ホンダは、249ccの水冷単気筒エンジンを搭載した新型スクランブラー「CL250」を5月18日に発売した。6月中旬に開催されたプレス向け試乗会では高評価を得ていたし、筆者もとても気に入ったわけだが、“ココをもう少しよくすれば……”という点もあったのでお伝えしたい。いわば試乗インプレッション『Bサイド』である。
●文:ヤングマシン編集部(ヨ) ●写真:真弓悟史、ホンダモーターサイクルジャパン ●外部リンク:ホンダ
まずは、いいところをまとめて復習!
CL250は、クルーザーのレブル250をベースとしながら、ストリートスクランブラーとして仕立てられたもの。シンプル極まる“素のバイク”としてのよさを受け継ぎながら、より自由で開放的な乗り物になっている、というのは前回のファーストインプレッションでお伝えしたとおり。
良かったところというのは、ほぼこのコンセプトに根差しているものだった。まずは自由度の高いライディングポジションによる見晴らしのよさ、足着き性のよさだろう。とてもリラックスできるし、乗り慣れる前から『トラブルなくどこにでも行ける』という予感がする。
そして、CL500と車体のベースを共有していることから、250ccクラスとしては立派な車格であることも挙げられる。身長183cmの筆者が乗っても「小さなバイクに見えない」などと同業者に言われ、それでいて160cm台のライダーでも不自由なく乗れたという。
ゆったりした乗り味も美点だ。快活に走るにはエンジンをある程度回す必要があるものの、柔らかい鼓動感をともなう低中回転域を使って街中を流すのがとても気持ちいい。アシスト&スリッパークラッチ採用でレバー操作は軽く、発進は楽々。ハンドリングも、前輪19インチゆえに乗り手の感覚にフィットする“絶妙な反応のラグ”があり、これがスポーティに快走しようというときにもライダーを急かさない特性として活きてくる。ようは安心して身体を預けることができるわけだ。
ワインディングロードなどもリーンウィズのまま気持ちよく駆け抜けることができ、同じ250ccクラスのスポーツバイクと一緒に走っても、あっという間に目の前から消えていく……というほどの差はなさそうだ。そして、路面状況が悪くなるほどに差は縮まり、走り終えて疲労が少ないのはCL250のほうになるだろう。
クルーザーのレブル250をベースにしているからこそ、ストイックにならない“陽”のスポーツ性を味わえる、自由の象徴のようなバイクに仕上がったのだと思えた。何か突出した長所こそないものの、乗ってみて全体を眺めるとしみじみイイ、そんなバイクがCL250だ。これで価格は62万1500円なのだから、多くのユーザーが納得できるんじゃないだろうか。
【△】オプションのフラットシートがよすぎる
残念な点のひとつめは、シートである。単体で見れば大きな不満はなく、レブル250のシート高690mmから100mmアップにとどめた790mmで多くのユーザーにハードルを下げた設定としているし、タックロール風の表皮もデザイン性が高い。
しかし、である。純正アクセサリーとして用意されたフラットシート(シート高は+30mm)に試乗させてもらったところ、「こっちが本当の姿なんじゃねーの?」と思わずにいられないほど、よく出来ている。しかもこのシートの価格は1万2540円なのだ。通常このサイズのオプションシートは3万円くらいしてもおかしくない。
比べてしまうと、ノーマルシートの細かい不満点が浮かび上がってくる。足着き性を確保するために高さは抑えているものの、意外とシートのヘリが内モモに当たる形状なのと、座面が前傾気味なことから着座位置が規制される傾向があって、足を下ろすとふくらはぎにステップが当たる。これにより、走っているときの快適さに比べると停止時はちょっと微妙……という感じがしてしまうのだ。いやまあ、身長155cmで両足が着くとはいうのだが。
フラットシートはというと、その名の通り座面がフラットなことから着座位置の自由度が高く、またスリムな形状になるため、じっさいのところ足着き性は30mm差の数値からイメージするほどには変わらない。ステップのふくらはぎやスネへの当たりも気にならなくなる。これは筆者だけでなく、身長168cmの丸山浩さんも同じことを言っていた。そして、ハンドルバーが手元に近くなるので操舵がより自然にしやすくもなった。
さらに、クッション自体の厚みがあるためクッションストロークが長く(ウレタンの硬度自体は同等だという)、振動特性や乗り心地もより快適になる。
ちょっとマニアック目線でいうと、速度域に応じて前後の荷重を変えていきたいときに着座位置が自由なのはとてもありがたい。ノーマルシートだと、特に低速時にどっちつかずになりがちで、前輪に荷重が載せにくいことからフロントブレーキも掛け始めにカクンとなりやすい。ある程度ペースを上げたほうがしっくりくるようになるのだ。フラットシートの場合は上記が解消され、極低速のフルロックターンなどもしやすくなる。もちろん、ペースを上げたら少し後ろに座ればいいだけだ。
このオプションシート、ディーラーで納車時にノーマルと選べるようにして価格は変わらず、みたいな売り方にできないものだろうか。そう思ってしまうほど、このシートがよく出来ているのだった。
