世代交代を印象づけた一方で……

世界GP王者・原田哲也のバイクトーク Vol.71「2021年の個人的10大ニュース」

1993年、デビューイヤーにいきなり世界GP250チャンピオンを獲得した原田哲也さん。虎視眈々とチャンスを狙い、ここぞという時に勝負を仕掛ける鋭い走りから「クールデビル」と呼ばれ、たびたび上位争いを繰り広げた。’02年に現役を引退し、今はツーリングやオフロードラン、ホビーレースなど幅広くバイクを楽しんでいる。そんな原田さんのWEBヤングマシン連載は、バイクやレースに関するあれこれを大いに語るWEBコラム。第71回は、個人的10大ニュースをお届け!

TEXT: Go TAKAHASHI

もうすぐ2021年も終わってしまいますね。今年も新型コロナウイルスの影響は大きく、なんだか落ち着かない1年でした。さて今回は、年末の恒例(?)、僕の2021年10大ニュースを発表したいと思います。

第1位 ロッシ引退

これはもう二輪レース界の、いや、モータースポーツ界の、いや、スポーツ界全体にとってのビッグニュースでしたね。僕も大きな衝撃を受けましたし、寂しい思いもあります。

体力的にも精神的にも苛酷なグランプリ最高峰クラスで、42歳まで戦い続けたなんて、本当に信じられない。かつては僕のチームメイトだったこともある「よくしゃべるイタリアの少年」の彼が、偉大なチャンピオンになり、僕が引退した後も20年近く走り続けたなんて……。本当にスゴイことだと思います。

心配なのは、彼がいなくなった来年以降のMotoGPが人気を保てるかどうか。最強の座をほしいままにしてきたマルク・マルケスが完全復調していないのも気がかりです。

でも、次世代のライダーたちが頑張っていることも確か。またロッシのようなスターが登場してほしいものです。

第2位 クアルタラロのチャンピオン獲得

グランプリの最高峰クラスではフランス人初のチャンピオンになったファビオ・クアルタラロ。シーズンを通して安定した好成績を挙げて、誰もが納得するチャンピオンになったと思います。

勝つことが本当に難しい今のMotoGPで5勝を挙げたのは見事ですが、僕が注目したいのは勝てなかったレースです。タイトルを決めた直後の第17戦アルガルベGPこそ転倒リタイヤをしたものの、あとのレースでは確実に高ポイントを稼いだクアルタラロ。速かったのに自滅してしまった去年に比べると、今年はメンタルの成長が目覚ましかったですね。

このコラムでは何度も書いていますが、MotoGPライダーはみんな速いんです。各国選手権を勝ち上がり、さらに激戦のMoto2やMoto3で活躍するようなライダーばかりですから、当然ですよね。

では何が勝敗を決めるかと言えば、もうメンタルしかありません。もちろんマシンのパフォーマンスも無視できませんが、ライダーのメンタルは本当に大きい。今年、うまく行かないレースでも確実に走り切ったクアルタラロが、そのことを証明しています。

逆に、来季はディフェンディングチャンピオンという立場になり、ドゥカティ勢の猛攻を受けることになります。クアルタラロにとっては新たな試練、ですね。

第3位 ペッコの猛スパート

シーズン終盤、ペッコことフランチェスコ・バニャイアの追い上げは猛烈でした。結果的には序盤に貯金をしていたクアルタラロがチャンピオンを獲得しましたが、シーズンを通して見渡すとバニャイアの強さが印象に残っています。

もともと速いライダーですが、ファクトリーチーム入りした今シーズンは、序盤から表彰台を連発。「もしや……」と思いましたが、中盤に少し調子を崩してしまいました。

ただ、第13戦アラゴンGP、第14戦サンマリノGPと2連勝し、第15戦アメリカズGPも3位表彰台を獲得。第16戦エミリア・ロマーニャGPでは転倒リタイヤを喫してクアルタラロのチャンピオン獲得を許してしまいましたが、第17戦、第18戦と再び2連勝して有終の美を飾りました。

彼が優れているのは、いつも落ち着いていること。冷静さという武器に加えて、いよいよデスモセディチの乗り方が分かってきたようです。来シーズンのチャンピオン候補であることは間違いナシ! クアルタラロの最大のライバルになるでしょう。

第4位 攻めの姿勢を緩めないドゥカティ

今シーズン終盤になって、さらに勢いを増していたドゥカティ軍団。レギュレーションでマシン開発が厳しく制限されている中、「どうにかしてやろう」というアイデアでは1歩も2歩も先行しています。

