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ニジャZX-25Rが登場するまで、250ccスポーツのエンジンは2気筒が主流だった。十分に速くて楽しく、街乗りからサーキットまで万能性も高い。しかし、“20000”もの数字をタコメーターに刻み、つんざくような高周波サウンドでライダーを熱狂させた、そんな250cc4気筒エンジンの興奮を「ニーゴー4発をもう一度!」と願っていた、ZX-25R登場前夜をプレイバック。
●まとめ:伊丹孝裕 ●写真:真弓悟史
PROLOGUE:エキゾーストノートという ひとつの芸術(丸山 浩)
1988年、ロードレースの国際A級に昇格し、レーシングライダーのひとりとして、そして駆け出しのモータージャーナリストとして活動し始めていた私は、毎日のようにホンダCBR250FOURで走っていた。
ストリートには2ストロークの250ccと4ストロークの400ccがあふれ、ビッグバイクの世界にもレーサーレプリカのブームが到来。ハイスペックなモデルが矢継ぎ早に登場していた頃のことである。
それでも私は、手足のように扱える軽量コンパクトなホンダ初の市販ニーゴー4気筒をとても気に入っていた。
「メカマックス」というキャッチコピーを掲げていたそれは、アルミツインチューブフレームにフロントダブルディスクを装備。カウルはやや控えめなハーフタイプだったが、だからこそ、カムギアトレインによってバルブを開閉する水冷DOHC4バルブエンジンの存在が際立たっていた。
4気筒250ccが再び登場することはあるのだろうか?
メカマックスの象徴でもあるそれをもっと楽しみたくなった私は、ほどなくマフラーをモリワキの集合管に付け替えた。45psの最高出力を14500rpmで発生し、そのまま18000rpm近くにまで吹け上がる超高回転型ユニットはさらに鋭さを増し、突き抜けるようなエキゾーストノートを披露。それはまるで音楽であり、芸術的ですらあった。
ニーゴー4気筒の魅力とはなにか? もしもそう聞かれたなら、エンジンから絞り出される、そうしたサウンドを真っ先に挙げる。もっと言えば、それさえあれば充分だ。
スロットルを開けた時に、いつまでも尾を引く「クァァァーーーン……」という共鳴音。ゆっくりと長く空気を震わせるその余韻は、ニーゴー4気筒だけに許された世界にほかならない。瞬間的にタコメーターの針が振り切れてしまう2ストロークエンジンは、その快楽が一瞬で過ぎ去り、同じ4ストロークエンジンでも排気量がニーゴーを超えると、すぐさま非合法な領域へ突入してしまう。
官能のサウンドと刺激的なパワーフィーリングが高い次元でバランスし、超絶の性能が手の内にあったあの頃。振り返ってみれば、ちょっとした奇跡のような時代だった。
いつのまにか進化を止め、やがて消え去ったニーゴー4気筒という悦楽。果たしてそれは、過去の思い出として記憶にしまっておくことしかできないのだろうか。
今だからこそ必要なモノがあり、今だからこそカタチにできるモノがある。今回、あらためてニーゴー4気筒に触れ、そう思わずにはいられなかった。ここから始まるのは昔話ではなく、未来への期待である。
ニーゴー4気筒の“突き抜け感”が忘れられない!
[テスト車両(左から)]HONDA CBR250RR(MC22@1992・4気筒)/HONDA CBR250RR(MC51@2019・2気筒)/YAMAHA FZR250R(1990・4気筒)/YAMAHA YZF-R3(2019・2気筒) ※ヤマハ車は続編に登場
TEST RIDER:丸山浩(左)/伊丹孝裕(右)本誌メインテスターの丸山と、レーサー&ジャーナリストの伊丹がテスト。共にニーゴー4気筒の現役時代を知る世代だが、今乗ると果たして!?
0-1000m 全開加速勝負![同名対決]本当に同じ排気量? 4気筒の伸びにア然
[4気筒]CBR250RR(MC22)×[2気筒]CBR250RR(MC51) ニーゴー4気筒はスゴかった……と、みんな遠い目をして言うものの、果たしてそれは本当か? 今こそハッキリさせるべく、0-1000m加速を通して検証してみた!!