【△】やっぱり、レブルに似すぎ
これは好みにもよるだろうが、レブル250の自由さを拡張してストリートスクランブラーに仕立てている、いわば背の高いバージョンのアナザーレブルなだけに、見た目はかなりレブルである。
もちろん、素のバイクとしての立ち位置や、レブル250が軽二輪クラスで断トツの販売台数を誇っていることも考慮すれば、この姿になったのは大いに納得できることではあるので、言いがかりに近いことは重々承知している。
とはいえ、カラーリングのイメージがレブル系と重なることもあり、次年度モデル以降でのカラーバリエーション展開に期待したくなる。たとえば往年のCL72みたいなシルバーとか。または思い切って赤いフレームにして遊び心を表現するとか。
そんな妄想はともかくとして、いい選択肢になりそうなのはヘッドライトバイザーやリアサイドカバー(いわゆるゼッケンプレート風のやつ)、アップフェンダー、ナックルガードといった純正アクセサリーだろう。
これらを装着した見本パッケージ車両はモーターサイクルショーなどでも展示されたが、往年のドイツ車のゲレンデシュトラッセに通じるイメージは街中でも映えそう。さらに、スキッドプレートやアップタイプのエキゾーストパイプなど、今後発売されそうなサードパーティ品でのカスタムも想定すれば、けっこう本格オフロードの雰囲気にも仕立てられるんじゃないだろうか。
【△】オフロード要素は薄め
CLという往年の車名を復活させ、スクランブラーというコンセプトを掲げるからには、それなりのオフロード走破性を期待してしまう。その点でいうとCL250は、アップタイプのサイレンサーではあるがエキゾーストパイプはエンジン下を通っていて、車重もそれなりにある。筆者も含め、オフ系好きには物足りなく映るのも仕方がない。
だが、じっさいの乗り味や使い勝手はフラットトラッカーを連想させるもので、ストリートでの使い勝手と自由度を最大化していることがわかる。言ってみれば立ち位置はかつてのFTRに近く、CL500と車体を共有していることから車格はもっと立派。アップマフラーや全体のデザインからスクランブラーイメージに仕立てられているが、ストリートトラッカー的な部分も併せ持つと思えば上記のようなことも納得がいくようになる。
カスタムの素材として見ても、かつてのFTRに近い立ち位置なのかもしれない。よりスクランブラー風に仕立てる、オフロード機能を強化する、または現代風に品のいいトラッカーカスタムに仕立てるなどした、さまざまな愛車たちが街を颯爽と走る日を楽しみに待ちたい。
HONDA CL250[2023 model]
通称名 | CL250 |
車名・型式 | ホンダ・8BK-MC57 |
全長×全幅×全高 | 2175×830×1135mm |
軸距 | 1485mm |
最低地上高 | 165mm |
シート高 | 790mm |
キャスター/トレール | 27°00′/108mm |
装備重量 | 172kg |
エンジン型式 | 水冷4ストローク単気筒DOHC4バルブ |
総排気量 | 249cc |
内径×行程 | 76.0×55.0mm |
圧縮比 | 10.7:1 |
最高出力 | 24ps/8500rpm |
最大トルク | 2.3kg-m/6250rpm |
始動方式 | セルフ式 |
変速機 | 常時噛合式6段リターン |
燃料タンク容量 | 12L |
WMTCモード燃費 | 34.9km/L(クラス2-2、1名乗車時) |
タイヤサイズ前 | 110/80R19 |
タイヤサイズ後 | 150/70R17 |
ブレーキ前 | 油圧式ディスク(ABS) |
ブレーキ後 | 油圧式ディスク(ABS) |
乗車定員 | 2名 |
価格 | 62万1500円 |
色 | 橙、灰、白 |
発売日 | 2023年5月18日 |
※本記事の文責は当該執筆者(もしくはメディア)に属します。※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
あなたにおすすめの関連記事
CL250の写真をまとめて見る 見た目はレブルっぽい……? でも跨るとその意味がわかる 思った以上にレブルだよなぁ……。CL250/500が正式発表されたとき、多くの方がそう思ったに違いない。僕もその[…]
全部揃えるならクロススタイル=10万4940円、ツアースタイル=24万8490円 ホンダは、正式発表したCL250用に同車の魅力と利便性を高める各種アイテムを一挙リリースすることを発表した。マシン本体[…]
ガード類を特盛り、サスは調整機構で万能さをアップ! 国産250クラス唯一のスクランブラーとして、予約が殺到しているCL250。5月18日の発売日もいよいよ迫ってきた。 CL250の大きな魅力の一つがカ[…]
ストリートからアウトドア、カスタムも遊べそうなスクランブラー参上! ホンダはブランニューモデルのスクランブラー「CL250」を正式発表。昨秋からその姿は伝えられてきたが、発売日と価格&スペックがついに[…]
23YM CL500 471cc並列2気筒エンジンは46psを発揮、ロングストロークのサスペンションと大径フロントタイヤを採用 ホンダはブランニューモデルのスクランブラー「CL500」を正式発表した。[…]
