ユーザーやアプリメーカーに負担を強いるやり方はいかがなものか

将来の高速無料化はどこへ? バイクユーザーの利便性を置き去りにした“ETC専用料金所”推進…〈多事走論〉from Nom

2022年3月より、首都高速道路およびNEXCO東日本・中日本管轄の高速道路においてETC専用料金所が設置されはじめています。利用者の利便性・生産性の向上などを謳っていますが、ユーザーメリットよりも運営側のための施策に思えてなりません。首都高速道路株式会社に聞いてみると……。

利用者の利便性向上には程遠いETC専用料金所

先日、さまざまなナビゲーションアプリをリリースしているナビタイムジャパンから、バイク専用ナビアプリ「ツーリングサポーター」とトラック専用ナビアプリ「トラックカーナビ」、カーナビアプリの「カーナビタイム」の3つのアプリが「ETC専用料金所回避ルート」の提供を開始したというリリースが届きました。

これは、今年の3月から始まった首都高速道路およびNEXCO東日本・中日本管轄の高速道路のETC専用料金所の設置に対応したもので、ETC専用料金所を回避するルートを表示することでETCを装着していない車両がETC専用料金所に誤って進入することを防ぐというものです(すでに当該アプリを利用している方は、アップデートを行うことでこの機能を使用できるようになります)。

左がナビタイムのアプリのETC専用料金所を回避するルートのイメージで、回避ルート機能を使用するともっとも近い専用料金所をスルーして、現金などが使用できる料金所までの道案内をしてくれる。右は、二輪車用の「ツーリングサポーター」の画面で、ETC利用をOFFにするとETC専用料金所である中央道・稲城ICを回避してそのひとつ先の調布ICを案内するようになる。

これだけ聞くと、とても便利な機能が加わったなと思いがちですが、落ち着いて考えると、そもそもETC専用料金所が設置されたためにアプリメーカーもそれに対応せざるを得なくなったわけで、ある意味、アプリメーカーにとってはいい迷惑なのかもしれません。

今回のアプリのアップデ―トの理由をナビタイムジャパンに聞くと、ETCを装着できない仮ナンバー車を運搬する陸送業者から「ETC専用料金所を通らないルートを検索できるようにして欲しい」という具体的な要望があったほか、ETC非装着車の割合が高い二輪車の事情を考慮した結果、この専用料金所回避ルート検索機能を追加したとのこと。

二輪車の装着率の低さについては、ETC機器の価格やセットアップ料金が高いといった理由から装着に至っていないユーザーがいるわけですが、仮ナンバーのトラック(トラック以外でも仮ナンバーの車はETCを利用できません)に関してはETCの利用規定が変更されない限りはETC専用ではない、現金などで支払いができる料金所を使用せざるを得ないわけです。

本来使用したい料金所の近くに、ETC専用ではない料金所があればいいですが、もし近隣になければしなくてもいい遠回りをするなどして時間ロスや、業務への障害も生まれてしまうことになりますね。

今年の3月から始まった首都高速道路料金所のETC専用化は、令和2年9月25日に発表された社会資本整備審議会国土幹線道路部会の『「持続可能な国土幹線道路システムの構築に向けた取組」中間とりまとめ』において、導入手順や概成目標時期を明示したロードマップを策定し、高速道路料金所のキャッシュレス化・タッチレス化を計画的に推進すべきであると示されたことを踏まえ、2020年12月17日に国交省・高速6社からETC専用化等に向けたロードマップが公表されたことを受けたもの。

ETC専用化のロードマップを見ると、すでに導入が始まっている首都高速、NEXCO東日本、西日本に引き続き、NEXCO中日本管轄の中京圏、阪神高速、NEXCO西日本管轄の近畿圏の首都高速道路にもETC専用料金所が順次導入され、地方部の高速道路にも2022年度以降、導入されていく予定となっている。

現時点で、首都高速の35カ所と東日本管轄の東京外環道の2カ所、中日本管轄の中央道と圏央道の計3カ所の料金所がETC専用となっていて、とくに専用化を強力に推進している首都高は2025年度中までに約9割(約160カ所)まで順次拡大される予定です。

