いわばリカージョンのNA版!

【解説】GSX-8SとVストローム800DEが搭載する、スズキ初の270°位相クランクのパラツイン

新開発のエンジンは、スズキの大排気量モデルでは珍しい並列2気筒。しかし過去には、ターボチャージャー付きの並列2気筒が、ショーモデルとして存在。熟成と進化を重ね、満を持しての登場だ!


●文:伊藤康司 ●写真:スズキ ●外部リンク:スズキ

スズキの大排気量モデルでは久々の並列2気筒エンジン

2015年の東京モーターショーに出展されたターボ付きエンジン・XE7は出展と同時期に出願された特許図面から正回転仕様で2軸バランサーを装備、そのうち1つはエンジン前方に配置していた。ターボチャージャーはバランサーの上部にセットされているが、本来はバランサーが位置している辺りにターボをセットしたかったのかもしれない。

GSX-8SとVストローム800DEが搭載するエンジンは、水冷4ストローク並列2気筒DOHC4バルブの776cc。スズキの並列2気筒エンジンといえば、現行モデルではGSX250RとVストローム250が搭載するが、遡れば1980~90年代のGS400やGSX400Eなど中排気量クラスには存在するが、大排気量では1983年のGR650のみだ。ちなみに従来のスズキ並列2気筒は、すべて180度位相クランクだ。

しかしスズキファンなら記憶にあるのが、2013年の東京モーターショーに出品されたターボチャージャー付きの「Recursion(リカージョン)」で、エンジン本体は588ccの並列2気筒SOHCの588cc。さらに2015年の東京モーターショーでは、排気量を700ccにアップしたターボチャージャー付きの並列2気筒エンジン「XE7」を展示。こちらはDOHCの270度位相クランクで、エンジンをコンパクト化するため独自の配置の2軸バランサーを装備していた。どちらもショーモデルで終わったが、今回登場した新型の並列2気筒は、まさにリカージョンおよびXE7エンジンのNA版と言えるかもしれない。

前置きはさておき、GSX-8Sではパワフルでコンパクト、Vストローム800DEでは加えてオフロードを走破するトラクション特性も追求し、270度位相クランクの並列2気筒を開発。両車のエンジンは、わずかにスペックとマフラー形状は異なるが、基本的に同じモノだ。

【GSX-8S】水冷4ストローク並列2気筒DOHC4バルブ 排気量:776cc 最高出力:82.9ps/8500rpm 最大トルク:7.95kg-m/6800rpm

【Vストローム800DE】水冷4ストローク並列2気筒DOHC4バルブ 排気量:776cc 最高出力:84.3ps/8500rpm 最大トルク:7.95kg-m/6800rpm

【参考】リッターバイクの性能をミドルクラスのサイズで実現するというテーマで2013年の東京モーターショーに出展されたリカージョン。順番からこれが第一段階だとすると、XE7が第二段階と言えた。

90度Vツインと同じ爆発間隔

270度位相クランクの並列2気筒は270度-450度の不等間隔爆発。これは既存のVストローム1050/650の90度V型2気筒エンジンと同じ爆発間隔となり、トラクションを稼ぐのに有効。また鼓動感や独特なサウンドも生成する。

そして不用な振動を打ち消し、滑らかにエンジンを回すために二軸バランサーを装備するが、量産二輪車初の「スズキ クロスバランサー」を開発。クランク軸に対して90度に配置することで効率的に一次振動、二次振動を消すのはもちろん、エンジン前後長のコンパクト化にも寄与している。

ピストンは鍛造製で、アルミダイキャスト製のシリンダーはスズキ独自のSCEMでメッキされる。

新開発の並列2気筒は非常にコンパクトだ。

スズキが『クロスバランサー』と名付けた振動を抑えるためのバランサーは、量産二輪車で初めてクランク軸に対して90度に一次バランサーを2軸配置した(特許取得済み)。

トルクを最大化するエアボックス

エアボックスと吸気管の設計はCAE解析によって最適化され、トルクを最大化するのに貢献。ライダーのアクションの自由度を高めるため、コンパクトに設計してシート下に配置している。

エアボックス内部のインテークパイプは左右で長さが異なる。

ハイパワーを支える効率的な冷却

効率的な冷却

エンジン冷却経路の入り口にサーモバルブを設けて水温の調節を行うため、冷却水がエンジンに入る前と中とで温度変化が少なく、水温を早期安定化させることで燃焼が安定し排出ガスもクリーンになる。軽量でコンパクトな液冷式のオイルクーラーも装備する。

操作の軽いスズキクラッチアシストシステム(SCAS)

スズキクラッチアシストシステム(SCAS)

緻密に設計した傾斜したクラッチプレートドライブカムによって、加速時にはアシストクラッチとして機能し、出力を後輪に効率よく伝達しながら、クラッチの操作力も軽くしてライダーの負担を軽減。シフトダウン時はエンジンブレーキの影響を軽減するスリッパークラッチとして機能する。

2車で異なるマフラー形状

GSX-8Sはファイター系ネイキッドに似合うショートマフラー、Vストローム800DEはアドベンチャーらしいアップスイープマフラーを装備する。もちろん両車ともユーロ5に適合。

【GSX-8S】2 into 1のコレクター部に二段階の触媒コンバーターを内蔵。エンジン下にチャンバー状のサイレンサーを収め、短くコンパクトなルックスを演出する。

【Vストローム800DE】2 into 1のコレクター部に二段階の触媒コンバーターを内蔵。そこからテールパイプが伸び、大容量のサイレンサーに接続。


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