モリワキのエースライダーとして活躍し、世界グランプリ・GP500ではロスマンズカラーのワークスNSR500を駆った八代俊二さんが自叙伝を刊行した。現在はジャーナリストやレース解説者として活躍する同氏が、30年以上前から書き溜めていた原稿を一冊に纏めたというこの本は、1980年代のレース好きに「あの時、そんなことが起きていたのか!」と、新たな驚きを与えてくれる一冊となっている。
●文:ヤングマシン編集部(マツ) ●外部リンク:三栄
本人の執筆で振り返る、1980年代レースシーンの光と影
印象を率直に述べてしまうと「八代さん、ここまで言っちゃうんですか!?」だった。ご本人の、当時の感情の起伏が生々しく語られているのはもちろんだが、八代さんが「プロのレーシングライダー」を目指す過程で立ちはだかった問題や事件、そこに関わった人々の行動や発言が赤裸々に記述されているのだ。
その中には現レース界の大御所たる方々も多々登場するし、八代さんが「腸が煮えくり返る」思いをしたという人物は名前こそ伏せられているものの、当時のレースシーンを知る人なら特定は難しくないはず。この緊迫の実録感がこの本の最大の見せどころだと思うが、それでいて最終的にはホッコリさせられる読後感とのバランスは、往年のレーシングマシンを仔細に掘り下げ、それに携わる人々のドラマも丁寧にすくい上げてきた「レーサーズ」編集部が手掛けたゆえ…と言えるかもしれない。
ネタバレにならない程度に内容を要約すると、鹿児島県生まれの八代さんがレーシングライダーを志した経緯や、そこからヤマハTZ250を購入してレース活動を開始、頭角を現してモリワキへ加入し、そこで活躍するなかで起きた出来事や世界GPへ参戦することになった経緯、そして現役引退を決意したときの事象などが事細かに記されている(中にはテレビ出演で横山やすしのツッコミに“突っ込みハッチ”が困惑する…なんて小ネタも)。
個人的に印象に残ったのは、タイトルにも使った「ヤマハの八代」の可能性だった。パワーで劣る空冷エンジンのモリワキZERO-X7で、ホンダワークスの水冷V4やスズキの油冷GSX-Rといった新鋭機に立ち向かい、ときにはそれらを上回るリザルトを残していた八代さんは、間違いなく当時、世界に伍して戦えるライダーだった。
そんな氏が切望していたのがヤマハファクトリーからの500ccクラス参戦で、実際にオファーはあったにも関わらず、諸般の事情でそれを断念せざるを得なかったこと。そして、その後参戦することになったGP500での苦闘…。歴史にタラレバはないとはいえ“もし八代さんがヤマハに乗っていたら…”とつい思わされてしまった。
モリワキのエースからホンダワークスへと、傍目には華やかに見える八代俊二さんのレース活動。その裏側に起きていた出来事を全400ページという大ボリュームでご本人が書き下ろしたこの大作、1980年代のレース界に興味のある人はぜひ手にとってみて欲しい。
過去のヤングマシンアーカイブより
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