タッチレス・キャッシュレス化促進のもっとも有効な施策は高速道路の無料開放化だ

このETC専用化の目的は、①戦略的な料金体系の導入が容易になること等を通じた混雑の緩和など利用者の生産性の向上 ②将来的な管理コストの削減 ③高速道路内外の各種支払いにおける利用者利便性の向上 ④料金収受員の人員確保が困難な中での持続可能な料金所機能を維持 ⑤料金収受員や利用者に対する感染症リスクの軽減等で、ETC専用化によって料金所のキャッシュレス化・タッチレス化を推進するということですが、①から⑤の各項目を見ても高速道路を使うユーザーへのメリットは圧倒的に少なくて、運営側の高速道路会社の業務効率化や低コスト化、将来にわたる業務維持のための施策だと思わざるを得ません。

また、ETC専用料金所の導入・拡大に合わせて、車載器導入助成を行うとしていますが、これもETC導入料金の一部を負担してくれるだけで、自分たちがしたい専用化のためにユーザーにしなくてもいい金銭的負担を強いることになっていると思います。

ETC専用料金所設置後の、ユーザーの反応などについて首都高速道路㈱に聞いてみました。

質問した内容は大きく分けて3つ。

① ETC専用料金所の設置の影響(ユーザーからの感想、クレームなど)
② ETC非装着車が誤ってETC専用料金所に進入したときのために設けられたサポートレーンの利用状況(回数など)
③ 二輪車はETC装着率が低いが、ETC専用料金所の設置で二輪ユーザーから使いにくくなったという声は上がっているか

上記質問への首都高速道路株式会社 広報からの回答は、筆者が求めていたものからすると正直言ってゼロ回答と言わざるを得ないものでした。

まず、ETC専用料金所の設定に対するユーザーからの感想や不満については、「お客様のそういう声はお客様センターに入ることになっていますが、個別の内容については回答を控えさせてもらいます。間違って専用料金所に入ってしまい、サポートレーンを使用するケースも散見されますが、具体的件数については控えさせていただきます。引き続き、ETC専用運用に関する広報や、料金所手前での注意喚起などを継続的に展開し、浸透を図ってまいります」

また、装着率の少ない二輪車ユーザーに対しては、「二輪車のETC利用率の向上は課題として認識しております。また、ETC専用料金所の設置によって、二輪車の首都高利用への影響が出ているとは認識していません。ETC機器装着促進のための助成キャンペーンの実施に関しては、現在のところ未定です」というものでした。

ETC専用料金所の設置にともなって、専用料金所には非ETC車が間違って進入した際に、ゲート前で停車してインターホンで係員を呼び出すサポートレーンが設けられた。首都高速道路㈱に聞くと一定数の利用者はいるとのことだが、具体的な利用件数に関しては公表できないとのことだった。

ユーザーからどんな声が届いているのか、サポートレーンの利用回数などは、ETC専用化による影響を測るものなのに、それについてはほぼ無回答。代わりに力説するのが、「国交省・高速6社で、2020年12月17日に、ETC専用化等に向けたロードマップ公表をし、感染症リスクの低減や、戦略的な料金体系の導入等による利用者の生産性向上などの観点から、ETC専用化等による料金所のキャッシュレス化・タッチレス化を計画的に推進すべきとの方針が示されており、当社におけるETC専用化の推進も、この趣旨に沿ったものとなっております」というもの。

今回の回答で分かってくるのが、やはりユーザーの利便性向上などよりも、運営側が戦略的料金体系の導入や、料金所の効率化を何が何でもしたいのだなということ。だいたい、ETC専用料金所の設置はユーザーが望んだものではないと思いますし、首都高のETC利用率は96.8%(2022年2月)と非常に高い割合になっていてキャッシュレス化・タッチレス化が進んでいるのに、それでもあえて専用料金所を設けるということには多くの人が納得いかないのではと思ってしまいます。

今回の首都高速道路の件を含めて、高速道路の料金の問題になると常に議論になるのが、そもそも高速道路は将来は無料開放されるはずじゃなかったのか、ということです。

無料開放化についてはいろいろ紆余曲折があって、現在は2065年以内に無料にする方針となっていますが、各高速道路の予想以上の劣化によって改修費などを確保しておく必要があるとして、再延長すべきではという答申案もだされています。

つまり、いつまで経っても無料開放にはなりそうもありません、

とはいえ、前述のETC専用料金所化による①から⑤までの項目についても、高速道路を無料化して、料金所を廃止すればその目的を簡単に達成できることばかりです。

利用者が使いにくくなる施策ばかり考えるのではなく、真に利用者のためになる、より便利に高速道路を利用できるようにする方法を考えて欲しいものです。


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