
世界最大のバイク見本市、EICMA(ミラノショー)開催を目前に控えた今、ドゥカティは『ドゥカティ・ワールド・プレミア』と題してニューモデルを続々と発表している。11月2日、その第5弾として世界初公開されたのが、新開発の水冷シングルエンジンを搭載する『ハイパーモタード698モノ』だ。
●文:ヤングマシン編集部(山下剛) ●外部リンク:DUCATI
ドゥカティがとうとうハイパーシングルエンジンを開発!
ハイパーモタード698モノ発表前の10月26日付で、ドゥカティは水冷シングルエンジンを新たに開発したことを明らかにしていた。『スーパークアドロモノ』と名づけられたこのエンジンは、1299パニガーレに搭載されていた1285cc V型2気筒スーパークアドロエンジンをベースとするパワフルなエンジンだ。まずその概要を見ていこう。
- ピストン、燃焼室形状、46.8mm径チタン製吸気バルブ、38.2mm径スチール製吸気バルブ、デスモドロミック機構を1299パニガーレから継承
- ボア×ストロークは116mm×62.4mmのショートストローク(ボア×ストローク比は1.86)
- 最高出力77.5ps/9500rpm(最高回転数10250rpm)
- レーシングエキゾースト装着時は最高出力84.5ps
- ピストンピン、ロッカアームにはDLCコーティング
- シリンダースリーブとクランクケースはアルミ製
- クラッチ、オルタネーター、シリンダーヘッドの各カバーは鋳造マグネシウム製
- 非対称クランクシャフト
- 2軸のバランサーシャフトはウォーター/オイルポンプも制御
- スリッパー機能付き湿式多板クラッチ(油圧制御)
- クイックシフター対応の6段トランスミッション
- エンジンオイル交換インターバルは1万5000km
- バルブクリアランス調整インターバルは3万km
要するに、ショートストローク&デスモドロミックという、ドゥカティが得意とするノウハウを存分に生かしたハイパワーシングルエンジンが『スーパークアドロモノ』といえるだろう。最高出力はこれまで量産シングル最強と言われてきたKTM・LC4を超え、近しい排気量帯の2気筒勢と比べてもかなりハイパワーな部類である。
最初のストリートマシンは“ハイパーモタード”だ!
このドゥカティ最強シングルエンジンを搭載する第1号車が、ハイパーモタード698モノだ。エンジンは新開発されたスチール製トレリスフレームに搭載。パウダーコーティングされたフレームは部位によって部材の肉厚を最適化し、強度と剛性を確保しつつ重量は7.2kgに抑えられ、軽量化に貢献している。スイングアームは両持ち式の鋳造アルミのワンピース構造で、スイングアーム長572mm、重量3.9kg。コンパクトなホイールベースと軽快なハンドリングをもたらしている。
サスペンションはフロントがマルゾッキ製45mm径倒立フォークで、ストローク長は215mm、重量は8.1kg。リヤはザックス製モノショックで、プログレッシブリンクを介してスイングアームに接続する。なお、サスペンションはどちらもフルアジャスタブルだ。なお、前後荷重配分は、フロントが48.5%、リアが51.5%となっている。
Y字5本スポークの17インチ軽量アルミホイールには、ピレリ・ディアブロ ロッソ4が装着される。ブレーキは前後ともにブレンボ製で、フロントはM4.32ラジアルマウントキャリパーと330mm径ローターを組み合わせている。これはブレンボがハイパーモタード698モノのために開発した専用設計で、フロントブレーキはシングルディスクとなっている。
ハンドルバーはブラックアルマイト加工を施したテーパードタイプで、全幅は807mm。8mm刻みで2段階にハンドル位置を前後に調整できる。フットペグには着脱式のゴム製カバーが装着されているが、これを取り外せば、レーシングブーツとのグリップ力を最大限に引き出す特殊加工を施したエッジが現れ、ライダーとの一体感を高めてくれる。
カラーリングは『ドゥカティレッド』と『グラフィティ(RVEバージョン)』の2種類が用意される。
