
ライダーが増え、バイクが売れているいま、その背後にある不安や不満を払しょくするために各界のトップはどう考えているのか。EWCに継続参戦するヨシムラの代表である吉村不二雄さんに、今季のレースへの取り組みに加え、来るべきEV時代をエンジンチューニングメーカーとしてどう考えているかをお聞きした。
●取材/文:ヤングマシン編集部(Nom) ●写真:ヨシムラジャパン/Nom/編集部
【吉村不二雄(よしむらふじお)】1948年、吉村秀雄の長男として福岡県福岡市に生まれる。’64年ころ(高校時代)から父の手伝いでレースの仕事を始め、’71年にアメリカホンダディーラーに呼ばれ、ポップチューンのマシンのメンテナンスのため渡米。’80年ころからエンジンチューンにPCを用いるなど独自の技術を磨き、’83年秋、日本に帰国。’89年に代表取締役社長に就任。MJNキャブレターやDuplexサイクロンマフラー、トライオーバルサイクロンなどを開発。ヨシムラジャパン発展の大きな原動力となっている。
’23年はEWCの王座奪回が目標、鈴鹿8耐は日本人ライダーを起用したい
昨年7月、数か月前から噂されていたモトGPからの撤退を表明したスズキだが、同時にFIM世界耐久選手権(以下EWC)へのワークス参戦も終了することを発表。日本のレースファンの間には、’21年EWCチャンピオンチームである「ヨシムラSERT Motul」が世界を舞台に活躍する姿が見られなくなるという大きな衝撃が走った。
しかし、年も押し迫った昨年の12月16日、ヨシムラが’23年もスズキの支援を受けてEWCに継続参戦することを発表し、今度は多くのファンから喜びの声が上がった。
撤退表明から一転しての継続参戦、まずは事の顛末をお聞きした。
「(継続参戦)することは確実だったんですよ。というのは、レース活動を止めるとなるとスズキの販売店さんが困ってしまうんじゃないですかね。特に海外の販売店さんは。レースをやらないで、どうやってバイクを売ったらいいんですか、ブランドイメージはどうするんですかと。そのあたりは、日本と海外で考え方が違う部分がありますね」
ヨシムラのウェブサイトには、チームディレクターの加藤陽平さんが、スズキと協議を重ねて支援を受けられることが決定し、スズキの代表として継続参戦することが決まったと書かれている。その背後には、世界中のスズキ販売店の後押しがあったのだろう。
「みなさん継続参戦することをとても喜んでくれましたし、当然ですよねと言う方もいました。日本って地政学的に極東にあって、ヨーロッパの情報がなかなか入ってこない。ヨーロッパの国の間だけでいろいろなことが決められちゃうと、それがインターナショナルルールになって、日本は置いてきぼりになる恐れがある。ですから、自分たちもそういう場所にいないといけないんです。
’23年は、ライダーがザビエル・シメオンからエティエンヌ・マッソンに代わりますが、タイヤのサポートもBSさんですし、体制は基本的にこれまでと変わりません。昨年、問題になった点を潰しながらチャンピオン奪回を目指してやっていきます。シリーズ戦としてもっとも重要なのはボルドール24時間レースですね。そして、ヨシムラとしてはやはり鈴鹿8時間耐久レース。難しさが違います。鈴鹿8耐は現役のGPライダーが出たいというほど格式の高いレースですからね」
EWCからのスズキワークス撤退報道から一転して、スズキの支援を受けて継続参戦することになった「ヨシムラ SERT Motul」チーム。ライダーのザビエル・シメオンがエティエンヌ・マッソン(写真右)に代わる以外、ライダーもマシン(スズキ・GSX-R1000R)も昨シーズンと同様の体制で挑むことになった。
EWC、鈴鹿8耐に加え、昨年は元スズキのライダーである加賀山就臣さんがチームマネージャーを務め、ライダーに渡辺一樹選手を起用した「ヨシムラ・スズキ・ライドウイン」チームで全日本JSBクラスに参戦したが、今年はどうなるのか。
全日本JSBクラスには、昨シーズンと同様に加賀山さんとタッグを組み「ヨシムラ・スズキ・ライドウィン」チームで参戦。ライダーは昨年の渡辺一樹選手から新ライダーに。
「ご存じのように、渡辺選手がチームを離れることになりましたが、加賀山さんとタッグを組む体制で継続していきます。渡辺選手はとてもいいライダーで5年間活躍してくれましたが、5年も経つとチームもライダーもお互いにどうしても慣れが出て、緊張感が薄れていく。だから、モトGPでもライダーの行き来が激しいじゃないですか。目的は優勝ですから、そのためには環境を変える、マシンを代える、ライダーを代えるのが当り前なんです(取材後、新ライダーは亀井雄大と発表された)。それと、8耐も体制はまだ未定ですが、日本人ライダーを走らせたいと思っています」
この企画の第2回に登場したMFJの鈴木会長が言ったように、レースはバイクライフを楽しむうえでの重要なコンテンツ。そのレースを盛り上げてきたのは間違いなくヨシムラであり、ヨシムラが強く速ければレースは盛り上がるのだ。今シーズンも世界で、そして日本でのヨシムラチームの活躍を大いに期待したい。
