スパルタンさを残し、ドゥカティらしさ満点

ドゥカティ ハイパーモタード950/SPの試乗インプレッション

フルモデルチェンジとともに扱いやすさを増したというハイパーモタード950だが、それでもひと味違った“ハイパーモタードらしさ”、そして“ドゥカティらしさ”を失ってはいなかった。そして、STDとSPの違いはいかに?

第一印象は『軽くスリムなスポーツネイキッド』

街を駆けるライトウェイトネイキッド? それともマニアックな“これぞドゥカティ”の1台? 試乗する場所や走行ペースによって受ける印象は様々だった。気軽に乗れるかと思えば、手厳しい一面が垣間見えるときもある。

扱いやすくなり、多くのライダーにすすめられるマシンが増えてきたドゥカティにあって、これだけ個性を前面に押し出したハイパーモタード950/SPの存在は痛快そのものだ。

ドゥカティのバイクは伝統的に、乗り方を心得ていれば応えてくれて、そのライディングフィールは極上。しかし、そうでもないライダーにとっては素っ気ないというか、突き放す感じが強かった。近年はずいぶん丸くなって、僕のようにそれなりの腕前のライダーでも許容してくれるようになってきてはいるが、それでも、たまにコーナリングが決まったときの気持ちよさは他にないものがある。

ハイパーモタードは’07年に空冷1078ccエンジンを搭載した初代モデルが登場。日本に導入されたのは高級仕様の1100Sのみだったが、とにかくスパルタンなマシンだった。足まわりはサーキット前提のハードな仕上げだったし、当時最高峰モデルだった1098Sゆずりのブレーキキャリパーは強烈な制動力を発揮した。その軽量さやシート高の高さと相まって、相当に乗り手を選ぶバイクだったのだ。

その後に登場した、ミドルクラスの空冷エンジンを搭載したハイパーモタード796は、それまでのイメージがガラリと変わるほどフレンドリーになっていた。水冷エンジンとなってモデルチェンジしたハイパーモタード(821~939)も、初代に比べれば扱いやすい部類になっていたと思う。

そんな記憶を携えてハイパーモタード950の試乗会に参加した僕は、「ずいぶん扱いやすくなったな」「いやいや、これはスパルタンだぞ」という印象を行ったり来たりすることになる。

2車の違いは“スパルタン度”
【左:SP】スーパーバイクシリーズをもしのぐスパルタン度と思われるのがSPだ。軽量&ハイパワーかつ高荷重設定で、これを乗りこなせるようになったら、どんなバイクでもイケるかも? 【右:STD】街乗りからワインディングがメインステージとなるスタンダードモデルは、ドゥカティ全車の中で言えばスパルタンな性格と言えるものの、基本的には扱いやすい。

試乗のステージとなったスペイン領カナリア諸島、グランカナリア島は、日本でいう高原道路のような雰囲気のワインディングロードが多い。道の広さやカーブの曲率でいえば西伊豆スカイラインあたりが近いだろうか。また、上級モデル・SPの試乗はグランカナリア島内にあるサーキットで行われた。

試乗はSTDからスタート。一般道で約130kmのコースが設定された。

跨った印象は、背の高いスポーツネイキッドといったところ。ハンドルはそれほど幅も広くないが、僕の身長(183cm)だとやや低く感じる。

シートの幅は狭く、やや前傾気味に前が低くなっている。長時間乗っていると尻が前に滑っていく感じもあるが、前に座ると足着き性が確保できる点も考えれば、これはこれでいい案配なんじゃないだろうか。

エンジンのサウンドは心地好い。程よく消音されていつつも、イヤな高周波や破裂音が混ざることはない。初代1100Sの空冷2バルブエンジンほどのウエットな重低音はないが、ドゥカティらしいパルス感に包まれる。

メーターの視認性は良好で、明るい日中でも液晶パネルが見にくくなることはなかった。

軽快で扱いやすく感じられたハイパー950[STD]だが、少しスポーティに走るとスパルタンさも垣間見えてくる。サスセッティングで好みに振ることも可能だと思う。

軽快さとスポーティさと……中途半端は許されない?