ここはお国柄でしょうか、攻めのイタリア、守りの日本という印象になっていますね。ウイングレットを始めとする空力パーツもドゥカティが真っ先にモノにしましたし、ホールショットデバイス、走行中にリヤの車高を下げるライドハイトアジャスターなど、いろんなことをにトライ。今年はそれらがうまくまとまって、確実に強くなっていました。

シーズン終盤ははっきり言ってドゥカティの独壇場という印象でしたし、来季は8台を走らせるとのこと。ライダーからのフィードバックが増えるので、それをうまく生かせればさらに強くなる可能性があります。

日本メーカーは後追いという形ですよね……。安全面などを考えると慎重さも大事ですが、もう1歩踏み込んだマシン開発にも期待したいところです。

第11戦オーストリアGPでは、終盤の雨で大混乱が起こるまで#63 バニャイア選手、#20 クアルタラロ選手、#93 マルケス選手が接戦を繰り広げた。 [写真タップで拡大]

第5位 トライアル・トライアル!

今年もトライアルを楽しみましたね〜。5月には全日本トライアルを観戦したんですが、あの人たちはスゴイ!(笑)。SP忠男レーシングの後輩・小山知良くんも全日本トライアル国際B級に出ているんですが、めっちゃうまいんですよ。全日本ロードST600でも活躍している知良、トライアル教えてくれないかな(笑)。

それにしても、バイク乗りならみんなトライアルをやるべき!(笑)本当に勉強になることばかりだし、面白い。スピードを出す競技ではないからケガをする心配は少ないし、何よりも毎日練習できます。

エンジンをかけなくてもスタンディングスティルの練習ができるんですよ。それだけでも汗だくです。体幹とバイクに乗るためのバランス感覚が鍛えられて、いいトレーニングになりますよ。

そして今年はフジガスこと藤波貴久くんが現役を引退しました。’96年から世界選手権トライアルに参戦し始めて、’04年にはチャンピオンを獲得した藤波くん。それ以降もランキング上位につける活躍を続け、41歳の今年も勝利を挙げています。

来季以降はレプソルホンダチームの監督に就任し、また新しいフジガスの姿を見せてくれそう。忙しいと思うけど、チャンスがあったらぜひトライアルでご一緒できたらうれしいなぁ。それまでにもっと腕を磨いておかなくては(笑)。

第6位 どんどん差がなくなるMotoGP

かつてレースをしていたからこそすごくよく分かるんですが、今のMotoGPはあり得ないほどシビア。予選では1秒以内に10人以上ひしめき合うのがザラですし、レースでは激しいバトルを繰り広げながら、コンマ1〜2秒の幅でコンスタントにラップを刻まなければなりません。しかもフィニッシュまでしっかりとタイヤを保たせるんですから、今のMotoGPライダーは本当にスゴイと思います。

これだけシビアになっているのは、マシン開発がレギュレーションでかなり抑制され、タイヤがワンメイクだからでしょう。MotoGPは一応プロトタイプマシン、ということになっており、車体を中心に各メーカーの工夫の余地は残されています。

でも、エンジンのパフォーマンスに大きく影響するECUが同じ、タイヤが同じで、事実上ワンメイクレースのような状態です。マシンの限界というよりタイヤの限界がすべてを決めているので、戦いもシビアになるというものです。見ている方は面白いけど、やってる方は大変でしょうね……。頭が下がります。

僕は今のMotoGPを戦っているわけではないので想像の域を出ませんが、コンスタントに走れるセッティングを出し、それが多少乗りづらくても何とかできるライダーが上位につけるように思います。

「コンスタントに走れるセッティング」とは、タイヤの保ちを第一に考えるものなので、ライダーにガマンを強いる面があります。それでも集中力を途切れさせることなく、長い決勝レースを走り切らなければなりません。

思い通りにならない中でも、ミスをしないこと。それが今求められる「強いライダー」の条件です。そういう厳しい条件でも限界を超えてくるのが、トップ中のトップライダー。今で言うと、ファビオ・クアルタラルとフランチェスコ・バニャイアのふたりでしょうか。彼らが新世代MotoGPを引っ張っていくのは間違いなさそうです。

第7位 日本人ライダー、MotoGPで活躍

去年、Moto3でランキング3位になり、今年はMoto2にステップアップした小椋藍くん。シーズン中盤まではかなり好調で、第11戦オーストリアGPではついに2位表彰台に立ちました。

