11月24日、各メディアでガソリン税の「トリガー条項」に関する報道がありました。そもそも50年近く前の「当分の間税率」なんていうふざけた名前のガソリン税に対し、さらに消費税を乗せるという意味のわからない状況が続いていますが、これらについて本当にまじめに協議するつもりがあるのでしょうか──。
●文:Nom(埜邑博道)
本来なら特例税率を停止する「トリガー条項」が発効する条件になっているが……
岸田内閣の、というよりも岸田首相の迷走が止まらないなか、これまでかたくなに拒絶してきたガソリン税を一部軽減する「トリガー条項」の凍結解除を自民・公明・国民の3党で協議をすることになったと、24日に各メディアが報道しました。
昨今のガソリン価格の高騰を受けて、政府は石油元売り会社に補助金(資源エネルギー庁のウェブサイトによると、全国平均ガソリン価格が1リットル170円以上になった場合、1リットル当たり5円を上限として支給。期間は来年4月末まで)としていますが、みなさんもよくご存じのようにガソリン価格は高止まりのままで、資源エネルギー庁発表の11月20日現在の全国平均値は174円と170円台を行ったり来たり。補助金の効果を疑うような価格になっています。
そこで、以前からトリガー条項の凍結解除を要求している国民民主党が2023年度補正予算案に賛成したために、その引き換えのように政府与党が拒否し続けていたトリガー条項の凍結解除に向けた協議に応じたというものとのことです。
あらためてこのトリガー条項について触れておきますが、ガソリン価格はガソリン本体の価格に53.8円/Lの税金が加えられていますが、本来の税金である28.7円/Lに1974年から道路整備計画の財源不足に対応するための暫定措置として25.1円Lの「当分の間税率」が加算されてこの金額になっています。
そして、2010年にはこの特別措置法を改正して、期限を定めずに当分の間、特例税率として53.8円/Lの税率を維持することと、レギュラーガソリンの3か月の平均小売価格が160円を超えた場合(現在はこの条件に当てはまります)は、特例税率の適用を停止する仕組み=「トリガー条項」も設けられたのですが、2011年に起きた東日本大震災の復興財源に充てることを理由として、現在はこのトリガー条項は凍結されています。
恒久的な税収不足につながると財務省が凍結解除を徹底拒否
この現状を踏まえて、補助金でガソリン価格を抑えている現状の施策は止めて、トリガー条項の凍結を解除し本来のガソリン税に上乗せしている25.1円の課税を停止するようにこれまでも野党が訴えてきました。
しかし自民党、なかでも財務省が補助金支給による一時的な歳出増加ではなく、恒久的な歳出増加になる25.1円の課税停止に強硬に反対しているため、解除の条件を満たしていてもトリガー条項の凍結解除は議論の俎上にさえ上がってきませんでした。
これが一転して3党協議をするということになったのは、来年の所得税減税や給付金支給を行うと説明しても岸田内閣の支持率の下降傾向が止まらないため、次の一手なのか、より多くの国民に分かりやすい手だと思ったのかは分かりません。しかし、「当分の間税率」が長きにわたって議論すらされず放っておかれているところが大きな問題だと思います。
そして、今回のガソリン高騰対策の補助金はすでに6.2兆円に積みあがっているといいます。鈴木財務大臣は「トリガー条項を解除すれば1.5兆円の財源が必要になる」と解除しない理由を述べていますが、石油元売り各社に供給している補助金の6.2兆円を許容してまでも解除による1.5兆円を手放さない、つまり一度掴んだ税金(省益と言ってもいいでしょう)はそれが合理的ではなくとも決して離さないという官僚独特の論理に、いまネットなどでも非難の声が轟轟です。
さらに言えば、現在のガソリン価格の上昇は、こちらも昨今の円安がその主要因で、ここ数週間の原油価格は1バレル70ドル台とロシアによるウクライナ侵攻以前と同様の水準に落ち着いているとのこと。となると、現在のガソリン代高騰は、外的要因というよりも政府の金融緩和・低金利政策のせいにほかならないと思われます。
ガソリン代に話を戻すと、今後、地球温暖化対策や各国のカーボンニュートラル政策が進むとともに、当然、ガソリン消費は減じていくことでしょう。最近、EU各国がクルマのオールEV化をいったん踏みとどまるような動きもみられていますが、EV化は鈍化してもその大きな流れは止まらないはずですから。
そうすると、産油国は原油産出に代わる新たなビジネス手段を構築するまでは産出量を絞りながら原油高を維持し続けるようにするはずですから、今後、原油の価格は大きく下がることは決してなく、年々減少するであろう石油の消費量に合わせて高値安定傾向が続いていくでしょう。