先導ライダーに続いて走り出すと、まずは軽快感が光る。着座位置が高く、路面との距離を感じないでもないが、エンジンが低回転でギクシャクすることもなく扱いやすい。

混合交通の流れに乗って、たまに追い越しをかけて……といった走り方においては、本当に自然に扱える。ブレーキの利きも自然だし、クラッチも軽い。長時間のクルージングでは尻が痛くなるという同行ライダーの意見もあったが、僕はオフロード車に慣れていることもあってか、全く気にならなかった。

少しペースが上がってくると、気難しさが顔を出してくる。フロントブレーキをほとんど使わず、エンブレとわずかな体重移動でバンク角もほどほど、といった走りでは機嫌よく走っていたハイパーモタードだが、ある程度のブレーキングをしはじめると、フロントフォークの動きを落ち着かせるのが難しい。リヤサスペンションもあまり沈まず、常に後ろが高くて前ばかりが動いているような印象なのだ。確かに従来モデルよりは乗りやすいが……。

と思っていたら、さらにペースが上がったところでリズムが合ってくるから面白い。フロントフォークをしっかり沈ませたあと、フルバンクまではいかないまでもスポーティな領域までバイクを傾けると、リヤに荷重が乗ってサスも沈むし、フロントも落ち着いてくる。ようするに、中途半端な乗り方にはあまり寄り添ってくれないバイクなのだ。

SPは猛烈にスパルタンだが、一方で様々なライディングフォームを受け入れてもくれる。

楽な気分で軽快に乗るか、さもなくば、しっかりスポーツしたい意思を伝えるか、なのである。その中間で乗ろうとすると、危ないとか乗りにくいとかまではいかないが、どこか思い通りになってくれない。 このハッキリした、ある意味スパルタンな性格こそがドゥカティらしさなのだ。これを好ましく思うライダーも少なくないだろう。

軽快な走りでもスポーティな走りでも、スロットルを開けて力強いトラクションを楽しめるのは同じ。いずれもエンジンの回転をいたずらに上げることなく、1000cc近いツインのトルクをしっかり引き出せるよう、スロットルを大きめに開けるのがポイントだ。

強烈にスパルタンなSP……電子制御の恩恵はスゴイ

午後からはSPに乗り換え、サーキットへ。STDとの違いは跨った時点から明らかだった。サスストロークが延長され、シート形状が違うこともあってシート高はグッと高い。押し引きでもサスが高荷重設定なことはすぐにわかり、手ごわそうな印象だ。

オプションのレーシングマフラーが装着され、タイヤはピレリ・スーパーコルサSPのV3。電子制御による走行モードはドゥカティおすすめの設定とされ、トラコンやウイリーコントロール、ABSの介入は最小限だという。

凄いなと思ったのはスライド・バイ・ブレーキだ。簡単に言えば進入スライド状態をABSで作り出してくれるもので、バイクを傾けながら前後ブレーキをギュッとかければ勝手にドリフト状態をキープする……らしい。

この緊張感と爽快感、ドゥカティでも随一![SP]

まずは普通に走れるようにマシンに慣れていこうとするが、スパルタン度はSTDの比ではない。エンジンはパワフルだし車体は軽いし、サスはちょっとやそっとじゃ思い通りに沈んでくれない。3本の走行枠があったが、ようやくそれらしく走れるようになってきたのは最後の3本目だったくらいだ。

正直いって、感覚的なスパルタン度で言えば1299パニガーレSをも超えている(V4はサーキット未試乗)。腰高でホールドしにくいライポジもあって、ブレーキングから倒し込みの緊張感はかなりのものだ。ちなみにリーンアウトでも違和感はない。いずれにしろ、たまにリズムが合うとギュウッと曲がって気持ちいいが、僕レベルでは打率2割もいくかどうかだ。ただし、スーパーバイク系ほどの速度域にはいかず、また手厳しく見えても全くフォローがないわけでもない。緊張感と爽快感がないまぜになって、とてもいい汗がかけた。

けっして万人向けではないが、短い時間でこれほど「バイクに乗った!」という充実感が得られるバイクもないだろう。そうした意味でハイパーモタード950は、もっともドゥカティらしい1台なのかもしれない。

同じエンジンを採用する兄弟車もあるが、乗ると全然違う!

ハイパーモタード950が搭載する937ccの90度Vツインエンジンは、同じドゥカティのスーパースポーツやムルティストラーダのものと変わらないというが、吸排気系が異なり、車体も別物となるため、その走行フィーリングは大きく異なっている。
[左:MULTISTRADA 950 S]STDでは長いホイールベースやゆったりしたサスストロークによりエンジン特性も穏やかに感じられる。電制サス装備のSは今年発売になるが、傾向としては同様になるはずだ。[中央:HYPERMOTARD950 SP]吸排気系の設定により、やや高回転型のエンジンとなっているハイパーモタード950。細身で軽快な車体もあって、エンジンフィーリングもややスパルタン寄りに感じられる。[右:SUPERSPORT S]スポーツ性と快適性のバランスが好ましいロードスポーツモデルで、走行ペースを問わず扱いやすい性格。低回転域から太いトルクがあり、トラクション感も抜群だ。

スライド&ウイリー! 電子制御はスゴイことになっている

スライド・バイ・ブレーキ。スーパーモタード系の走りの写真でよく見られる『進入スライド』だが、このハイパーモタードは電子制御(ABS)によってその状態を作り出すことができる。……とはいえ、あくまでも進入スライドにチャレンジできる環境と、それなりのウデと度胸が必要ではあるのだが。残念ながら筆者は、何度かトライしてはみたものの、制御が介入する領域にはまったく至らなかった。

