チームとメーカーは同じようで別

世界GP王者・原田哲也のバイクトーク Vol.63「ヤマハからアプリリアへ…チームの責任とは」

1993年、デビューイヤーにいきなり世界GP250チャンピオンを獲得した原田哲也さん。虎視眈々とチャンスを狙い、ここぞという時に勝負を仕掛ける鋭い走りから「クールデビル」と呼ばれ、たびたび上位争いを繰り広げた。’02年に現役を引退し、今はツーリングやオフロードラン、ホビーレースなど幅広くバイクを楽しんでいる。そんな原田さんのWEBヤングマシン連載は、バイクやレースに関するあれこれを大いに語るWEBコラム。第63回は、オーストリアGPの大波乱レースとビニャーレスについて。

TEXT:Go TAKAHASHI

大絶叫の第11戦オーストリアGPは記憶に残るレース!

2週連続でレッドブルリンクで開催されたMotoGP。第11戦オーストリアGPは、天候の影響で大波乱のレースになりましたね。MotoGPクラスは、決勝レースが始まる前から小雨がパラついていたようで、1周目から白旗が掲示され、フラッグ・トゥ・フラッグが宣言されました。全車がスリックタイヤで走り出していましたが、途中で路面状況が変われば、レインタイヤを履いたマシンの乗り換えが可能ということになります。

そして残り5周。ザアッと雨が降り出したから、さぁ大変(笑)。いち早くピットインしてレインタイヤ装着車に乗り換えたのはジャック・ミラーでしたが、それを見てアレックス・リンスもピットへ。ただ、このふたりはちょっとマシン交換のタイミングが早すぎたようで、ペースを作れずに下位に沈んでしまいましたね。

残り3周、雨が勢いを増したのを受け、マルク・マルケスを先頭にトップグループがピットになだれ込みます。ところが、ブラッド・ビンダーはピットインせず、スリックタイヤのまま走り続けることを選びました。これは勇気ある選択! スリックタイヤは温度管理がシビアで、路面状況が合っていないと満足なグリップは得られません。雨ならなおさらです。しかもカーボンブレーキはいったん冷えると熱を入れにくく、雨+スリックタイヤでペースが上げられない状況では、ほとんどノーブレーキだったはずです。

僕なら怖くて絶対にピットインするようなところを、ビンダーはスリックのまま走り切り、なんと優勝してしまいました。トップグループの「マシン交換組」では、フランチェスコ・バニャイアが猛追して2位で、これもスゴイ! 一方のマルク・マルケスはオーバーペースだったか転倒してしまいました。レインタイヤだからといって余裕があったわけではないことが分かります。ロッシも一時「表彰台か!」という位置につけ、楽しませてくれました。

ギャンブルにでて勝利を挙げたブラッド・ビンダー選手。見ているほうもハラハラ! [写真タップで拡大]

ビンダー選手はスリックタイヤなので車体はなるべく起こして、スムーズにスムーズに……。 [写真タップで拡大]

最後の最後までハラハラドキドキのレースで目が離せませんでしたね! MotoGP公式映像のアナウンサーと解説者も大絶叫しながら大盛り上がりしていました。最後の最後にこんな大波乱が起こるレースは、なかなかありません。記憶に残るレースになったと思います。

ランキングトップのファビオ・クアルタラロはレインタイヤ装着マシンに交換し、手堅く7位でフィニッシュしました。勝ったビンダーが絶賛されるのはもちろんですが、僕はクアルタラロの選択も大正解だった思います。ビンダーは現時点ではタイトル争いから遠いので、思い切ったギャンブルに出るのもアリです。でもクアルタラロはタイトル争いのトップにいますから、守りに入るべきなんです。

クアルタラロも実力のあるライダーなので、もしかしたらスリックタイヤでも走り切って優勝できたかもしれません。でも、今回の状況ではリスクが高すぎます。スリックタイヤでチャレンジして勝てば、25点を獲得できます。でも失敗して転倒リタイヤとなれば、0点です。それよりも、クアルタラロは7位で確実に9点を取ることを選びました。シーズンを通して見た時に、こういう選択のひとつひとつが効いてきます。

雨が降る前も熾烈なトップ争いは見ごたえがあった。最後はこの集団がまとめてピットインする場面も。 [写真タップで拡大]

去年、クアルタラロは間違いなくもっとも速いライダーでした。実際、ポールポジションは最多の4回ですし、勝利数も最多タイの3勝です。それなのに、終わってみればランキングは8位。不安定さが災いしてしまいました。そしてポールポジションを1度も獲らず、1勝しかしなかったものの、安定してコツコツとポイントを積み重ねたジョアン・ミルがチャンピオンになりました。

MotoGPは、「10数戦をこなしながら得たポイントがもっとも多い人が勝ち」というスポーツなんです。クアルタラロは去年の失敗からしっかりと多くを学習し、今年のレース運びに生かしているようです。とにかくポイントを獲っておくことの大事さが分かっているからこその7位チェッカーは、後々大きなプラスとして影響してくるでしょう。

