『バイク冒険家』の肩書に込められた想い

SSTRの仕掛け人、風間深志さんが伝える「バイクと感動」……〈多事走論〉from Nom

夜明けとともに太平洋を出発し、日の入り前に日本海のゴールへとたどり着く。そんなイベント「SSTR」が毎年開催され、多くのライダーに感動を与えるとともにバイクの虜にしています。バイクで得られる感動を本気で伝えたいという風間さんは、かつて世間の目と戦っていました。


●文:Nom(埜邑博道) ●写真:編集部 ●取材協力:風間深志事務所

風間さんは40年前にバイクの本質を見抜いていた

ヤングマシン本誌の連載企画、「SDGs――持続可能なバイクライフへ トップたちの提言」で、いまや社会現象になったSSTR(サンライズ・サンセット・ツーリング・ラリー)を主催するバイク冒険家の風間深志さんにインタビューさせていただきました。

砂浜をバイクや車で走れるという稀有な存在の「千里浜なぎさドライブウェイ」は、20年以上前から浸食などによる砂浜の減少が深刻になっていて、風や波の強い日は通行禁止になる事態も生じています。そこで石川県と羽咋市が「一人一砂運動」をいう砂浜を維持、復活する運動を行っていて、風間さんもSSTRに参加するライダーたちに協力を求めています。

その内容は、発売中の本誌10月号に掲載されているのですが、あまりに風間さんのお話が面白く、そして多彩で、誌面には収まり切れないほど数多くのエピソードがありました。

まあ、紙幅が限られている雑誌ですから、常に書きたいけどスペースの都合で書けないというジレンマに陥るのですが、いまはこうやってウェブという手段があり、今回はどうしてもみなさんにお伝えしたいことがあって、とても異例なことですが、こうやって追加で原稿を書かせてもらうことにしました。

取材前に風間さんがしてこられたこと、いまやっていらっしゃることを下調べした時点で、「うーん、どうしよう」とどこにフォーカスするか非常に迷いました。

ご存じの通り、風間さんは北極と南極をバイクで走破するという偉業をやった方。若い読者の方はあまりご存じないかもしれませんが、その頃バイク雑誌の編集者だったボクは風間さんの行動に大きな衝撃と賞賛を感じたものでした。

風間さんが南極走破に挑戦した際に使用した「ウィスパーダンサー」は、排ガス・騒音などを可能な限り低減させるために巨額の開発費がかかったのだそうです。

そもそも風間さんは、バイク雑誌のご出身で、ボクの先輩たちともとても深い付き合いがあったもので、風間さんがやられていることはリアルタイムで耳に入ってきていました。

とはいえ、80年代後半から90年代は、まだまだバイクブームで、一般ライダーの主な関心はどんなニューモデルが出るのかということ。風間さんの冒険はとてもすごいことでしたが、残念ながらそれは「本が売れる」ネタではなく、ある意味おざなりに紹介するだけだったと記憶しています。

しかし時が過ぎ、現在に至ると、風間さんがやっていらっしゃったことは、バイクの本質、素晴らしさを世の中の人に知らしめることだったのだと思うようになりました。

本誌で書きましたが、風間さんの友人のレーシングライダーが世界GPでチャンピオンを獲得しても、それを報じる新聞記事はわずか10数行。しかし、キリマンジャロにバイクで挑んだ風間さんの記事は15~16段。そのとき風間さんは、速い・遅いという視点でバイクを語っても一般の人は興味を抱かない、それよりもバイクでいろんな挑戦をして、普通の人でも想像できる感動を伝えなければいけないと思ったそうです。

それからすでに40年が経ちました。

いままさに、多くのライダーがバイクの魅力を速さでは語らず、バイクに乗る気持ちよさだったり、自分の生活を表現する手段として愛するようになっています。

風間さんは、それに40年も前に気づいていた。ボクも、いまは風間さんの考えに100%同意しますが、そう考えるようになったのは20年前くらいでしょうか。年季が違いますね……。

バイクでの「冒険」は人一倍、自然に配慮するものだった

風間さんに、誌面で紹介する際の肩書はどうしましょうかと尋ねると、ちょっとだけ間をおいて「バイク冒険家かな」とおっしゃいました。

このバイク冒険家という肩書も、風間さんなりにどうすればバイクを知らない一般大衆がこっちを向いてくれるかなと考えた末のことだったそうです。

その当時、日本はちょっとした「冒険ブーム」で、日本人で初めてエベレストに登頂し、犬ぞりで北極点に到達した登山家の植村直己さんや、プロスキーヤーの三浦雄一郎さんなどと一緒にTV番組の審査員として出演した際も、周囲は「どうせ、バイクだろう」、「生身でなし遂げたわけじゃないよね」というある種の偏見を感じたと言います。

