東の海に昇る朝日とともにスタートし、太陽を追い駆けながら日本列島を横断する。石川県の千里浜に沈む夕日を見送る壮大なスケールのアドベンチャーラリー「SSTR(サンライズサンセットツーリングラリー)2021」に今回も『ウィズハーレー』誌の青木タカオ編集長が参加。ハーレーダビッドソン パンアメリカ1250スペシャルと、そのライバル・BMW R1250GSの2台で列島横断往復1000kmを駆け抜ける模様を、前編後編の2回に分けてお伝えする。
●文:ウィズハーレー編集部(青木タカオ) ●写真:関野 温 ●外部リンク:ハーレーダビッドソンジャパン/BMWジャパン/ミツバサンコーワ/ミシュランタイヤ/ゴールドウイン/サインハウス/SSTR運営委員会/BMW BIKES編集部
日の出とともに太平洋岸から石川県千里浜なぎさドライブウェイを目指す、ツーリングラリー
水平線に沈みゆく茜色の夕日を眺めつつ、波打ち際をバイクで疾走。楽しさを通り越し、この上ない幸福感を噛みしめている。バイク乗りでよかったと込み上げるものがある、感動のひとときだ。
能登半島の付け根あたり、石川県羽咋(はくい)市にある全長約8kmの「千里浜なぎさドライブウェイ」。日本で唯一、海外でも珍しい、バイクやクルマで砂浜を走ることのできる自動車道。日本海の激しい海流に揉まれ打ち寄せられた砂は、一般的な浜辺のものと比較し半分程度ときめ細かい。しかも粒子のサイズがほぼ均等で、水を含むと硬く引き締まる。バスやトラックも往来できる秘密は、この砂にある。偶然の産物であり、自然がもたらしてくれた奇跡と言っていい。
日本海に沈む太陽をここで見るため、僕たちは列島を横断してきた。「SSTR(サンライズサンセットツーリングラリー)2021」に参加したのだ。
「SSTR」は、オートバイ冒険家・風間深志氏が発案。ルールは単純明快。日の出とともに自身で定めた日本列島の太平洋側からスタートし、日没までに千里浜にゴールすればいい。
’80年にキリマンジャロをバイクでよじのぼった風間氏は、’82年に世界一過酷なモータースポーツと言われる「パリダカールラリー」に日本人初参戦。バイクで世界最高峰エベレストに挑み、高度6005メートルの世界高度記録を樹立したほか、’87年に北極点、’92年に南極点にそれぞれ到達するなど、数々の金字塔を打ち立ててきた。
地球の果てまで走り尽くした風間氏だが、パリダカのゴールで見た光景は特に忘れられない。日の出とともに太陽を追いかけ、苦難の末にたどり着くセネガルの海岸でのヴィクトリーラン。あの感動を日本のライダーにも味わってもらいたい、と「SSTR」を思いついた。
’13年6月に16人のメンバーでプレランし、同年10月に130台の参加者を集めて第1回がスタート。年々参加者が増え、近年は5000台を超えるビッグイベントとなっている。
パンアメリカとR1250GSで参加
僕はロードグライドリミテッドを駆って’20年にも参加した。もちろん、忘れられない素晴らしい思い出となったが、ただひとつ心残りがあった。”完走扱い”にならなかったことだ。千里浜で夕日をじっくりと撮影しようと、途中にある立ち寄りポイントをすべてスルーしたからで、今年はパンアメリカ1250スペシャルにて完走扱いになることを目指し、SSTRを完全攻略することに決めた。参加者は太平洋岸や瀬戸内海側の、自分で決めたスタート地点で朝日がのぼるのを見て、日没までに千里浜を目指す。
“太陽が出ているうちに”という制限時間があるとともに、指定の立ち寄りポイントが獲得できる。ウェブ上にあるマイページにスマートフォンでアクセスし、地点登録することでデータ管理が行われる。1ヵ所でゲットできるのは1〜3点で、ゴールまでに10ポイント以上を獲得すれば完走扱いとなるのだ。
高速道路ばかりを使って一気に千里浜を目指すとポイントが獲得できないから、参加者はいくつかの寄り道をすることになる。それがまたSSTRの醍醐味。旅好きにはたまらない!
