
今も絶大な人気を誇る’80年代の名車たち。個性の塊であるその走りを末永く楽しんでいくには何に注意し、どんな整備を行えばよいのだろうか? その1台を知り尽くす専門家から奥義を授かる本連載、今回は43年の歴史を誇る伝統のビッグシングル・ヤマハSR400/500(フロントドラムブレーキモデル)について、メンテナンス上のポイントを明らかにする。
●文:ヤングマシン編集部(中村友彦) ●写真:富樫秀明/YM ARCHIVES ●外部リンク:AAA
弱点は特に存在しないものの、車齢を考えると整備はマスト
「振動が多い」「初心者には始動が難しい」などの意見はあるものの、SRに弱点と言うべき要素は存在しない。もっとも初代の時点では、カムシャフトとロッカーアームのかじり、ピストンリングの吹き抜けなどが起こったようだが、’83年型でエンジンに関する大幅な見直しが行われてからは、トラブルはほとんど皆無になったようだ。
「’84年型以降でも細かな改善は何度も行われていますが、SRの場合は、ここが壊れるとか、ここは対策しなきゃダメ、という部品はないと思います。ただし、現代の目で見ると特殊な構造の後輪のハブクラッチ、シールが万全ではないスイングアームピボットは、定期的な整備が必要です。なお振動と始動性については、車両のコンディションである程度は変わってきますね」(AAA田島直行氏)
もちろん弱点がなくても、’85~’00年型を購入して、誰もがすぐに充実したSRライフが楽しめるわけではない。
「車齢を考えると、素性が不明の中古車を購入したら、エンジンオイル+フィルターの交換に加えて、車体の全ベアリング/前後ショック/ブレーキ/タイヤ/キャブレターの点検/整備をするべきでしょう。もっともそれは中古車全般に言える話ですが…。SRの場合はあと2つ、マニュアル式カムチェーンテンショナーとバルブクリランスを早めに点検/調整したほうがいいと思います。ちなみにウチでは、この2つの作業は同時に行うのが通例で、いったん規定値に合わせれれば、以後はほとんど調整の必要はありません」
エンジンチューニング:さまざまな排気量とキャブレターが選択できる
カムシャフト/ロッカーアーム:オイル管理を怠っているとかじりが発生
’83年型でシリンダーヘッドのオイルラインや摺動部品の材質が見直されたものの、定期的なオイル交換を怠っていると、カムシャフトの山とロッカーアームのスリッパー面に、かじりや激しい磨耗が発生する。写真の状態なら要交換。 [写真タップで拡大]
シリンダーヘッドカバー:抜け止めボルトがナメている個体が多い
シリンダーヘッドとカバーは同時加工されているので、どちらか一方のみの交換は不可。タコメーターギアとデコンプの抜け止めボルトの雌ネジは径が細いため、オーバートルクでナメている個体が少なくないそうだ。 [写真タップで拡大]
タペットアジャスター:クリアランスに加えて面の荒れを確認したい
カムチェーンテンショナー:アクセスは簡単だがベストな調整は難しい
キャブレター:負圧式のBSTキャブは樹脂製カバーの割れに注意
SRのキャブレターは3種が存在し(写真左は初期のVMで、右は’01年型以降が採用したBSR)、いずれもオーバーホールで性能を回復させることが可能。’85~’00年型の主力だった負圧式のBSTは、ボディ右側に備わる樹脂製カバーが割れることが多い。 [写真タップで拡大]
ジェネレーター/ピックアップコイル:構造変更で後年式車用の流用が困難に
ジェネレーターとピックアップコイルは’94年に構造を刷新(左)。同時にケースも変更されたため、互換性はナシ。’94年以降は後年式車用を加工して流用できるが、いずれのパーツもも欠品になっているため、現在のAAAは巻き直しを検討中。 [写真タップで拡大]
ブリーザーホース:ホースの適切な設置が錆びの抑制につながる
クラッチプッシュロッド:ロッド先端の磨耗が操作の重さにつながる
クラッチレバー:長年の振動の影響でピボット周辺が変形
ドラムブレーキ:シューの交換と整備で利きがガラリと変化
スイングアームピボット:グリス切れが作動不良や固着につながる
スイングアームピボットは水分が侵入しやすい。単純に錆びるだけではなく、内部のカラーとベアリングがガッチリ固着することもあるので、シャフト左右の雌ネジにグリスニップルを装着して、定期的なグリスアップを行いたい。 [写真タップで拡大]
リヤショック:好みの設定と色が選べるナイトロンが一番人気
ドライブチェーンスプロケット:選択肢を拡大する428→520コンバート
ハブダンパー:現代の2輪とは異なるリヤハブ
円筒形の突起にスプロケットキャリア(ハブクラッチ)がはまり、それを半月型キーとサークリップで固定するリヤハブは、現代の2輪とは異なる独特の構造で、この部分も定期的なグリスアップが必要。ハブダンパーの劣化も要注意だ。 [写真タップで拡大]
CDIユニット:トラブルはほぼ皆無だが定番のアフターパーツは存在
パーツ流通:長寿車だからといって安心はできない
つい最近まで400の新車を普通に販売していたのだから、補修部品の心配はまったくないはず。門外漢はそう思ってしまいがちだが、SRの部品は全年式で互換性があるわけではなく、’85~’00年型は着実に欠品が増えているという。
「後年式の部品がそのまま使えたり、加工で対応できたりすることはありますが、一方で周辺部品を丸ごと交換しないと装着できないケースが少なくない。そう考えると’85~’00年型は、性能回復と好調の維持が簡単とは言えないんですよ」
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