電子制御が進入スライドを可能にする『スライド・バイ・ブレーキ』
ボッシュ製6軸IMUによる電子制御デバイスは、ライディングモード、コーナリングABS、トラクションコントロール(DTC)、ウィリーコントロール(DWC)、エンジンブレーキコントロール(EBC)、パワーローンチ(DPL)、クイックシフト(DQS)といずれも最新バージョンを装備する。クイックシフトはスタンダードモデルではオプション、RVE仕様には標準装備となる。
ライディングモードは、スポーツ、ロード、アーバン、ウェットの4種が用意される。これはエンジン出力モード(3種)、ABS、DTC、EBSと連動しており、ライディングモードを切り替えるだけで各種電子制御デバイスを一斉に変更できる。
エンジン出力の3モードは、77.5s/9750rpmを発揮しダイレクトなスロットルレスポンスとなる『ハイパワーモード』、最高出力値はそのままにスロットルレスポンスをマイルド、かつスムーズにする『ミッドパワーモード』、最大出力を58.5ps/9500rpmに制限する『ローパワーモード』となっている。
ABSには『ボッシュ−ブレンボABS10.3ME』を採用。このABSでは制御を4段階で設定でき、ドゥカティにとって初採用となるシステムだ。モード4は前後ともにコーナリングABSが作動する、安全性を重視した設定で、ライディングモードのうち、ロード、アーバン、ウェットのモードで適用される。
モード3では、『スライド・バイ・ブレーキ』と連動し、リアをスライド量を的確に制御する。具体的にはリアブレーキをかけながらコーナーへ進入すると電子制御が機能しはじめ、経験の浅いライダーでもリアをスライドさせながらコーナリングすることが可能だ。コーナリングABSは前輪で有効となる。ライディングモード『スポーツ』で設定される。
モード2ではスライド・バイ・ブレーキがより大きなスライド(最大50度)を許容する。パワースライドしつつもABSで安全性を担保しておきたいときに有用で、このモードでもコーナリングABSは前輪のみ有効。モタード経験者向きのモードだ。
モード1では、コーナリングABSではなくなり、さらにフロントのみの制御となってリアは機能オフとなる。
モード1とモード2はライディングモードと連動せず、ABSメニューからマニュアルで設定する必要がある。
“経験の浅いライダーでも”とはいうものの、制御が介入するまでブレーキをかけるにはそれなりの技術または度胸が必要か……。
DWCも4段階が設定されている。レベル4、3、2では前輪の浮き上がりを最小限に抑制しつつ、加速力を最大限に引き出す。レベル1はサーキットでの使用を目的としており、ウィリー制御下にありながらも安全にウィリーすることができる。
また、DWCにはサーキット専用モードもある。これはやはりサーキット専用オプションとなるテルミニョーニ製マフラーを装着した場合のみ、『ウィリーアシスト』が機能する仕組みだ。これが有効になると、長時間におよぶウィリーを電子制御デバイスがサポートし、エンジン出力を調整してウィリー角度を調整してくれる。
EBCは3段階、DTCは4段階、DPLは3段階と各デバイスは細かく設定されており、安全性とファンライドを好みのバランスでセットすることが可能だ。
ウイリーも一定のアングルにとどめてくれる。
メーターはコンパクトさを追求した結果として3.8インチLCDディスプレイとした。背景色は黒で、文字と数字は白で表示。シフトタイミングは、ディスプレイ外枠のLEDが緑から赤に点灯することで示す。また、純正アクセサリーとして用意されるドゥカティ・マルチメディア・システムにも対応している。
さて、ドゥカティが単気筒エンジンを搭載するスポーツバイクを市販するのは、およそ50年ぶりだ。1974年まではデスモドロミック機構を有する空冷単気筒エンジンを生産しており、250cc、350cc、450ccのバリエーションを持っていた。その後、L型2気筒がドゥカティのアイコン的存在となっていた1993年に、ドゥカティは851/888系Lツインのリアバンクを取り去り、フロントバンクのみとした550cc水冷単気筒エンジンを開発。これを搭載したレーサー『スーパーモノ』を発売した。
