
BMWの最強アドベンチャーモデル・R1250GSがフルモデルチェンジを受けて「R1300」になった。40年以上の歴史を持ち、2023年には通算100万台を数えたGSシリーズ、その最新最高峰モデルに丸山浩が試乗した。
●まとめ:ヤングマシン編集部(宮田健一) ●写真:真弓悟史 ●外部リンク:BMW MOTORRAD
【TESTER:丸山浩】次の愛車になり得る最高のロングツーリング性能を持ったマシンを渇望する本誌メインテスター。R1300GSはその欲求を満たすことができるか!?
今までより重くなる……? と思ったら小さく軽くなっていた!
ビッグアドベンチャーの頂点に君臨するBMW・GSシリーズのフラッグシップがフルモデルチェンジを果たした。1254ccを誇った先代旗艦のR1250GSも、気が付けばまわりにはドゥカティのムルティストラーダ―V4やKTMの1290スーパーアドベンチャー、トライアンフのタイガー1200、さらにはハーレーダビッドソンもパンアメリカ1250を投入してくるなど、軒並み排気量1200cc超えがわんさかという状況になっていた。
だから、GSが排気量をアップして生まれかわると聞いたときは当然の流れだなと思いつつ、同時に『わー、今までよりもさらに大きく重くなってしまうのでは…』と一抹の不安を覚えてしまったのも事実だ。
それはそうだろう。荷物を詰めたボックス類まで含めるとガッツリ270~280kgほどとなる車重に足もようやく地面に着くかどうかというビッグアドベンチャーでダート走行を楽しむなんて、ハッキリ言って相当にコアな人たちの領域だ。写真ではカッコよく決めている私でも、オフロードであの巨大な車体にはバランスを崩してしまうとリカバリーできないかもと心配しながら走っているのだ。
だが、そんな予想を大きく覆し、“大きく・重く”とはまったくの逆。ニューモデルのR1300GSは“小さく・軽く”の方向で歴代最高と思えるマシンに生まれ変わっていた。エンジン・車体ともに新設計となり、車重は12kgも軽量化。いかにもオフロードらしいタフなイメージだったR1250GSからデザインはスマートな雰囲気にガラリと変わった。
X字のヘッドライトが最初は違和感を生むかもしれないが、すぐにこの新しさに慣れていくはず。
日本で販売されるのはスタンダードとなるGS(電制サスは標準装備)、+30mmのロングサスでオフ性能を高めたGSスポーツ、そしてミリ波レーダーと連動したACC(=アクティブクルーズコントロール・前車追従型クルーズコントロール)とブレーキサポート、オート車高調整などが標準装備となったツーリングの3グレードで、今回はツーリンググレードに試乗した。
のっけから感動させてくれたのがオート車高調整機能。1300ccのビッグアドベンチャーなのに足がちゃんと地面に届く! この機能は停車時には電制サスの油圧を抜いてシート高を30mm下げ、50km/hを超えると約3秒で上昇。25km/h以下になると再び約1.5秒で下降する。発進時だけでなく交差点での右折など一時停止が必要な場面でもスッと一瞬で車高が下がってくれるので、安心この上ない。
それに今までになかったのは、この機能がメインスタンドにも活用されていることだ。スタンドの踏み下げを感知するとサスがゆっくりと伸びて車体を持ち上げる力をサポート。びっくりするくらいメインスタンドがけが楽になる。そんな痒い所に手が、いや足が届く1300GSだが、ライポジ自体も以前よりもひと回りコンパクトになり、まるで800ccクラスのミドルアドベンチャーに乗っている感じとなっていた。さらにタンクとステップの位置関係も秀逸でスタンディングもすこぶるやりやすい。随所に扱いやすさへの追求を感じるのだ。
ミドルクラスのようなサイズ感で実に扱いやすいライディングポジション。フラッシュサーフェイスでつなげたタンクとシートで下半身は吸いつくようにフィットする。オート車高調整で停車時のシート高は820mm。両足の腹まで地面に着くなんて、これまでつま先ツンツンだったビッグアドベンチャーでは考えられなかった。
