2021年MotoGPのテストが始まった!

世界GP王者・原田哲也のバイクトーク Vol.52「重いマシンを重く感じないようにするのが“技術”」


TEXT:Go TAKAHASHI PHOTO:YAMAHA, DUCATI, APRILIA

1993年、デビューイヤーにいきなり世界GP250チャンピオンを獲得した原田哲也さん。虎視眈々とチャンスを狙い、ここぞという時に勝負を仕掛ける鋭い走りから「クールデビル」と呼ばれ、たびたび上位争いを繰り広げた。’02年に現役を引退し、今はツーリングやオフロードラン、ホビーレースなど幅広くバイクを楽しんでいる。そんな原田さんのWEBヤングマシン連載は、バイクやレースに関するあれこれを大いに語るWEBコラム。第52回は、ついに始まったシーズン前テストについてのあれこれ。

ミシュランパワーGP2

バレンティーノ・ロッシの不調

2021MotoGPのテストがカタールで行われましたね!「おっ、ついにシーズンが始まるぞ」と期待が高まります。正直言って、この1回のテストで何かが分かるわけではありませんが、テストの動画やライダーのインタビュー、そしてリザルトを見ての僕の印象を書いてみたいと思います。

気になったのは、バレンティーノ・ロッシの不調です。テストとは言え、ここまで下位に沈むロッシはあまり見たことがありません。MotoGPライダーとして走り続けていることだけでももちろんスゴイことですが、さすがに今シーズン、トップ争いするのは厳しいのかもしれません……。

マシンの動向を見ていると、空力の開発にますます力を入れていることが分かります。ドゥカティなどの大型ウイングレットは、もはやロボットみたいですよね(笑)。四輪フォーミュラマシンに近い考え方で、基本的にはダウンフォースを効かせて、ウイリーを抑えたりフロントの接地感を高める狙いですが、マシンの操縦性は確実に重くなっているはずです。

好調さをアピールしたアプリリアのアレイシ・エスパルガロも「安定感が高いけど重い」とコメントしていましたが、おそらく高速コーナーの切り返しなどはめちゃくちゃ重いはずです。僕なんかは2スト250ccマシンでも重いと思っていたぐらいなので、相当じゃないかな。……あ、僕の場合は自分で重めのマシンにしたんでした(笑)。

DUCATI Desmosedici GP21

APRILIA RS-GP

僕が重めの操縦性が好きだったのは、あまり軽快だと安心してブレーキがかけられないし、コーナリング中も切れ込んでしまいそうな気がして思い切った切り返しができないからなんです。感覚的な表現になりますが、「ネチーッ」としていて、切り返す時もすぐにはフロントの沈み込みが戻らないようなマシンが好みです。……分かりますかね?(笑)ジャイロがよく効いているような感じ、と言えば伝わるでしょうか。

安心感、安定感を求めることもありますが、マシンが勝手に曲がるより、自分の操作で自分の狙いどおりに曲げたいから、でもあります。四輪のドライバーも、自分から積極的に曲げたい人、曲げられる人はアンダーステア気味のセッティングを好むと言いますが、それと似ているのかもしれません。

ただ、そうは言っても軽量な2スト250ccマシンの話ですからね……。車重もあって車速も高く、さらにウイングレットも付いている今のMotoGPマシンを思い通りに操るにはいったいどれぐらいの体力が必要なのか、想像するだけでも恐ろしくなります……。

マッチョなMotoGPライダーと戦う匠の技とは

トップタイムをマークしたファビオ・クアルタラロがインタビュー中に手を見せていましたが、マメができてボロボロになっていましたよね。シーズンが始まったばかりということもありますが、MotoGPマシンの操縦性が重くなっていることがよく分かります。かなりの体力が求められるでしょうね。

カタールテストでトップタイムをマークしたファビオ・クアルタラロ選手。今年からヤマハのファクトリーチームのMONSTER ENERGY YAMAHA MOTOGPへと移籍した。

最近のMotoGPライダーは、みんなハードなトレーニングを重ね、いい体をしています。トップタイムのクアルタラロはスリムだけど筋肉はしっかり付いているし、2番手タイムのジャック・ミラーはカンガルーと戦っても勝てそうなゴツさです。マーベリック・ビニャーレスも中上貴晶くんも、マッチョですよね。

……といったところでロッシの話に戻るわけですが、やはり体力的にはかなり厳しい面はあるだろうな、と想像します。彼は積極的にバイクに乗ったり、ジムに行ったりしてトレーニングしていますが、やはり42歳ですからね……。20歳近くて体力も勢いもあるライダーたちと、重いMotoGPマシンで勝負をするのは、相当にしんどいはずです。

42歳のバレンティーノ・ロッシ選手は今年、ファクトリーチームを離れてサテライトのPETRONAS YAMAHA SRTに所属する。

それでもロッシにいくらかでも期待してしまうのは、MotoGPマシンのライディングは決して体力だけではないからです。重いマシンを重いまま走らせているようでは、芸がありません。トップライダーたちはみんな、自分だけのテクニックを駆使して、重さを感じないような走りをしています。ここは匠の技、そしてセンスの見せ所なんです。

例えば切り返しひとつとっても、何かをきっかけにして少しでも軽く操作できるように工夫しています。その「何か」はいろんなやり方があって、人それぞれ違いますし、それを公言することもありません。リヤブレーキを使う人、電子制御をうまく使う人、自分の体を使う人、操作に特徴がある人……。本当にそれぞれです。自分なりに試行錯誤を繰り返しながら、自分で身に付ける「職人技」。これがなければプロとは言えません。

カタールテストで走行するロッシ選手。彼が持つ“自分だけのテクニック”は、いつか明かされることがあるのだろうか……。

決勝レースにしても、マシン、路面、そしてタイヤのコンディションに応じて、前に乗ったり後ろに乗ったり、ブレーキのかけ方を変えたりアクセルの開け方を変えたり、寝かし込みの早さを変えたりと、ものすごくこまかく調整しています。フロントタイヤが滑り出したからこうしよう、リヤタイヤが滑り出したからこうしよう、というアイデアをたくさん持っているのが、MotoGPライダーたち。世界でトップを戦っているのは、こういう人たちなんです。

決して体力一本勝負ではないからこそ、ロッシもここまでやってこられました。少なからず彼に期待するのは、匠の技で若いライダーたちに戦いを挑む姿を見せてほしいから。厳しいことは分かっていながらも、注目したいと思います。

さて、もうすぐ仕事で日本に行きます。……行きたいな。……行けるかな……(笑)。一応3月末のフライトを予約していますが、キャンセルが多発しているのでどうなるかギリギリまで分かりません。なおかつ、飛行機に乗るには出発72時間前までに受けたPCR検査が陰性でなければならず、日本の空港に到着してもすぐにPCR検査を受け、陰性でも国が用意するホテルに3日間隔離されます。その後再びPCR検査を受けて陰性なら、自宅で11日間隔離です……。自分で書いていても「こりゃ大変だぞ」と思いますが(笑)、新型コロナウイルス感染症で苦しんだ僕としては、これぐらい厳重でも仕方ないのかな、と。

日本に着いて隔離が明けたら、仕事をこなしてから釣りをしたりトライアルをしたり、カブのカスタムを楽しんだりしようと思っています。カブいじりに関しては、関係各所にご迷惑をかける気マンマンでおりますので、よろしくお願いします!


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