Moto2では、小椋藍くんがついに表彰台を獲得しましたね! 勝てるんじゃないかという力走での2位フィニッシュは見事でした。前戦でもペナルティさえなければ勝てそうだったので、正直、今回の初表彰台にもあまり驚きはありませんでしたが(笑)、小椋くんにとっては大きな自信につながったと思います。

小椋くんはとにかく決勝レースに強いですね。予選もそこそこいいポジションにつけますが、決勝はそれよりも上の位置を走ることが多いのが彼の強み。おそらくフリー走行や予選などの各セッションで、しっかりと決勝に向けてのタイヤ選びをしたり、ロングラップをこなしたりしながら、勝つためのセッティングを進めているのだと思います。チーム監督に青山博一くんがいるのも大きいでしょうね。世界GP250ccクラスでチャンピオンになっている青山くんですから、きっと的確なアドバイスやサポートをしているはずです。

僕自身は、小椋くんとはアライヘルメットでアルバイトしていた頃にちょっと会って挨拶した程度。当時は無口な少年でしたが、「純粋なレース好き」という感じが伝わってきて好感が持てました。実力があることは間違いないので、今シーズン中の初勝利にも期待しています。

Moto2で待望の表彰台に上がった小椋藍選手。笑顔が弾ける! [写真タップで拡大]

ヤマハとの契約が即時解消になったマーベリック・ビニャーレス

オーストリアGPでは、マーベリック・ビニャーレスが大きな話題になりました。前戦スティリアGPでエンジンを故意にレブリミッターに当たるまで回したとして、オーストリアGPは出場停止。その後、来季のアプリリアとの契約が発表され、さらにヤマハが即時契約解消という、何とも目まぐるしい動きでした。

このことに関して、ヤマハからアプリリアという流れもあり、「かつて原田哲也にも同じようなことがあった」という意見もあるようですが、僕の場合とはちょっと違います。’96年と、もうだいぶ昔の話なので細かいことに言及するのは避けますが、簡単に言えばマシン開発が契約通りに進まなかった、という事態だったんです。とても勝てる体制ではなかったので、合意のうえでシーズン途中に契約を解消しました。

ビニャーレスの場合は、彼自身がモチベーションを保つのが難しかったのでしょう。自分はなかなか成果が出せない中、チームメイトのクアルタラロが好調なことで焦りがあったのかもしれません。ただ本来は、どんな状況でもライダーのやる気を引き出すのがチームの役割。今回のことに関しては、僕はチームの責任が大きいと思っています。

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ビニャーレス選手がヤマハのマシンで走るのは第10戦スティリアGPが最後となった。

ここでちょっと説明しておきたいのですが、チームとメーカーは同じようで別だということです。今のヤマハファクトリーチームで言えば、日本のヤマハがマシンを作り、それをヨーロッパのレーシングチームが走らせている、という図式ですね。外から見れば同じ「ヤマハ」ですが、内部的にはちょっと違います。

今回のビニャーレスの件は、日本のヤマハというより、チームの側の対応にちょっと問題があったかな、と感じています。僕自身がレーシングライダーだった、ということもありますが、もっと「ライダーファースト」でライダーを大事にしてもいいんじゃないか、と。ビニャーレスに限らず、誰だって調子のいい時、悪い時があります。調子が悪い時でも、いい時と同じようにライダーの立場を守ることが、チームの大切な役割ではないでしょうか。

ビニャーレスにはちょっと神経質なところがあって、それが問題を大きくしてしまった面もあるでしょう。でも逆に言えば非常に繊細で、そんな彼だからこそできる走りがあります。チームも、そこを大事にしてあげてほしかったと思います。今シーズン途中からアプリリアで参戦することも噂されていますが、彼にとっては初めてのV型エンジンのマシン。どんな走りを見せてくれるのか楽しみなところです。

新型コロナウイルスの猛威が、まだ収まりませんね。鈴鹿8耐も中止となってしまい、非常に残念ですが、状況を考えるとやむを得ないのかな、と思います。僕は昨年からNCXX RACINGのチーム監督をやらせてもらっていますが、肝心の8耐がまだ1度も行われていません……。こうなると「僕のせいじゃないか?」と申し訳なく思ってしまいますが(笑)、来年こそ8耐決勝のピットに立てることを祈るばかりです。

モナコでも新規感染者が増え、またマスクをしなければならなくなりました。ワクチン接種は進んでおり、ワクチン接種済みだということを証明するグリーンパスがないと、レストランに入ることもできないような状況です。でも、ワクチンは発症や重症化を抑えるもので、接種後も感染する場合はあると言われています。僕はすでに2回ワクチン接種をしていますが、今まで以上に気を付けて生活したいと思います。

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