風間さんは、「登山のときなんか、バイクに乗っているよりも押している時間の方が長かったよ」と笑いますが、世間の見方は動力があって勝手に動くバイクの方が楽に冒険を達成できると感じるのですね。

エンジンが付いた乗り物で冒険をする際に、風間さんは人一倍、周囲に、そして環境に迷惑をかけまいと気を遣っていたそうです。

環境の保全と一般の方との共存。

例えばエベレストにしても、ただ単に頂上を目指すのではなく、環境に負荷をかけないように登るというのが今や当り前のこと。風間さんが登った当時もそういう考え方はすでに芽生え始めていたようで、エベレストにバイクで登頂したとき、アメリカ人の女性登山客の2人が「お前はクレージーだ」と激しく抗議をしてきたそうです。

そんなこと言われなくても、自分はすごく気を遣っているつもりだし、バイクの音を聞くと動物のヤクも逃げちゃうなと思って、登山しているトレッカーの方たちやヤクが見えなくなるまで待ってから走ったそうです。ある意味、周囲や自然を気にすることしか考えていなかったそうです。

「でもね、たとえばベースキャンプが上にあって、200人の人が俺とバイクを見ている。『なんで、バイクなんかで来たんだ』と。これは、自然の壁より大きな人間の壁でしたね」

バイクで冒険するということは、身体ひとつで挑戦する以上の困難があったようですが、世間一般の人はバイクは楽をするための手段としか感じないようです。ここにバイクという乗り物が、とくに日本ではなかなか理解を得られない、社会的に認知されない根本の原因があるように感じます。

風間さんは、いまカーボンニュートラルなどの考えがエスカレートしているけれど、バイク乗りは根本的にそこへの配慮を持っているはずだと言います。常に自然と隣合わせのライダーは、誰よりも自然のことを考え、認識しているのだと風間さんは考えています。

ですから、SSTRが終わって1週間後というタイトなスケジュールにもかかわらず、国連の「世界環境デー」に合わせて神奈川県の山中湖畔で「へそミーティング」を開催したのだと言います。

SSTRが終了してわずか1週間しか経っていない6月4日に、山中湖の「山中湖交流プラザきらら」で開催された「へそミーティング」。世界環境デーのこの日にどうしても開催したかったため、準備も不十分なままだったがあえて開催して、ライダーは常日頃から自然と共生していることを訴えたかったのだそうだ。

「やっぱりね、専守防衛じゃないけど、言われる前に我々がやるべきことが環境をしっかり考えることだと思います。我々は、常日頃、バイクを通して自然と出会って、自然に感謝して感動を覚えているのだから、自然に対する思いは世間一般の人よりも上だよと主張しないとね」

二輪を包括する世界規模の団体であるFIMも、環境保全に対して積極的に活動しています。日本では、MotoGPなどのレースを統括するだけの団体だと思われがちなFIMですが、1994年からバイクに乗っているときに行きかう人々や地域社会に対し騒音などを立てずに紳士的な態度で接しよう、自然環境の保全に気を配り、環境保全の運動に積極的に参加しようという「Ride Green」運動を推進しています

その構造上、どうしても大きな音や排気ガスを出してしまうバイクだからこそ、自然と共存して、環境を守りながら走ることを第一に考え、自然の保全活動にも積極的に参加しようというRide Green運動。今から約30年前の1994年から、この運動はスタートしている。もちろん、SSTRもRide Green運動として承認されている。

このようにFIMはレースよりも、むしろツーリングなど一般ライダーが楽しめるイベントにこそ力を入れていて(日本のMFJも、にっぽん応援ツーリングを主催するなどRide Green運動を積極的に推進しています)、SSTRもにっぽん応援ツーリング、そしてへそミーティングもFIMの公認イベントになっています。

風間さんが80年代に気づいたバイクの本質、どうすれば世間に温かく受け入れてもらえるのかという思い、気持ちがいま、環境保全やカーボンニュートラルといった時代の要求と見事にマッチしているのだなぁと思いました。

本誌での「SDGs 持続可能なバイクライフへ――トップたちの提言」は、我々ライダーが将来にわたってバイクを楽しめるように、各界を代表する方々はこの先何を、どんな思いで成し遂げようとしているのかをお聞きしよう。そしてそれを、誌面を通して読者/ライダーのみなさんにお伝えして、バイクにずっと乗り続けようという気持ちになって欲しいという願いから始まっています。

政治家は使用環境を改善する政策で、車両メーカーや販売会社は魅力的なニューモデルや販売施策で持続可能なバイクライフを実現しようとしているように、風間さんがかかわっているSSTRを筆頭にしたイベントのすべては、持続可能なバイクライフを送れるようにするために、多くのライダーに向けて用意してくれているステージなのだと感じました。

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