※本記事の文責は当該執筆者(もしくはメディア)に属します。※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
あなたにおすすめの関連記事
"ゼロエミッション東京"実現に向け、非ガソリン化を推進 多くのライダーが知っての通り、東京都は'50年の世界のCO2排出量実質ゼロに貢献する「ゼロエミッション東京」の実現を目指し、'30年までに温室効[…]
約500万人が便利に利用している原付一種の存続を強く訴えていく 全国オートバイ協同組合連合会(以下AJ)は、日本全国の約1600社のバイクショップが加盟する都道府県単位の協同組合で組織される団体で、大[…]
MFJはレースのためだけの組織ではなくツーリングも事業内容のひとつなんです MFJはレースのための組織で、一般ライダーとは接点がないように思っている方が多いと思うが、事業案内には「ツーリング」という一[…]
高速料金問題は自民党PTの1丁目1番地。12年かかって一歩進んだと思います 2022年4月3日からスタートした“ETC二輪車定率割引”。土日祝日限定/事前に専用サイトで自分のETC機器を登録/片道10[…]
保有台数500万台のユーザーが今もいる! 4月4日に投稿した「令和5年度の課題①高速道路料金」に続く課題②としてお届けするのは、「原付」問題です。 手軽な乗り物として1980年代には年間200万台に迫[…]
最新の関連記事(ヨシムラ)
デイトナ辻本車の雄姿が現代に完全復活! 2024年の第51回東京モーターサイクルショーでヨシムラが発表した「復刻パーツ企画」がついに本格始動! このプロジェクトは「純正互換パーツ」「ヨシムラパーツ」「[…]
歴史遺産・油冷GSX-Rを完調状態で後世に バイクブーム全盛期だった1980年代から、はや40年以上。とっくに純正パーツの供給も途絶え、そのまま埋もれ去っていく当時の車両は数知れず。その一方で「愛車と[…]
HAYABUSA X-1[2000]:世界最速マシンをレーサーレプリカ化 全日本ロードレース選手権で1999年に設立されたS-NK(Xフォーミュラ)に、ヨシムラは発売されたばかりのスズキGSX1300[…]
完成車メーカー「ヨシムラ」への布石 油冷エンジンを搭載するGSX-R750の開発に深く関わり、デビューイヤーの1985年から3年連続で全日本TT-F1クラスでチャンピオンを獲得したヨシムラ。すでにレー[…]
当時を思わせながらも高次元のチューニング ◆TESTER/丸山 浩:ご存知ヤングマシンのメインテスター。ヨシムラの技術力がフルに注がれた空冷4発の完成度にホレボレ。「この味、若い子にも経験してほしい![…]
人気記事ランキング(全体)
念願のWYVERNシリーズ最新作の登場だ! ついに復活を遂げて、新発売となったSHOEI「ワイバーンØ」。歴代ワイバーンシリーズを愛用してきた筆者としては、どんな進化を遂げたのが期待しかない。そこで、[…]
コンパクトで取り付けが簡単なスマートモニター タナックス(TANAX)の「スマートライドモニター AIO‑5 Play (SRS‑015)」は、本体サイズ78.8(H)×136.2(W)×26.8(D[…]
様々な日本の峠を網羅! ワインディングロードを抜け、視界いっぱいに広がる紅葉の絶景を走り抜ける。そんな瞬間こそ、秋のツーリングの醍醐味のひとつではないでしょうか。 ここで紹介する書籍「全国2954峠を[…]
ライダー本人のサイン入り限定ヘルメットも附属 ホンダUKが発表した「CBR1000RR-RファイアーブレードSP ディーン・ハリソン レプリカ」は、2025年のマン島TT・スーパーストッククラスでディ[…]
1,000ドルを謳い文句に全米で大ヒット! カワサキは1972年のZ1以来、Z650RSにZ750TWINと念願だったビッグバイクの領域で世界のリーダーへと君臨することに成功。 またそのいっぽうで、ホ[…]
最新の投稿記事(全体)
「MOUNT SYSTEM Second」 10月22日(水)発売 「MOUNT SYSTEM Second」は、力強さと美しさを両立させた新デザインの「model 01 ETHEREAL[…]
奈良県からスタート! 北海道から九州まで全国で増加中の「カブの駅」 突然ですが、皆さん、『カブの駅』ってご存知ですか?現在、1200カ所以上登録されている『道の駅』はツーリングの集合場所や休憩スポット[…]
8月後半から9月末の日本GP、10月の全日本へ怒涛のレースシーズン アッという間に10月も半ばが過ぎてしまいました。全日本ロードレース選手権を中心に取材活動をしているボクにとっては、8月23日・24日[…]
過激な初代からフレンドリーな後継モデルへ カワサキのビッグバイクと言えば、優れた資質を備える初期型をベースにして、2代目以降で徐々に動力性能を高めていくのが通例だ。だがマッハシリーズの場合は、初期型が[…]
ヤマハ・ハンドリングのこだわりを400レプリカ路線へ融合! 1980年にRZ250をリリース、レプリカの時代に先鞭をつけたヤマハも、4ストのスポーツバイクXJ400系ではツーリングユースを前提とした、[…]