同行したのは、『BMW BIKES』誌編集長の櫻井伸樹氏。愛車はR1250GSの他にダイナローライダーと、”隠れ”ハーレーファン。僕が知るかぎり、ハーレーとBMWの両雄をこよなく愛するバイク乗りは決して珍しくない。
パンアメリカでSSTRに参加することを伝えると、「ぜひ一緒に行こう!」と、彼も意気揚々とエントリー。大排気量アドベンチャー2台で千里浜へ、1泊2日往復1000kmの旅に出た。スタート地点に選んだのは、東京湾の最深部・市川港。暗いうちから集合し、連番のゼッケンを貼ったパンアメリカ1250SとR1250GSを並べた。どちらも大柄な車体で迫力ある堂々たる姿だ。
「負けず劣らずな2台だね」「どこまでも走っていける気がする」なんて言葉を交わしつつ、僕たちふたりは2台をまじまじと見た。互いに乗り心地を確かめ合うのも今回は楽しみだ。
東の空が赤みを増すと、関野カメラマンがシャッターを切り出す。上る朝日が、長い1日の始まりを告げる合図。スマートフォンでスタート地点を登録し、Vツインエンジンを始動する。さぁ、あの太陽を追いかけよう!!
毎年変わるテーマに沿った立ち寄り地点
’21年の立ち寄り地点は、”SSTR温故知新”をテーマに選ばれた。第2回大会までは神社でおみくじを引き、大吉なら10点、吉なら5点を加算というユニークなボーナスポイントが存在したことにちなんで、近くに歴史と伝統を有する神社がある道の駅を選定。道の駅が1ヶ所しかない東京都は、府中市にある大國魂神社が指定された。
「道はわかる」と言う櫻井さんに従い、大國魂神社を最初の立ち寄りポイントに選ぶ。武蔵国の著名な神社6柱も鎮座するご本殿に手を合わせれば、急ぐ心も落ち着く。朝早く人も疎らな境内は、厳格な趣の中にあって閑静だった。スマートフォンで地点登録すると、3ポイントがゲットできた。高速道路のSA/PAは1ポイント、道の駅は2ポイントだから幸先が良い。安全祈願を済ませ、すぐに出発する。
中央自動車道をひたすら西へ突き進む。八王子を過ぎると山深くなり、都会の喧騒からようやく抜け出せた。ここからがアドベンチャーツーリングが真骨頂を発揮してくれる区間。高速道路を使った長距離走行でこそ、パンアメリカは実力を存分に発揮するのだ。
排気量1252ccの水冷60度Vツインは可変バルブタイミング機構によって低回転域からフレキシブルで、スムーズかつ力強い。ゆったりとしたライディングポジションと振動の少ないエンジン、落ち着きのあるスタビリティに優れる車体で疲れにくい。サスペンションストロークが前後とも190mmと長く、目線が高いのも疲労度軽減に役立っている。
となればシート高が上がり、足つき性が犠牲となってくるはずだが、パンアメリカ1250スペシャルには市販2輪車初装備となるアダプティブライドハイト(ARH)が備わり、停車時には自動でシート高が下がり、足つき性に対する不安が一切ない。これにはR1250GSに乗る櫻井氏も「いいよなぁ」と羨ましそうだ。GSのシート高は850mm、こちらは830mmまで下がる。
R1250GSの水冷ボクサーツインも可変バルブタイミング機構付きで、スルスルと静かにペースが上がる。両車ともにウインドプロテクション効果が高く、高速巡航は快適そのもの。オートクルーズコントロールもセット後に1km/h刻みで速度調整ができ、使い勝手がいい。
お互い、それぞれのバイクの感想や特別な機能などを、ヘルメットに装着したインカムで会話しつつ松本インターチェンジを目指した。(後編に続く)
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