オプションのローシートを使えばさらにシート高は-20mmになる。写真はウインドスクリーンが上がった状態。【身長168cm/体重61kg】
歴代最強の性能を余裕へと結びつける
走り出してみると、やはりミドルアドベンチャーを操っているがごとく軽快だ。狭い山道のワインディングもヒラヒラ。新しくなったエンジンはギヤボックスを下に移して低重心化を果たしているが、低重心化というより車体全体でマスの集中化を徹底したような動きを見せる。それに改良されたテレレバー&パラレバーのサスがしっとりした動きでとても快適だ。
排気量が増えてもボクサーツインは相変わらずドロドロした優しいフィーリングが持ち味で、さらにどこまでも走っていきたくなるツアラーエンジンの決定版となっている。歴代最強の145psへとパワーアップしたが荒々しさやスポーツ度を見せるのではなく、排気量がアップした分を常用域の余裕に振り分けた感じとなっているのがいい。もちろんその気になればスポーティな走りも楽しめる。
7つもあるライディングモードを「DYNAMIC」に設定するとクイックシフターでシフトダウンしたときは“バウンバウーン”となかなか派手にオートブリッピング。だが、やっぱり新GSで評価するべきはユーザーが本当に必要としている部分に忠実なところだ。
このライディングモードで感動したのがオフロード走行向けの「ENDURO」で、これまでのビッグアドベンチャーに抱くイメージだとサスも長くして最低地上高を稼ぎガンガンとダートを突っ走るための本気モードに思えるところ今回はまったくその逆に。車庫調整機能はデフォルトで一番低い状態に固定され、スロットルレスポンスやトラコン、ABSも穏やかな設定となる。
つまり、ツーリング中にダートと出会ったときはすぐ足を着ける状態で安心かつ確実に通過できる方が嬉しいという多くの一般ライダーのニーズに応えたかたちだ。しかも本気モードが欲しい人には「ENDURO Pro」も別にちゃんと用意している。文字通りオフロードも痒い所に足が届くようになっているのだ。
手が届く……いや、足が届く!
さて、今回の目玉として忘れてはならないのが、最近流行りのミリ波レーダーによる前車追従型クルーズコントロールに加えて設定された「前方衝突警告機能(フロント・コリジョン・ワーニング=FCW)」だろう。新GSでは衝突防止で自動減速する際にエンジンブレーキだけでなく前後ブレーキも併用している。似たような機能はヤマハのトレーサー9GT+が先行しているが、BMWのものはひと味違っていた。
ヤマハの場合は危険を感知するとメーターの警告画面表示に続いてブレーキサポートが働くというもの。しかし、自動で行うぶんの制動力は弱めなので最後は人間によるブレーキ操作が必要だった。これが警告画面は大きいとは言えボーっとしていると見落として間に合わない場合もあるのでは、という不安が拭えなかったのだ。システム的にもっとブレーキ力を強力にすることもできるが、タンデムライダーへの影響や混雑した道路で不意に作動した場合に危険だと緩めな設定にしたと言う。
一方、新GSも最後に自分でブレーキをかける必要はあるが、最初に警告画面と同時にコツンと軽く知らせる感じでブレーキがかかった後に、もう一度ギューッとヤマハより強力に減速。この”コツン”があることでライダーとしては実に分かりやすく、その後の自動ブレーキも心の準備ができているので対応しやすかった。それに新GSでも混雑時の首都高などでは望まない自動ブレーキが作動することがあると言うが、これにどう対処したかの答えが圧巻だった。
「システムをOFFにできる」。
実に単純明快だ。ヤマハは電子制御に絶大な信頼が置ける完全な姿を追い求めるがゆえ、常にONしか選べなかったが、BMWは機械に任せきれない部分があるなら人間がやればいいじゃないか、と割り切っていた。これにはドイツ人らしい合理的な考えというか、優れた機能を生み出しつつもけっしてそれに溺れずユーザーが必要なものを一番に考えて作っているのだなと感服するしかなかった。
人間がコントロールしたいならOFFにすればいいじゃない?