カワサキから初代ニンジャ250が登場したのが2008年のことだ。鋼管パイプフレームに懸架されていたエンジン形式は水冷DOHC4バルブ2気筒というオーソドックスなもので、ベテランライダーの間では特に注目される存在ではなかった。
が、しかし。当時のニーゴークラスにフルカウル&セパレートハンドルのスポーツバイクはかなり新鮮で、これが若者にウケて異例の大ヒット。他メーカーも慌ててその流れに乗り、今の盛り上がりに繋がっている。
一方、1980年代後半から1990年代前半をよく知る世代は、ついつい「昔のニーゴーはもっとスゴかったんだけどなぁ」などとつぶやいてしまう。今回テスターを務めた丸山浩(55歳)と伊丹孝裕(47歳)もそんな世代を代表するライダーだが、果たしてその思い出は本当なのだろうか?
もしかすると単に若かりし頃の勘違いかもしれず、それを検証するため、最もシンプルで分かりやすい0-1000mの全開加速で、昔と今のニーゴーを比較してみた。
そこで用意したのが、4気筒エンジンを搭載する1992年型のCBR250RR(MC22)と2気筒エンジンの2019年型CBR250RR(MC51)だ。キャンキャン回る超高回転型ユニットのMC22に対し、フレキシビリティの塊のようなトルク型ユニットのMC51がどう対抗するか!? ……という図式だったが、結果的にパワーに勝るMC22が底力を見せつけた格好だ。
「上手くスタートさせようとすると、MC51は5000~6000rpmでクラッチを繋ぐんだけど、MC22はその時すでに12000rpmくらい回しているでしょ? 最初からパワーがしっかり出ている領域を使って加速させるから、スペックの差がそのまま結果に表れるのは仕方がない。特に3速以降の力の差は歴然で、スタートを少々失敗してアッと言う間にそれを取り戻せる。ちょっと普通じゃないあの高周波サウンドも含めて、とても同じ排気量とは思えない(笑)。ただ、そのぶんクラッチミートはシビア。トルクのあるMC51は楽だし、威圧感なく乗れるところがいいね」と丸山。
伊丹は「パワーだけじゃなく、MC22は空力も有利。カウルが体をきれいに覆ってくれるのに対し、MC51は露出が多く、それが抵抗になっています。でも、そういう差よりもやっぱり音の違いが大きく、“これぞマシン!”っていうフィーリングが最高」と語る。
果たして、2気筒が4気筒に一矢報いるスキはあるのだろうか。
超高回転サウンドが“常用域で”炸裂する![18000rpm! でも70km/h]
【TEST TRACK JARI・総合試験路】加速テストはJARI(日本自動車研究所)城里テストセンターの総合試験路にて実施。全長1500mの直線コースだ。■茨城県東茨城郡城里町大字小坂字高辺多1328-23 http://jari.or.jp/
1000ccスーパースポーツだとエラい速度に……
[CBR1000RRの場合]写真は13000rpm強からレッドゾーンが始まるCBR1000RRだが、同じ直4でも、リッターSSだと1速全開で150km/h以上出てしまう。高回転を満喫するなんて絶対ムリ!!
MC22は19000rpm、MC51は14000rpmでシフトアップ
ギヤごとの到達速度はデジスパイスの表示で確認。3速以降は到達スピードに約20km/hほどの差があり、パワーの違いは歴然だ。とはいえ、MC22でも1000m通過時のスピードは180km/h程度。F1マシンにも似たレーシングサウンドとのギャップがユニークだ。
[4気筒]CBR250RR(MC22)到達速度……1速[73.1km/h]/2速[102.7km/h]/3速[126.9km/h]/4速[151.0km/h]/5速[170.9km/h]/6速[180.2km/h]
[2気筒]CBR250RR(MC51)到達速度……1速[59.6km/h]/2速[88.2km/h]/3速[107.4km/h]/4速[131.1km/h]/5速[148.5km/h]/6速[163.9km/h]
※本記事は2019年8月11日に公開した記事を再編集したものです。 ※本記事は“ヤングマシン”が提供したものであり、文責は提供元に属します。※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※掲載されている製品等について、当サイトがその品質等を十全に保証するものではありません。よって、その購入/利用にあたっては自己責任にてお願いします。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
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