スライド・バイ・ブレーキはバンク角30度、または進行方向と車体の向きのズレが10度に達すると、それを超えないように制御。10度のほうは比較的容易に達するが、速度が足りないと早々に0度に戻る。30度のほうはかなり難しく、到達前にびびってブレーキをリリースしてしまいました……。
【やろうと思えばできる!?】大きい写真は制御領域を超えたスライドを見せるルーベン・ザウス選手のデモ走行。小さい写真は試乗会の先導ライダーで、じっさい安全にこのくらいのスライドができるんだとか。
【この角度も許容するウイリーコントロール】軽量&パワフルなため2速でも少し体重を後ろにかけると簡単にパワーリフト。写真のようなアングルのまま加速するから恐れ入る。怖さはそれほどなかった。

[マシン解説]各部の徹底的なリファインと軽量化、そして電子制御を充実させる

2007年に空冷1078ccツインを搭載した初代が発売。その後も定期的なモデルチェンジでリフレッシュされ、EVOエンジンを経て水冷821ccエンジン、そして前作の水冷937ccとなっている。今回のモデルチェンジでは水冷937ccエンジンの細部を徹底的に見直し、アップマフラーの復活や車体のリファイン、そして電子制御の充実などで生まれ変わった。

デザイン面では原点となる初代を意識しつつ、誕生から25周年を迎えた916へのトリビュートも盛り込んだ。SPはオーリンズ製サスペンションなどを備えたスポーティな上級仕様となる。

[STD]ヘッドライト横にはデイタイムランニングライトを採用(日本仕様ではどうなる?)。従来は中央が黒だったクチバシはボディ同色となった。
[STD]グラブバーを兼ねたテールランプユニットを新採用。マフラーは従来の右1本出しダウンタイプから、アップタイプの2本出しとなった。
[SP]メーターはパニガーレV4イメージのフルカラーTFTを採用。モード切替や各項目の数値も判別しやすい。回転計の中央にギヤ位置を大きく表示する。
[SP]SPはオーリンズ製のサスとステダンも装備。ボディワークにカーボン多用のほか、とても出来のいいクイックシフト(STDはオプション)も備える。
[SP]SPのホイールはマルケジーニ製の鍛造。オーリンズ製φ48mm倒立フォークはフルアジャスタブルで、ホイールトラベルは185mm(STDは170mm)だ。
[SP]リンクレスマウントのリヤショックもオーリンズ製フルアジャスタブルとされ、こちらのホイールトラベルは175mm(STDは150mm)となる。
[ライディングポジション 身長183cm/体重75kg]フラットで高めのシートに、従来より7度開いたハンドルバーをやや低めにセット。STDはシートがやや前傾していて、SPはよりフラットで厚みがある。足着きは、SPはサスが沈みにくいぶん数値以上に高い感じがする。オプションでローシート(−20mm)もある。

ハイパーモタード950/SPの主要諸元

【DUCATI HYPERMOTARD 950/SP 2019】全長/ 全幅/ 全高=未発表 軸距1498[1493] シート高890[870](各mm) 車重198[200]kg(装備)■水冷4ストV型2気筒DOHC4バルブ 937cc 114ps/9000rpm 9.8kg-m/7250rpm 変速機6段 燃料タンク容量14.5L■キャスター25度 トレール104mm ブレーキ形式F=φ320mmダブルディスク R=φ245mmディスク タイヤサイズF=120/70ZR17 R=180/55ZR17 ●価格:210万円[165万円] ●予想発売時期:2019年6月 ※[ ]内はSTD
[誕生25周年をトリビュート!]1994年にデビューした916が25周年となることから、ハイパーモタード950のデザインにもそのイメージを投影。エンジンの後ろから立ち上がる2本のエキゾーストパイプがそれだ。

メーカーエンジニアはフレンドリーさの向上と軽量化についてアピール

試乗に先立って、プロジェクトマネージャーのドメニコ・レオさんによる技術説明があった。今回のモデルチェンジのテーマのひとつに軽量化があり、エンジン単体で1.5kg、車体全体では4kgの軽量化を果たしている。また、マフラーは前作よりも大きくなったものの、薄肉化でむしろ軽くなったほか、フレームも箇所によって肉厚を調整するなどした。一番薄いフレームパイプで2mm厚を採用したが、これを綺麗に溶接することが課題になったという。また通常の発表ではパフォーマンスを語ることが多いなか、今回はフレンドリーさの向上をアピールした。

熱く語ってくれたのは、車両プロジェクトマネージャーのDomenico Leoさん。

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