決勝のフィニッシュを見据えてレースウィークを組み立てられる、クレバーで冷静な小椋くん。今シーズン中に優勝できるのではないかと期待していましたが、初優勝は来季に持ち越されましたね。

実力が拮抗しているMoto2で勝つのは、並大抵のことではありません。とても難しい。でも、だからこそ価値があります。表彰台の頂点に立つ小椋くんの姿を楽しみにしています。

Moto3では佐々木歩夢くんがランキング9位に。激戦が繰り広げられているMoto3でのこの順位は立派です。来季はマックス(ビアッジ)が率いるステリルガルダ・マックス・レーシングに移籍。佐々木くん以外の日本人ライダーも鈴木竜生くんがレオパード・レーシングに移籍するなど、いろいろな動きが見られます。いい意味での刺激になるのではないかと、期待ですね。

そして日本人唯一のMotoGPライダー、中上貴晶くん。去年よりリザルトはダウンしてしまいましたが、今シーズン終了後のヘレス公式テストでは2番手タイムをマーク。速さを見せてくれました。「メンタルトレーナーをつける」という話も聞こえてきています。速さに加えて強さを身に付ければ、間違いなくいいレースを見せてくれるはずです。

第8位 収まらなかった新型コロナウイルス

明るいニュースではないのですが……。「今年は収束するのでは」と期待していたのですが、残念ながらコロナ禍は続いています。鈴鹿8耐、そしてMotoGP・日本GPも中止。「来年こそは」と思っていたところに、今度はオミクロン株の感染拡大……。

ビッグレースの中止は残念ですが、コロナ禍ではもっともっと苦しい思いをされている方たちも多くおられます。少しでも早く収束してほしいですね。

ヨーロッパでも新型コロナウイルスの感染者が急増しています。イタリアでは1日4万人、フランスでは1日9万人、イギリスでは1日12万人を超える感染者数が出ていて、完全に警戒態勢。僕はワクチンを接種していますし、不要不急の外出もしていませんが、さすがにちょっと怖いですね……。

僕自身、新型コロナウイルス感染症にかかって、本当につらい思いをしました。皆さんもぜひお気を付けください。日本でも爆発的な感染拡大が起きないことを祈っています。

第9位 相次いだ若いライダーの死亡事故

これもとても残念で悲しいニュースですね……。今年はヤングライダーの死亡事故が続きました。主催者もこれを重大な事態と受け止め、すぐに最低年齢の引き上げなどの改善策を打ち出しています。

ここはいろいろな考え方がありますが、僕個人としては二輪レースのリスクを考えると、あまり極端な若年齢化は抑えるべきだと思います。特に今は選手生命が長くなっています。昔で言えば30代前半で引退するライダーがほとんどでしたが、今はロッシが示すように「高齢化」が進んでいます。

特に大排気量へのステップアップはあまり焦らず、体がしっかりとできて、バイクの怖さ、危なさをしっかり理解できるようになってからの方がいいでしょう。

バイクのレースでリスクを下げるには、やはり経験がものを言います。若さゆえの勢いが必要だ、いう考えも分かりますが、僕は急ぐことよりも長くレースすることを考えた方がいいように思います。

何よりヤングライダーが命を落とすのは本当に悲しいことです。彼らの命を守るための対策は、長い目で見た時にモータースポーツのイメージを守ることにもつながるはずです。

第10位 忙しかった仕事

年末になってオミクロン株が拡大するまでは、イベントなどもずいぶん元通りになってきた印象でした。そのおかげもあって、今年はなんだかんだと忙しかったですね。仕事の幅も広がってきたように思います。

本当にありがたい話なんですが、プライベートでバイクに乗ったり釣りをしたりゴルフをしたり……があまりできませんでした(笑)。ただ、僕の場合はバイクが仕事。バイクが好きで、今もバイクに乗ることを楽しんでいますから、まったく苦ではありません。娘の同級生は僕のインスタグラムを見ているらしくて、お母さんに「ママ、テツヤ日本で楽しそう!」と報告していたんだとか(笑)。

人よりちょっとぐらいはバイクに乗るのがうまいかもしれませんが、それだけでこんなに楽しく仕事ができるんですから、本当にありがたいと思ってます。もしかしたら若い頃に努力をしたのかもしれないけど、好きなことだから別に努力とも感じていないんですよね……。

来年、コロナが収束したら、自分主催のイベント開催も考えています。関係各位の皆さん、ぜひご協力をお願いします!(笑)

以上、僕の2021年10大ニュースでした。繰り返しになりますが、来年こそコロナ禍が収束することを祈るばかりです。それでは皆さん、よいお年を!

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