世界中のドゥカティファンはスーパーモノのストリート仕様の発売を待ちわびたが、ついにそれが実現することはなかった。
そうした歴史があるだけに、古くからドゥカティに傾倒してきたファンほど、ハイパーモタード698モノ、そしてスーパークアドロモノエンジンに対する期待は大きいのではないだろうか。ドゥカティ・シングル新時代の幕開けだ。
DUCATI HYPERMOTARD 698 MONO
HYPERMOTARD 698 MONO / RVE のカラーバリエーションとスペック
車名 | HYPERMOTARD 698 MONO / RVE |
全長×全幅×全高 | 未発表 |
軸距 | 1443mm |
最低地上高 | 未発表 |
シート高 | 864mm |
装備重量(燃料を除く) | 151kg |
キャスター/トレール | 26.1°/108mm |
エンジン型式 | 水冷4ストローク単気筒 デスモドロミックDOHC4バルブ |
総排気量 | 659cc |
内径×行程 | 116×62.4mm |
圧縮比 | 13.:1 |
最高出力 | 77.5ps/9750rpm |
最大トルク | 6.4kg-m/8000rpm |
始動方式 | セルフスターター |
変速機 | 6段リターン |
燃料タンク容量 | 12L |
タイヤサイズ前 | 120/70ZR17 |
タイヤサイズ後 | 160/60ZR17 |
ブレーキ前 | φ330mmディスク+4ポットキャリパー |
ブレーキ後 | φ245mmディスク+1ポットキャリパー |
価格&発売時期 | 未発表 |
車体色 | 赤、RVE |
HYPERMOTARD 698 MONO / RVE のディテール
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
あなたにおすすめの関連記事
フルモデルチェンジとともに扱いやすさを増したというハイパーモタード950だが、それでもひと味違った“ハイパーモタードらしさ”、そして“ドゥカティらしさ”を失ってはいなかった。そして、STDとSPの違い[…]
単気筒で75psを発揮する夢のようなエンジンを搭載 いま、ビッグシングルスポーツの可能性を追求している唯一のグループがKTMである。そんなKTMの690SMCをベースに誕生したのがここで紹介するSM7[…]
232ccの空冷単気筒エンジンを伝統のペリメターフレームに搭載 カワサキモータースジャパンは、インドネシアで先行発表されていた新型スーパーモタード「KLX230SM」を日本でも10月15日に発売した。[…]
すべて90度のV型だが、時代とともに呼び方が変わった ドゥカティが生産するエンジンは、すべてV型レイアウトの多気筒エンジンだ。シリンダー挟み角(バンク角)が90度のため、慣例的に「L型」と呼ばれ、ドゥ[…]
最新の関連記事(ドゥカティ)
伝家の宝刀「V4」搭載のキング・オブ・クルーザー エックス ディアベルといえば、マッシブなクルーザーとして「素の」ディアベルとはひと味違った走り、満足感が得られると評判のモデルでした。 新型は、今やド[…]
2009年に移籍したのに「GP8」にも乗っていた?! 2003年にホンダからモトGPにデビューしたニッキーでしたが、2009年にはドゥカティ・コルセへと移籍。2007年にケイシー・ストーナーがデスモセ[…]
新型ムルティストラーダV4Sはダート性能もアップ! ムルティストラーダとは、英語にすれば“ マルチな道”、つまり“全路面対応型バイク”という意味だ。実際、ムルティストラーダのコンセプトは4in1バイク[…]
ドゥカティ初の単気筒モタードモデル モタードモデルといえば、通常はオフ車の派生モデルとして作られるが、この「ハイパーモタード698モノ」は、ロードスポーツキャラに100%振りきって、車体剛性も高めに設[…]
