロットルを全閉からさらに戻すと約3km/hで後退してくれるというもの。狭い駐輪場や坂のある場所での取り回しで威力を発揮してくれるだけでなく、前述のような長めの距離を押して歩く際にも楽をさせてもらえる。

少し気になったのは、これは筆者の個人的な癖も関係しているとは思うのだが、後退中にフロントブレーキをかけた際にスロットルを戻す力を加えてちまいがちで、後輪は後ろに進もうとしつつ前輪はブレーキがかかるという状況が発生したことだ。特に危ないとは感じなかったが、ブレーキ操作を検知したらウォークモードが機能停止するよう設定可能にしてもいいかもしれない。

出先でも充電できるが時間はかかる

充電器は出先への持ち運びもギリギリできるサイズ感。この充電器&アダプターは付属品ではないが、3つの充電方法が選べるのでそれに合わせて別途購入する。

メインとなるバッテリー充電器は3万8610円で、家庭用電源プラグに差して使用する。アダプターをバッテリーの充電ポートに直接差し込む場合はバッテリーを1個ずつ充電するか、充電器を2つ購入して使用。バッテリーを立てて省スペース充電するなら充電用ドック(3万8759円/1個)を使う。この個別充電では最大3.7時間でバッテリー1個をフル充電できる。そして、バッテリーを車載したまま充電するには下記のようになる。

【左】充電器と家庭用コンセントにつなぐケーブル。【右】車両にバッテリーを搭載したまま充電するにはオフボード充電用ポート(1万9305円)をタンデムシート下に設置し、充電器のアダプタ―を差し込む。ただしこの場合、ひとつの充電器で2つのバッテリーをパラレル充電するので、充電にかかる時間は最大7.4時間になる。

ちなみに充電器は精密機械になるので、持ち運ぶ際は振動対策を忘れずに。1つの充電器で出先での充電となると最大7.4時間が必要ということになるので、走行ルートや距離、時間の設定は事前にある程度しておいたほうが無難だろう。

どんな人におすすめ?

ここまで長々とお読みいただいた方はだいたいお分かりになってきていると思うが、高速道路を走れない原付二種であることを含め、長距離ツーリングを想定しているライダーには向いていない。都内であれば1日に50kmを走るとけっこう手ごたえがあり、十分に“バイクに乗った!”という感覚が得られるが、ワインディングロードやツーリングロケーションが豊富なエリアではもう少し走り回りたい。基本的には近距離のコミューター的な使い方、でもスポーティな走りが欲しいという方にぴったりなんじゃないだろうか。

充電方法や充電の際の置き場所といった住環境、また居住地域の周辺環境によって使い勝手や楽しみ方は大きく変わってくると思う。本記事が適切に吟味していただくための参考になれば幸いだ。

とはいうものの、かなり爽快な乗り物には違いないので、新しモノ好きならば1度は試乗してみてほしい。

CEV補助金12万円、東京都なら補助金がさらにプラス46万円=計58万円

価格は106万7000円だが、CEV補助金12万円で実質94万7000円で購入可能。東京都に住民票がある場合は東京都電動バイク普及促進事業補助金46万円が交付され、CEV補助金と合わせて計58万円の補助金で実質車体価格は48万7000円になる。

KAWASAKI Ninja e-1 のスタイリングとスペック

デザインは見慣れたニンジャ系だが、シルバーを基調としたボディにマット系ライムグリーンの差し色でEVイメージを強調。もちろんマフラーはない。

ホイールベースはニンジャ250/400と共通の1370mm。通常のエンジン位置の後半にパワーユニット(モーター)があり、燃料タンク~李シリンダーあたりに相当する位置にバッテリーケースが配置されている。

車名Ninja e-1
型式ZAD-NX011A
全長×全幅×全高1980×685×1105mm
軸距1370mm
最低地上高160mm
シート高785mm
装備重量140kg
原動機種類交流同期電動機
定格出力1.33ps(0.98kW)
最高出力12ps/2600-4000rpm
最大トルク4.1kg-m/0-1600rpm
変速機なし
動力用バッテリーリチウムイオンバッテリー×2個
60km/h定地走行時の電費52Wh/km
航続距離55km(ROADモード、60km/h定地走行値、1名乗車時)
キャスター/トレール24.4°/93mm
タイヤサイズ前100/80-17
タイヤサイズ後130/70-17
ブレーキ前φ290mmディスク+2ポットキャリパー
ブレーキ後φ220mmディスク+2ポットキャリパー
価格106万7000円
メタリックブライトシルバー×メタリックマットライムグリーン
発売日2024年1月13日
 

Ninja e-1 のディテール

灯火類はフルLED。ヘッドライトはロービームで左右外側が点灯し、ハイビームで中央2灯も点灯する。

LEDテールランプと細身のLEDウインカーを採用している。形状はニンジャ250/400と共通と思われる。

フロントウインカーはピルトインタイプのLEDだ。

テールランプ下に原付二種を表す三角マークを配置。荷掛けフックもしっかり装備しているのがカワサキらしい。

変速機構を持たず、クラッチレバーもない。ミラーのマウントは高級感のある可動式だ。ハンドルバーはトップブリッジ上にクリップオンされる。走行中のメーターの視認性も良好だった。

メーターの各モード表示。左上はニュートラルに相当。左下はウォークモードだ。中央と右は、上段がECOモードとECOモード+eブースト、下段はROADモードとROADモード+eブーストだ。また、設定により白背景と黒背景を切り替えたり自動切換えにすることも可能。

左手側には通常のハイ/ロービームスイッチやウインカースイッチ、ホーンボタンのほかパワーモード切替とウォークモード起動のためのボタンが設置される。

右手側には、赤いキルスイッチと一体化したスターターボタンを配置。上側を押すと動力OFF、下側を押すと走行READY状態になる。その下にある緑線の入ったボタンがeブーストだ。

パワーユニットを左右から。内燃機関に較べると凄くコンパクトだ。ドライブスプロケットの位置は通常のエンジン車と同等に見える。

ブレーキは前後シングルディスクを採用し、ABSも完備する。リヤサスペンションは作動性と踏ん張りの両立に優れたリンク式だ。

燃料タンクではないのでバッテリーカバーと呼べばいいのだろうか……。ニーグリップは自然にしやすい。

シートは薄めのクッションながら効果的に体重を受け止める。前端が絞り込まれ、足着き性も考慮。

カバー前端にキーを差してオープン。合羽くらいなら入れられる小物入れスペースが現れる。

さらにレバーをひねってインナーカバーを開けるとバッテリーが見える。2個収納してあり、1個ずつ取り出すことが可能。

右ステップにはブレーキペダルが備わるが、左ステップにチェンジペダルはない。

クラッチレバーなし。

タンデムステップに荷掛けフックを備える。車体左側にはヘルメットロックも。

了。

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