そんな状態が恐らく続くであろうなか、「当分の間税率」などというふざけた名称の税金を課されたガソリン代を支払わなければいけないのは、到底、納得がいきません。
さらに言えば、日本自動車連盟(JAF)が以前から主張しているように、ガソリン税に消費税が課税されている「Tax on Tax」という不合理な状態も一刻も早く解消してもらいたいものです。
政権維持のためなのか、人気取りなのか、突然始まった「トリガー条項」凍結解除の協議ですが、これを契機に分かりにくい制度/法律や、自動車/バイクユーザーが過度に負担させられている税制などについてもしっかり協議してもらいたいものです。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
最新の関連記事([連載] 多事走論 from Nom)
一度掴んだ税金は離さない! というお役所論理は、もういいでしょう 12月20日に与党(自民党と公明党)が取りまとめた「令和7年度税制改正大綱」の「令和7年度税制改正大綱の基本的な考え」の3ページ目に「[…]
持ち株会社を設立し、ホンダと日産、さらに三菱自動車も加わる? ホンダと日産が経営統合するという話が、12月18日からTVのニュースやワイドショーで大きく取り上げられています。 両社は、今年の3月に自動[…]
アクアライン上り線の混雑時間帯の料金が1600円に! 2025年4月から新料金制を導入 12月3日に開催された「第4回東京湾アクアライン交通円滑化対策検討会」において、令和7(2025)年4月からアク[…]
総勢2000人が鉄フレームのバイクを楽しむ イベントレースと言えば、毎年5月と11月に茨城県のTSUKUBA2000で開催される「テイスト・オブ・ツクバ」(以下T.O.T.)が有名で、最近は1万人を超[…]
2025年11月の規制を睨み、2021年頃に開発の話が持ち上がった ご存知のように、バイクの世界にもカーボンニュートラル(CN)の波は激しく押し寄せていて、国内外の二輪メーカーはその対応に追われている[…]
人気記事ランキング(全体)
CT125ハンターカブ[47万3000円] vs クロスカブ110[36万3000円/くまモン=37万4000円] 原付二種(51~125cc)クラスの販売台数でPCXとトップ争いを繰り広げるCT12[…]
ホンダV3 どうなる新型モトGPマシン 築き上げた栄光にしがみつくことなく、常に挑戦を続けるホンダ。デビュー初年度に圧倒的な強さで王座に輝いたRC211Vとて例外ではない。すでに次期エンジンを搭載した[…]
「もしも出先でヘルメットを盗難されたら、自宅までどうやって帰るのだろう」バイクに乗っていると、こうした疑問も浮かぶのではないでしょうか。そもそもヘルメット窃盗犯は、なぜ人が使った中古のヘルメットを狙う[…]
通勤エクスプレスには低価格も重要項目! 日常ユースに最適で、通勤/通学やちょっとした買い物、なんならツーリングも使えるのが原付二種(51~125cc)スクーター。AT小型限定普通二輪免許で運転できる気[…]
16歳から取得可能な普通二輪免許で乗れる最大排気量が400cc! バイクの免許は原付(~50cc)、小型限定普通二輪(~125cc)、普通二輪(~400cc)、大型二輪(排気量無制限)があり、原付以外[…]
最新の投稿記事(全体)
新体制で挑む10年目のFIM世界耐久選手権 TSR(TECHNICAL SPORTS RACING)が運営する「F.C.C. TSR Honda France」は、2025年シーズンもFIM世界耐久選[…]
量産モーターサイクル世界初のストロングハイブリッド搭載、デザインも新機軸 カワサキモータースジャパンは、諸事情により発売延期されていた世界初のストロングハイブリッド搭載バイク「ニンジャ7ハイブリッド」[…]
レーシングコースのイメージを細やかなグラフィックで鮮やかに表現したモデル SHOEIが積極的にグラフィックモデルを投入しているZ-8のニューフェイスは“ニーダウン”で、ずばり“ヒザスリ”だ。ヘルメット[…]
バイク王の初売り2025 企画①:「500台大放出! 初売り特選車争奪戦!」 バイク王の豊富な在庫車両から、このキャンペーンのため特別に用意された500台の特選中古車を2025年1月4日(土)から2回[…]
第1位:AV2278 DICTATOR MC[AVIREX] バイクシューズ売れ筋第1位にランクインしたのは、AVIREX(アヴィレックス)の「AV2278 DICTATOR MC」です。アヴィレック[…]