走行&レクチャーを1日繰り返す 上のメインカットは、イタリア人講師のリビオ・ベローナさんを追いかける筆者と、その走りを後ろから観察する元世界GP250ccクラスチャンピオン・原田哲也さん。コースはMo[…]
最新の関連記事(新型大型二輪 [751〜1000cc])
スマホ連携機能で魅力を増した、ボッシュ製ARASを備える最高峰ツアラー カワサキは「ニンジャH2 SX SE」の2026年モデルを11月1日に発売する。カラー&グラフィックの変更およびスマートフィンア[…]
青ベース、白ベースそれぞれのツートーンが登場 カムシャフトの駆動にベベルギヤを用いた、美しい外観の空冷バーチカルツインエンジンを搭載(バーチカルは垂直に立ったシリンダーを指す)するW800は、360度[…]
カワサキ大排気量モデルの原点は、2026年モデルも普遍性を継承 目黒製作所の創立100周年だった2024年秋、「メグロK3」が初のデザインアップデートを受けた。2024年11月発売のメグロS1のカラー[…]
トランザルプってどんなバイク? トランザルプは754cc 2気筒エンジンを搭載したオールラウンダー。何でも1台でこなせる欲張りなマシンなのですが、ただの万能バイクではありません。 軽快でスポーティーな[…]
1000に負けない元気のよさ 1月発売の1000に続いて750にも新しいホーネットが登場した。1000の方は乗ってみて、まあ元気のいい走りが印象的だったんだけど、この750もそれに負けず元気がいい。エ[…]
人気記事ランキング(全体)
世界初公開のプロトタイプ&コンセプトモデルも登場予定! ホンダが公式素材として配布した写真はモーターサイクルショー展示車および鈴鹿8耐時点のもの、つまりミラー未装着の車両だが、JMS展示車はミラー付き[…]
YZF-R1/R6のレースベース車が受注開始! ヤマハがロードレースやサーキット走行専用モデル「YZF-R1 レースベース車」と「YZF-R6 レースベース車」の発売を発表。いずれも期間限定の受注生産[…]
夏のツーリングで役立つ日除け&雨除け機能 KDR-V2は、直射日光によるスマホの温度上昇や画面の明るさ最大時の発熱を軽減するために日陰を作る設計です。雨粒の付着で操作がしにくくなる場面でも、バイザーが[…]
通勤エクスプレスには低価格も重要項目! 日常ユースに最適で、通勤/通学やちょっとした買い物、なんならツーリングも使えるのが原付二種(51~125cc)スクーター。AT小型限定普通二輪免許で運転できる気[…]
ウィズハーレー掲載記事のウラ側がわかる 俳優/タレント/サックスプレイヤーとしても活躍する武田真治さんが、故郷・北海道を同級生たちと結成するハーレーチーム「BLACK NOTE」とともに駆け抜けた!ハ[…]
最新の投稿記事(全体)
スマホ連携機能で魅力を増した、ボッシュ製ARASを備える最高峰ツアラー カワサキは「ニンジャH2 SX SE」の2026年モデルを11月1日に発売する。カラー&グラフィックの変更およびスマートフィンア[…]
地面を感じる直進安定性で日常の移動を安心快適に 決勝レース1で自己最高となる2位を獲得した第3戦を終え、全日本ロードレース選手権は8月下旬まで約2ヵ月間の夏休み。その間もいろいろと忙しいのですが、やっ[…]
ゼファーとは真逆のコンセプトで独り勝ちを掴む! 1989年のカワサキZEPHYR(ゼファー)をきっかけに、カウルのないフォルムをネイキッドと呼ぶカテゴリーが瞬く間に人気となった。 続いて1991年に、[…]
フレディ・スペンサー、CB1000Fを語る ──CB1000Fのインプレッションを聞かせてください。 とにかくすごく良くて、気持ちよかったよ。僕は何年もの間、新しいバイクのテストをしてきた。HRCのテ[…]
まさかのコラボ! クロミちゃんがホンダバイクと出会う ホンダがサンリオの人気キャラクター「クロミ」と、まさかのコラボレーションを発表した。クロミがバイクに乗りたくなるというストーリーのオリジナルアニメ[…]
- 1
- 2