
年間の生産台数は80万台以上。この数字はBMWやハーレーのざっくり4倍だ。インドの旺盛な内需を背景に持つロイヤルエンフィールドは今、もっとも勢いのある2輪メーカーのひとつと言っていい。真似はされても、決して他車の真似はしない、このメーカーの最新スポーツクルーザーをアメリカ・ロサンゼルスで試してきた!
●文:ヤングマシン編集部(マツ) ●写真:ロイヤルエンフィールド ●外部リンク:ロイヤルエンフィールド東京ショールーム
人マネなどしない!カテゴリーとは創るものだ
「ノー。それはとても危険なバイクの開発方法だと思いますよ」開発時にコンペティターやベンチマークに据えたバイクはあるか? という僕の質問に対し、ショットガン650のデザイナー、エイドリアン・セラーズさんはそう答えた。「ベンチマークの人気が落ちたら、そのフォロワーはどうなりますか? 我々は他車を追うのではなく、カテゴリー自体をクリエイトすべく開発に挑んでいます。それはもちろんショットガン650も同じです」
この言葉はロイヤルエンフィールド(以下RE)という会社の基本戦術を示していると思う。同社のラインナップは他社に類する機種がほとんど存在しないのだ(逆にフォロワーは多数存在する)。そしてショットガン650も、空冷ツインを積むミドル級のスポーツクルーザーと言われてガチな競合を探すのは難しい。
メーカーいわく“カスタムシーンから着想を得たファクトリーカスタムバイク”というショットガン650は、同社のクルーザー・スーパーメテオ650の派生機種。スチール製ダイヤモンドフレームや270度クランクの648cc空冷パラツインを共用しつつ、足まわりやライポジの変更でスポーツ性を加味している。
ショットガンの特徴のひとつが、ステアリングステムから繋がる凝ったデザインのライトナセル。REの伝統と言える、メーターやポジション灯を一体化したクラシック350(写真右)のナセルに倣って、鋳造のアルミ製とされている。
最大のポイントは外観だろう。前傾姿勢を強めつつ外装類を一新することで、リヤ下がりのクルーザーらしいシルエットは保ちつつスポーティさも得ることに成功している。その外装はさらなるカスタムを意識し、全てスチール製とされるのも特徴だが、もうひとつ注目して欲しいのはヘッドライトナセル。凝った形状のステアリングステムと一体化した、斬新なデザインが特徴的なこのパーツ、複雑な形状ゆえに樹脂製と思いきや…なんと鋳造のアルミ製なのである。
これはREの基幹車種・クラシック350やブリット350に倣ったもの。この2車は‘50年代のRE車を忠実に再現しているモデルだが、それをルックス的にも製法的にも象徴するパーツがメーター類を一体化したアルミ製のヘッドライトナセル。モダンなカスタムルックを持つショットガンも“オリジンRE”への敬意は忘れていないというわけだ。
【ロイヤルエンフィールド・ショットガン650】REのクルーザーモデル・スーパーメテオ650をベースに外装類の刷新や足回り/ライポジの変更などでスポーティな雰囲気や走りを実現。ボディカラーは写真の白と青のほか、グレーと緑の全4色を設定。日本への導入時期や価格は未定となる。
街乗りで光る軽快感。エンジンの鼓動も楽しい
【ライディングポジション】わずかに前傾する上体に対し、ミッドコンとはいえステップは相対的に前。幅広なシート(長距離が快適!)と張り出したサイドカバーで踵は数cm浮くものの、車格が大きすぎないので不安はない(身長170cm・体重70kg)
スーパーメテオ比で55mm高くなったシート、そして後退したステップと低くなったハンドルが生み出すライポジは“ステップがやや前にあるネイキッド”という印象。シートやサイドカバーが幅広のため足着き性は最良とは言えないが、足を下ろす部分に障害物がないうえ、650ccという排気量の割に車格が小さいため不安は少ない。