そんな感じで新GSはすべてにおいて、これまでのとにかくデカくて迫力あるのが一番、乗れるものなら乗ってみろ的なビッグアドベンチャー像を真っ向から覆し、長距離ツアラーとしてユーザーに寄り添うあるべき姿が提唱されていた。ミドルクラスに匹敵する扱いやすい車体に余裕ある1300ccの排気量、それに一歩進んだ本当に必要な機能の数々。私はもうこれにビッグアドベンチャーではなくスーパーアドベンチャーという呼び名を与えたい。ライバルたちがGSを超えるのはさらに難しくなったと感じずはにいられなかった。
BMW R1300GS のスタイリング
BMW R1300GS のスペック
車名 | R1300GS |
全長×全幅×全高 | 2210×1000mm×1375~1490mm |
軸距 | 1520mm |
シート高 | 850mm |
キャスター/トレール | 26.2°/112mm |
装備重量 | 237kg |
エンジン型式 | 水冷4ストローク水平対向2気筒DOHC4バルブ |
総排気量 | 1300cc |
内径×行程 | 106.5×73mm |
圧縮比 | 13.3:1 |
最高出力 | 145ps/7750rpm |
最大トルク | 15.2kg-m/6500rpm |
始動方式 | セルフスターター |
変速機 | 常時噛合式6段リターン |
燃料タンク容量 | 約19L(無鉛プレミアムガソリン指定) |
WMTCモード燃費 | 20.83km/L(1名乗車時) |
タイヤサイズ前 | 120/70R19 |
タイヤサイズ後 | 170/60R17 |
ブレーキ前 | φ310mmダブルディスク+4ポットキャリパー |
ブレーキ後 | φ285mmディスク+2ポットキャリパー |
乗車定員 | 2名 |
価格 | 284万3000円~ |
色 | 青、黒、緑(Opition 719) |
発売日 | 2023年11月23日 |
BMW R1300GS のディテール
ツーリンググレードはスクリーンも電動式。大きいのに透明度が高く、コクピットまわりもきれいに整理され、視界全体が広くて見やすくなったのも印象的だ。
ACCは3段階の距離設定が可能。しっかり前車を追従する。ACC時はコーナーへちょっと心配になるくらいの速さを保ったまま進入するが、車体をちょっと傾けるだけでスーッと自動減速。システム的にはちゃんと曲がれると判断しているのだろう。実際そのまま速度はバイク任せで曲がれてしまった。ちなみに乗車時のシート高もメーター上で設定できる。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
最新の関連記事(BMWモトラッド)
16歳から取得可能な普通二輪免許で乗れる最大排気量が400cc! バイクの免許は原付(~50cc)、小型限定普通二輪(~125cc)、普通二輪(~400cc)、大型二輪(排気量無制限)があり、原付以外[…]
2年に一度、世界各国から勝ちぬいたGSライダーが競う祭典への道 BMWモトラッドは、「インターナショナルGSトロフィー2026」に出場する日本代表選手を決定する国内選考会を2025年10月11日(土)[…]
壮大な旅を追うドキュメンタリー映画:初夏より全国公開 ドキュメンタリー映画『タンデム・ロード』が、2025年初夏よりイオンシネマ系列で全国公開される。 本作は、映画作りで活躍してきた滑川将人とパートナ[…]
愛車は1290スーパーデュークRという「素人」のチーちゃん! ヤングマシン最新動画は、人気の新型車試乗。JAIAの2025試乗会ということで、最新の輸入バイクに試乗しました。 しか~し、今回は出演者に[…]
いまも動き続ける伊豆半島。地形も人の営みもつくった 伊豆半島の「田方(たがた)平野」という地名は、当地を訪れるツーリングライダーにどれぐらい認知されているだろうか。ちなみに筆者は知りませんでした(爆)[…]