最新の関連記事(ホンダ [HONDA])
大型二輪免許は18歳から取得可能! バイクの免許は原付(~50cc)、小型限定普通二輪(~125cc)、普通二輪(~400cc)、大型二輪(排気量無制限)があり、原付以外には“AT限定”免許も存在する[…]
しっかりとした防寒対策をすれば冬ならではの魅力が楽しめる! じっとしているだけでも寒い季節…さらに走行風を浴びるバイクって何が楽しいの? と思われる方も多いかもしれません。たしかに寒さの感じ方は、人そ[…]
6速MT仕様に加えEクラッチ仕様を設定、SエディションはEクラッチ仕様のみに 2017年4月に発売され、翌年から2024年まで7年連続で軽二輪クラスの販売台数で断トツの1位を記録し続けているレブル25[…]
大容量ラゲッジボックスやスマートキーシステム、USB-Cなど充実装備は継承 ホンダは、原付二種スクーター「PCX」および軽二輪スクーター「PCX160」にマイナーチェンジを施し、2025年モデルとして[…]
市販バージョンは750ccオーバー!? ホンダが世界に先駆けて量産直4マシン=CB750フォアを発売したのは’69年のこと。つまり、今年は直4CBの生誕30周年にあたるってわけ。そこで、提案モデルとい[…]
最新の関連記事(新型軽二輪 [126〜250cc])
ライトグレーのボディにライトブルーのホイールが新鮮! ヤマハが「MT-25」の2025年モデルをインドネシアで世界初公開した。欧州で発表済みの兄弟モデル・MT-03に準じたモデルチェンジ内容で、現地価[…]
欧州&北米で昨秋登場した新型YZF-R3の250cc版 ヤマハはインドネシアで新型「YZF-R25」を発表した。2024年10月に欧州&北米で登場した新型YZF-R3と同様のモデルチェンジ内容とした2[…]
グローバルサイトでは「e-アドレス」「アドレス125」と表記! スズキが新型バッテリーEV(BEV)スクーター「e-ACCESS(e-アクセス)」、新型スクーター「ACCESS(アクセス)」、バイオエ[…]
CFMOTOショールームを展開するクロニクル(千葉県松戸市)は、水冷DOHC単気筒エンジン搭載のフルカウルスポーツ「250SR-S」を2025年2月1日に発売決定したと発表した。 この軽二輪フルカウル[…]
6速MT仕様に加えEクラッチ仕様を設定、SエディションはEクラッチ仕様のみに 2017年4月に発売され、翌年から2024年まで7年連続で軽二輪クラスの販売台数で断トツの1位を記録し続けているレブル25[…]
人気記事ランキング(全体)
私は冬用グローブを使うときにインナーグローブを併用しています。防寒目的もありますし、冬用グローブを清潔に保つ目的もあります。最近、長年使い続けたインナーグローブが破れてしまったこともあり、新品にしよう[…]
TRIJYA(トライジャ):カフェレーサースタイルのX500 パンアメリカやナイトスターなど水冷ハーレーのカスタムにも力を入れているトライジャ。以前の記事では同社のX350カスタム車を掲載したが、今回[…]
高回転のバルブ往復にスプリングが追従できないとバルブがピストンに衝突してエンジンを壊すので、赤いゾーンまで回すのは絶対に厳禁! 回転計(タコメーター)の高回転域に表示されるレッドゾーン、赤くなっている[…]
従来は縦2連だったメーターが横2連配置に ヤマハは、2004年に欧州で誕生し、2017年より日本を含むアジア市場へ(250として)導入されたスポーツスクーター「XMAX」の2025年モデルを欧州および[…]
2018 カワサキ ニンジャ400:250と共通設計としたことでツアラーから変貌(2018年8月30日公開記事より) 2018年型でフルモデルチェンジを敢行した際、従来の650共通ではなく250共通設[…]
最新の投稿記事(全体)
アッパーカウルはフランスで882.5ユーロ 1980年代のGSX1100S KATANAをモチーフにしたスペシャルモデルを製作することは、S2コンセプトのスタッフが何年も温めていたアイデアだった。それ[…]
元々はブレーキ液の飛散を防ぐため フロントブレーキのマスターシリンダーのカップに巻いている、タオル地の“リストバンド”みたいなカバー。1980年代後半にレプリカモデルにフルードカップ別体式のマスターシ[…]
ライトグレーのボディにライトブルーのホイールが新鮮! ヤマハが「MT-25」の2025年モデルをインドネシアで世界初公開した。欧州で発表済みの兄弟モデル・MT-03に準じたモデルチェンジ内容で、現地価[…]
欧州&北米で昨秋登場した新型YZF-R3の250cc版 ヤマハはインドネシアで新型「YZF-R25」を発表した。2024年10月に欧州&北米で登場した新型YZF-R3と同様のモデルチェンジ内容とした2[…]
【’09VMAX開発秘話】2リッター「音魂(オトダマ)」は失敗だった 新VMAXの開発には実に十数年の歳月が費やされた。このプロジェクトを長い間推し進めてきた中心人物は開発の経緯をおよそ次のように語る[…]
- 1
- 2