威勢のいい車名とは裏腹に、エンジンは柔らかなフィーリングが印象的だ。程よく穏やかな、重めのクランクマスを想起させるスロットルレスポンスが乗り手を急かさず、トルルルッと角の丸い鼓動を楽しみながらロサンゼルスのダウンタウンを気持ちよく流せる。適度に抑えられた排気音も街中では好印象で、シティクルーザーとしての素養はバッチリ。タイミングを合わせれば、クラッチレバーを握らずともスコスコ入るシフトフィールも絶品。部品や組み立て精度の高さを感じさせる。
650cc空冷ツインの出力特性はフラットで、高回転まで引っ張っても高揚感は少ない代わり、レブリミッターが作動するまでスムーズに回ってパワーも必要十分。時には120km/h以上で流れているアメリカの高速道路でも余裕を残す。バランサーシャフトが1軸ゆえか、速度が上がるとシートやハンドル、ステップの微振動がわずかに増えるものの、クルージングの快適性を損なうほどではない。
街乗りでのハンドリングは240kgという車重を意識させないほど軽快だ。スーパーメテオ比で2度以上も起こされたキャスターの効果か、スパスパと前輪が向きを変えてくれるため、交差点の右左折からUターンまでバイク任せでスイスイこなせてしまう。荒れた路面では多少の突き上げを感じるものの、そこは幅広かつフラットなシートがうまくいなしてくれる印象。低中速域が楽しいエンジンと併せて、市街地での軽快な走りに照準を絞って作り込んだことが伝わってくる。
フレームはスーパーメテオと共通だが、ホイール径をF19/R16→F18/R17へと変更し、Fフォークの30mm短縮、Rショックの23mmロング化で前傾姿勢に。スイングアームも部品自体は共通ながらアクスル穴を前方移動し、スーパーメテオ比で4mm短いフォークオフセット(42mm)と併せてホイールベースも短縮。その走りは市街地を走らせて楽しい軽快なものだ。
どんなシチュエーションもこなせる、RE随一の万能選手
それでいてワインディングに突入すれば、ガチッとした車体の剛性感に思わず唸る。ある一定のバンク角から先ではやや立ちが強くなるものの、かなりのハイペース(今回の試乗会、先導ライダーのペースがえらく速かった)でも不安を覚えないし、倒立フォークを中心としたフロントまわりの剛性感はかなりハイレベル。もっとコントローラブルなブレーキや上質な足回りが欲しくなってしまうほど、ハイスピード走行への許容度は高い。
ただしバンク角はあまり深くないし、90mmというリヤのホイールトラベルもやはりクルーザーのそれ。無理しすぎは禁物だ。REの650ccにロードスポーツ能力を求めるならコンチネンタルGTを選ぶべきだろう。そうした棲み分けで言えば、個人的には高速道路でもう少し落ち着きがあればより快適だと感じたが、そちらにはスーパーメテオという選択肢が用意されている。REは競合車を定めたバイク作りをしないと述べたが、自社ラインナップ内でも見事に競合しないのだ。
市街地、高速、ワインディングとまる1日、約250kmを走り込んで感じたのはそのオールマイティな能力だ。親しみやすいシティクルーザーとして普段の足に使いつつ、高速道路でのロングランやワインディングの激走でも専門職に見劣りしない。これがショットガンに与えられた立ち位置なのだろう。ファッション性と汎用性のバランスに長けていて、射程に収まるフィールドはRE車で最も広い…と書いて思わずニヤリ。散弾銃とは点を穿つのではなく、広い面積でダメージを与える武器。その車名、なるほど納得!
ワインディングでは車体のガッチリした剛性感が印象的。軽快なハンドリングはここでも変わらず、バンク角こそ浅めなものの、不安や挙動の乱れを感じることなくかなりのハイペース走行も許容する。
【ロイヤルエンフィールド・ショットガン650】
【TESTER:本誌・松田】
のんびり走るのが楽しいハーレー883とスーパーカブ110、そして飛ばすと最高なNSR250Rという、まったく脈略ない3台が愛車の本誌編集長。大谷翔平フィーバー真っ只中のLAに飛ぶぜ!
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