最新の関連記事(新型アドベンチャー/クロスオーバー/オフロード)
見晴らしがいい! オンロードバイクとアドベンチャー/オフロード/クロスオーバーなどの大きな違いのひとつは、走破性をよくするために車高が高くなっていること(最低地上高も同時に高まる)だろう。加えて、ステ[…]
AMAスーパークロス2位の実績を持つモトクロッサーのエンデューロ仕様が上陸! トライアンフが開発したオフロードマシンには、250cc4ストローク単気筒エンジンを搭載するモデルと、450cc4ストローク[…]
GT+にはY-AMTを標準装備 ヤマハは、今夏発売と予告していた新型「TRACER9 GT+ Y-AMT」を2025年5月28日に発売すると正式発表。今世代のトレーサー9 GTシリーズでモーターサイク[…]
3/14発売:スズキ「Vストローム800/DE」127万6000円~ スズキが製造する、並列2気筒エンジン搭載のミドルアドベンチャーが「Vストローム800」「Vストローム800DE」だ。 2025年モ[…]
往年の名車をオマージュしたヘリテイジにアドベンチャーバイクの原点が登場! BMWは、1170cc空油冷水平対向2気筒エンジンを搭載するヘリテイジシリーズに、『R 12 G/S』を投入する。BMWのホー[…]
人気記事ランキング(全体)
カワサキの新世代モビリティが大阪万博で公開 2025年日本国際博覧会、通称「大阪万博」のカワサキブースで、未来のオフロードビークル「CORLEO(コルレオ)」が注目を集めている。バイクのように乗車する[…]
「その時、スペンサーになれた気がした」 MVX250Fの上位モデルとして400版の発売が検討されていたが、250の販売不振を受け計画はストップ。この心臓部を受け継ぎ、NS250Rの技術を融合したモデル[…]
日本でもっとも人気の高いジャンル=ネオクラシック プロポーションの枷を覆す【カワサキ Z900RS】 まず、現代のバイクと昔のバイクではプロポーションがまったく違うんです。昔のバイクはフロントタイヤが[…]
バイクキャビン:小型エアコンを装備すれば抜群の環境に! 難しく考えることなく、手っ取り早く購入できるガレージとして高い人気を得ているのが、デイトナが取り扱う各種シリーズ製品だ。 全モデルに共通している[…]
〈WEBIKE FESTIVAL〉2024.10.19 SAT. ロングウッドステーション(千葉県長柄町) 【X500 ヒデヨリさん】「見た目など、あえてハーレーらしさを捨てたチャレンジ精神の塊のよう[…]
最新の投稿記事(全体)
2ストエンジンの新時代を切り開いた名車 1980年代中頃、スズキのガンマ、ホンダのNSと、高性能レプリカが矢継ぎ早に出揃い、大ヒットを記録していた。 この潮流をみたヤマハはRZ250Rにカウルを装着し[…]
かつての人気モデル「キャンパー」のDNAと手巻きムーブメントの融合 「MK1ハンドワインド」のルーツは、1980年代に登場し、シンプルかつ実用的なデザインで人気を博したキャンパーモデルに遡る。そのデザ[…]
都市型イベント「My Yamaha Motorcycle Exhibition」開催へ ヤマハは、2025年9月20日に桜木町駅前(神奈川県横浜市)にて「My Yamaha Motorcycle Ex[…]
走行回数の多さと模擬レースのセットでコストパフォーマンスの高さは折り紙付き 絶版車やクラシックマシンでサーキットを走行してみたいが、レースに参戦するほどではない。あるいはクラシックレースにエントリーし[…]
エアインパクトレンチ:手のひらに収まるサイズで500Nmを発揮。狭い場所で活躍する力自慢 ガレージにエアコンプレッサーを導入したら、まず揃えておきたいのがエアブローガンとエアゲージ、そしてインパクトレ[…]
- 1
- 2